11.7億円増資のウェルモ、資本主義の次に向けケアテックベンチャーが描く愛ある世界

イベントレポート

11.7億のシリーズB調達と新規アライアンスを発表

 AI等を活用した福祉プラットフォームサービスを展開する株式会社ウェルモが8月22日、複数の事業会社及び既存株主から11.7億円の追加増資実施(シリーズB)と、複数企業とのアライアンス締結を発表した。

 ウェルモといえば、介護の地域資源情報を集約するプラットフォーム「MILMO」を始め、ケアマネジャーが作成するケアプランの作成支援AI「ケアプランアシスタント」、児童発達支援・放課後等デイサービス「UNICO」の事業展開をするソーシャルベンチャー。

 「愛を中⼼とした資本主義のつぎの社会を描く」ことを会社ビジョンとする、まさにLoveTechドンピシャの企業として、当メディアでもこれまで、何度も取材させていただいた。

 今回発表された出資企業は以下の通り。

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、株式会社アカツキ、株式会社グローバルキッズCOMPANY、コニカミノルタ株式会社、株式会社eumo、LINE Ventures株式会社

 上記のうち、あいおいニッセイ同和損害保険とコニカミノルタとは新たにアライアンスも締結し、ウェルモのMILMO及びケアプランアシスタントと、各社サービスの連携をスタートするという。

写真左から、アカツキ執行役員の石倉壱彦氏、あいおいニッセイ同和損害保険代表取締役副社長執行役員の黒田正実氏、グローバルキッズCOMPANY代表取締役社長の石橋宜忠氏、ウェルモ代表取締役CEOの鹿野佑介氏、eumo代表取締役の新井和宏氏、コニカミノルタ常務執行役の市村雄二氏、LINE Venturesの木村正博氏

 具体的に各社とどのような連携を想定しているのか。そして、その先に同社が描く「愛を中⼼とした資本主義のつぎの社会」とはどのようなものなのか。

 同日に開催されたウェルモ事業戦略発表会の様子をお伝えする。

約半分のケアマネが不安を抱えながら業務にあたっている

 まずは今回の増資を発表したウェルモ 代表取締役CEOの鹿野佑介氏より、同社の事業概要と、将来に向けた事業ビジョンがお話しされた。

「世の中の50.4%のケアマネさんは、自分の能力や資質に不安があると回答しています。

 介護の現場では、ケアマネジャーによるケアプラン、すなわち介護(保険)サービスをどのように利用するかを決めた介護計画書に沿ってサポートが行われるのだが、このケアマネジャーの実に2人に1人が、自身のサポート内容に不安を抱えているという。(平成28年 厚生労働省「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実施に関する調査研究事業」より)

 つまり、数兆円の給付意思決定が、不安を抱えた相談援助業務により成り立っているという、衝撃的な状況なのである。

 それもそのはず。世の中には25種類もの介護サービスが存在しており、全国の介護事業所総数は21万以上と計上される。これはコンビニの約4倍あるということであり、その8割は資本金1,000万円以下の中小企業および小規模事業主なのである。

 ではこれらの事業所情報はどのように管理されているかというと、その多くは「紙やFAX」だという。データクレンジングによるビッグデータ解析が世界の主流となっている中、介護業界では未だに「目視チェック」「電話によるコミュニケーション」「属人化した選択肢」がメインの状況なのだ。

 つまり、情報の非対称性が実に激しい領域と言える。

 そんな介護業界を変えるべく立ち上がったのがウェルモである。

 同社代表の鹿野氏は、同社設立の前後で、北は仙台から南は福岡まで、8ヶ月間かけて約400法人を巡ることで、とにかく現場を学んでいったという。ここから、多くの現場情報が紙ベースで散乱していることを目の当たりにし、その情報をしっかりと整理して可視化すること、そして多忙なケアマネジャーの支援をするべく、テクノロジーを活用するに至ったという。

ミルモネットとケアプランアシスタント(CPA)

 ウェルモでは、介護領域支援サービスとして、大きく「MILMO(以下、ミルモネット)」と「ケアプランアシスタント」の2事業を展開している。

 ミルモネットは、これまでは紙管理で把握することが難しかった多くのケア支援情報をデータ化し、ケアマネジャーが高齢者・家族のニーズにぴったりな事業者・団体を探し、わかりやすく提案することを可能にするシステム。

 現在、横浜市、東京都大田区、福岡市札幌市にて展開をしており、その対象介護事業所のカバー率は77〜94%に至っているという。

 また、ブラウザ上のデータ可視化のみならず、「ミルモブック」という紙冊子の発行もしており、デジタル・アナログ関わらず、必要な情報を必要な形での提供にこだわっている。

 ケアプランアシスタント(以下、CPA)は、介護・看護・リハビリ職の知識・経験を学習し、ケアプラン作成業務を支援するAIシステム。

 あくまで“支援”であって、“自動作成”でないことがポイント。最適なケアプランを作成するまでに必要となる事務作業や情報収集をサポートすることで、ケアマネジャーが相談支援業務に集中する心と時間の余裕を生み出し、本当の利用者本位を実現することを目指している。

 上図の通り、これまで同社が実施してきた様々な実証実験を通じて収集した膨大なケアプラン「経験」データ(左上)と、医療看護やリハビリ職といった様々な基礎資格のバックボーン知識を集約した教科書「知識」データ(左下)をインプットすることで、唯一無二のケアマネジャー寄り添い型ハイブリッドAIを実現している。

CPAにより作成されるケアプラン例(ケアプランアシスタントページより)

 このCPAとミルもプラットフォームを軸としたオープンイノベーションの取り組み、いわゆる「ミルモAIプラットフォーム」の取り組みが、今回のあいおいニッセイ同和損保およびコニカミノルタとのアライアンスに繋がっているというわけだ。

センサーの画像行動認識技術を駆使するコニカミノルタ

 コニカミノルタとの事業連携については、同社常務執行役の市村雄二氏がお話しされた。

 同社は2016年に介護業界に進出しており、同社の強みである「各種センサー」を介護福祉施設等に設置。入居者の行動を認識し、スマホベースで介護スタッフのワークフローをトータルでサポートする「ケアサポートソリューション」を展開している。

 このケアサポートソリューション導入により、訪室・夜間巡視・転倒転落対処・記録入力・情報共有・自立支援といった様々な業務ワークフローが効率化され、約30%の工数削減に繋がったという実績がある。

 これによるスタッフの満足度向上が、すなわち入居者の満足につながり、施設経営者の満足にも繋がる。ひいては社会全体の満足にも繋がっていくという、良循環を創出する仕組みとなっている。

 そんなコニカミノルタのセンサー(ハード)技術と、ウェルモのAI等ソフトウェア技術が連携することで、「科学的介護」の実践と介護現場の働き方改革の実現を目指していくという。

 先述した通り、ウェルモが開発を進めるCPAはケアプラン作成を支援するもの。全自動ではなく人による推敲の余白を残している部分がキモではあるが、一方でケアプランに即したサービス提供時の「客観的な効果測定」については、ケアマネジャー一人の視点ではどうしても限界がある。

 その点、コニカミノルタの提供するセンサーから取得した画像行動認識技術による効果計測を実施することで、利用者の行動をセンシングし、その結果を客観的データとともにCPAに戻して、その人のケアプランのブラッシュアップにつなげるという流れになる。

 ウェルモのAI・ICTサービスと、コニカミノルタの「画像IoT×オペレーション」によるコラボによって、「高齢者の自立」と「生産性向上」の2軸実現が期待されるというわけだ。

地域密着の強みを活かすあいおいニッセイ同和損保

 あいおいニッセイ同和損保との事業連携については、同社代表取締役副社長執行役員の黒田正実氏がお話しされた。

 同社の理念であり最大の特徴は「地域密着」とそのネットワークにあると言える。

 特に昨今では「地方創生の取組」を強化しており、復興支援といった地域社会への貢献活動や、介護事業者向けリスクマネジメントといった課題解決支援メニューの提供、共生社会実現に向けた支援といったまちの魅力向上支援メニュー等を展開しており、全国約250の地方公共団体との連携協定を締結している。

 この、同社が持つ強力な地域ネットワークを活用して、ウェルモが提供する介護システムの地域展開を加速させる。また、あいおいニッセイ同和損保としても、ウェルモが提供する介護システムの革新性と、同社の持つノウハウを組み合わせることで、より安心・安全な業界の発展を目指した新しい保険商品・サービスの研究開発を検討していくという。

 具体的には、同社は業界の中でも『特色ある個性豊かな会社』を目指すべく、国内初の運転挙動反映型テレマティクス自動車保険の開発や、先進的なデジタルプラットフォーマーとのオープンイノベーション等を進めている。

 特に後者について、様々な業界とのパートナー締結をしており、その中で介護業界について、今回ウェルモとアライアンス締結をしたというわけだ。

 ウェルモの持つ介護システムの革新性と、同社の持つ保険ノウハウを通じて、これまで以上に安心・安全な高齢化社会の実現を目指していくという。

ソーシャルインクルージョンカンパニーを目指して

 今回の事業戦略発表会では、そのほかの出資者からも、非常にポジティブなコメントが寄せられた。

株式会社グローバルキッズCOMPANY代表取締役社長 石橋宜忠氏

「ウェルモさんの事業の中でもUNICO事業について、実際に福岡の施設を訪問した中で子どもに対する療育の考え方や理念に共感し、出資を決めました。両社のノウハウを活かして、療育と保育の融合モデルを実現していきたいと思います。」

株式会社eumo代表取締役 新井和宏氏

「共感資本主義の実現を目指す弊社として、ウェルモさんの目指す世界やチームに魅力を感じ、弊社としては第一号の支援先として出資を決めました。一緒に企業価値を高めていく上で非常に大切なことは、お金による投資だけではなく人材育成にもあると考えているので、社員の人材育成の観点でも寄り添って参りたいと思います。」

LINE Ventures 木村正博氏

「弊社は『CLOSING THE DISTANCE』というミッションを掲げており、福祉を含むヘルスケア領域に強く関心を持っています。人と福祉の距離を縮めようとしているウェルモさんとの提携の可能性についても、今後積極的に話して参りたいと思います。」

 このように、多くの事業パートナーから応援されるウェルモは、今後介護領域に止まらず、食事・運動・金融等、あらゆる周辺領域とのサービス連携を図ることで、超高齢化社会に伴い多様化するニーズに応え、誰もが最適なサービスを受けられる社会の実現を目指すという。

 その事業体としての同社は「ソーシャルインクルージョンカンパニー」として、大きなプラットフォームを軸にビジネスを強化していく予定だ。

 

編集後記

昨年から継続的にウェルモさんを取材している身として、着々と事業体としてステップアップされていく姿に、会見場で一種、込み上げるものを感じました。

 

「愛」を堂々とビジョンに掲げる会社は我が国では珍しく、資本主義による拡大拡張追求社会の中で、ソーシャルベンチャーを営むことの難しさは、相当なものなのだろうと第三者ながら感じます。

 

今回のシリーズB資金調達と各社とのアライアンスが、愛ある社会実現への重要なステップであることを、LoveTech Mediaとしても大変嬉しく思います。

 

また、コニカミノルタ社とのアライアンスについても、これまでのCPAに画像評価データが加わることの意味は、果てしなく大きいと感じます。

 

一方で、この事業の対象施設は、大規模施設がメインターゲットとなることも事実でしょう。

 

ウェルモが従来よりリレーション構築している中小企業・小規模事業者へのセンシングアプローチについて鹿野様に質問すると、「今しっかりと準備しているので、楽しみにしていてください!おそらく今年中に発表できると思います」とのことでした。

 

引き続き、ウェルモさんの事業展開に期待しましょう。

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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