2022年7月11日、BlockchainPROseedが主催するNFTカンファレンス「Non Fungible Tokyo 2022」(以下、NFTokyo2022)が開催され、ブームを超えたNFTの未来と産業としての土台のあり方が議論された。
2018年から毎年開催されているNFTの祭典
BlockchainPROseedとは、ブロックチェーン業界全体の発展の為に国内外のプロジェクトを繋ぐハブとなることを目的に、2018年に株式会社グラコネ社内で発足したプロジェクト。“ミス・ビットコイン” こと藤本真衣氏が代表を務める会社だ。イベントとしては、2018年の1回目(Tokyo Blockchain Game Conference)から通算して今回で5回目の開催となり、昨今のNFTへの関心の高まりを受けて、数百名規模の来場者で会場は賑わった。
LoveTech Mediaでは、個人のエンパワーメントに直結するであろうグローバルな「web3」トレンドを追うべく、全5回にわたって同イベントの各セッションをレポートする。
※web3の概要については、以下のStake Technologies渡辺氏のピッチレポートをご覧いただきたい
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20211112_wffj2021_1/”]レポート第1弾となる本記事では、「コンソーシアムとパブリックはどちらが主流になるか?」と題された最初のセッションの内容をレポートする。web3時代におけるブロックチェーン活用において、コンソーシアムチェーンとパブリックチェーンではどちらがメインで活用されるネットワークモデルとなるのか。そして、各々のすみ分けはどうなっていく想定なのか。先進的にサービス等を展開するメンバーによるディスカッションの様子をお伝えする。
※写真左から
- 高 長徳(SBINFT株式会社 CEO)
- 吉田 世博(株式会社HashPalette・株式会社HashPort / 代表取締役CEO)
- 中村 昴平(CryptoCrystal Founder / tofuNFT VP of Product):
- Yas(Head of BD in Oasys)※モデレーター
パブリック、プライベート、そしてコンソーシアム
議論に入る前に、まずはモデレーターのYas氏より、ブロックチェーンにおける一般的なネットワークモデルの違いについて説明がなされた。ブロックチェーンには大きく3つ、パブリック型とプライベート型、そしてコンソーシアム型のネットワークモデルが存在する。
パブリック型とは、管理者の許可なく誰であってもノード(ネットワーク)に参加できるタイプのブロックチェーンだ。誰でもブロックチェーン上にあるトランザクション情報を確認でき、また書き込むこともできるということで、代表的なものとしてビットコインやイーサリアムなどが挙げられる。誰でもノードに参加できることからトレーサビリティの高さなどがメリットとして挙げられるが、一方でノードの増加に伴うトランザクション数の増加も顕著になるので、それに付随して処理速度が遅くなったりガス代(処理のための手数料)のボラティリティが激しくなるなど、いわゆるスケーラビリティの問題が発生しやすいタイプだと言える。
一方で、基本的にパーミッションが必要となるのがプライベート型とコンソーシアム型だ。プライベート型は管理者が存在するタイプのブロックチェーンで、主に特定の企業や団体内で活用されることが想定されている。招待されたユーザーのみがブロックチェーン上にあるトランザクション情報を確認でき、また書き込みについても承認された参加者のみが可能となっている。所有権についても、基本的には単一のエンティティ(企業や団体等)が持つことになる。
そして、このパブリック型とプライベート型のメリットをうまく組み合わせたような位置付けとしてあるタイプがコンソーシアム型となる。コンソーシアム型は、プライベート型と同様にパーミッションレスとなっているが、先述したスケーラビリティ問題についてかなりコントロールが可能なものとなっている。
「ガス代など、エコシステムをある程度コントロールできるという部分についてはコンソーシアムに分があるのですが、一方で「そこって中央集権的だよね」のようなデメリットもあるので、使い方はかなり分かれるのが現状だと言え、どちらが主流になるのかという点についても議論が分かれるところだと思います」(Yas氏)
徐々にパーミッションレスへと移行する戦略を想定
では、それぞれどのような観点でネットワークモデルを選択すれば良いのだろうか。これについて、NFTに特化したコンソーシアム型ブロックチェーン「パレット(Palette)」を展開する株式会社HashPalette代表・吉田 世博氏は以下のようにコメントする。
「まずブロックチェーンネットワークの本質的な価値はオープンネスにあると感じていて、全てのブロックチェーンネットワークは最終的にはパブリックにいくべきだと思っています。その前提ではありますが、ものごとには過程論があるとも思っていて、今までソーシャルゲームしかやったことのないユーザーに対してガス代を払わせることは、ものすごくペインの大きい体験だと思っています。
また、誰でもパブリックブロックチェーン上にコントラクトをデプロイできるようになったときに、たとえば超有名IPの画像などを勝手にチェーン上で公開しちゃうような状況が発生する状況下で、果たして大手コンテンツホルダーさんがコンテンツを出してくれるのかという問題もあります。
つまり、ルール整備が十分になされていない状態でいきなりパブリックだと、ユーザー体験的に△になると思っていて、現状まずはコンソーシアム型からスタートしています。著作権や決済周りが十分に折り合う形が見えた段階で、いずれはパーミッションレスにしていきたいと思っています」(吉田氏)
同社がベンチマークしているのは、韓国大手モバイル企業Kakaoが支援するブロックチェーン「クレイトン(Klaytn)」と、NFTゲームやDAppsを多数展開しているDapper labsが開発する「フロウ(Flow)」の2つだという。たとえば後者のフロウを考えてみると、もともとはパーミッションが必要なコンソーシアム型であったが、段階的に誰でもコントラクトがデプロイできるようになるような発表がなされている。このように、パーミッションが必要なところから始め、少しずつパーミッションレスにしていくという流れが同社の戦略になるという。
一方で、先ほど話題に上がった「IPの画像などが勝手に公開されるリスク」について、イーサリアムチェーンを使ったNFTマーケットプレイス(SBINFT Market)を展開するSBINFTでは、「プラットフォームサイドの機能で制限をかける形で対応している」と、CEOの高 長徳氏は強調する。
「たとえば個人の方がNFTを発行する場合は、しっかりとした承認制をとっています。そのための審査も厳格に行っており、1on1の面接まで実施しているので、フロント側でコントロールするようにしています。またパートナー系案件もたくさんあるのですが、そこについてもしっかりと認知度がある事業者を選定しているので、違法画像等は出てこないような制限をするようにしています。
いずれにせよ、イーサリアムでいったん流れた画像は何もできない状態になってしまうので、Mintする前に何らかの違反に抵触していないかをチェックするための研究開発を並行して進めています」(高氏)
トレードボリュームのためのマルチチェーン対応
コンソーシアムかパブリックかで考えた際に、tofuNFTもSBINFTもパブリックチェーンを選択している。その理由について、tofuNFTのVoPを務める中村 昴平氏は「海外の盛り上がりが大きな要素だった」と振り返る。
「最初に日本以外のユーザーで盛り上がったという経緯があります。現状7,700以上のプロジェクトがパートナーシップを結んでいるのですが、当時3,000くらい申し込みがワーっとあって、それらに対して一つひとつ契約等を行うのは難しいということで、パブリックでやろうということになったと思います。実際に、ユーザーの9割くらいは海外の方です」(中村氏)
またSBINFTについては、入手難度の低さが決め手でイーサリアムチェーンを選択したという。
「私たちは2020年頃からNFT発行プラットフォームを運用しているのですが、当時はまだポリゴン(Polygon)とかが出る前だったので、選択肢がそもそも少なかったという点があります。あともう一つの決め手として、入手の難易度もあります。イーサリアムはどこの取引所でも扱っているということで、市場の流動性を上げるためにも必要な観点でした」(高氏)
また、チェーンの対応状況で見てみると、tofuNFTはイベント開催時点(2022年7月11日時点)で28チェーンに対応しており、NFTマーケットプレイスはもとより、DAppsという観点でも世界有数のマルチチェーン対応をしている状況だ。これについて中村氏は、トレードボリュームを重視した結果だと強調する。
「最もトレードボリュームが大きいところはどこなんだっけと探し続けたところ、最初にマルチチェーンに入ると独占できて、かなりトレードボリュームをとることができるということが分かりました。そのような背景から、かなり沢山のチェーンに入っていったことが経緯としてあります」(中村氏)
一方で同じパブリックチェーンでも、SBINFTはイーサリアムとポリゴンの2種類への対応に留めている。この理由について、高氏は社会実装に向けたUI/UXに鑑みた判断だとコメントする。
「マルチチェーン対応については我々も当然やれなくはないのですが、僕らからすると、UI/UXに難しさを感じています。どれをどのチェーンで買うのかをシンボルマークを見るだけで判断できるのは、ある程度知識がある人間だけでしょうから、チェーンの増加に併せていかにユーザーに分かりやすくするのかがポイントであり課題だなと感じています。特に我々は、国内に対しては社会実装をメインに据えていて「誰にとっても分かりやすいUI」を目指しているので、それを解決した上でのマルチチェーン対応かなと考えています」(高氏)
なお、コンソーシアム型の「パレットチェーン」では、ブリッジと呼ばれるプロトコルを使って相互運用ができるようになっており、ユーザーは基本的にガスレス(ガス代不要)でチェーンを使え、且つチェーンのコントラクトを使って他チェーンとの互換性をもつという設計思想のもとで開発が進められているという。その背景について、吉田氏は「Fat Protocol理論」の存在を挙げる。
「要するに、アプリケーションではなく、チェーン側に色々なインフラストラクチャーを集約させていくというものです。このことから、コンソーシアムとパブリックの境界線は、今後どんどんと曖昧になっていくかなと感じています」(吉田氏)
パブリックは言うまでもなく全てのベースになってくる
ここまでの議論を踏まえて、どのネットワークモデルが今後主流になっていくのか。これについて、まずはSBINFTの高氏より、それぞれのネットワークモデルへの所感含めた意見が述べられた。
「プライベートについては、有効活用できるシーンはどんどん出てくると思っています。たとえば医療や金融など、既存サービスの裏側はパブリックじゃない方がいいので、プライベートの相性がいいかなと思っています。
コンソーシアムについては、資金力が勝負を左右すると思っていまして、参入するには体力がいることだなと感じています。一方で市場という観点で見ると、限定された世界や経済圏を作るという点について、ハマったらものすごく強いなと思います。
そしてパブリックは言うまでもなく全てのベースになってきます。SBINFTではアートを多く扱っているのですが、フィジカルアートの世界をブロックチェーンで置き換えたときの将来的に同じくらいの市場規模になるのであれば、そこで使われているのは間違いなくイーサリアムだろうと考えています」(高氏)
またHashPaletteの吉田氏からは、「ブロックチェーン鉄道論」という独自の考えが紹介された。
「実はブロックチェーンネットワークは鉄道なんじゃないかと思っています。鉄道は人を運び、ブロックチェーンは価値を運んでいます。その中で、ガス代はある意味で鉄道に乗るための運賃なのですが、実はガス代だけでなく、その沿線に不動産とかを建てると儲かるように、そのチェーンがうまくいったらそこにDeFiやNFTマーケットプレイスを作ると、経済圏がうまく生まれますよということだと思います。
そう考えたときに、鉄道の本質は、他の路線とちゃんとつながっていることだと思っていまして、そういう観点で我々は先ほどお伝えしたブリッジという、ある種ターミナル駅を使って乗り換えてもらうという方法を採用しています。一方で、tofuNFTさんやSBINFTさんは、そもそも一つの駅に複数の線路がちゃんと通るように作っているということだと思っています。いずれにしても基本的な思想としては、パブリックにつながっていくことなのかなと思います」(吉田氏)
いかに他の鉄道(チェーン)とつながっていけるのかが重要だということが、よく分かる例えである。最後にtofuNFTの中村氏からは、プライベートチェーンの重要性についてもコメントがなされた。
「イーサリアムやソラナ(Solana)を見ていると、天才たちがスケーラビリティの問題を解決しようとしているので、トランザクションが遅いという課題は、おそらく近年解消されると思っています。
ただその時に、パブリックともうひとつ何になるのかと考えたらプライベートチェーンかなと思っていまして、現状たとえばポリゴンのスーパーネットネットワークなど、アプリケーションスペシフィックなチェーンが流行ってきていまして、実際にゲームのプロジェクトとかだとそれを使ってメインチェーンとブリッジするためのソリューションをみんなで作っているところもあると思うので、今後はそうなっていくのかなと思っています」(中村氏)
Non Fungible Tokyo 2022レポートシリーズ by LoveTech Media
Report1. ブロックチェーンは「鉄道モデル」。他の路線とつながっていることが大前提
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20220713_nftokyo2022_1/”]
Report2. 仮題:日本発のコレクタブルの衝撃(Coming soon)
Report3. 仮題:NFTクリエイターが考えるアートの未来(Coming soon)
Report4. 仮題:新たなファンコミュニティが作る経済圏(Coming soon)
Report5. 仮題:web3 x エンターテイメントの未来(Coming soon)