デジタル課税〜金融包摂まで。世界40都市以上が繋がるイベント「World FinTech Festival」が面白い

インタビュー

 日本時間の2020年12月7日(月)~11日(金)、世界40都市以上が繋がるグローバルイベント「World FinTech Festival」(以下、WFF)がオンライン開催される。

https://www.fintechfestival.sg/world-fintech-festival

 WFFとは、シンガポールで毎年開催されているSingapore FinTech Festival(以下「SFF」)を主流としたもので、今年は各国でパートナーイベントを同時開催。オンラインで世界中のFinTechムーブメントを繋ぎ、最先端の情報発信と議論が行われるという、世界最大級のFinTech祭典だ。

 そんなWFFに、日本・東京トラックも参加が決定。12月7日(月)・12月8日(火)の2日間にわたって、日本の国際戦略や、持続的な回復と成長のイノベーションとしてのFinTechに焦点を当てた議論がなされる予定だという。金融庁から民間企業まで、計60名もの官民様々なスピーカーが、全て英語で世界に発信していくというから驚きだ。

 具体的にどのようなセッションが予定されており、どんな見所があるのか。11月27日に開催された事前イベントでの解説をベースに、SFFのグローバルサテライトイベントパートナーであるSo Inc.代表・上原忠彦氏に、これまでの経緯含めてお話を伺った。

Singapore FinTech Festivalとは

 そもそもSingapore FinTech Festival(以下、SFF)とは、シンガポール金融管理局(Monetary Authority of Singapore、以下MAS)が、シンガポール銀行協会(The Association of Banks in Singapore)の協力の下で2016年より主催している、世界最大級のFinTechフェスティバルである。

 2016年のスタート時点では、60カ国から13,000人以上の参加であったが、第4回目となる2019年開催時では140カ国から60,000人以上の参加にまで拡大。アジア最大の金融都市であるからこそ、その注目度も一気に広まることとなった。過去にはインドのナレンドラ・モディ首相や、元IMF専務理事であるクリスティーヌ・ラガルド氏など、著名な人物がスピーチをしている。

 そんなSFFだが、2020年度はコロナ禍によって大規模なオフライン集会が不可能な状況になった。だからこそ、今度はオンラインで世界中を繋げるという方針に転換、WFFという派生イベントブランドを立ち上げ、そこへ世界中のパートナーに声がけし、合計40都市以上を繋げての大規模ムーブメントへと昇華したという流れとなる。

 今年度は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団 創設者であるビル・ゲイツ氏をはじめ、マイクロソフト、シティグループ、VISA、PayPal、Nasdaq、アクセンチュアといった名だたるグローバル企業のCEOが登壇。さらには、ヘン・スイキャット シンガポール共和国副首相兼財務大臣も登壇を予定している。

WFF Japanのセッション一覧

 日本では「WFF Japan」という冠で、12月7日(月)・12月8日(火)の2日間にわたって開催。合計20のセッションが予定。

 セッションの全体像は、以下の通りとなっている。

《12月7日(月)セッション一覧》

日本時間 セッション名
10:30 – 11:15 ESG投資はなぜメインストリームになれたのか?今後どこへ向かうのか?
11:30 – 12:15 コロナ禍が日本の金融のパラダイムシフトを加速する
12:30 – 13:10 Ex-Bankers’ deep-dive into BaaS & Super App
13:10 – 13:20 基調講演 中西健治 財務副大臣
13:20 – 14:10 Blockchain × Identity: Potential and challenges of SSI/DID in financial use cases
14:10 – 14:25 Keynote Speech: Hideki Ito, Vice Commissioner, Financial Service Agency of Japan
14:30 – 15:10 The evolution of DeFi: Opportunities and Challenges
15:20 – 16:05 RegTech “Trusted data” drive the Digital World
16:10 – 16:55 Ethical use of AI in Financial Markets
17:00 – 18:00 Blockchain × Sustainability – Blockchain applications for social use

《12月8日(火)セッション一覧》

日本時間 セッション名
10:30 – 11:15 FinTech for the Common Good: Aging and Innovation
11:30 – 12:15 International financial hub, regulation and legislation
12:20 – 12:35 Regulatory sandbox in Japan
12:45 – 13:30 Building the digital financial infrastructure in japan
13:40 – 14:25 Alternative Data and Open Innovation
14:30 – 15:15 Securing FinTech in 5G World
15:30 – 16:10 Breaking down digital tax conundrum: Why is it good for innovation?
16:20 – 17:05 Beyond Banking API, from insurance, securities to financial inclusion
17:10 – 17:55 How data will drive the Impact revolution
18:00 – 18:30 Guide to the Tokyo Startup Ecosystem

 このようにご覧いただくとお分かりの通り、ESG投資から始まってSSIやDID、AI倫理(Ethical use of AI)、サステナビリティ、RegTech、デジタル課税(digital tax)など、世界でホットなアジェンダが用意されていることが大きなポイントだ。

注目セッション①:高齢化 × FinTech

 この中で、特に注目したいセッションは、どんなものがあるか。11月27日に開催された事前解説イベントにて、WFF Japan登壇者でもある村上由美子氏は、自身の登壇するセッション「FinTech for the Common Good: Aging and Innovation」についてコメントした。

村上氏:「昨年のSFFでは、まさにこのエイジングテーマで登壇させていただきました。すごく印象的だったのは、私以外の日本人はどこにも見当たらなかったということです。

一方で、エイジングというテーマは世界中で関心の高いトピックでもあります。特に日本が直面している高齢化を経た超高齢社会は、我が国だけの問題ではなく、世界中どこでも直面することになるわけです。だからこそ日本が課題先進国として、このような喫緊の課題に対してテクノロジーをどのように活用しているのか、世界は大いに関心を持っています。

日本の試みを世界に共有することは、非常に大切なことだと感じています。

 高齢化とFinTechはどんな繋がりがあるのかと疑問に思うかもしれないが、要するに大きな軸となるテーマは「金融包摂(Financial Inclusion)」である。一般的に金融包摂と聞くと、アフリカをはじめとする新興国において必要な仕組みだと捉える方も多いと思うが、実際は日本も当事者として認識するべきテーマである。例えば高齢者との文脈で考えると、情報技術の利用格差に起因したデジタルデバイド問題。あらゆる業界においてDXが加速する時代だからこそ、その価値を高齢者含めて享受できる仕組みづくりが必要不可欠となる。本セッションでは、このような課題に対してFInTechがどのように社会をエンパワーできるかが語られるというわけだ。

 ちなみに、高齢化 x FinTechについては、昨年度開催の日経FIN/SUMにおいてもレポートしたので、併せてご覧いただきたい。

注目セッション②:デジタル課税の最前線

 もう一つ、村上氏が挙げるセッションは「Breaking down digital tax conundrum: Why is it good for innovation?」。昨今で大きな課題となっているデジタル課税についてだ。村上氏モデレーションのもと、OECD 租税センター(CTPA)局長であるパスカル・サンタマン氏と、シンガポール内国歳入庁(IRAS)副コミッショナー(国際調査および間接税グループ)であるHuey Min Tern氏がディスカッションをする予定だ。

村上氏:「そもそもの背景としては、デジタル経済へとどんどん移行するにあたって、世界の租税インフラが100年近く前に作られた土台の上で回っているという、とんでもない状況がありました。これに対してOECDでは、フェアな課税条件を各国に提供できないものかという観点のもとで、G20の協力を受けながらBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)プロジェクトを推進してまいりました。もう7年ほどやっています。

その話の延長線として私たちが直面したことは、結局はデジタル課税にもメスを入れないと、なかなかフェアな課税はできないのではないか、ということです。BEPSの枠組みに関して割と形ができてきた中で、今度はデジタル課税の枠組みについても作っていかねばならない、という認識でおります。

これについてはまだ結論が出ておらず、オンゴーイングの状況です。今回のセッションでは、私の同僚でもあるパスカルと共に、デジタル課税のポイントや、世界共通のフレームワークができた暁に各国にどのような恩恵をもたらすのか、どうやってイノベーションを促進する役割を担うのか等、OECDとして目指している事についてお話しできればと思っています。

日本から海外に向けて「英語で」発信できる場を提供し、機運を高めていく

 最後に、今回のWFF Japan主催にはどのような思いが込められているのか。SFFのグローバルサテライトイベントパートナーであるSo Inc.代表・上原忠彦氏にもコメントを頂いた。

2020年7月まで、日本経済新聞社で様々な国際カンファレンスをプロデュース。So Inc.として独立後にMASからパートナーシップを打診され、WFF Japanを主催することとなる

 

上原氏:「今回WFF Japanを主催するにあたって、最も意識した部分は「日本の活動をしっかりと英語で世界に発信すること」です。

日本で開催される国際会議は、まだまだ日本語ベースのものが多く、視聴者も日本人が大半というものがほとんどです。例えば日本のスタートアップが世界に打って出たいと考えても、その道しるべとなるルートは、国内だと非常に限られているのが現状だと感じます。日本のマーケットが非常に大きいことは、国内産業だけでも十分に事業を拡大できるというメリットがありつつ、外に向けた意識が醸成しにくいという弊害も生んでしまっていると感じます。

その一方で、海外だと日本に興味のある人は、まだまだ沢山いらっしゃるのも事実です。全てのセッションを英語で発信するという日本発の国際会議がまだまだ少ないからこそ、WFF Japanのようなカンファレンスを定期的に実施していき、日本から世界に向けた発信の“旗”を立て続けていくことが、大事だと捉えています。

 

 そんな上原氏に、セッションの注目ポイントを伺ったところ、日本の金融庁による積極的な発信が、非常に面白い点だと説明がなされた。

 金融庁が関連するセッションとしては以下の3セッション、デジタルアイデンティティ、分散型金融、そしてサステナビリティについて。この他にも、金融庁 総合政策局・政策立案総括審議官 井藤 英樹氏によるキーノートスピーチも予定されている。

  • Blockchain × Identity: Potential and challenges of SSI/DID in financial use cases
  • The evolution of DeFi: Opportunities and Challenges
  • Blockchain × Sustainability – Blockchain applications for social use

 規制当局がこのような先進的なテーマ群でセッションを組むこと自体が、非常に魅力的だと感じる。

上原氏:「今回のWFF Japanは、シンガポールが主体のイベントで、完全オンラインかつ全部英語という、かなり難易度の高い条件であるにも関わらず、60名の方々にセッション登壇していただけます。非常に有難いことだと感じています。

必ず何かを持って帰っていただけるようにイベントを設計しておりますので、ぜひオンラインでご来場いただければと思います!

———-

 LoveTech Mediaも今回、WWF Japanのメディアパートナーとして、複数のセッションレポートを配信予定だ。グローバルアジェンダに沿ったFinTechディスカッションに興味のある方は、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

》チケット情報はこちら

 

◆「World FinTech Festival Japan」 開催概要

  • 会期:2020年12月7日(月)~8日(火)(SFFは7-11日まで5日間)
  • 形式:オンライン開催
  • 想定参加人数:10万人(グローバル全体)
  • 主催:So Inc.
  • 共催:一般社団法人Fintech協会
  • 後援:OECD東京センター、東京国際金融機構
  • メディアパートナー:日本経済新聞社、ブルームバーグほか

【Facebook、Twitter、LinkedIn:#WFFTokyo2020

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧