2024年6月10日〜11日、ロンドンを拠点に活動する「FemTech Lab」主催の年次カンファレンス「Decoding the Future of Women 2024」が、ロンドン・テック・ウィーク期間中に開催される。
FemTech Labとは、女性の健康やウェルネスをメインセクターとして、アクセラレーター・プログラムを中心に当該領域のスタートアップや起業家等を支援している組織。これまで2万人以上のファウンダーや投資家、企業パートナー、その他官民様々なステークホルダーを巻き込んでおり、アクセラレーター・プログラムとしては70以上のスタートアップを支援してきている。
※国内展開のECサイト・FEMTECH LABとは関係がありません
そんなFemTech Labが提供するDecoding the Future of Women 2024だが、パネルセッションのアジェンダを見る限り結構面白そうで、FemTechテーマを中心に以下のようなユニークなセッションが予定されている(一部をピックアップ)。
- 人類の次なる飛躍:宇宙旅行とリプロダクティブ・ヘルス。火星での生殖は可能なのか?(The next giant leap for mankind: Space travel and Reproductive Health. Can we reproduce on Mars?)
- 卵子を作るのに心臓はいらない: 生殖技術の大きな変化(You don’t need a heart to produce an egg: Major shifts in reproductive technology)
- サイケデリックの年。メンタルヘルスのための最先端科学(The year of Psychedelics. Cutting edge science for mental health)
- 果たしてSexTechは売れるのか?セクシャルウェルネスの次のフロンティア(Does SexTech sell? The next frontier of Sexual Wellness)
- 精子を救え。男性不妊治療におけるイノベーション(Save the Sperm. Innovations in Male fertility)
- 卵巣長寿とバイオ技術で女性の老化を最適化する(Optimising Female Aging with Ovarian Longevity and BioTech)
etc…
日本で行うスポンサードイベントだとなかなか踏み込めないようなトピックが多い印象で、LoveTech Mediaとしても何セッションか取材したいと考えているところだ。特にSexTech(Sex × Technology)セッションは、先日記事配信した第9回Love and Sex with Robots国際会議@ケベック大学での内容にも重なる部分があり、非常に興味深いテーマだと感じる。
ということで、今回は、前年のDecoding the Future of Women 2023で設置された類似セッション「セックスの未来:SexTechは性のエンパワーメントとインティマシー(親密さ)を再定義する(SEX OF THE FUTURE: Sextech Redefining Sexual Empowerment and Intimacy)」の様子をお伝えする。
- Anna Lee(Co-Founder, Lioness)
- Charlotte Schofield(Venture Director, Access VC)
- Farah Kabir(Co-Founder, HANX)
- Anna Butterworth(Founder, Ultra Violet Agency)
- Sage Revell(Partner, Brown Rudnick LLP)※モデレーター
※本セッションは英語で開催されました。本記事は、執筆者の意訳をベースに作成しています
世界初の「スマートバイブレーター」が誕生するまで
Sage Revell:まずは世界初、そして唯一の「スマートバイブレーター」について伺いたいと思います。Lionessのスマートバイブレーターといえば、科学的根拠に基づいて、オーガズムに関するフィードバックデータを見える化してくれるものです。今までにない画期的なプロダクトだと思うので、まずは製品に伺いたいです。また、この分野の研究は具体的にどのようにして行われているのかや、性的健康の一般的な理解をどのように広げるか等についても、お考えを教えてください。
Anna Lee:その質問に答えるためには、まず、私たちがこの会社を始めた理由について少し話したいと思います。セックストイ業界は歴史的に見て非常に“男性支配的”なところで、基本的にはセックストイ店と聞くと「男性が来店するところ」というのが一般的なものでした。モノ自体も、ピンクや紫のバイブレーターにキラキラや蝶などの装飾がついていて、何千もの異なる設定を楽しむことができるわけです。
実は会社を始める前に、某セックストイ会社の創業者に会ってお話を聞いたことがあります。今はもう存在しない会社です。私は彼に、「貴社のモノが女性や外陰部を持つ人々にとってどのように機能するのかを知っていますか?」と尋ねました。すると彼は、「業界標準というのがあって、バイブレーションを鼻に当ててみるんだ。それがクリトリスの感じる感覚だよ」と言ったんです。その瞬間、私はこれらのセックストイが、このような旧態依然とした方法で開発されていることが許せなくなりました。少なくともこの領域では、全くもってイノベーションが起きていなかったのです。
加えて、もう一つ愕然としたのは、女性の健康に関する研究がとても限られていて、同時にとても新しい分野だということです。この辺りの話を専門的にしようとすると、未だに1980年代の論文を参照していたりします。しかもサンプル数はたったの12人ときたものです。
Anna Lee:このような背景から、私たちは、骨盤底筋の収縮と弛緩を計測するバイブレーターの開発を進めることにしました。これはオーガズムに関する最良の指標の一つです。オーガズム中に現れる独特なパターンを、アプリを通じて確認することができるのです。さらにこのデータは、ストレスや睡眠、投薬状況、そして1杯のコーヒーやワインのような細かい情報など、あらゆる外的要因によって変化します。だからこそ私たちは、自分の身体に何が起きているのかを理解するための「自己実験ツール」を提供したいと考え、このバイブレーターの開発を進めたのです。それは結果として、女性の生理的性機能に関する世界最大のデータセットを手に入れることにもつながりました。私たちは研究者や医師達と連携し、一社だけでの小さな研究がみるみると拡大していき、人々がどのように快感を経験し、またそもそも快感とはどのようなものなのかについての理解を深めていきました。このような経緯を経て、オーガズムは健康への影響を示す“炭鉱のカナリア”(前触れ)のような存在であるという考えが確信に変わっていったのです。
Anna Lee:非常に興味深い例としてご紹介したいのが、長年Lionessのユーザーであるアスリートのケースです。彼女は自分のオーガズムデータが完全にフラットライン(横ばい)になったのを見て、「何が起こっているのかわからない。私のオーガズムが以前と感じが違う。データが正しくないのでは」と感じていました。それで私たちは、「この日付に何かが起こりましたか?」と尋ね、それに対して彼女は、「ああ、その日は脳震盪を起こしました」と答えたんです。「それだ!」ということで彼女は通院をはじめ、程なくしてスポーツから離れることを決めました。そして、物理療法を受けるにつれて、彼女のオーガズムデータも正常に戻っていきました。私たちは、男性のEDが心血管疾患発症の前触れの可能性を示すのと同様に、女性についてもそのような情報があるべきだと考えています。引き続きこの領域の研究を続け、生きていく上でのあらゆる要素が性的快楽にどのように影響するかを解明していきたいと考えています。
Sage Revell:素晴らしいですね。Lionessでは100%女性のデータを基にしてプロダクト開発を進めています。それに付随していくつかの情報を共有させていただくと、実は1993年まで、国立衛生研究所(NIH)では臨床試験に女性やマイノリティが含まれることを義務付けていませんでした。それほど昔のことではありません。また、さらに進んで2015年頃には最初の「女性版バイアグラ」がFDAに承認されたわけですが、それに向けた一部のテストの対象は、なんと23名の男性と2名の女性という偏り具合でした。だからこそ、100%女性のデータを以って研究できているというのは非常に重要な意味を持っているのです。
※女性の性的欲求低下障害(HSDD)を治療する目的の薬として、初めてFDAに承認された「フリバンセリン」は、アルコールと一緒に服用すると、失神やめまい、極度の低血圧などの副作用を引き起こす可能性があるとして条件付きでの承認となった。だが、その副作用にまつわる研究に関しては、23人の男性と2人の女性が参加したということで、女性対象の薬剤の研究対象の92%が男性だったことが判明している。
FemTechのパイオニアから見た「選択肢の広がり」の変遷
Sage Revell:続いてCharlotteさんに質問です。セクシャルウェルネスをサポートするための資金提供の提唱者として、あなたは多くの新しい機会を目の当たりにしているはずです。現在、女性のSexTechにおける最大の機会は何だと捉えているかについて教えてください。
Charlotte Schofield:私たちは英Rekitt社のベンチャーキャピタルとして、Rekittの使命に沿った企業、つまりは「より良い健康、衛生、栄養へのアクセスのために戦う創業者」に投資しています。様々なカテゴリーをご支援しているのですが、その中でも私個人として特に気に入っている分野がセクシャルウェルネスのカテゴリーです。
この部屋にいる多くの人々が、セクシャルウェルネス製品を購入する際に一度は、気まずさや恥ずかしさを感じた経験があるのではないでしょうか。私は、その状態を解決したいと考えています。例えば美容カテゴリーを考えてみましょう。リップスティックやフェイスクリームを購入したい場合、お店に入ると何百ものブランドやオプションが用意されていて、店員さんが適切なものを選ぶためにサポートしてくれたりもします。セクシャルウェルネスカテゴリーについても、そういった環境が用意されているべきだと思いますし、少しずつではありますが変わり始めているとも感じています。
Charlotte Schofield:昨年、私たちはMaudeというブランドに投資しました。非常に包括的で美しいセクシャルウェルネスブランドなのですが、米国のSephora(米大手のコスメショップチェーン)店舗に入店した最初のブランドでもあります。このような流れは、ウェルネス全体の中でセクシャルウェルネスもセルフケアの一環として認識されつつある証拠だと感じています。ですから私たちとしては、このようなセクシャルウェルネスへの社会的態度の変容こそが、最も大きな機会だと捉えています。
Sage Revell:ありがとうございます。これに続くテーマとして、イノベーションと消費者について話しましょう。Farahさんは、2021年にオンライン避妊薬サービス(参考)を立ち上げましたよね。私が理解している限り、それはCOVID-19に起因するGP(一般診療医)予約の滞りに対処するためだったと思いますが、アフターコロナの現在においては事業としてどのように続いていますか?そして、女性のセクシャルウェルネスの未来についてどのように考えていますか?
Farah Kabir:私たちは最初に、コンドームと潤滑剤から始めました。どれもケバケバしいパッケージが目立つ、男性優位なカテゴリーです。いくつかの製品から始めたのですが、すぐに女性の健康全体にわたる多くの分野が存在することが判ってきました。私の共同創業者は婦人科医なので、性感染症の治療であれ、出産であれ、教育であれ製品であれ、女性により良いサービスを提供するためのギャップがたくさんあることを理解していたのです。女性の健康に向けては何が必要なのか?どんなサービスが求められているのか?先ほどあなたがおっしゃった通り、女性に関するデータや研究が十分ではない中、私たちは常にお客様に選択肢と自由を提供することをモットーとしています。誰もが常にコンドームを使用するわけではありませんが、ホルモン避妊薬を使用するかもしれません。最終的には選択が重要なポイントなのです。
Farah Kabir:そんな中、幸か不幸かCOVID-19は私たちの計画を加速させました。当時、薬局が閉鎖され、GPの予約が取れなくなり、NHS(国民保健サービス)はすでにかなり圧迫されていましたし、セクシャルウェルネスサービスも縮小されていました。そのような状況は、私たちにとっては計画を加速させ、オンラインでの避妊薬即日配達サービスを立ち上げるのに絶好の機会となったのです。私たちが立ち上げたHANX Fixを通じて、18歳以上の人々は30種類以上の避妊薬の中から適切なものを選択し、最速で翌朝までに手元に届くようになったのです。
Farah Kabir:このサービスは当初、コロナ禍における特定の目的を果たすために立ち上げられましたが、その後も粛々と続けています。結論としては、非常にうまくいっています。需要を把握することも私たちの目的の一つでしたが、ここで収集されたデータは非常に興味深いものでした。当初はデーティングのフェーズとしてコンドームだけを使用していたお客様が、妊活を試みる過程でコンドームの定期購入を一時的に停止し、その後また避妊薬を選択するようになるまでの変化を追跡することができました。最終的には、選択肢とそれに伴う教育が全てです。そしてそれは、処方箋という要素を超えて、お客様のために他の製品・サービスをリコメンドする上で大いに役立っています。顧客が何を求めているのか。これは、女性の健康のマイルストーン、点と点を結ぶということです。さまざまな分野に素晴らしいブランドがたくさんありますが、どうすれば1つの全体的な視点を持つことができるのか? それは簡単な道のりでも、すぐにできることでもありませんでした。私たちはこの分野で、信頼と権威を築き上げなければなりませんでした。コンドームのようなものを携帯し、簡単に購入することができるようにしなければなりませんでした。だからこそ私たちは、先ほども出てきたSephoraのようなコスメショップや、Boots、Superdrugのようなドラッグストア等と提携し、製品を店頭に並べてもらっています。このように選択肢とアクセシビリティを拡張していったことで、現在は様々なお客様に手に取っていただけています。
Sage Revell:Anna Butterworthさんにも質問させてください。あなたはこの分野での活動を、「Femtech」という言葉が造られる前から始めています。そんなあなたから見た、この分野の変遷について教えてください。また、将来どのようなことが期待できるかについてお聞かせください。
Anna Butterworth:おっしゃる通り、私はこの業界で多くの変化を見てきました。2015年にこの業界に初めて足を踏み入れたとき、今とはまったく異なる場所でした。FemTechという言葉はなく、お互いにつながる方法もありませんでした。当時私は20代後半だったけれど、私自身、生理周期が4段階に分かれているなんて知りませんでした。生理が来て、あとの3週間は何もないだけだと思っていたんです。そんな中、程なくして数十億ドル規模のビジネスが出てきてエグジットも増えていき、女性の健康、特にセクシャルウェルネスへの認識が瞬く間に広がっていきました。それに伴い、選択肢もとても増えましたよね。私たち一人ひとりが異なっているからこそ、環境的なニーズ、感情的なニーズ、それから身近なニーズなど、様々なニーズに応えてくれるような市場になってきたと感じています。
Anna Butterworth:セックスは私たちの健康の一部であり、幸福の一部です。さらに言うと、セックスだけでなく、性的インティマシーも私たちの日常生活において非常に重要なものです。肉体面だけでなく、感情面も大事だということです。私たちは定期的にトレンドレポートなるものを発行しているのですが、例えば最新のレポートをご覧いただくと、性的なニーズだけでなく、インティマシーに向けたニーズにも応えるブランドが登場してきています。リアルなパートナーを見つけるものかもしれないし、デジタル上でのパートナーを見つける方法かもしれません。あるいはその両方を満たすものかもしれません。また、自身のマイナーなフェチについて相談できるAIツールもあれば、先ほどのスマートバイブレーターのように自身の体調や特定のニーズを正確に把握してモバイルとの接続が可能なデバイスもあるでしょう。これらが全て、よりパーソナライズされた形で近く提供され始めると考えています。
アナルセックス特化やローション特化など、ペインポイントを的確に捉えたブランド群が素晴らしい
Sage Revell:さて、ここまでの内容から明らかなように、テクノロジーは多くの面で女性を解放しています。一方でまだまだ課題も多く、例えばセクシャルウェルネスについて話すということについては、性別を問わず未だに憚れる状況だと言えます。さらに、性的インティマシーについて家族や友人に話すとなると、より抵抗感が増すでしょう。少なくとも、自然と会話に上がることはありませんよね。比較的オープンに会話をすることに抵抗がない私たちでさえ、そうだと思います。この抵抗感/不快感をどのように取り除くか、そしてそれを乗り越えてこのセクターの素晴らしさをいかに啓発していくかについて、皆さんの意見を伺いたいです。
Anna Butterworth:何通りものアプローチがあるのでしょうが、いずれにしても社会の変化は本当にゆっくりとしたもので、一朝一夕に変わることは期待できません。この部屋にいるメンバーは皆アーリーアダプターであり、そこを加速するのがある意味で仕事だと思っています。世の中に対して、セクシャルウェルネスやインティマシー等についての発言/会話をもっと民主化する。そこに向けての活動が、私たちに特に求められていると自覚しています。
Farah Kabir:付け加えるとすると、チャレンジャーや新興ブランドとしては既成概念にとらわれないクリエイティブな発想をして、タブーとされる話題について話してもらうための絶好の機会だと感じています。例えば私たちHANXでは、バレンタインデーの広告キャンペーンで、ランジェリーやロマンチックなデートの代わりに、女性にとって非常に一般的な問題である「膣痙」を強調しました。また広告だけでなく、膣痙にまつわる情報やアドバイス等を得られる専用Webページも用意しました。
他にも、BOXPARK Shoreditch(イギリスにある市街地型コンテナハウスモール)で「F*ck the planet」と題したサマーガーデンキャンペーンを企画したことがあります。私たちのコンドーム製品(生分解性コンドームとヴィーガン認定コンドーム)を造花のめしべの部分に付けておき、それらを通行人に摘んでもらうわけです。イギリス人はユーモアで乗り切ることが多いので、「持続性 × 包括性」のテーマでの啓発を目的に、こういったクリエイティブなアプローチで一人ひとりとの信頼関係を丁寧に作っていきました。
Charlotte Schofield:個人的にいいなと感じているのは、特定のコミュニティや問題をターゲットとするブランドがたくさん出てきていることですね。たとえば、昨年投資したFuture Methodは、アナルセックスに特化した商品を展開するブランドです。創業者のEvan Goldstein博士が作るプロダクトは、適切な準備とアフターケアのためのものなのですが、秀逸なのは彼のInstagramでの教育コンテンツです。ぜひ皆さんにもフォローしていただきたいのですが、どの投稿も事実に基づいた科学的な内容となっており、それでいて思わず友人にシェアしたくなるようなものとなっています。ゲイコミュニティだけでなく、より多くの人がアナルセックスを探究するのに役立っていると思います。
もう一つの例としては、Christina Aguileraが共同創業者として立ち上げたPlaygroundという潤滑剤ブランドです。こちらでは特に、潤滑剤を買うことを恥ずかしく思っている若い女性をターゲットにしていて、パートナーのためだけでなく、自分自身のために購入することを奨励しようとしています。このように、性的快楽やインティマシーを経験するにあたってのペインポイントを的確に捉えているブランドが数多く立ち上がっているのが非常に喜ばしく、今後もより多くの女性起業家によるブランドが増えていったらいいなと感じています。
Anna Lee:Charlotteさんの意見に大賛成です。私はいつも、人々が性的快楽を経験する方法は10億と3通りあると言っています。でも、私たちはそのうちの5つくらいしかまだ解明できていません。だから、もっと多くの人がこの領域に参入してくるべきだと思っています。私たち一人ひとりの性的経験は、他の人の経験にも通ずるものなのに、まだまだ触れてはいけない話として扱われています。
ここでいつも、私自身が韓国で育ったことをお伝えしています。非常に保守的な宗教の家庭で育った私は、20代半ばまで自分の身体が怖いものだと感じていました。だからこの会社を立ち上げる前は、とにかく優秀なエンジニアになろうと思っていたんです。クリトリスとかオーガズムとか、そういった言葉を口にしながらインタビューするなんて考えられませんでした。でも8年後の今、私は自分のオーガズムデータをオンラインで公開し、人々に見てもらい、私たちの取り組みを理解してもらうよう努めています。
私は、知識は喜びであるという考えを信じています。だから、私たちには情報が必要だし、自分の身体を理解し触れ合う機会が必要なのです。そして、それを後押ししてくれるのが科学です。より多くの人々を巻き込むことで、この状況を変えることができると考えています。でも、未だにセックスはタブー視されていて、InstagramやFacebookではそれにまつわる広告を出稿することが基本的にできません。このような状況を変えるべきだし、そのためにはもっと多くの投資が必要だと感じています。
Sage Revell:あなた(Anna Lee)が20代半ばで「そうか、こういう世界があるんだ」と気づいた際に、ご家族とはどういうきっかけで、どんな話をされたのでしょうか?
Anna Lee:起業前はAmazonで機械設計エンジニアとして働いていたのですが、実は仕事を辞めてから2年間、両親に嘘をついていました。でもある日、母が会社のデスクを訪ねてくるというので、私は「よし、言わなきゃ」って思いました。母がやってきた時、私はバイブレーターを解体しながら「こんなことをやっているんだ」、「女性は自分の身体についてもっと理解する必要があると信じて、こういった事業をやっているんだ」と説明しました。2時間くらい怒られると思っていましたが、想定外に、彼女は静かに聞いていました。そして口を開いたと思ったら「私も若い頃はバイブレーターを持っていたのよ」と。それから2時間、私たちはお互いの初体験含め、セックスライフについて共有しました。そして「あなたが怖いと思っていたことを、ちゃんと共有してくれて、理解できてよかった」と言ってくれました。まあ、両親は未だに「ちゃんとした仕事に就け」といってはきますけどね 笑。いずれにしても、家族にはそんな経緯で会社のことを伝えました。両親のような本当に厳しく保守的な人たちでも私たちのような仕事のことを理解しているということが、大きな一歩だと思っています。
FemTech/SexTech企業が直面する深刻なマーケティング課題
質問者:Farah Kabirさんに質問です。最近Bloom & Wildという花屋さんによる「思慮深いマーケティングムーブメント(Thoughtful Marketing Movement)」という記事を読み、そこで、例えば母の日に母親がいない人たちが傷つかないようにメールをオプトアウトする機会を提供するような取り組みが語られていました。ここまでのお話を通じて、SexTech領域はタブー視されることが多い一方で、積極的に語ることも必要な状況かと思います。このようにバランスが難しい領域だと思いますが、思慮深いマーケティングについてはどのように考えていますか?
Farah Kabir:おっしゃる通り、特にメールマーケティングなどでは課題があると思います。私たちのブランドはタブー視されがちなため、しばしば迷惑メールフォルダに直行します。また私の前職であるゴールドマン・サックスで実際にあったことなのですが、コンドームや快楽、オーガズムといった単語があると、そのようなフィルターを通過してメールが上司に直行することになり、なぜこのようなメールを受け取ったのかを説明しなければなりません。ですから私たちは、登録アドレスに対して自動的にメールを送るのではなく、必ずオプトインでの確認を入れるようにしています。その上で、製品購入者に対しては教育コンテンツを配信していますし、購入していない場合でも膣痙キャンペーンのような取り組みをして、その後でオプトインの選択肢を提供するようにしています。
Bloom & Wild社の取り組みは非常に興味深いですね。非常に素晴らしいキャンペーンで、私たちのブランドもそのように取り組むべきだと思います。HANXとしては定期的に顧客アンケートを実施しており、HANXについてどう思うか、次に何を求めているか、なぜ購入をやめたのか等を尋ねて、顧客理解を深めようと努めています。
Anna Lee:私たちLionessも、一般的な広告を打つのに苦労しています。特に、サンフランシスコでのバス広告を試みたときのケーススタディは興味深かったですね。広告代理店は「セックストイの会社がこんなことをするのは初めてだ」といった感じで「バイブレーターの3分の1しか見せられない」と言ってきました。私たちが「どの3分の1ですか?」と質問したところ、「わからないから後で連絡する」との返答。さらに、「ベッドで女性が腰を浮かせ、シーツをつかんでいるというのはどうだろう? その方がバイブレーターを見せるよりいいでしょ?」と提案もしてきました。私は「弊社としてはオーガズムデータを見せたい」と言いましたが、彼らは「オーガズムという単語を使ってはいけません」と頑なでした。だから、私たちはできるだけオーディエンスに配慮した「思慮深いマーケティング」を実施していきたいと思ってはいますが、同時に制約を受けることも多く、状況に応じて自分たちのポリシーを変える必要もあると考えています。
Farah Kabir:そうですね、同意です。先ほどもAnna Leeさんがおっしゃっていましたが、Meta社の広告に関するポリシーについては色々と苦労しています。今は、声を大にして訴えるべき時です。バイアグラを販売する会社がニューヨークのビルボードに表示されているのに、女性の健康に関する会社がタブー視されるのはおかしいですよね。現に、Center for Intimacy JusticeなどがMeta社に情報提供し、ポリシー変更の手助けをしていますよね。このように、声をあげて訴えていくことが重要だと考えています。
文:長岡武司