令和元年10月19日(土)、“未来の自分についてちょっと真剣に考える”をコンセプトとしたイベント『ミライfes’2019 〜20 代女性のリアル〜』が、東京・有楽町にて開催された。
主催は、妊活コンシェルジュサービス『famione』等を展開する株式会社ファミワン。世界一の不妊大国とも言われる我が国において、妊活に取り組む一人ひとりに対し、中立的な立場で寄り添い続ける新進気鋭のスタートアップである。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/famione20180626/”]当日は、主に20代女子を対象にした、カラダ・恋愛・キャリアそれぞれの専門家によるセミナーおよびパネルディスカッションが展開され、未来に向けた“気づき”の風穴を開けるきっかけが提供された。
LoveTech Mediaでは「正しい身体知識のキャッチアップ」と「人生の先輩方による叡智とアドバイス」という2本軸で、それぞれ前後編に渡って当日の様子をお伝えする。
まず前編では、第1部「大人の保健室」セッションの様子をお伝えする。月経の仕組みからOC/LEPの有効性、子宮内膜症、子宮頸がん、性感染症、そして避妊の選択肢まで、大人になったからこそ知っておきたい女性の身体の仕組みや知識について、1時間という限られた時間の中で、非常に多岐にわたるテーマのポイントが解説された。
なるべく漏れのないようにレポートした結果、とても長い記事となったので、時間のない方は、目次で興味のある部分だけでもご覧になってみていただきたい。
「病気を抱えて生きる期間」をいかに短くするか
第1部登壇者は、一般社団法人 日本家族計画協会 理事長であり、家族計画研究センター 所長でもある北村邦夫氏。長年にわたって女性の健康、とりわけ人工中絶の防止、性感染症の予防などに取り組み、性教育セミナーを全国各地で実施している産婦人科の先生だ。
北村邦夫氏(一般社団法人 日本家族計画協会 理事長/家族計画研究センター 所長/産婦人科医)
今年10月に、緊急避妊薬を処方している医療機関をスマホ位置情報ベースで探せるウェブサイト「緊急避妊薬・低用量ピル 処方施設検索システム」を公開し、話題となっている人物でもある。
(一般社団法人 日本家族計画協会 市谷クリニックより)
「突然ですが質問です。平均寿命と健康寿命の差、いわゆる『病気を抱えて生きる期間』は、男性の方が女性より長い。YesかNoか?」
こう始めた北村氏。
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答えは「No」である。
2018年の厚労省データによると、日本女性の平均寿命は87.32歳で世界第2位、日本男性の平均寿命は81.25歳で世界第3位という状況である。一方で、それぞれの健康寿命について確認すると、以下の図の通りとなる。
つまり、女性の方が平均寿命が長いと同時に、病気を抱えて生きる期間も、また長いのである。
「この『病気を抱えて生きる期間』をいかに短くするか。これが僕たちの使命であり、今日の大きなテーマでもあります。細かくは、以下の4つとなります。一つずつ見ていきましょう。」
月経のしくみと、関連した医学的障害
ここでまた質問だ。
「女性の排卵は月経の2週間ほど後に起こる。YesかNoか?」
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答えは「No」だと言う。もし間違った方がいるとすれば、ここから下をよく読んでもらいたい。
以下が、月経周りにおける女性の性腺機能とホルモンの動きだ。
「少々難しい話になりますが、視床下部から下垂体にホルモンが流れており、そして下垂体からは、卵胞を刺激するホルモン(卵胞刺激ホルモン、以下FSH)と、排卵を促すようなホルモン(黄体化ホルモン、以下LH)が流れています。実はこういう仕組みが女性の身体の中で、日々作られています。」
月経のリズムは、このFSHやLHの分泌から生まれる。これらが高まることで卵巣に作用し、卵胞が発育し、エストロゲン、いわゆる女性ホルモンも併せて分泌され、高まりを見せていく。卵胞が十分に発育したと身体が判断すると、LH濃度が急激に高くなって(最上図の青い折れ線グラフ)、卵子が成熟し排卵が起こることとなる。
排卵が起きると卵胞は「黄体」というものを形成し、黄体ホルモン(プロゲステロン)とエストロゲン、それぞれが分泌され高まっていく。一方で血中の濃度は下がっていくので、ここで「月経」が起こるというわけだ。
つまり、先ほどの質問の答えとしては、「女性の排卵は月経の2週間ほど後に起こる」のではなく、「月経があったと言うことは、概ね2週間前あたりに排卵があった」と言うこと、つまりは「排卵の結果として妊娠が起こらなければ、月経が起こる」とう順番なのだ。
月経があったわかりやすい現象がこちら。
この現象の2週間後に排卵があるから注意しようね、と言うのであれば、わかりやすく避妊できそうなものだが、そうではなく、月経があったということが妊娠してなかったと言う証であり、その 2週間ほど前に排卵があったという証拠でもあると言える。
「こう考えると、本当に妊娠を回避するのは至難の技である、と言うことを、ぜひ皆さんの世代には知ってもらいたいと思います。」
また、この月経に関わる健康問題についても提示された。
最近認知が広がってきている月経前症候群(PMS)は月経のある女性の3〜5%、月経困難症は約30%、子宮筋腫に至っては、生殖年齢女性の約20%〜50%がかかると言われている。
また、一つの指標として、月経困難症が女性の就労に与える経済損失は、約1兆円にも上るとの試算も出されていると言う。(平成12年度厚生科学研究「リプロダクティブヘルスからみた子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究」より)
「皆様の月経痛を和らげることができたら、約1兆円の経済損失を免れることができる。そんなことを思いながら、私たちは日々患者さんと向き合ってもいるわけです。」
毎月の月経が健康のバロメーターだ、と言う認識は間違い
ここで、重要な質問が投げかけられた。
「概ね毎月、月経が繰り返されることが健康の証である。YesかNoか?」
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答えはなんと、「No」なのだと言う。学校で「月経は健康のバロメーターです」なんて教えられたような気もする中で、結構な衝撃である。
「昔の女性の月経回数は50回なのに対し、現代の女性は450回だと言われています。これがいかに、現代女性の健康と日常に影響を与えているか、と言うことを見ていきます。」
かつて南アフリカ狩猟生活民として活動していた「クン族」を考えてみると、妊娠出産授乳を繰り返していったら、生涯の間に数十回程度の排卵にとどまっていたと言われている。
昔の女性についても然りで、生涯の間で排卵は50回程度にとどまっており、それに付随して子どもを複数人出産していた。
一方、現代女性の合計特殊出生率(※)は1.43(2019年11月現在)とされており、その出産に対して、実に450回もの月経が起こっているという状況だ。
※合計特殊出生率:一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均
「私は決して『クン族が良い』と言いたいのではありません。あなたが社会人としてどのような選択を取るかと言うことは、当然のことながら自由です。
しかし、あなたや私が“動物性”を持っていると言うことも、これまた間違いない。
そんな中で、どういう生き方をするのか。
“動物性”を持つ者として、毎月月経があることは「不自然」で、毎月月経がないことが実は「自然」なのだ、と認識を持って頂くことができたのであれば、ぜひ、この問題をどう解決するかを一緒に考えてもらいたいのです。」
かつてヒポクラテスは、「月経とは健康のために体内の有害物を排出する現象である」と言っている。いや、言ってしまっているのだ。これによって、多くの医師や産婦人科医は、月経が毎月定期的にくることは「健康の証だ」と風潮することになった。
極端な例ではあるがヒンズー教のチャウパディ(※)などは、まさに「月経の不浄性認識」とも言うべきものに端を発する習慣と言える。これを悪習と考えるかどうかは、今ここでは議論しない。
※チャウパディ:月経中の女性は不浄であるとして、離れた小屋などに隔離し、軟禁する慣習のこと。ネパールでは古くから伝わるヒンズー教の慣習となっている
月経が多くの誤解を生んできた中で、女性たちは確実に、毎月の月経で苦しみ、それに耐えながら仕事や家事、育児等をやっているわけだ。
この状況を改善するための材料として、北村氏は「経口避妊薬(oral contraceptives、以下OC)」と「低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(low dose estrogen progestin、以下LEP)」を挙げる。(2つを示す場合は「OC/LEP」と記載)
上画像の通り、実に様々な女性ホルモン剤が提供されており、これらを上手に使うことで、女性が月経の時に抱える問題を解決に役立つという。
例えばOC、つまりはピルについて。こちらは「周期投与法」が一般的であり、1日1錠のホルモン剤を21錠飲んで、その後7日間休む、という流れを繰り返す。これにより、女性の定型的な28日周期を約束してくれるというわけだ。
ちなみに余談だが、このピルの開発は、産児制限運動の活動家であるマーガレット・サンガー(1879 – 1966)の功績が大きいと言えるだろう。このあたりの話については、北村氏の著書『ピル』(集英社新書, 2002)に詳述されているので、興味のある方は読んでみて頂きたい。
他にも、3日間出血が続いたら4日間休薬する「フレキシブル投与法」や、3周期連続で投与したのちに7日間休薬する「3周期連続投与法」、常に投与し続ける「連続投与法」と言ったLEP製剤の投与方法がある。
北村氏が講演で推していたのが、3周期連続投与法が採用される「ジェミーナ」というLEPだ。
「ジェミーナは28錠・28錠・21錠を連続で投与し、その後7日間休薬するという周期をとります。
例えば緊急避妊薬のノルレボ錠と比べると、ステロイドホルモンの含量が圧倒的に少ないことがお分かりいただけると思います。」
月経周期が短いほど、子宮内膜症発症リスクが増えるというデータも
先ほど「月経に関連した医学的な障害」について少し触れたが、現代女性に増えている「婦人科疾患」についても、もう少し詳しく解説がなされた。
例えば「子宮内膜症」。本来子宮の内腔にある内膜組織が、子宮以外の組織に発生してしまう病気である。
なぜこんなことが起きるのかというと、とどのつまりは「月経が繰り返されるから」である。
要は月経血逆流により、その中に含まれる子宮内膜組織が腹膜に移植され、組織が増殖し、炎症を起こして、癒着を作ることに起因する。
「もし仮に、子宮内膜が膣を通って外に出ることができず、逆流して卵巣の中に持ち込んでしまったら、月経のたびにそこで出血が起きる。こうなると、おそらく手術以外に取り出すことはできません。すなわち、放っておくと月経のたびに腫瘍を作っていきます。これをチョコレート嚢胞(のうほう)と言います。」
海外のデータであるが、上図の通り、月経周期が30〜34日での子宮内膜症発症リスクを「1」とした場合、25〜29週だと3.8倍、24週以下だと5倍という数値が出されている。つまり、月経の回数が多く、周期の日数が短いということは、結果として子宮内膜症の発症リスクを上げていることになるわけだ。
こういった、女性特有の疾患や、月経に伴う症状や疾患に対して、先述のOCは有効であるという。OC未使用者を1.0とした場合、卵巣癌患者を8割も減らすことができるという数字が出てきているのだ。
また、例えば月経困難症についても、同じくOC未使用者を1.0とした場合、発症リスクが半分以下に落ちるという数値も出ている。
「日本で1999年6月に承認され、同年9月に発売された経口避妊薬、つまりはピル。世界に遅れること39年。日本で初めて話題になり、研究者による研究がスタートして以来、実に44年もかかって承認されました。
確実な避妊、苦痛の少ない月経、病気の悪化を防ぐ、そして安定した更年期。これらが、僕たちがOC/LEPにこだわる理由です。」
口は第2の性器。性感染症対策はコンドームだけでは不十分
もう一つ大事なテーマとして、北村氏は「梅毒」を挙げる。
梅毒トレポネーマ・パリダム(TP)という病原体によって起こるもので、主としてキスや性行為などで感染する。
梅毒の一般的経過としては、感染して9週までの第1期、9週〜3年までの第2期、感染後3年以上を第3期、そして感染後10~15年を第4期と呼ぶ。
第1期では初期硬結と硬性下疳(こうせいげかん)、第2期ではバラ疹や脱毛・航空咽頭粘膜班、そして第3期では結節性梅毒疹と言った症状が起こる。
厚生労働省による2000年〜2018年の集計報告によると、梅毒全数報告数は見ての通り、うなぎ登りに増えている。特に、10〜19歳に絞ってみてみると、女性の感染者数が圧倒的に増えていることがわかるだろう。
しかも、報告されるのは氷山の一角であって、診断されたが報告していなかったり、そもそも受診や検査をしていなかったり、もしくは症状がないケースもある。そう、第1期や第2期は、放っておくと症状が消えてしまうのである。だからこそ、見過ごしてしまうリスクも存在するわけだ。
「性感染症は何も性器だけではなく、口からも感染します。口は“第2の性器”とも言われています。だからこそ、コンドームだけでは防ぎきれません。コンドームは完璧ではないんです。
パートナーが変わったら、セックスする前にお互いの検査をする。これが、うちのクリニックの徹底したやり方です。常に啓発しています。
不特定多数の人とセックスしないで、最初から最後までコンドームをつけるようにする。フェラチオやクンニリングスなどのオーラルセックスでも感染することを認知し、この人は大丈夫と思い込まない。心配だったら積極的に検査を受け、感染していた場合は徹底治療する。
これを心がけるようにしてください。」
子宮頸がんで亡くなる方は、交通事故死亡者数と同等
さらに講座では、「子宮頸がん」についても言及がなされた。
そもそも子宮には、性格の全く違う2つのがんがある。「子宮頸がん」と「子宮体がん」だ。似たような名称であるが、全くの別物である。
子宮体がんは「子宮の奥」で起こるもので、女性ホルモンの関与が原因とされている。好発年齢は40〜60歳で、不正性器出血という初期症状で見つかることが多いものだ。
一方で子宮頸がんは「子宮の入り口」で起こるもので、原因がHPV(ヒトパピローマウイルス、HumanPapillomaVirus)とはっきりしている。好発年齢は30〜40歳で、初期症状がないため、罹患してるかがわかりにくい。また20代でも発症する可能性は十分あり、その発症率は年々増加傾向にあるという。
国立がん研究センターがん対策情報センターによると、20〜30代女性の子宮頸がん発症率は10万人あたり30.8人だったのが、2012年には63.5人にまで増えている。
そして、恋愛や結婚、出産という人生の大事な時期でもある30代前半に、子宮頸がんの発症年齢のピークが重なることとなる。
この子宮頸がん、1日に約10人が子宮頸がんで亡くなっており、その死亡者数は、我が国の交通事故死亡者数と同等となっている。多くの方は交通事故を起こさないよう十分注意することが常識となっているが、子宮頸がんについてはどうだろうか。このような事実を認知していない方が非常に多いだろう。
それにもかかわらず、日本は子宮頸がんの定期検診受診率が非常に低い。他の先進諸国と比較しても明らかだ。
「子宮頸がん検診で何が見つかるかというと、がん、もしくは前癌病変の状態が見つかります。それによって死は免れるかもしれませんが、場合によっては子宮全摘をしなければならない可能性もあります。
だからこそ、検診を受けることはもちろん大事ですが、それ以上にワクチン(※)による予防接種も大切だと考えています。これによって、感染そのものを防ぐという、一次予防ができます。」
※HPVワクチン詳細については、以下、厚生労働省や公益社団法人日本産科婦人科学会のWebページもご覧いただき、その効果や安全性等について十分に確認してください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
緊急避妊法は72時間以内に!
最後は「避妊」について。
上図の通り、避妊には様々な方法が存在しており、どれを使うかの選択には、以下のような理想条件を考えるべきだという。
- 確実な避妊ができる
- 使い方が簡単で、長期間にわたって使える
- 経費がかからない
- 副作用がなく、仮に妊娠しても胎児に悪影響が及ばない
- 性感を損ねない
- 男性の協力がなくても、女性が主体的に使える
ちなみに、我が国で実施された臨床試験成績からみると、低用量経口避妊薬の一年間の失敗率は、0.29%だったという。コンドームの失敗率は2〜18%、膣外射精が4〜22%であることに鑑みても、非常に低いと言えるだろう。
とはいえ、緊急避妊が必要なケースも、もちろん多くある。
ここで、最後の質問が出る。
「緊急避妊薬は性交後72時間以内に服用する。YesかNoか?」
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答えは「Yes」だ。
コンドームの破損や脱落、膣内残留のほか、避妊をしていなかったり、膣外射精、レイプといった様々な理由で、緊急避妊外来が受診されている。中でもレイプ被害については、犯罪被害者に対する医療支援事業の一環で、緊急避妊法は無料で提供されている。
性交後72時間以内に、ノルレボ錠、もしくはそのジェネリック医薬品といった、緊急避妊薬を服用するように処方される(正確には、性交後72時間以内に、1.5mgのレボノルゲストレル(LNG)錠を服用する)。
排卵日を「0」とした時間軸を横軸に、「妊娠の可能性」を縦軸にした際のグラフがこちら。排卵日以降は妊娠の可能性がないのでずっとゼロであるとして、精子は3〜5日くらい生きるので、こういう妊娠率になるという。
また、性交から緊急避妊薬服用までの時間と妊娠率を表したものがこちら。これをみても明らかな通り、早ければ早いほど良い、ということだ。
いずれにせよ、緊急避妊は“緊急の時”の対処法であって、大事なことは、そこから低用量経口避妊薬(EC)へと進めることである。それにより、数字上の妊娠確率も0.7%から0.29%へと大きく減らすことができる。
「妊娠は女性にしか起こり得ない現象です。どうか、避妊をコンドームだけの“男性任せ”にするのではなく、ご自身でもできることを始めてください。」
冒頭でも記載した通り、北村氏による緊急避妊薬および低用量経口避妊薬を処方してくれる施設を一覧検索できるサイトが以下となる。困った時は、こちらを参照していただきたい。
https://www.jfpa-clinic.org/s/
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/miraifes20191204/”]