記念すべき第5回目、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2020
令和2年1月23日、経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2020」が、東京都内にて開催された。
世界に先駆けて超高齢化社会に突入し、ヘルスケア領て様々な社会課題が山積する中、課題解決に果敢に挑戦する優れたベンチャー・スタートアップ等の企業を表彰し、社会の認知を広げ、各関連企業とのビジネスマッチングを促進する狙いで毎年開催されているビジネスコンテストだ。昨年度は当メディアも取材に入った。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/20190205jhbc/”]2016年3月の初回開催から数えて5回目となる今回。ビジネスコンテスト部門では5名が、アイデアコンテスト部門では4名がそれぞれファイナリストとして登壇し、最終プレゼンを実施した。
会場には大企業やベンチャーキャピタルといった計152の「サポート団体」が集結し、各ピッチを聴講。ぜひ協力したいと感じたものについて、ピッチ後に挙手制で連携希望を逆PRしていた。2016年は15団体、2017年は22団体、2018年は33団体、2019年は107団体という団体数推移を見ても、今年の注目度の高さをうかがい知ることができる。
そんな大きな期待の中、今回ビジネスコンテスト部門グランプリに輝いたのは、病児保育プラットフォーム「あずかるこちゃん」を手がけるCI Inc.(シーアイ・インク)。電話とネット予約の融合した新しい予約システムで、病児保育という強力な社会資源を最大限に有効活用することを目指すスタートアップだ。
また、アイデアコンテスト部門では、介護ワークシェアリングサービス「カイスケ」を展開するカイテク株式会社がグランプリに輝いた。
日本のヘルスケア産業の現場にイノベーションをもたらすLoveTechな発表事業、ビジネスコンテスト部門・アイデアコンテスト部門それぞれについて、本記事でレポートする。
ビジネスコンテスト部門
ビジネスコンテスト部門では、グランプリ受賞のCI Inc.のほか、アトピー特有の皮膚症状を匿名で画像投稿・共有できるアプリ「アトピヨ」、ピアサポート型習慣化アプリ「みんチャレ」開発運営のエーテンラボ、誤嚥予防のために開発された器具「タン練くん」の製造販売を手がけるリハートテック、発達障害支援機関向けソーシャルスキルトレーニングVR「emou(エモウ)」開発のジョリーグッドが、それぞれ優秀賞を受賞した。順番にご紹介していく。
「あずかるこちゃん」で病児保育革命(CI Inc.:グランプリ受賞)
CI Inc. 代表取締役社長 園田正樹氏
CI Inc.代表の園田氏は、産婦人科として産前産後の女性サポートに関わってきた人物。風邪のような軽症の病気でも保育園に子供を預けることができず、仕事を休まざるを得ず結果として退職した、という女性に出会ったことから、「病気」ではなく「生活」を変えることによる課題解決を進めるべく、同社を立ち上げたという。
課題として着目したのは「病児保育」。感染症などによって保育園で預かることのできない子どもを「病児」といい、その病児に対して一時的にケアと保育を行うのが「病児保育室」だ。この病児保育室、世の親御さん達にとって非常に貴重なインフラのはずなのだが、認知度が低く、使い勝手も悪いことから「利用率が低い」というのが現状だという。特に後者については、そもそも事前登録が必要となり、子供が発症した際には電話予約し、診察を経て入室をする必要があるので、非常に煩雑だ。
そこで開発されたのが「あずかるこちゃん」。
利用ハードルをグッと下げるべく、自宅地域を中心に病児保育室をマップ検索し、最適な施設をスマホから簡単に予約することができる。また、LINEという使い慣れたツールからも、24時間予約やキャンセルが可能となっている。
これを実現するのが、同社による「複数予約機能」と「空室の見える化」のアルゴリズムだという。
まず前者について、1回の予約で複数施設を予約可能だが、必ずそこに優先順位をつけるのでダブルブッキングにはならない。また、例え予約申請時に第1希望の施設が満室であったとしても、病児保育のキャンセル率は30〜70%と非常に高いので、当日朝に利用できる可能性がある。
また後者については、オンライン問診結果によって同一の隔離対応疾患(インフルエンザ・水ぼうそう・おたふくかぜ等)の子ども達をエリア内のある施設に集約し、地域全体で施設利用の最適化を目指すことが可能となる。
同社の独自調査によると、「病児保育対象年齢の子どもをもつ就労女性300人(全国)」への病児保育室利用状況のヒアリング結果が、「利用経験なし:88%」が「あり:12%」と比べて圧倒的に多いことが判明している。
この状況を打破し病児保育室という社会インフラが十分に有効活用されるよう、同社は引き続き産官学一体となってあずかるこちゃんを「病児保育データプラットフォーム」として成長させるとし、そこに蓄積されたデータを活用し、その先の事業展開へと応用させていく構想も併せて提示された。
アトピーは「みんなで治す」時代へ(アトピヨ)
アトピヨ 代表 Ako Ryotaro氏
元アトピーのAko氏が、元アトピーで薬剤師の妻と企画・開発し、2018年7月にiPhoneアプリとしてリリースしたのが、アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)見える化アプリ「アトピヨ」だ。
「アトピーを理解する上で重要な『13%』という数字。これが何だかご存知ですか?」
こう始めたAko氏。これは、一度は「死にたい」と思ったことのあるアトピー患者の割合だという(九州大学による調査研究結果)。つまり、10人に1人以上の割合だ。アトピー患者は、日本に600万人いると言われており、これによる社会的経済損失は746億円と推計されている。世界に至っては桁が大きく変わってくるだろう。
アトピヨは、そんなアトピー患者の症状を、文字ではなく「画像」を匿名投稿することで記録・共有できるSNS型アプリだ。画像は身体の部位ごとに時系列表示され、症状記録の見える化と、悩みや症状の共有をすることができる。
文字だけではなかなか把握できない「他人のアトピー症状」をビジュアルで知ることで、自身の治療方針を見直したり、生活習慣を変えるきっかけになったりなど、これまでにない患者の行動変容をもたらすことが期待されるサービスだ。2020年1月時点で1万ダウンロードを突破し、11,000枚の画像が投稿されているという。
この溜まっていくデータを活用し、将来的には製薬会社への治験サポートや、医療機関への研究支援に活かしていくという。いずれの場合も、「必ず患者へと戻ってくる仕組み」だと強調された。
アトピヨについては当メディアでも過去に個別取材しているので、以下の記事も併せてご覧いただきたい。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/atopiyo20190110/”]生活習慣病、みんなで取り組めば長続き「みんチャレ」(エーテンラボ株式会社)
エーテンラボ株式会社 代表取締役 CEO 長坂剛氏
「テクノロジーでみんなを幸せにする」をミッションに、ピアサポート(※)型習慣化アプリ『みんチャレ』の開発運営を手がけるエーテンラボ株式会社。
※ピアサポート:同じような立場の人によるサポートを示す言葉
同社が着目する課題は、生活習慣病の治療継続率。例えば糖尿病有病者を見てみると、44%の患者が治療を中断してしまっているという。
そこで同社の開発するアプリ『みんチャレ』の出番だ。糖尿病や高血圧の人が匿名の5人1組のチームを組み、チャットでメッセージや写真を送り合い、励まし合いながら生活習慣改善の習慣化を進めることができるという。その効果を、21日間継続した割合を示す「習慣化成功率」でみてみると、一般的な新習慣が8%なのに対しみんチャレは69%、つまり約8倍もの効果があることがわかっている。先述の糖尿病についても、HbA1c(ヘモグロビンA1c)の値が平均で「1」減少したという。
なぜ行動変容が続くのかというと、大きくは3つ。証拠となる写真を送ることによる「自己認知」、同じ目標のユーザー同士による「ピアサポート」、そしてAIサポートやコイン獲得などのゲーミフィケーションにある。
また、ユーザー自身で最適なチームを選べるようにアプリサイドでもアシストしてくれたり、歩数や体重、睡眠時間が記録できるパーソナルヘルスレコーディング(PHR)機能を通じて毎日のデータを見返すことで、チャレンジへの継続が促進されるという。
一般的に、医師が特定のアプリを進めることはほとんどないが、このみんチャレについては、特定の疾患に対して特定のソリューションを指示するものではないので、医師にも歓迎されるケースが多いという。
今後は、複数疾患を対象とするプラットフォームとして、国内のみならず、海外展開も目指していくとした。
和歌山発、誤嚥(ごえん)予防器具「タン練くん」(株式会社リハートテック)
株式会社リハートテック 取締役 CEO / 社会福祉法人 紀の国福樹会 理事長 笠原直樹氏
和歌山にて30年間の歯科医療経験とともに、7年前に特別養護老人ホームを開設し、その中で誤嚥(ごえん)による死亡者をなくすための研究を進めてきたのが、株式会社リハートテックの笠原氏である。
近年高齢化が進み、誤嚥性肺炎による死亡者が毎年1万人単位で増えている。誤嚥しだすと、その対策として柔らかいものやとろみをつけたものを摂取し、嚥下体操などを実施するも、効果としては今ひとつな状況となっている。
そこで笠原氏が着目したのが、嚥下に関する筋肉、つまり舌と喉の筋肉を鍛える必要性だった。ヒントとなったのは、赤ちゃんのミルク飲み。原始反射として舌と顎などの嚥下関連筋を動かして乳を飲む「本能」、および舌を上顎につけて咽頭に送るという舌・舌骨・咽頭蓋と連動した「飲み込む」仕組みをみて、口腔嚥下機能を訓練する道具を作ることになった。それが「タン練くん」である。
会場ブースに展示されていた「タン錬くん」2タイプ
初回トレーニング用の小容量30mlタイプ(ブルー)と、舌圧が高まった人向けの大容量200mlタイプ(グリーン)の2タイプが開発されている。
この「舌圧」という言葉、ご存知だろうか。これは「口に取り込んだ食品を舌が口蓋前方部との間で潰す力」に着目した、口腔機能の評価基準である。そして、この舌圧を図る計測器が「舌圧計」である。これがまだ認知が十分に広がっていないことが、まずもって課題だ、と笠原氏は言う。
一般社団法人日本老年歯科医学会によると、この舌圧が20kPa(キロパスカル)を一つの誤嚥リスク指標としており、これを30kPa以上にすることが一つのアクション目標となっている(こちら詳細については、日本老年歯科医学会資料もご参照)。
「タン練くん」を使うことで、もともと14.2kPaだった舌圧が26.5まで増えるなど、むせるなどの症状が約1〜3ヶ月の使用で改善するケースが多数報告されていると言う。実際の使用イメージは、以下の動画も参照してほしい。
この「タン練くん」、リリースと併せて特許取得済であり、また2019年11月には機能訓練・嚥下機能リハビリ器具として一般医療機器に認定されている。これを通じて日本の医療費増加に歯止めをかけ、またいずれは介護保険認定商品にしていきたい、と目標を語って締めくくった。
ソーシャルスキルトレーニングの手法を確立するVR「emou」(株式会社ジョリーグッド)
株式会社ジョリーグッド 事業開発部 シニアプロデューサー 青木雄志氏
VRをはじめとする各種ソリューションやAIエンジンを提供するテクノロジーカンパニー、ジョリーグッド。今回は数あるサービスの中でも、発達障害支援機関向けのソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)VR「emou(エモウ)」について発表された。
近年認知が広がっている「発達障害」。その可能性のある児童生徒は全体の6.5%を占め、7〜40歳で積極的な支援が行われている人数は実に270万人にも及ぶ(※1)。また、発達紹介支援施設数も、2012年4,177事業所に対して2017年14,772事業所と、5年間で約3.5倍になっている(※2)。しかし、彼ら彼女らの社会参画に目を向けてみると、全大学生の就職率が97.6%であるのに対し、発達障害のある大学生は21.1%(※3)と、約5分の1という状況だ。
※1. 文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」
※2. 厚生労働省「平成29年 社会福祉施設等調査の概況」
※3. 日本学生支援機構「平成26年度障がいのある学生の就学支援に関する実態調査」および一般社団法人日本発達障害ネットワーク「発達障がいのある人の就労の現状と課題」
これに対して、発達障害のある方向け社会スキル(ソーシャルスキル)獲得のためのトレーニングがSSTなのだが、こちらはまだ手法が確立されていない問題がある。故に、支援者の腕でクオリティが大きく左右されていた状況であった。
そこで開発されたのが「emou」。VRによって学校や社会での集団生活をリアルに体験することで、相手に適切な反応をするための言語的、非言語的な対人行動を、いつでも、どこでも、何度でも訓練することができる次世代のSSTプログラムだ。
専門家監修のもと、ヘッドセットを装着すると、VRで再現された教室や職場での他人との会話、突発的な不測事態などを本人目線で体験が可能になっている。
実際に導入した施設はほとんどが即決だったといい、90%以上の当事者が効果を実感。SSTの準備時間が10分の1にまで圧縮され、またVR体験会開催によって定員の3倍も応募が発生する施設もあったという。
現在は福祉施設での展開にとどまっているが、今後は教育および医療機関への展開も積極化し、福祉・教育・医療機関および個人向けへの展開を通じて2023年で100億超の売り上げを目指していくという。
アイデアコンテスト部門
アイデアコンテスト部門では、グランプリに輝いたカイテクのほか、予防特化型歯科クリニックの「Hakara」、身体にやさしい心臓病治療用カテーテルデバイス「MAV」、塩分管理を楽にする食品検索・食事管理アプリ「さがそると」が、それぞれ優秀賞を受賞した。こちらも順番にご紹介していく。
潜在介護士に着目したワークシェアリング「カイスケ」(カイテク株式会社:グランプリ受賞)
カイテク株式会社 代表取締役 武藤高史氏(写真左)
人材不足問題が年々深刻化する介護業界。2020年度末までに約26万人、2025年度末までに約55万人が不足する見立てとなっており(厚生労働省「2040年頃の社会保障を取り巻く環境」41頁)、2035年にはなんと、3人に1人が介護を受けられない世界が待ち受けているとも言われている。
そんな中、介護事業所の集客/採用マーケティングを支援するカイテク株式会社が発表したのが、介護ワークシェアリングサービス「カイスケ」である。
「カイスケ」は、数時間単位で、地域で介護を助け合う世界を目指すもの。Web上で「介護資格の認証→仕事探し→仕事確定→勤務→評価→給与受け取り」までを完結するという。対面による面談はなく、雇用契約も電子上で行うことができるという、ありがたいUX設計となっている。
ここでポイントとなるのが「潜在介護士」の存在だ。武藤氏によると、介護の有資格者で実際に働いている層が約160万人なのに対し、働いていない層は100万人にも上るという。この、時間や生活の制限から定時勤務や正社員として働くことのできなかった「潜在介護士」を掘り起こすことで、業界の人材不足解消への打ち手とするわけだ。もちろん、介護職と介護事業所のミスマッチを減らし、離職防止にも寄与していくという。
今後は看護やリハ職といった領域へと職種拡張していき、そこにたまっていったデータを活用して介護業界の“質”を向上させるような「介護の地域インフラプラットフォーム」を目指していくとのビジョンを掲げて、最後は締めくくられた
治療をしない予防歯科は10分1,000円から(Hakara)
Hakara 代表 清水章矢氏
「どうしたら予防歯科が一般的になるか」という観点から考案された「Hakara」。駅ナカや商業施設内にあり、予約も保険証も不要で10分1,000円から利用できる、歯科衛生士による予防だけの歯科クリニック構想だ。
2006年より歯科医師として活動する清水氏は、スウェーデンといったオーラルケア先進国と比較して圧倒的に歯科検診受診率が低い日本の現状に愕然としたという。2014年の歯科医師会による調査によると、歯科治療経験者9,647人のうち定期的に通っていたのは24%のみ。歯科治療経験者でこの数字なのだから、全体はもっと低いことは想像に難しくない。
そんな中で考案されたこの「Hakara」、削る埋める抜くといった治療はせず、あくまで予防医療専門で運営する歯科医院だ。ホワイトニングサロンとも違う。
ターゲットは、日々忙しくて既存の歯科医院への通院時間をなかなか確保できないビジネスパーソン。「Hakara」を使うことで、一般歯科と比べて所要時間を半分以下に抑えることができるように導線設計しているという。
このHakara、早ければ今年5月に、最初の店舗を日比谷線神谷町駅に開業予定だという。また今後の事業展望としては、まずは5年で10店舗を目指していくという。
身体にやさしい心臓病治療を可能にする新規カテーテルデバイス(MAV)
大阪大学 心臓血管外科 医師 三隅祐輔氏
心疾患の一種「大動脈弁狭窄症」は、加齢に伴う動脈硬化で心臓の弁が開きにくくなることにより、息切れや失神、ひいては突然死を来たす。未治療での5年生存率が50%と極めて不良であり、75歳以上の有病率は12%。患者数は250万人にも上るという。
根治治療には「弁置換術」が必要となるが、この治療法、外科手術の場合は「1ヶ月間の入院・治療費用150万円・効果10年」、カテーテル治療の場合は「2週間の入院・治療費180万円・効果7年」という、身体的・金銭的負担等の障壁がある。故に診断後20%が「経過観察」となってしまう現状課題があるという。
そこで、現役の心臓血管外科医師である三隅氏が着目したのが「弁形成術」。弁置換術と比べて40万円程度と安価であるが、効果は半年しかなく、約30年前に流行ったものの今ではメインの選択肢からは離れているものとなる。これを、値段を変えずに効果を6倍(3年)にし、市中病院にて1泊2日で実現させようという取り組みが、新規カテーテルデバイスを用いた治療法「MAV」だという。弁にフィットする形状によって効果的な弁開放を実現し、また手の血管から挿入可能なので(従来は足の血管からの挿入)、手術の日の晩には歩くことができるという。
三隅氏は大阪大学大学院博士課程在籍中にジャパンバイオデザイン・フェローシップを修了しており、そこで同定された潜在的医療ニーズに基づいて、本プロジェクトを立案したという。臨床医とカテーテル開発エンジニア、医療機器開発専門家等が協業してプロトタイピングを行なっており、AMED橋渡し研究シーズA獲得、基本特許出願を経て、現在は日臨床POC獲得に向けたベンチおよび動物実験環境を構築中だという。
なお、こちらのデバイスは15万円での販売を想定しているという。
実際の患者がつくる、塩分管理を楽にする食品検索・食事管理アプリ(さがそると)
湯野川恵氏
プレゼンをされた湯野川氏は、大学卒業し新卒就職した2018年に「特発性拡張型心筋梗症」と診断。病状を考慮し退社した現在、通院するゆみのハートクリニックにスタッフとして入職している人物だ。今回発表されたアプリ「さがそると」は、そんな湯野川氏の原体験から生まれたものだという。
テーマは「減塩」。2030年には150万人を超えると推定されている心不全患者において、その治療の基礎となるのが塩分管理だ。だが健康な人含め、日本人は塩分を摂りすぎている。厚労省発表データ(※)によると、健康な成人男性は推奨値8gに対して実態平均が11.3g、健康な成人女性は推奨値7gに対して実態平均が9.2gだという。
※厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年晩)策定検討会」
塩分の取りすぎを防ぐためにも「塩分管理」が大切になってくるが、そこには課題が存在する。まずそもそも減塩がメジャーでなく、情報やツールが乏しい。また、どうしても「食べられないもの」を軸に意識するので、食事が楽しいものから苦痛になり、精神的に辛くなってしまう。
そこで考案されたのが「さがそると」。食べられる塩分管理を叶えるサービスだという。
かざすだけでおおよその塩分を記録できるという画像認識を用いた「記録」機能と、記録の傾向から塩分制限下でも食べられる選択肢をパーソナライズしてくれる「提案」機能からなるという。記録することで食べられる選択肢が増えることが、継続的に記録することのインセンティブとなるわけだ。
現在は、在籍するゆみのハートクリニックのフィードバックを受けながら開発・展開をしており、今後は病院の診察補助アイテムや予防医療アイテム、拓殖サービスとの連携アイテムといった活用を想定しているという。
編集後記
今年も面白かったです!ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)。
昨年は医療介護業界における様々な取り組みの中でも、「実際の医療および介護現場が感じている課題の解決」というテーマが多い印象でした。
今年はさらに、当事者やその周りでの原体験を経た方により事業開発を進めているケースが多く、より説得力と“思い”が強まった印象でした。
個人的には、今回ビジネスコンテスト部門でグランプリをとった「あずかるこちゃん」、実際に僕自身が病児保育で困った経験があるので、そのプラットフォーム構想に非常に期待したいと感じます。
また来年のJHeCも期待したいと思います!