「介護の日」に設立発表
11月11日は「介護の日」。介護への理解と認識を深め、介護人材、介護サービス利用者及び介護家族への支援等に関する啓発を目的に、厚生労働省が定めた記念日である。日付は、キャッチコピーである「いい日、いい日、毎日あったか介護ありがとう」の「いい日、いい日」にかけているという。
今回、令和二年の介護の日に合わせて、新たに「一般社団法人日本ケアテック協会」(以下、日本ケアテック協会)の設立が発表された。代表理事は、テクノロジーを活用して介護福祉の課題解決を進める株式会社ウェルモのCEO・鹿野佑介氏。当メディアでも何度も報じている、LoveTechな人物だ。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/welmo20180803/”]設立会見には代表理事・専務理事・常務理事の三名が会場参加した他、他理事メンバーもオンラインで参加。さらに同協会設立を応援してきた和田義明衆議院議員(自由民主党所属)も駆けつけ、お祝いのメッセージが寄せられた。
新法人設立の目的やミッション、そして具体的な活動内容は何なのか。会見の様子をお伝えする。
Care × Technology = CareTech(ケアテック)
そもそも耳慣れない「ケアテック」という言葉だが、これは介護を示す “Care(ケア)” とテクノロジーを掛け合わせた造語。従来より、介護領域におけるテックプロダクトを取り上げる際にメディア等が活用してきた言葉ではあるが、用語そのものの明確な定義はなされていなかった。
今回の法人設立発表のタイミングで、日本ケアテック協会では同語の示す範囲も定義。ここでいう「ケア」とは、在宅や施設における介護実務、マネジメントや運営業務全般など幅広い領域を含むこととし、また「テクノロジー」についても、AIやIoT、ICT、クラウド、ビッグデータ解析などの最先端技術はもとより、それを応用した製品やサービスのことを指すとした。
設立の背景にあるのは、多くの方もご存知の通り、我が国における高齢者割合の急速な増加にある。日本の総人口が減少に転じていく中、高齢者の占める割合は今後も増加していくことが人口動態的に想定されている。
これに対して介護人材はどうかというと、圧倒的に不足することが見込まれている。厚労省発表の資料によると、2025年時点で約55万人の介護人材が需要に満たないと推定されており、業界全体の構造的な課題として横たわっている。
画像引用:厚生労働省「2040年頃の社会保障を取り巻く環境」41頁
さらに、年々増加する社会保障給付も大きな課題であり、例えば介護給付額に目を向けると、2012年に8.4兆円だった金額が、2025年には19.8兆円にも膨れ上がる。10年強で約2.35倍になる計算だ。
これら、いわゆる「2025年問題」に対処するべく、介護現場へのテクノロジーの導入と浸透が喫緊のテーマというわけだ。
携帯情報端末を利用しているのはわずか11.6%の施設・事業所
だが介護業界のテクノロジー活用に目を向けて見ると、福祉関連の中小企業が最もICTの利用状況が低く、効果も薄いとされているのが現状である。
この領域に関して、政府は数年前から介護領域へのICT活用を後押しする動きを活発化させている。2018年にはAIの実装に向けた取り組みを推進し、ケア内容等のデータを収集・分析するデータベースの構築や、ロボット・IoT・AI・センサーの活用を模索。2019年にはこれらの技術およびデータヘルス改革等を通じた生産性向上に目を向け、AIを活用した科学的なケアプランの実用化に向けた取り組みの推進など、科学的介護の推進を強化した。さらに本年度は、ケアプランへのAI活用推進とともに、介護ロボット等の導入についても言及され、介護予防サービス等におけるリモートの活用や文書の簡素化・標準化・ICT化の取り組み等が加速している。
だが現場に目を向けると、ICT活用はいまだに浸透していないのが現状と言えるだろう。例えばスマートフォンやタブレットといった携帯情報端末を見てみると、利用しているのはわずか11.6%の施設・事業所に過ぎないという調査データがある。また介護ロボットの場合はさらに、8%に満たない施設等しか導入していないという調査結果もある。
一方で、ICTを導入している居宅介護支援事業所としては、活用の効果は間違いなく感じているというデータも出ており、例えば携帯情報端末を導入することで、半分以上のケアマネジャーが「その場で情報の入力・閲覧できることで業務効率が実現する」と回答している。
要するに、介護現場におけるテクノロジーの導入は、打ち手として間違いなく効果は上がることがわかっているということだ。
介護現場とテクノロジー企業の架け橋となりたい
では現場にテクノロジー導入が浸透しないのはなぜかというと、様々な要因がある中で「介護現場とテクノロジー企業の間に共通言語がなく、議論が平行線になるケースが多い」と鹿野氏は説明する。
テクノロジー企業と介護事業者は、現状はセールスの場でした出会う場所がない。そうなると必然的に「売る側」と「買う側」の構図になるので、テクノロジー企業には売りたいという力学が働き、それに対して介護事業者はうまく本音を出しづらい状況が生まれる。どうしてもフラットな目線で関わることができないので、心理的にうまくいかないことも多いというのだ。
そんな現状を打破し、日本全体でワンチームとなって介護領域の課題解決を進める役割を担うのが、今回設立された日本ケアテック協会というわけだ。
鹿野氏:「設立目的としては、介護事業者とケアテック事業者間の懸け橋となり、介護現場のデータ利活用の促進、現場に即したテクノロジーの社会実装促進、そして国の社会保障の仕組みへの提言を行うことによる「持続可能な介護」の実現に貢献することです。感情労働という言葉もある通り、大変な仕事をしている方が多い業界だからこそ、積極的にテクノロジーを使って楽になってもらいたいと思います。
また、このような「日本モデル」を高齢化先進国として世界に示し、介護ソリューションの国際化に貢献することも、並行して目指していきたいと考えております。」
製品・サービスの指針となる「ケアテック認証制度」構想
ケアテック協会の事業内容としては、以下の3領域を予定しているという。
(1)ケアテック製品・サービスの標準化・開発支援
・優良なケアテック製品やサービスを認証する「ケアテック認証制度(仮称)」の運営
・介護事業者によるフィールドボード(実証の場)とのマッチングを行い、ケアテック事業者に対し実証環境の提供(2)調査・提言活動
・ケアテックの社会実装に向けた構造調査およびケアテック利活用ノウハウのデータベース化
・上記調査を踏まえ、学会や職能団体への提案、意見交換、対外的な広報活動(3)啓発事業
・IT活用の優れた介護事業者や介護従事者を表彰する「ケアテックアワード(仮称)」の実施
・介護事業者・ケアテック事業者向け勉強会・研修・交流イベント
・会員向けレポートの発行
特に注目したいのが「ケアテック認証制度(仮称)」。常に人手不足で多忙な介護事業者が、多種多様な製品・サービス群からGoogle検索等で情報収集し、製品比較の上、最適なケアテック製品を選択するには大きなハードルがある。一方でケアテック事業者にとっても、製品企画から開発、マーケティング、導入運用へと至るためには、現場理解含めて全て自主努力で行う必要がある。頼れる指針がないので、ここにも相当なハードルがあるのが現状と言えるだろう。
このような情報の非対称性を解消するのが、日本ケアテック協会が進めようとしている認証制度である。これは、介護事業者が安心してケアテック製品・サービスを選択する基準を示し、ケアテックを利活用しやすい環境の整備と、ケアテック事業者の製品・サービス販売の健全性を担保することを目指す取り組みだ。
認定基準となるガイドラインは、有識者の協力を得ながらこれから作成を進める予定。関係法令の遵守や安全性・倫理性といった品質、情報公開の透明性、適正な契約、情報管理体制、クレーム対応やフォローアップといった継続利用の仕組みなど、多様な視点を盛り込み、今から一年半後を目処に運用開始をする予定だという。
会員には積極的なフィールドボードの場が提供
これら活動の原資は、ケアテック事業者、介護事業者、および個人等による年会費となる。会員カテゴリーと年会費は以下の通りで、会員メンバーには積極的にフィールドボードの場が提供される他、協会発行の機関紙を通じた情報提供も予定しているという。
- 法人A会員(ケアテック事業者で、創業10年以内かつ未上場):年会費100,000円
- 法人B会員(法人A会員以外のケアテック事業者):年会費200,000円
- 法人C会員(介護事業者):年会費10,000円
- 個人会員(ケアテックに関心があり、協会の趣旨に賛同する個人):年会費1,000円
- 賛助会員(ケアテック事業者・介護事業者でない法人で、協会の趣旨に賛同する事業者):一口100,000円
- 後援団体:非営利団体(地方自治体・国の外郭団体・関連団体など)
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このように、ケアxテクノロジーの観点で民間主導によるGR含めた大きな動きを推進する団体がようやく現れたわけだ。日本においては、2025年が介護分野の様々な施策完成のターゲットとなるであろうからこそ、対応は待ったなしの状況である。
今回設立された日本ケアテック協会に興味がある事業者および個人は、積極的に参加することが望まれるだろう。一人ひとりの小さな一歩が、この国の大きな指針に繋がっていくはずだ。