2022年7月15日、web3領域に特化したグローバルカンファレンス「Web3 Conference Tokyo Vol2」が、東京・渋谷にあるShibuya Stream Hallおよびオンラインのハイブリッドで開催された。
Mask Network主催のweb3グローバルカンファレンス
Web3 Conference Tokyoを主催するのは、Web2.0とweb3の架け橋となることを目指す「Mask Network」プロジェクト。現状のweb3プロダクトのUXに課題を感じていることから、FacebookやTwitterといったSNSからDAppsに接続できるイーサリアムベースのポータルを開発している団体である。
先日イベントレポートを配信した「Non Fungible Tokyo 2022」も含めて、こちらのイベントは[Japan Blockchain Week 2022]のオフィシャルイベントの一つ。当日はオンライン・オフライン合わせて1,000名以上が参加登録しており、セッション会場も満席でのスタートとなった。
LoveTech Mediaでは、web3パラダイムに寄せられる期待と熱気、それから現時点における各議題を確認すべく、複数回にわたって同イベントの各セッションをレポートする。
レポート第1弾となる本記事では、Astar / Shiden Networkの開発をリードするStake Technologies Pte Ltd CEOの渡辺 創太氏への単独インタビューセッションの様子をお伝えする。実は同氏については、2021年に開催されたFinTechイベント『World FinTech Festival Japan 2021』でのピッチを当メディアでレポートをしており、今回はそこからのアップデート情報も含めた内容についてお伝えする。
※渡辺氏の活動内容や起業の動機等については以下の記事をご参照ください
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20211112_wffj2021_1/”]日本は独特の進化を歩んでいるマーケット
最初の議題は「日本のリアルなweb3の現状」について。日々グローバル市場を相手にしている渡辺氏から見て、日本はweb3というアジェンダにおいてどのような立ち位置なのだろうか。これについて渡辺氏は、「ポジショントークなしにお伝えすると、2〜3周遅れていることは間違いない」と説明する。
「やはり起業家側と投資家側の“ニワトリ・卵”問題だと思っていて、投資する人がいなかったら起業家が育たないし、起業家が育たなかったら投資家も投資をしません。我々も日本でできれば良かったのですが、すごく大変だったのが税金の問題です」
ここで渡辺氏がいう税金問題とは、主に法人の期末課税問題を指す。国税庁が定める「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」によると、項目22において以下のとおり、法印が保有する暗号資産は期末時価評価で計算することとなっている。
法人が事業年度終了の時において有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産(注)(本問において「市場暗号資産」といいます。)に限ります。)については、時価法により評価した金額(本問において「時価評価金額」といいます。)をもってその時における評価額とする必要があります。
これに準拠してStake Technologiesが保有する暗号資産(トークン)で試算すると、2023年の税金額が100億円を超えることになるという。また、個人に対しても最高税率は55%ということで、税制度周りが強烈なネックになっているのが現状だ。
「シンガポールの場合はそれがゼロになるわけで、そういった問題もあって、日本でビジネスが育ちづらいと思っています。そうなると、トークンもweb3ネイティブなものを作るというよりかは、たとえばNFTを作って売るというところしかやりようがないというのが現状です。一方で世界から見ると、DeFiやGameFiなど色々なユースケースが出てきていて、独特の進化を歩んでいるマーケットなのかなと思っています」
この税制度問題については、ちょうど本カンファレンスの前日に行われた「Metaverse Japan Summit 2022」においても衆議院議員の平 将明氏も強い課題感を示していることから、国を挙げて喫緊で対応すべき問題であることが分かる。
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20220714_metaversejs_1/”]一方で見方を変えると、日本は元々はクリプト大国だったわけで、規制としては最先端を走っているという考え方もできるかもしれない。モデレーターの設楽氏からもシンガポールにおける規制強化の動向が紹介され、いずれはグローバル規模で日本と同等の規制内容に収斂されていく可能性が示唆された(喫緊のシンガポール動向についてのロイター記事)。これについて渡辺氏は、「国際競争的に考えると、最初から厳しくするメリットはない」と強調する。
「アメリカでは、民間に色々と挑戦させる中で成功や失敗が出てきて、その中で規制をしっかりと作り上げていくというやり方を採用しています。一方で日本の場合は、先にルールをガッチリと作るというアプローチなので、イノベーションも起こりにくいと言えます。これは衆議院議員の平さんも、英米法と大陸法の違いということでおっしゃっています。
1スタートアップがコントロールできることではありませんが、国の今後を考えたらweb3で敗北するし、その先の次世代の流れでも負け続けて、失われた100年を過ごすことになるでしょう。だからこそ、Astar Networkなどが世界でしっかりと結果を出し、次の時代のソニーやトヨタといったブランドを作っていくことが必要不可欠だと思っています」
悔しいが、日本はトップファンドからあまり相手にされていない
ここで設楽氏より「仮に税制改革が行われて今言った課題が解決したら、日本はどうするべきか?」という質問が出された。これに対して渡辺氏は、「それ自体をゴールとして捉えないことだ」と続ける。
「期末法人課税や個人の最高税率などの税制面に関する課題が仮に解決された時に、我々は初めてスタートラインに立てることになります。税制度の話が盛り上がっていることはクリプト業界にとってはポジティブだと思う反面、まだスタートラインにも立っていない状況なので、それをゴールと認識してはいけません。その上で、仮に規制緩和されたら、その環境下で日本人が世界で戦っていくことが重要です」
日本という国はそれ単体でマーケットが大きいので、得てして国内で完結させても十分にビジネスとしてペイする傾向にある。よって事業展開の姿勢としてもグローバルな目線になりにくいことが課題としてよく挙げられる。一方で海外プロジェクトなどは、最初からグローバル市場での展開を前提に進めていることが多いので、そのような環境下においては日本のスタートアップ等は太刀打ちができなくなるわけだ。設楽氏も「そこがWeb2.0の失敗だったのではないか」とコメントする。
そんな中で、たとえば海外VCから見て日本はどのように写っているのだろうか。渡辺氏は「VCはファウンダーのロケーションは基本的に気にしない」と前置きしつつ、「正直に言うとあまり相手にされていない」と言う。
「VCは国籍にかかわらず、純粋に良いチームに対して出資をしているのが今のデフォルトです。それが前提ではありますが、日本に対しては、みんな分からないというのが正確な印象だと思います。日本市場に関して英語で発言している人がまだまだ少ないので、ある程度の参入障壁を感じていると思います。また、中国やアメリカのトップファンドを考えると、悔しいですが、正直あまり相手にされていないと思います」
クリプト業界では、ここ1〜2年が本当の勝負になる
では、そんな日本でweb3に興味を持っている人、特にフットワークをなかなか軽く取りにくいミレニアル世代以降の大人はどうしたら良いのだろうか。これについて渡辺氏は「社会実装の部分をしっかりとサポートして欲しい」と強調する。
「web3を見てみると、若い人たちによるサークル的な、ある意味でビジネス的にすごく甘い印象を持つ方が多いと思います。これは日本のみならず、世界も含めて感じられていると思います。その中で、これまでしっかりとビジネスドリブンでやってこられた方々が入っていき、いかに社会に対してマスアダプトしていくかが大切だと感じています。そのためにも、ロビー活動やWeb2.0をやってこられた方々の力が必要だと思うし、そういうところをお願いしたいなと思っています」
クリプト業界は昨今の様々な逆風によってマーケット全体が停滞しているわけだが、渡辺氏率いるAstar Networkは昨年末時点で2,200万ドルを調達していたことから、事業展開にアクセルを踏めている状況だと言う。
最近では国内においても、Astar経済圏のさらなる発展を目指すべく2022年6月に「Astar Japan Lab」を設立し、エコシステムの加速を進めている。発表からわずか1ヶ月弱(イベント開催時点)で早くも13社が同ラボに参画し、45件ほどのアプリケーションが共有されている状況だという。
会社としての現状が共有された後、最後に渡辺氏から、会場参加者に向けてエールが送られた。
「日本から世界でどれだけ結果を出せるかがとても重要だと思っています。ここ1〜2年が、Web2.0でいうGoogle的な会社が生まれる下地だと思っていて、Astarも含めてここからが本当の勝負だと思っているので、より世界で結果を出すような日本人が増えたらいいなと思っています」
Web3 Conference Tokyo Vol2レポートシリーズ by LoveTech Media
Report1. 失われた100年にしないために、世界で結果を出す日本人が増えてほしい
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20220715_web3conferencet1/”]
Report2. 仮題:ブロックチェーンの選び方(Coming soon)
Report3. 仮題:web3コミュニティの形成に向けて(Coming soon)
Report4. 仮題:人口800人の限界集落が「NFT」を発行する理由(Coming soon)
Report5. 仮題:web3は社会をどう変えるのか(Coming soon)