2024年8月28日、暗号資産・Web3メディア「CoinPost」主催のWeb3グローバルカンファレンス「WebX2024」が、東京・品川のTHE PRINCE PARK TOWER TOKYOにて開幕した。
「Web3技術の普及と社会実装を加速させる」というテーマのもと、会場にはブロックチェーンや暗号資産、その他のWeb3技術に従事する企業・プロジェクトや、起業家・投資家・政府関係者・メディアなど、Web3に関心を寄せる人々が国内外より一同に集結。TRON stage、bitFlyer stage、EchoX stage、Pitch stageそれぞれにおける著名なスピーカー約250名(日本と海外セッション比率:50:50)によるセッション登壇のほか、180社以上の展示ブースやネットワーキング等で大いに盛り上がった。
LoveTech Mediaによるセッションレポート第一弾では、「日本のWeb3戦略と展望」及び「AI・Web3等で拓く第4次産業革命 日本の競争力強化をどう図る」と題されたセッションの様子をお伝えする。いずれも衆議院議員の平 将明氏が登壇し、前者においてはWeb3領域における日本の中長期的な戦略とそれらの実行に伴う課題等について、後者においてはSoneium/Astar Network/Startale Labs CEOの渡辺 創太氏やデジタルガレージ 共同創業者 兼 取締役の伊藤 穰一氏らを交えてのWeb3及びAI等の先端技術領域を活用した日本の未来について、それぞれ議論が展開された。
web3、AI、フュージョンエネルギー。3つのプロジェクトチームの座長に従事
Web3やAI周りのニュースを追っている方であれば、平氏のことを知らないわけにはいかない。自民党デジタル社会推進本部の「web3プロジェクトチーム」(以下、web3PT)と「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」(以下、AIPT)、それから自民党科学技術・イノベーション戦略調査会の「フュージョンエネルギープロジェクトチーム」において、それぞれ座長を務めている人物である。
AIPTに関しては2023年の立ち上げ以降、G7サミットでAIの議論をリードした流れも受け、「世界一AIフレンドリーな国へ」を標榜する「AIホワイトペーパー2024」を発表。グローバルサウス等との結節点を目指すなどの野心的な提言を含めた提言内容となっている。
またweb3PTに関しては、2022年3月に「NFTホワイトペーパー(案)」を発表して以降、日本でのweb3エコシステム構築に向けて税制改正等を進め、2023年4月には “Japan is back, Again.”の文言で大いに話題となった「web3ホワイトペーパー 〜誰もがデジタル資産を利活用する時代へ〜」を発表。2024年4月には日本がweb3 時代の中心になることを目指す上での短期・中長期的な論点及びそれらに対する提言等をまとめた「web3ホワイトペーパー ~ 新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ ~」を発表し、業界の発展を強力に後押ししてきた。
「取り組んできたこととして、まずは自社発行トークンの時価評価課税問題については解決しました。続いて、他社発行トークンの時価評価課税問題についても解決しました。じゃあ今何が一番煮詰まっているかというと、大企業による上場していない/有名ではないトークン等の保有の監査に関する問題です。ここについては、金融庁による4大会計法人を交えたラウンドテーブルを実施して議論を深めています。およそ知見が溜まってきたので、これも間も無く解決する想定です。あとは、キャピタルゲイン税制の原則雑所得として扱う件についてが、今残っているという状況です。税金の仕組みに関しては年末の自民党税調で決まるので、今年の年末までに結論が出るか、もしくは一年先送りになるか。現在総裁選で新しい政権が誕生するので、新政権がどう言う認識でどう取り組んでいくのかというのが現在地です」(平氏)
※2022年3月の「NFTホワイトペーパー(案)」発表後における税制改正等への課題感については、以下の記事も併せてご参照ください。
暗号資産は着々と“金融”に近いてきている
2024年6月3日には、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が会員統計情報を更新し、同年4月末時点で暗号資産の国内口座数が1,000万を突破したことを発表した。
「暗号資産が金融に近づいているという理解です」
このように話すのは、銀行から政治の世界へと転身し、内閣府副大臣(経済財政政策・金融担当)や財務金融部会長等を歴任されてきた越智 隆雄氏だ。ここで言う「金融」とは、大きく以下の3点を踏まえているものを示すという。
- バランスシートの資産サイドで資産形成に資する、または負債サイドで資金調達に資する、もしくはキャッシュフローで資金決済に使われることを最低限具備している
- リスク管理の体制が整えられている
- 国民生活の利便性向上と、国民経済の成長に資するものとなっている
この三つの切り口で「そうだよね」となると、金融の一部として税制や法体系等における位置付けが変わってくるわけだ。越智氏によると、この中でも特に喫緊で大切なのがリスク管理体制の整備に伴うセキュリティ強化だと捉えており、「ここができたら社会的位置付けが再定義されるようになるのではないか」とコメントする。
「現物については資金決済法、デリバティブに関しては金融商品取引法ということで、その違いこそあるものの、両方とも今のところは総合課税ということで、いわゆる金融商品が適用される分離課税にはなっていません。つまり、暗号資産は金融としては税制上も整備されていないということになります。ここ最近各国でETFの上場が始まっているわけですが、日本は現時点では投信に暗号資産を組み入れることができないことになっているので、そこの議論を深めて整理を進める必要があります。暗号資産ETFができるようになれば、分離課税が適用され、より広範に株式市場のような形で金融として取引できる世界になっていくことが想定されるでしょう。そのためにも、暗号資産の再定義が必要なんじゃないかなと思っていますし、現に各国でのETF成立・検討が進むにつれて、特にここ数ヵ月の金融当局の温度感がかなり変わってきている印象です。暗号資産の社会の中での役割をもう一度真正面から考え直さなければならない、という温度感になっているのは事実だと体感的に感じています」(越智氏)
なお、「バランスシートの資産サイドで資産形成に資する」という話に付随して、平氏はここ最近で改めて、日本が持つ様々な資産の提供価値をグローバルレベルに引き上げるという観点で「NFTの活用」に注目しているという。売上における単価部分にNFTを活用することで、売上全体に対するDXの効果が現れるようになり、体験価値やIPの価値等に深みがある日本の経済が一気に爆発することが期待できるのではないか、というのだ。
「こういった話の中で来年大阪万博があるので、ぜひその中で、違うタイプのweb3が展開できないかなと考えています。あともう一つ、Apple Visionのリリースなどを経てメタバースに関しても、最近一周まわって再注目しています。特にメタバースはトークンエコノミーがビルドインされてこそ面白いと思っており、そこでの流通が想定されるボラティリティの少ないステーブルコインも今後日本から出てくると思うので、いよいよweb3とメタバースが繋がっていろんな展開が期待できるんじゃないかなと考えています」(平氏)
根っこのインフラ技術の話を選挙の争点にするべきではない
後続のセッションでは「AI・Web3等で拓く第4次産業革命 日本の競争力強化をどう図る」というタイトルの下で、平氏をはじめ、渡辺氏や伊藤氏、あとは第2次岸田内閣において内閣府大臣政務官(スタートアップ・新しい資本主義・経済再生・新型コロナ対策・全世代型社会保障改革・金融庁等)を務める鈴木 英敬氏によるパネルディスカッションが展開された。
冒頭に記載した通り、AIPTもweb3PTも平氏が座長を務めていることから、両テーマを連携させる形で進化させていく土壌が整っている点が、日本における一つの大きな強みと見て間違い無いだろう。伊藤氏曰く「一周遅れのフロントランナー」である日本は、ある意味で絶妙なポジションにあると言う。
「“クリプトは終わった”と世界中が眠っている時に、日本の大企業が『これから行こうぜ!』ってなっていて、その間も技術は進んでいるわけなので、ある意味で一周遅れてメインストリームに持っていくチャンスです。今AIの分野ではアメリカが大金をかけてブラックホールみたいなLLM開発を進めていますが、それとは別に(東京拠点の)Sakana AIなんかは小さいモデルのネットワーク的な取り組みを進めていて、そことweb3って実は相性がいいんですよね。アメリカではあまりにもweb3が軽蔑されるようになってAIの人たちと遊んでいないけれど、日本は合体して動いていく土壌があるので、AIとweb3がちゃんとつながると思っています。また法律に関しても、世界で一番、AIとweb3の部分がクリアになってくるんじゃないかなと」(伊藤氏)
大企業とスタートアップのコラボレーションの観点で見ても、日本は非常に稀有な存在になってきている印象だと、渡辺氏も続ける。ディストリビューション・チャネルをしっかりと持っている大企業が多いからこそ、ユーザーがweb3技術を知らなくても当たり前に使えるような世界観を日本から作っていくことができる。そこも、勝ち筋の一つではないかというわけだ。
「これなんかも僕たちスタートアップや大企業だけではダメで、政治家の方々がちゃんとホワイトペーパーの中にweb3という文言を入れたり、国家戦略として打ち出してくれていることも大きいと感じています。ここは改めて感謝を申し上げたいです」(渡辺氏)
このセッションが開催される2日前、アメリカでは大統領選挙の共和党ドナルド・トランプ候補が暗号資産を「アメリカ第一主義」のアジェンダに加え、「Make Bitcoin great again!」と宣言した。一方で民主党カマラ・ハリス候補は暗号資産に消極的な姿勢を見せていることから、どちらの候補が大統領になるかによって暗号資産の運命が大きく変わることが想定されている。
翻って日本に目を向けると、我が国でも自民党総裁戦が控えており、新政権誕生に伴う政権運営の方針によっては、これまで進めてきたweb3やAI等の取り組みの方向性も変わる可能性がある。この点について渡辺氏が平氏に質問したところ、平氏からは「デジタルを分かっている人たちがコアになって進めることから、結果として、誰が総裁になってもブレないだろう」と説明する。また伊藤氏からは、総理や大統領本人が強力に推進することの“危険性”が指摘された。
「ちょうど今朝、トランプが新しいデジタル・トレーディングカードのNFTを発表したというニュースを見たのですが、すっごくダサいんですよね。トランプ支持者はクリプトGOGO!になってるし、一方で民主党は反対派の姿勢なので、クリプトが“政治”になっちゃっているんですよね。それはすごくマズいなと。こういう根っこのインフラの部分を選挙で使わないでほしいですし、日本においても、デジタルの話をうまく政治の戦いの中に入れないでほしいなと、アメリカを見ていて思いました」(伊藤氏)
Web3とかAIとかの枠組みを超えて、僕は日本人として世界で頑張りたい
日々様々なテクノロジー企業とコミュニケーションをしている伊藤氏は、アメリカのLLM開発企業とのやりとりを通じて、「5〜10年以内での超知能(Super Intelligence)誕生の確率が50%程度」という認識がある程度共通のコンセンサスになりつつあることを理解し、かつそこに対して多くの人々が恐れの感情を持っていることを実感したという。そこには明確に、アメリカの宗教観が反映されていると伊藤氏は説明する。
「コントロールしている道具が勝手に動き始めると危ない、と向こうの人は考えるのです。神がいて人間がいて自然があって、自然の中に道具があって、奴隷もそこにいる。奴隷が反乱を起こすと悪い目に遭うので、いかに奴隷をコントロールするのかという観点で、そこにAIも入っているわけです。一方で中国も日本も違っていて、人間も自然も一緒だよねと。そして、おもてなしも大事だよねと。おもてなしとは、自分が気がつく前に誰かが気がついて助けてくれることですよね。奴隷はおもてなしではありません。このおもてなしをロボットにインプットして、『みんなで一緒にやろうよ』というのが東洋の考え方です。計算で中央集権型にできると思っている西洋の人たちと、美学と倫理を大事にしながらみんなのコミュニティで進めようとする東洋の人たち。ここがあまりにもズレているので、先ほどお伝えしたネットワーク型の仕組みをきちんと作るというのは、社会としては勝てるんじゃないかなと感じています」(伊藤氏)
では、今後日本が世界で勝ち切るために必要なことは何なのか。最後に、一人ひとりの考えが示された。
「僕らはデータの利活用やAIの計算資源の部分といったプラットフォームの環境整備をしっかりと進めていき、その上にみんなが自由に乗れるような舞台をたくさん作っていく。ここをメッセージとしてもどんどんと出していくことが大事かなと思っています」(鈴木氏)
「我々の仕事はレギュレーションのデザインとお金の配分の部分だとは思うのですが、実は民間にもすごいお金があるので、そういったお金が流れやすくするのが大事だと思います。あと、やっぱり今回渡辺さんが言ったような日本の大企業とスタートアップのオープンイノベーションですね。日本の大企業はまだまだ力があるし、まだまだお金もある中で、ベストプラクティスが分かると一気に国は動いていくので、ぜひ渡辺さんには期待をしたいと思います」(平氏)
「今日は僕の責任感のレベルが4倍くらいになりました(笑)やはり、Web3とかAIとかの枠組みを超えて、僕は日本人として世界で頑張りたいなと思っています。結果を出すとみんなの視座も上がるし、世界からも『日本人すごいね』『産官学で連携してこうだったんだね』ってショーケースで分かると思うので、まずはそれを一発作りに行きたいですね」(渡辺氏)
「ハーモニーとか大企業の良さをキープしながらも、一方でスタートアップはハーモニーだけだと勝てません。 競争と協業のバランスが大事で、今回の各PTに入っているメンバーはすごくうまくバランスが取れていると思いつつ、もっとリスクをとって自分の名前を出してやっていく人が出てこないといけないとも思うので、そこを応援することが大事かなと思います。あと、日本っていつも海外事例ばかり見ているのですが、僕らが海外の事例になるので、ちゃんと作って思いっきりバットを振らないと、ここでミスをすると大変だと思います。世界の現状を考えるとこれがラストチャンスになるかもしれません」(伊藤氏)
取材/文/撮影:長岡武司