2024年8月24日〜25日にかけて、ロボットと性愛に関する国際カンファレンス「LSR9(Love and Sex with Robots 9th)」が、カナダ・ケベック大学(モントリオール)にて開催される。4月1日にキーノートセッション登壇者が発表され、それに併せてEarly birdの割引チケットの発売も開始。4月15日までは、カンファレンスの議題も募集している(詳細はこちらのSubmission of Abstractsをご確認)。
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— lovewithrobots (@lovewithrobots) March 16, 2024
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ヒト型ロボットの登場が現実的なイマだからこそ参加したいカンファレンス
「ロボットと性愛」と聞くと、なんだかチャラチャラした会合に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。過去8回の開催では、心理学/社会学/哲学分野等のアカデミアや研究機関、セクソロジスト、民間ロボット企業(セックストイメーカー含む)の経営陣、さらにはセックスロボット研究家や愛好家まで、まさにロボットと性愛にまつわるマルチステークホルダーが一堂に介して、セックステック(Sex × Technology)のような産業分野の現状からロボット/AI倫理のあり方まで、幅広い議論を展開してきている。
特に今回は、GPT-4やClaude 3をはじめとする生成AIの流れが加速してきており、マルチモーダルAIに向けた急速な進化に併せて、NVIDIAやOpenAI、イーロン・マスク等がマイルストーンの一つとして掲げる「ヒト型ロボット」というUIの提供スピードも、当初予想よりも随分と早まる見通しの中での開催だ。当然ながらロボット/AI倫理、及び技術哲学等の側面から、ロボットとのセックス行為含むリレーションの在り方に関する議論も加熱することが想定されるからこそ、今回のLove and Sex with Robotsカンファレンスは特に要注目だと考える次第だ。具体的なトピックとしては、以下が公式サイトに挙げられている。
- ロボティクス:ロボットの感情(心)、ヒト型ロボット、クローンロボット、エンターテインメントロボット、ロボットの個性、ロボット倫理
- セックステック:テレディルドニクス、VR/AR/MR、AIコンパニオン、インテリジェント電子アダルトハードウェア、ロボット工学と電子アダルトスタートアップ、アダルトチャットボット
- アプローチ領域:心理学、社会学、哲学、性科学、ジェンダー/セックス、フェミニスト&インターセクショナル、その他感情や臨床アプローチ
※6年前の公開にはなるが公式イメージ動画としてご参照いただきたい
チェスプレイヤー兼コンピューター・サイエンティスト兼セックスロボット研究家のデイヴィッド・レヴィ博士が主宰
本カンファレンスを主宰するのは、世界トップクラスのチェスプレイヤーであり、コンピューター・サイエンティストでもあり、またセックスロボット研究家でもあるデイヴィッド・レヴィ[David Neil Laurence Levy]氏だ。1960年代にチェスプレイヤーとして活躍していた中で「将来的にAIが人間に勝つようになる」というAI研究者(ジョン・マッカーシーとドナルド・ミッキー)の講演会での発言をきっかけに、AI領域へと進んでいった同氏は、次第にセックスロボットの可能性にも着目していった。2007年には、同年10月11日にオランダのマーストリヒト大学で提出した博士論文の商業出版となる書籍『Love and Sex with Robots: The Evolution of Human-Robot Relationships』(2007, HarperCollins Publishers)を発表し、セックスロボットが将来的に一般大衆に広く使用される可能性があることを強く主張している。
本カンファレンスはこの流れを汲んで企画・開催されているもので、公式サイトに同氏からのメッセージと共にその一連の経緯が紹介されている。せっかくなので少々長いが、以下に翻訳したものを転載する。
Love and Sex with Robotsが真面目な学問的テーマとして注目され始めたのは1983年のことで、ニール・フルード[Neil Frude]博士が著書『The Intimate Machine』の中で次のように述べたことがきっかけと言えるだろう。
「コンピューター・テクノロジーは性的刺激の新たな可能性を提供するだろうし、それに対してポルノ事業者は業界発展のために迅速に活用していくだろうから、その新しい可能性が徹底的に探究されていくことが予想される」
翌年、フルード博士の出版に続いて、MIT教授のシェリー・タークル[Sherry Turkle]博士による画期的な本『The Second Self』が生まれた。彼女の研究では、コンピューターが未来の社会に与えるであろう影響について調査しており、書籍では次のように書かれている。
「私たちは、自分たち自身と私たちが作ったモノ/作るかもしれないモノとの間にあるつながりを探していくことになるでしょう。そして、それら創造物との親密さを通じて、つながりが現実のものになっていくかもしれません」
この本の中で、タークルはMITの学生に「あなたが所有するコンピューターについてどう思うか」と尋ねたときの言葉を引用している。私がこの本を初めて読んだのは2003年だったのだが、その学生の返事は雷に打たれたような衝撃を私に与えた。彼は「ガールフレンドを作ろうとしたが、コンピューターとの関係の方が好きだ」と言ったのだ。この風変わりな回答は1980年代初頭のものであったが、20年後、コンピューターが80年代初頭よりもはるかに普及していた時代に、このような感情がどの程度存在していたのだろうかと私は疑問に思った。コンピューターに対する“愛情”は、同じようにありふれたものになっているのだろうか?こうして私は、ロボットとの親密で愛情深い関係という、この挑戦的なテーマに引き込まれたのである。
その興味の高まりは書籍執筆へと発展し、『Love and Sex with Robots』というタイトルが理想的なように思えた。研究と執筆を進めている間、2004年1月にイタリアのサンレモで新しい学問的主題「ロボット倫理(Roboethics)」に関するシンポジウムが開催されたことを知ったわけだが、そのシンポジウムの主催者によって、2006年2月にジェノヴァで開催された「EURON Atelier on Roboethics」のフォローアップ会議に招待された。そこで私は、まだ公開されていない研究資料に基づいた三つの講演を行った。翌年、IEEE-RAS国際ロボティクス・オートメーション会議の一環としてローマで開催されたICRAワークショップでロボット倫理について発表し、IEEEがロボット倫理ワークショップとその構成部分を主催したことにより、私たちの主題は学術的な場において正式に認められた学問分野として確立された。
私の著書『Love and Sex with Robots』の完成が近づくにつれ、マーストリヒト大学から私の研究の学術版をPhD論文として提出するよう招待された。そこでの論文のタイトルは少し保守的な「人工パートナーとの親密な関係(Intimate Relationships with Artificial Partners)」となった。論文審査の日には、オランダのメディアから大きな関心が寄せられ、その結果大学は翌年にこのテーマを主軸に置いた会議を開催する運びとなった。その流れで、2008年、2009年、2010年の三年間、オランダは「人間-ロボット関係国際会議(International Conference on Human-Robot Personal Relationships)」の開催地となり、その会議録はSpringer Nature社によって出版された。この出版によって、私たちの研究領域の学問分野としての信用がさらに高まったと言えるだろう。
2011年、私はシンガポール国立大学のエイドリアン・チョーク[Adrian Cheok]教授から連絡を受け、彼のPhD学生の一人、フーマン・サマニ[Hooman Samani]の外部審査員として召喚された。彼の論文は、私たちの研究分野にとって非常に重要なモノだった。エイドリアン自身の興味と研究作業も相まって、私たちは良い友人となり、ヒマラヤを一緒に観光し、エベレストの山頂など、様々な場所をご一緒することになった。そして2014年に、エイドリアンは新しい学術会議を始めることを提案した。それがこの「The International Congress on Love and Sex with Robots」(以下、ロボットとの愛とセックスに関する国際会議)というわけだ。
エイドリアンの提案は、ロンドンのゴールドスミス大学で開催されたこのタイトルのワークショップの締めくくりで提示されたもので、英国を代表する人工知能団体であるAISB(Artificial Intelligence and Simulation of Behaviour)の50周年記念行事の一環として企画された。そのワークショップは、参加者数(約40名)という点でも、また、「ロボットとの愛とセックス」というテーマが適切な学術研究分野であることを学界がさらに承認したという点でも、成功を収めた。この新しい会議体の第一回目は、ポルトガル領マデイラ諸島にあるフンシャルにて、マデイラ大学主催で開催された。
翌2015年、私とエイドリアンは、マレーシア政府の政府系ファンドが出資して新設された研究機関「イマジニアリング研究所」の所長にエイドリアンが就任したということで、マレーシア南端のイスカンダルでの開催を計画した。しかし、会議が始まる2週間ほど前、マレーシアの観光大臣がこの会議が自国で開催される予定であることを知り、「マレーシア文化に反する」という理由で即座に反対したのだ。クアラルンプール警察署長のタン・スリ・ハリド・アブ・バカール[Tan Sri Khalid Abu Bakar]も記者会見を開き、このイベントを「馬鹿げている」と評し、「機械とのセックスに科学性なんてない。我々の文化には適していない。このイベントが開催されるのであれば、私たちは主催者に対して行動を起こすことができる」と述べた。記者会見に出席していた記者の一人が、エイドリアンと私がこのイベントを行った場合、どのような理由で逮捕・起訴される可能性があるのかと質問したところ、「心配しないで。私たちが何か考えるから」と言われた。マレーシアの機嫌を損ねたくはなかったし、マレーシアの刑務所でくさい飯を喰らうのはもっと嫌だったので、エイドリアンと私は、第2回目の開催を翌年に延期するしかなかった。
結果、第2回目はロンドンにあるゴールドスミス大学で開催する運びになった。2016年12月に開催されたわけだが、結果としてこのカンファレンスシリーズにさらなる学術的な信頼性が加わったと感じている。現地でのすべての手配は、その後『Turned On: Science Sex and Robots』という本を執筆したケイト・デヴリン[Kate Devlin]博士が行ってくれた。
第2回会議が大成功を収めたため、当初は2017年12月に開催される第3回会議のためにゴールドスミスに戻ることを決めていたのだが、開催を目前に控え、マレーシア警察に関する信ぴょう性の高い警戒情報が入ったため、セキュリティ上の理由から会場を変更することになった。エイドリアンはギリシャとのハーフで、急遽、ロンドン北西部ゴルダーズ・グリーンにあるギリシャ正教会のホールと素晴らしいケータリング施設を使用できるよう、適切な手配をしてくれた。第3回大会で特に素晴らしいと感じた点は、私の名前を冠した「最優秀論文賞」がベルギーの博士課程の学生に贈られたことだった。
第4回会議は2018年にモンタナで開催される予定だったが、色々とあって延期せざるを得なかった。 幸運なことに、ある博士課程の学生が第3回会議を非常に楽しんでくれたため、延期された第4回会議の開催を引き受けてくれることになり、2019年7月初旬にブリュッセルで開催されることになった。結果、イベントとしては大成功で、参加者全員が大いに楽しみ、私見でもこれまでのシリーズで最高のものだったと感じている。
シリーズ5回目では、いつどこで開催するかについて議論している最中にCOVID-19パンデミックが発生したことで、バーチャル会議とすることを決議した。Imagine Ideation社CEOであるボビー・ビドーチカ[Bobbi Bidochka]とサイモン・デュベ[Simon Dubé]博士の努力のおかげで、モントリオールからZoomで会議を配信することに成功し、昨年と今年のイベントでもこの形式を繰り返した。
長くなったが、ロボットとの愛とセックスに関する国際会議は健在だ。バーチャルのイベントに変更したことで、例年を大幅に上回る登録が集まった。
今年もまた、非同期のポスター発表や簡単なコミュニケーション、データ・ブリッツを通じて、世界中で行われている科学や研究を共有できる可能性がある。
過去2年間の成功を踏まえ、組織委員会はこれまで以上に、LSR会議と組織の質を継続的に向上させることを目指し、世界クラスのバーチャルイベントを提供することに全力を注いでいる。
筆者翻訳:https://www.lovewithrobots.com/conference
※2024年開催の第9回目は対面での実施になります
書籍『ヒトは生成AIとセックスできるか』で予習も!
Learn more about this year's Keynote Speakers at https://t.co/9vycsFcPC9#sextech #sextherapist #lovedoll #AcademicTwitter pic.twitter.com/ZugEqENYxY
— lovewithrobots (@lovewithrobots) April 5, 2024
2024年4月1日には第9回目のキーノートセッション登壇者も発表された。ロボットテクノロジーとセックスワークの複雑な相互関係に焦点を当てた研究等に取り組むデルフィーヌ・ディテッコ[Delphine DiTecco]氏や、40年以上にわたり結婚・家族セラピスト/認定セックスセラピストとして活動するマーティ・クライン[Marty Klein]博士、サイバーセックスやオンライン性行為の経験や肯定的/否定的な結果についての理解を深めるための測定方法と文脈的要素に関する研究を進めるクリステル・ショーネシー[Krystelle Shaughnessy]准教授(オタワ大学心理学部)、そして長年ドール・コミュニティに参加しているクィアを自認するカルマ[Karma]氏の4名が、今のところ発表されている(詳しいプロフィール等はこちら)。
2024年6月30日までは、30%OFF価格のEarly bird割引チケットが発売されており、一般は269カナダドル、学生は69カナダドルで購入可能となっている。LoveTech Mediaは、このAI/ロボット進化の過渡期においてロボット×性愛領域の議論は極めて重要な動向だと考えていることから、今年度のLSR9に現地参加する予定だ。特にロボット/AIの道徳性(道徳的行為者性/道徳的被行為者性)の議論の上で考えられる生物との性愛関係や、フェミニズムのアプローチ、あとはニッチなところで考えるとアンドロイディズム(androidism)のようなフェティシズム愛好集団の考え方や思考性等の現座地点について興味がある次第だ。
本記事を通じて興味を持っていただいた方は、ぜひカナダでの2日間をご一緒できたら幸いである(現地参加するよ!という方は、ぜひ編集長・長岡までご連絡いただきたい)。
ちなみに、デイヴィッド・レヴィ博士のメッセージで登場するケイト・デヴリン博士の書籍『Turned On: Science Sex and Robots』は、日本語で『ヒトは生成AIとセックスできるか:人工知能とロボットの性愛未来学』(新潮社)として出版されている。
こちらで、ロボットとの愛とセックスに関する様々な背景情報が紹介されており、今回の「ロボットとの愛とセックスに関する国際会議」(主にデヴリン博士が関わった第2回開催時)に関する歴史も紹介されているので、ぜひ併せて読んでみていただきたい。メインテーマはもとより、人工知能の発達の歴史についても1章を割いて紹介されているので、テクノロジー動向をしっかりと追えていない方でも比較的簡単に理解を深めることができるだろう。
文:長岡武司