世界初、“明かり”を灯したダイアログ・イン・ザ・ダーク。東京・竹芝に新施設「対話の森」オープン

イベントレポート

 真っ暗闇のエンターテイメントを体感されたことはあるだろうか?

 ここでいう“真っ暗闇”とは、まさに一切の光が入らない空間のこと。夜眠るときに電気を消すと、時間が経つにつれ段々と目が慣れて部屋の中が見渡せるようになると思うが、そうではなく、1日中過ごしても視覚が何かを捉えることはない環境だ案外そのような場に身を置いたことはないのではないだろうか。

 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、完全に光を閉ざした“純度100%の暗闇”で行われるソーシャルエンターテイメント。普段から視覚を使わない視覚障害者が特別なトレーニングを積み重ね、ダイアログのアテンドとなり、参加者を完全なる漆黒の暗闇へ案内する“異体験”である。

 1989年、ドイツの哲学博士 アンドレアス・ハイネッケ氏が発案した本取り組みは、これまで世界50カ国以上で開催され、800万人を超える人々が体験。日本でも1999年11月の初開催以降、これまで23万人以上が実際に足を運んでおり、暗闇でのコミュニケーションを通して人と人との関わりや対話(ダイアログ)の大切さ、五感の豊かさを体感してきた。

 そんなダイアログ・イン・ザ・ダークを運営する一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、2020年8月23日、ダイバーシティを体感できる日本初のダイアログ・ミュージアム「対話の森」をオープンした。

 いったいどのような施設なのか。

 本記事では、ミュージアムオープン当日に行われた記者会見の様子と、実際に当メディアスタッフが体験したプログラムの様子を、前後編に分けてお届けする。

各々の想い溢れる「対話の森」オープン

 「対話の森」は、東京・竹芝という水辺に隣接する豊かな立地環境を生かした複合施設「WATERS takeshiba」の一角に設けられている。

 そこで提供されるソーシャル・エンターテイメント・プログラムは三つ。

21年間日本で開催されてきた「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と、聴覚障害者がアテンドとなる静けさの中の対話「ダイアログ・イン・サイレンス」、そして70歳以上のアテンドと歳を重ねることについて考え、世代を超えて生き方について対話する「ダイアログ・ウィズ・タイム」(※)だ。世界中でこの3つのエンターテイメントを同時に体験できるのは、ドイツ、イスラエルに次いで3番目となる。

※「ダイアログ・ウィズ・タイム」のみ、ミュージアム開設当初ではなく2021年開催予定

 また、現在のコロナ禍の特別プログラムとして、ダイアログ・イン・ザ・ダークの代わりに、暗闇に明かりをはじめて灯した「ダイアログ・イン・ザ・ライト」を提供。三密を回避しつつ、ダイバーシティを体感するダイアログを世界で初めて構築した。

画像出典:「対話の森」公式ページより

 施設オープン当日は、ダイアログの関係者だけでなく、アンバサダーであるエッセイスト・タレントの小島慶子氏と作家の乙武洋匡氏をはじめ、ジャーナリストの伊藤詩織氏、協賛企業の代表者など「対話の森」を応援するさまざまな著名人が会場にかけつけた。また、ダイアログの生みの親であるアンドレアス・ハイネッケ氏がドイツからオンラインで参加するなど、オンライン上も多くの参加者で賑わった。

「こんにちは」の手話をしながら記念撮影

写真後方右:「ダイアログ・イン・サイレンス」アテンドの松森果林氏。人の笑顔がみえづらい、人の笑い声が聞こえづらい、人と人の距離がある社会だからこそ、ダイアログは必要なソーシャルエンターテイメント。マスクからはみ出るくらいの笑顔をつくりましょうと意気込む

写真前方左:エッセイスト・タレントの小島慶子氏。10年以上前に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験したとき、視覚障害者の疑似体験イベントだと思っていたがまるで違い、自分が日常生活でいかに十分な情報を受け取れていなかったか衝撃を受けたと告白。TBSアナウンサー時代に、TBS管轄の施設でダイアログの常設を志すも実現しなかった経緯もあり、今回の常設が叶って良かったと、記者会見で涙ぐむシーンも

作家の乙武洋匡氏。マスクをせず登壇した理由として「身体の面積が少ないため、鼻と口を塞いでしまうと熱の放出ができず、熱中症のリスクが高まるため、夏場は特にマスクの使用ができない」と説明。そのことを例に、人間の想像力の限界について話す。身体障害者の方と出会い「段差は不便だろうな」「お風呂やトイレが大変だろうな」までは想像ができたとしても、障害が理由でマスクができない人の状況を想像することはなかなかできない。やはり対話は必要なのだと説く

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、社会変化の加速をつけるための触媒

ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン 代表 志村真介氏

 日本でのダイアログ・イン・ザ・ダークを主導する志村真介氏も、今回の「対話の森」オープンに向けての思いを語った。

志村氏:「ダイアログ・イン・ザ・ダークは、社会変化の加速をつけるための触媒として、遊び、楽しみながら、社会課題を解決していくソーシャルエンターテイメントです。

現在、コロナがあって、どうも社会は元に戻ってきたような気配がするわけですが、私たちは「○○だから・・・」という色々なネガティブな表現ではなく、「○○だから・・・、こそ」という、この人だからこそできる仕事を、ここで毎日やっていこうと思っています。

10年後の2030年に、誰も取り残さない社会の実現に向けて、ここダイアログミュージアム「対話の森」からスタートし、子ども達の自己肯定感が向上して一生の財産になることを願っています。

 志村氏は、自分の人生よりも長いかもしれないプロジェクトに取り組むためには次世代の育成が必要と考え、2019年6月に、ダイアログのアテンドを養成するスクールも開校している。

 社会が不安定になると、脆弱な状態にある障害者は蚊帳の外に追い出される。「本当は、彼らだからこその深い経験と生きる術を持ち合わせているのに」という主催者の声に、このイベントを一度でも体験したことがある人は大きく頷くのではないか。視覚以外の五感をフル活用し、前へ進む力、人と知り合い関係性を深める力はまさに圧巻で、特別なサポートを必要とするはずの障害を持っている方から全面的にサポートをしてもらう体験は、障害者は社会的弱者であるという認識を取り払い、彼らが持つ感性やスキルに、感動や尊敬の念を感じずにはいられなくなるからだ。

順風満帆ではなかった開催までの長い道のり

 21年前に日本上陸を果たした「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、国内の参加人数のべ23万人という実績は、決して平坦な道の上に成り立っているわけではない。

 開催当初は視覚障害者が大勢集まり、リーダーシップをとって健常者を暗闇に案内するなど理解されず、また消防法といったレギュレーションの問題もあって、会場を借りることすらできなかったという。徐々に理解者が増えるも、世の中を揺るがす痛ましい事件や事故で社会が不安の渦に飲み込まれるたび、開催は白紙に戻り、「視覚障害者のアテンドが事件や事故に巻き込まれたら、自分たちの責任となるのでは」と懸念の声があがったそうだ。

 その後2009年にようやく、常設施設が外苑前に開所したものの、近年の物価や地価の上昇等を事由として、2017年にクローズ。

 以来、東京では一般体験ができる場所がなかったのだが、クラウドファンディングによる支援もあって、ついにミュージアムの開設が決まった。だが、新型コロナウイルス感染拡大の余波はここにも影響する。

 参加者が密になってしまう暗闇空間をどうデザインしなおせばよいのか。ダイアログのコンテンツ設計をする志村季世恵氏は、8月9日に放送されたJ-WAVE DIALOGUE RADIO IN THE DARKで次のようにコメントしている。

「2メートルのロープを使って暗闇で距離を取り、安全にマスクをして、ハグもせず、手もつながず個々に歩けば良いと思って、そのようなコンテンツをつくり、発表しようと思ったの。でもそれは、ダイアログの存続の為だけに考えられたコンテンツだと気がついたんだよね。社会や子どもたちの為に提供しているエンターテイメントと立ち返り、これまでイベントを体験してくれた人たちから『暗闇ってどうなっているのですか?』と聞かれていたことを思い出した。暗闇を本邦初公開すればいいんだ、と思ったの」

-志村季世恵氏コメントを部分抜粋

 実はダイアログ主催者の面々はもともと、最終的には「暗闇に頼らずに、見える世界でも対等なコミュニケーションができる社会」の実現を目指していたという。

 そこで同チームは、コロナ禍という試練を逆手にとって、知恵を絞り、世界で初めて「ダイアログ・イン・ザ・ライト」を発表。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に明かりを灯し、視覚的に見える中で旅するように人と出会い、人々の中に眠る五感の豊かさを再発見させてくれる体験を創出した。

 また、表情でのコミュニケーションが重んじられていた「ダイアログ・イン・サイレンス」を、マスク着用にした上でも対話ができるプログラムに仕立て上げ、いずれも期間限定で体験できる“未来のプログラム”としての提供を開始している。

世界で初めて明かりを灯した、「ダイアログ・イン・ザ・ライト」の様子

マスク着用をしながら対話をする、「ダイアログ・イン・サイレンス」の様子

コロナ禍だからこそ、異なる立場を知り、弱い部分を支えあう

 最後に、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが発行する「COVID-19感染拡大防止に伴う 視覚障害者・聴覚障害者が抱える困難に関する緊急アンケート」も紹介をしたい。

 視覚障害者、聴覚障碍者の6割以上が、コロナ禍によって「生活や外出面に不便がある」と回答、等のリサーチ結果が出ている。

・理由(視覚障害者):ガイドヘルパーや店員・周囲へのサポートの依頼や声かけを遠慮してしまう、感覚(ソーシャルディスタンス)が確認できないことへの不安。日ごろから触れて確認することが多いことによる感染対策の難しさや、免許を持たないことから通院などの移動手段の限界。マスクをすることによる感覚の鈍化など

・理由(聴覚障害者): マスク着用により口型や表情が読み取りづらくなりコミュニケーションが難しくなる、筆記用具の受け渡しから筆談を遠慮する、街頭や店内アナウンスなどが音声情報優位になっていることなど

 「三密が言われ出してからも、駅ホームなどで声をかけてくれ、誘導してくれる人がいる。」(視覚障害者)、「オンラインの時、UDトークを使ってもらえるように配慮をお願いしてるが全員がそのようにしてくれること」(聴覚障害者)等のコメントの紹介もあり、異なる立場がいる人を知り、弱い部分を支えあう実例も読み取ることができる。

※UDトーク:主に聴覚障害者とのコミュニケーションを、パソコンや携帯電話を使って行うためのソフトウェア。音声認識を使用して文章を入力し、認識間違いを手で修正する形でコミュニケーションをとることができる

 分断による閉塞感を痛感している今だからこそ、他者に目を向け、「対話」をし、支えあうことを始めるタイミング。

 今回オープンした「対話の森」の会場へ足を運べる人は、人と人の距離が遠くなりがちな今こそ、プログラムを体験してみてはどうだろうか。「対話の森」を支えるマンスリーサポートとして登録をすれば、オンラインコミュニティにも参加することができるようだ。

〇ダイアログ・ミュージアム「対話の森」チケット購入ページ
https://taiwanomori.dialogue.or.jp/  

〇ダイアログ・ミュージアム「対話の森」マンスリーサポーター/オンラインコミュニティ申し込みページ
https://taiwanomori.dialogue.or.jp/news/20200823news/

 

 経験に勝る学びはないだろう。後編では、実際に本邦初公開の「ダイアログ・イン・ザ・ライト」を体験した様子について、レポートする。

(文/百谷伶奈)

 

》後編記事につづく

 

ライター後記

新型コロナウイルスの世界的パンデミックによって、世界中が分断の一途にあります。国と国、社会も分断され、雇用、所得、医療などさまざまな形での格差がが生まれています。さらには「自分の国だけは」という保護主義的な考えも蔓延してきています。

 

しかし歴史を振り返ってもこのパンデミックは永遠に続くわけではなく、afterコロナの時代は必ず来ます。この先の時代を、より豊かで文化的なものにするためのひとつのソリューションを、「対話の森」は示してくれるでしょう。

 

世の中には色々な境遇の人、色々な見方をしている人がいることを知り、弱い部分を支えあうことがあたりまえの社会です。しかし自分とは異なる他者の立場や想いを想像するには限界があり、その想像力を補うためには対話が重要になってきます。まさに、会見で乙武氏がおっしゃったことです。視覚障害や聴覚障害など、制約があるなかでも、対話をする力を磨いてきたアテンドたちが私たちの対話力を鍛えてくれるはずです。

 

百谷伶奈

LoveTech Mediaライター。大企業~スタートアップの広報責任者まで、広報歴10年超。自身が妊娠・出産で苦労をしたこともあり、妊娠・出産・子育て領域...

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