キュレートポイント
ITジャーナリスト・湯川鶴章氏が編集長を務めるWebメディア『AI新聞』より。
本記事は、昨年11月に米シリコンバレー・パロアルトで開催されたテクノロジーカンファレンス「TransTech Conference」のレポートシリーズです。(TransTechについて、当メディアで取材した記事はこちら)
今回は、ベルリン発の個人向け自動ヒーリング音生成アプリ「Endel(エンデル)」について詳しく解説されています。
「リラックス」、「集中」、「外出中」、「睡眠」の4種類からモードを選ぶことができ、Apple Watchなどで取得した心拍数などのデータをもとに、そのときの自分の体内時計に合った音楽をリアルタイムで自動生成してくれるものです。
通常のリラックス用アプリでは、既に用意された音楽がライブラリとして提供されているものですが、その時の身体の状態によって自動生成するという仕組みは、画期的であると同時に、その仕組みが気になるところです。
当メディアでも2018年11月の日本上陸時にニュース配信し、多くの反響があったアプリです。
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TransTech ConferenceでのEndel社CEOの講演レポートを通じて、その仕組みの画期性と描いている素敵な未来ビジョンを知ってもらいたく、本記事をキュレートしました。
本記事は「AI新聞」のキュレーション記事で、元記事の一部転載版となります。
11月にシリコンバレーで開催されたTransTech カンファレンスにEndelというベンチャーのCEOが登壇していたので、スマホアプリEndelをダウンロードして試してみた。なんでも今年、世界中で大ヒットしたBGM自動生成アプリらしく、モードは、「リラックス」、「集中」、「外出中」、「睡眠」の4種類。Apple Watchなどで取得した心拍数などのデータをもとに、そのときの自分の体内時計に合った音楽をリアルタイムで自動生成してくれるらしい。試しに「リラックス」BGMを10分ほど流したら、あっという間に深い瞑想状態に入ってしまった。つぎにモードを「集中」に切り替えると、眠気がさめて一気にシャキッとした。なにこれ、すごい。コカコーラやワーナーミュージックなど、いろいろな企業がEndelとコラボし始めたというのも納得できる。どういう仕組みなのだろう。技術的なところを詳しく調べてみた。
▼音が心身に影響を与えるメカニズム
音楽が心身に影響を与えることは、だれでも体験的に知っている。でも一体どういうメカニズムなのだろう。
起業家で音とコミュニケーションの専門家、Julian Treasure氏によると、音は4つの形でわれわれに影響を与えるという。1つは身体的な影響。けたたましいブザーの音を聞くと、コルチゾールが分泌される。コルチゾールは、ジャングルの中で敵に出くわしたときに分泌されるホルモン。音は人間のホルモン分泌に影響を与えることができるわけだ。ホルモンに加えて、呼吸や心拍数、脳波にも影響を与えることが分かっている。
毎分12回ぐらいのペースで浜辺に打ち寄せる波の音は、聞く人をリラックスさせる効果がある。1分に12回というのは、眠っている間の呼吸の数と同じなのだという。
2つ目の形は、心理的な影響。音楽は、われわれの感情に最も大きな影響を与える音だ。悲しい曲を聞けば悲しい気持ちになるし、楽しい曲を聞けば楽しい気持ちになる。鳥の鳴き声などの音も、心を静かにしてくれる効果がある。鳥が鳴いているときは安全だという過去何十万年もの記憶が、われわれのDNAに刻まれているからかもしれない。
3つ目の形は、認知的な影響。二人から同時に話しかけられると、どちらの話もうまく理解できないことがある。われわれの脳は、どちらか一人に意識を集中しなければ、話を理解できないようにできているらしい。大きな騒音の中で集中して仕事ができないのはこのためだ。騒音のあるオフィスの中での生産性は66%も低下する、という実験結果があるという。
4つ目は行動面への影響。自動車を運転していてラジオからテンポの速い曲が流れ出すと、ついついアクセルを踏みがちになる。音による行動への影響の一例だ。また人間は不快な騒音から距離を置き、心地よい音に近づいていくことが多い。店頭で不快な音を出したところ、売り上げが28%低下したという実験結果があるという。
▼ベースとなる2つの科学的根拠
さて、話をEndelに戻そう。EndelのCEO、Oleg Stavitsky氏によると、Endelは、2つの科学的な根拠をベースに音楽を自動生成するという。
1つは体内時計だ。生物は体内に時計の機能を持っており、哺乳類は脳の中心部下面にある視床下部の視交叉上核が体内時計の働きをしているという。
体内時計は自然のリズムと同期するようになっており、人間は朝日が登ると活動を始め、夜になるとエネルギーレベルが低下して、眠くなるようにできている。また体内時計には、一定のリズムの山と谷があり、それに従って脳波が変化し、ホルモン分泌や細胞生成など、重要な体の働きが制御されているという。体内時計が乱れると、睡眠障害に始まり、心臓血管系の疾患や、癌、愛着障害なども引き起こす可能性があるといわれている。
ところが現代社会のライフスタイルは、時に体内時計を乱す原因となる。どうすれば体内時計の乱れを是正できるのか。EndelのStavitsky氏が着目したのは音だった。
脳神経科学によると、音の周波数、音高、音色が、人間の認知の状態に影響を与えることが分かってきたからだ。
この脳神経科学が、Endelの科学的根拠の2つ目になる。
例えば、五音音階(Pentatonic Scale)には、リラックス効果があることが分かっている。五音音階楽曲とは、1オクターブが5つの音で構成されている音楽のことだ。1オクターブはドレミファソラシドの8音だが、アジアやアフリカ、南アメリカの民族音楽の中には、5音の音楽が多いという。日本の民謡や演歌なども5音音階のものが多い。
ある実験で、妊娠中の女性に向けて五音音階の音楽を流したところ、胎児の心拍数が低下するなどのリラックス効果が確認されたという。
この知見を参考に、EndelのBGMは、主に五音音階で作られているらしい。
またEndelは、サウンドマスキングと呼ばれる手法を採用している。サウンドマスキングは、意図的に別のノイズを流すことで、嫌な雑音を隠してしまう手法だ。意図的に流すノイズとしては、ホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズなどがあるらしい。ウィキペディアによると、ホワイトノイズは「パワースペクトルで見ると対象となる、それなりに広い範囲で同程度の強度となっているノイズ」のことらしい。深夜にテレビの放送が終わったあとに画面が砂嵐のような絵になって「シャー」という音が流れるが、あれがホワイトノイズと呼ぶものらしい。ある研究によると、不安神経症の患者にホワイトノイズを聞かせることで、血圧、心拍数、皮膚温度などの数値に大きな変化があり、リラックスしていることが分かったという。
一方でピンクノイズは「周波数成分が右肩下がりの音」で「ザー」という音に聞こえる雑音のことらしい。
Endelでは、こうした研究結果をベースに音楽自動生成のアルゴリズムを組み立てているという。
つづきは以下よりご覧ください。
また、元記事執筆者である湯川鶴章氏が主宰する、2歩先の未来を読む少人数制勉強会「TheWave湯川塾」の詳細は以下となります。