ウェルモら4社が横浜市と介護領域共創で協定締結、ケアテック・オープン・ラボ横浜が始動

インタビュー

 2019年3月20日、神奈川県横浜市が民間企業4社と「介護分野におけるオープンイノベーションによる課題解決に関する研究協定」を締結した。

 4社とは株式会社ウェルモ(代表取締役CEO:鹿野佑介)、株式会社ジェイアーク(代表取締役:青木英憲)、株式会社ツクイ(代表取締役社長:津久井宏)、富士ソフト株式会社(代表取締役 社長執行役員:坂下智保)。いずれも、介護領域においてAIやIoTといった最先端テクノロジーを活用したオープンイノベーションの促進に積極的な企業である。

 今回の協定締結をスタート地点として、横浜市では「ケアテック・オープン・ラボ横浜」という対話と実証実験の場も始動するという。

 急増する要介護者、それに併せて逼迫する介護保険財政、介護施設建設の遅延、慢性的な人手不足など、問題が山積みとなっている上に、抜本的な解決策を講じることができていないのが現状の介護業界において、このような官民連携したオープンイノベーションは非常に頼もしい動向である。

 介護は、愛なくしては語れない。介護業界における新たな愛ある取り組みを確認すべく、LoveTechMediaは当日の締結発表会見を取材した。

協定締結4社の事業概要

 まずは今回、横浜市と協定締結を結んだ民間企業4社について、簡単に事業概要をご紹介する。

株式会社ウェルモ

 社会課題をICTと先端技術の力で解決することをミッションに、愛を中心とした資本主義のつぎの社会を描くソーシャルベンチャー企業。LoveTechMediaでは過去何度も記事を掲載させていただいた。

 人工知能(NLP)を活用してケアプランの作成を補助する「ケアプランアシスタント(以下、CPA)」を始め、アナログな地域の介護情報を整理して見える化した地域情報プラットフォーム「ミルモ」シリーズ、児童発達支援・放課後等デイサービス事業所「UNICO」などを展開している。

 ちなみに今月3月7日に発表された、同社ととつかリビングラボが共同で発行した、横浜市戸塚区の介護サービスを見える化した紙媒体『ミルモブック戸塚区版』のリリースは、今回の協定に先駆けた取り組みである。

株式会社ジェイアーク

 自立支援・介護予防・認知症予防に特化した介護事業を営む、横浜市内の企業。

 同社最大の特徴は、リハビリストホームという、生活機能の維持・向上のために効果的な5つのプログラム(運動器機能向上・口腔機能向上・栄養改善・排泄リハケア・リフレ)を総合的に行う独自の「包括的自立支援プログラム」を提供するデイサービスだ。専門知識と技術を習得した自立支援介護トレーナー(介トレ)と呼ばれるスタッフが、利用者一人ひとりに合わせたプログラムを提供し、日常生活動作(ADL)の維持・改善に取り組んでいる。

株式会社ツクイ

 在宅介護事業、有料老人ホーム事業、サービス付き高齢者向け住宅事業等の介護事業を営む、横浜市内の企業。1983年に訪問入浴サービス事業を開始して以来35年にわたり、在宅介護事業を中核に幅広い福祉サービスを展開している。

 2011年には全国47都道府県への事業所出店を完了。1事業所当たりの担当エリアを無制限に拡げることなく、一定の規模を超えた事業所を分割していく「細胞分裂型」の出店スタイルを通じて、地域密着型の事業所ネットワークを構築し、きめ細かいサービス提供を実現している。

 近年は、地域包括ケアシステムを念頭に地域連携を強化しており、多職種連携による地域の活性化に向け、リビングラボ(※)の運営に取り組む。

※リビングラボ:身近な地域の課題をテーマとして、住民を中心に様々な知見を有する企業、大学等と連携して課題解決のための対話を行う場を示す。参加者の現状認識の共有化のため、官民データを活用して課題の可視化を進めながら、自由にアイデアを出し合うことで、新たな解決策を見出していくことが期待されている。

富士ソフト株式会社

 業務系ソリューション、組込・制御テクノロジー、アウトソーシングサービス等の事業を展開する、横浜市内情報通信産業企業。グループで 1 万人におよぶ技術者を有する国内有数の独立系SIerである。

 最近はデータ連携のあり方を中心に、海外における先進事例の研究など、データ利活用推進に向けた取組みを積極的に行っている。

 LoveTechMediaとして特に注目しているのは、同社が開発・提供するコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」だ。人を見たら積極的に話しかけるロボットとして高齢者を中心に人気であり、高齢者福祉施設での導入を想定したPALRO Business Seriesや、自宅用として機能を厳選したPALRO ギフトパッケージがある。

協定締結の背景

横浜市長 林文子氏

 横浜市には”共創フロント”という、民間事業者から官民連携に関する相談・提案を受ける窓口がある。行政と民間事業者が互いに対話を進め、新たな事業機会の創出と社会的課題の解決に取り組むために設置されたものだ。

 受けた提案は同市の政策局共創推進課が、事業者と市役所各部署との橋渡し役となり、実現に向けた検討や調整を行っている。

横浜市ホームページ内 共創フロント説明ページより

 今回の取り組みのきっかけは、ウェルモによる共創フロントへの提案であった。同社が福岡市や札幌市など各地で進めている、介護情報といった地域資源の見える化に向けた取り組みを、横浜市でも推進したいという内容であった。

 横浜市では人口が370万人を超えており、介護関連サービスのニーズも高いことから、県内における介護保険事業者・施設の比率も必然的に高い。

 例えば居宅サービスだけを見てみても、県内所在事業所数18,529箇所に対し、市内所在事業所数は7,028箇所と、全体の4割弱を占めている。(2018年4月1日時点データ)

 当然ながら上記以外にも、施設サービス事業者や地域密着型サービス事業者など、様々な介護関連事業者が存在する。

 そしてこれらの情報が一元化されていないという状況があり、情報の”見える化”は喫緊の課題であった。

 そんなウェルモからの提案と同時期に、市内所在企業のジェイアーク、ツクイ、富士ソフトからも、それぞれAIやIoT等のテクノロジーを活用したオープンイノベーション促進と介護分野における課題解決に取り組みたいという相談が共創フロントに寄せられ、横浜市含めた5者による協議を経て、今回の協定締結に至った。

情報の収集・分析・発信とテクノロジー活用について研究

 介護とICTという異分野の企業がテクノロジーとデータ活用を通じて連携するという本協定。新しいケアモデルの確立、介護現場における業務効率改善や高度化、そして介護サービスの質向上等を目指し、以下のテーマを中心に研究を進める。

研究テーマ1:官民が保有する情報の収集・分析・発信のあり方

研究テーマ2:官民連携におけるによるAI、IoTなどの先端技術活用のあり方

写真左:株式会社ジェイアーク 代表取締役 青木英憲氏、写真右:株式会社ウェルモ 代表取締役CEO 鹿野佑介氏

研究テーマ1−①:介護サービス施設・事業所の詳細情報の提供

 先ほどの背景でもお伝えした通り、地域資源の見える化に向けた取り組みとなる。コンビニの4倍近く存在する介護保険内および保険外サービスのアナログな介護サービス情報を見える化し、利用者やその家族がニーズに応じたサービスを選択できるよう、介護事業社や各種サービス団体に関する様々な情報の収集と、整理してのアウトプットの方法を研究する。

 鶴見区・戸塚区において、介護サービス情報を可視化した「ミルモブック戸塚区版」の発行は、まさに本締結協定に先行した、研究1をテーマとする取り組みとなった。

研究テーマ1−②:民間事業者間における効果的なデータ連携のあり方に関する研究

 情報を可視化してデータとして整理し活用できる形でアウトプットするためには、民間事業者をまたいでの利用者データ連携が不可欠となる。しかし、当然のことながら、事業者ごとに保有するデータの形式はバラバラである。管理項目も違えば、入力ルールも異なるだろう。

 効率的で質の高いサービス提供を実現するには、この民間事業者間におけるデータ形式の違いを乗り越えるべく、API連携などを通じて統合させ、新たな情報資産として活用できる仕組みについて研究を進めるという。中長期的な取り組みになると想定される。

写真左:富士ソフト株式会社 代表取締役 社長執行役員 坂下智保氏、写真右:株式会社ツクイ 代表取締役社長 津久井宏氏

研究テーマ2−①:AIやIoT等の先端技術の活用

 AIを活用したケアプランや通所介護計画の作成支援など、介護現場の業務改善に向けて研究する。

 例えばウェルモが研究開発するケアプランアシスタントは、まさにケアプラン作成を支援するAIとして、知識と経験の両面でケアマネをフォローする仕組みを想定している。「経験」については、ケアマネがこれまで作成した膨大な量のケアプランデータを学習させ、統計処理して文章案を提示するという手法を採用している。一方で「知識」については、医療看護・介護・リハビリなど様々な領域におけるガイドラインや教科書などの知識を横断的に学習させている。2つのアプローチを合体させた、ハイブリッドなAIとなっている。

 こうした研究は、大学などの研究・教育機関や企業、介護サービス利用者やその家族といった当事者、および介護・医療関係者を交えた対話の場を通じて展開する予定だ。リビングラボなどは、まさにそういった場として有効だろう。

研究テーマ2−②:介護業界のイノベーション人材の育成

 介護とICTの両方の視点や知見を持つ若い人材を育成し、将来的な介護業界のイノベーション人材を輩出することは、長期的な問題解決につながる。

 それぞれの業界の人材が交流し共創する場やプログラムを、企業や大学・専門学校といった教育機関と連携して提供することを目指す。

 実は本協定締結に先駆けて、2018年8月から約半年間かけて実施された『介護デジタルハッカソンin横浜』や、今年3月2日に開催された『YOKOHAMA YOUTH Ups! 2018-2019 フォーラム』において、5者が連携してアドバイザーや審査員を派遣したり、社会実証の場の提供などをしてきた。

多様な主体同士の対話で進めるオープンイノベーション

 これまでに見た研究テーマ群は、すべてオープンイノベーションの枠組みで推進していくという。この取り組みを、横浜市は総称して「ケアテック・オープン・ラボ横浜」と名付けている。

取り組みイメージ

 新しいケアモデルの確立、介護現場における業務効率の改善や高度化、介護サービスの質の向上といった様々な施策に対し、データやAI、IoTといったテクノロジー活用のあり方を官民連携して研究し、それらの推進のために、市内各地で展開されるリビングラボ やアイデアソン・ハッカソン、共創ラボなどの対話のばを積極的に活用していくイメージだ。

 そしてこれが重要なことだが、ケアテック・オープン・ラボ横浜は、今回の協定締結5者だけで完結させる想定ではない。この取り組みの趣旨に賛同する多くの企業、介護・福祉事業者など多様な事業体の参画を期待しており、そういう意味では今回の締結は、そのための小さな種を植えた段階であると言える。

横浜市がケアテック先端事例地域になることを期待

 最後に、今回の協定締結のきっかけとして、横浜市共創フロントへの提案を実施した株式会社ウェルモ 代表取締役CEOの鹿野佑介氏より、今後に向けたコメントを頂戴した。

「まず今回の協定締結は、介護業界が抱える課題に対して大変なるご理解と解決への情熱をお持ちの鈴木太郎横浜市会議員、および同市健康福祉局と政策局共創推進課をはじめとした多くの皆様による尽力があってこその賜物です。

地域資源の”見える化”は一朝一夕に達成できるものではなく、成果が出るまでに時間を要します。それにもかかわらず、私たちの提案に真剣に耳を傾けていただき、本日に到れたことを、本当に有難く感じます。

これは横浜市役所全体に言えることなのですが、職員の皆様のICT含めたリテラシーや熱意が非常に高いと感じます。

各民間事業者様との連携も、非常に楽しみです。

ジェイアーク様は自立支援の領域に強みを持たれており、ケアプランの先の通所介護計画書作成支援における連携を見据えています。

ツクイ様は長年の経験を通じた豊富な現場の知見をお持ちで、ICTが得意な介護事業所様でもあります。研究における実証フィールドで、特に綿密な連携を期待しています。

富士ソフト様はまさにICTが専門であり、我々にはないハードの技術やノウハウをお持ちです。同社のコミュニケーションロボット『PALRO』を始め、高齢者への声かけや見守りの領域で積極的に連携して参りたいです。

まずは本日の5者でのスタートとなりますが、これが種となって、これから多くの企業や介護・福祉事業者などを巻き込んでいき、横浜市がケアテック先端事例地域になることを期待しています。

 

編集後記

横浜市は広く人口も多いです。

 

370万人都市の介護サービス情報の見える化は相当大変な作業かと存じます。

 

民間だけでも行政だけでも実現は難しく、だからこそ今回の官民連携による研究協定締結は、非常に意味のある大きな一歩だと実感しています。

 

具体的なTODO事項はこれから順次発表されていくと思いますが、まずは横浜市という大都市において、介護領域におけるオープンイノベーションを通じた地域資源の見える化と次世代人材の育成に着手されたことに大きな価値があり、今後の介護業界の未来を感じます。

 

今後も同市の動向を、Love Tech Mediaとして注視して参ります。

 

LoveTechMedia編集部

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