急成長する東南アジア市場。現法責任者らが考える地域の魅力談義 〜WFFJ2021 Report5

イベントレポート

 2021年11月11日 〜12日にかけて開催された、世界最大級のFinTechイベント『World FinTech Festival Japan 2021』(以下、WFFJ2021)。シンガポールで毎年開催されている“Singapore FinTech Festival”を主流とするこちらのイベントでは、日本と世界のフィンテック情報の相互発信というテーマのもとで、様々な関連領域における最先端の情報発信と議論が行われた(開催概要についてはこちら)。

 レポート第5弾となる本記事では、「東南アジアと日本企業で創るイノベーションの極意」というテーマで設置されたセッションの様子をお伝えする。これからますます成長の加速が想定される東南アジア市場において、日本のフィンテック企業はどのような立ち居振る舞いをすれば良いのか。Sansan、SMBC、そしてシンガポールのAI企業・Sentient、それぞれで事業展開を担うメンバーから貴重なアドバイスがなされた。

 なおこちらのセッションは、アジア市場のテックトレンドを報じる英語メディア「KrASIA」のRegional Managerがモデレーターを担当している。現地事情に精通しているからこその視点でヒアリングがなされていった。ちなみに同グループは2018年より日本ブランチを設立しており、中国テック・スタートアップ専門メディア「36Kr Japan」を展開している。中国関連の動向を詳しく知りたい方は、こちらも要チェックだ。

  • エドワード・千住[Edward Senju](Sansan Regional CEO)
  • マヨラン・ラジェンドラ[Mayoran Rajendra](SMBC Senior Vice President , Head of Digital Solutions)
  • クリストファー・ヨー[Christopher Yeo](Sentient.io Pte Ltd, SingaporeFounder and CEO)
  • タン・スウィーエン[Swee En Tan](KrASIA Regional Manager)※モデレーター

※本セッションレポートは構成の関係で、発言の順序等を入れ替えて記述しています

デジタル適用のスピード感が非常に早い地域

--ここ数年、日本企業におけるシンガポールや東南アジアでの存在感が特に増していると感じるのですが、地域の魅力をどのように感じていますか?

ラジェンドラ:SMBCグループでは幅広い金融サービスを展開しておりまして、最近ではデジタルソリューションの構築にフォーカスしています。その中で、グループとしてはアジアにかなり重きを置いており、CDOが直々に「シンガポールをAPAC事業におけるハブにするように」とのことで、私のシンガポール移住を指示したと言う背景があります。

理由としては、やはりスピード感でしょう。当然ながら、SMBCは金融機関としてBtoB顧客とのやりとりがあるわけですが、デジタルテクノロジーやプラットフォーム適用のスピードは諸外国と比べて非常に早いと感じます。現に進出時にマーケット分析をしたところ、デジタルプラットフォームの展開については北米よりも3〜4ポイント高い数値が出ました。また、新しいテクノロジーもたくさん生まれていて、スタートアップも続々と活躍しているので、魅力的な地域だと感じています。

三井住友銀行株式会社シニアバイスプレジデントであり、同グループのデジタルソリューション事業責任者でもあるマヨラン・ラジェンドラ[Mayoran Rajendra]氏。現在の役職に就く前は、GEデジタル・ジャパン株式会社のCEO兼カントリーリーダーを務め、日本およびアジア太平洋地域の大手産業企業において様々なDXイニシアチブを主導してきた。

 

--具体的には、どのようなデジタルソリューションをBtoBで展開されているのですか?

ラジェンドラ:主に2つの柱にフォーカスしていまして、一つは組込型金融、もう一つはグリーンファイナンスです。

言わずもがなですが、私たちは毎日のようにECサービスを使って購買活動を行っていると思います。このようなシームレスな購買活動はBtoBでも同じように期待されているわけですが、サプライチェーンが大変複雑になっている一方で、それに求められる時間はどんどんと短縮化してきている状況です。サプライチェーン・マネジメント・プラットフォームなどでも、どんどんと短く管理されるようになってきているのですが、それでも紙運用のところは依然として多いと感じます。

だからこそ当行としては、APIを開放して小口取引をどんどんと短縮化するようにしています。まさに、組込型金融によって金融取引を「シームレス」にしているのです。もちろん当行としては非常に新しい分野での展開となるので、SMBC単独で実現するものではなく、ブロックチェーンスタートアップをはじめ多くの企業と協力して提供しようとしています。

--グリーンファイナンスの方はどうでしょうか?

ラジェンドラ:金融機関としてはグリーンローン(正式名称:SDGsグリーン/ソーシャル/サステナビリティローン)などを提供しています。企業としては、それを証明するようなデータを提出する必要があるわけでして、これは大変な負担になっています。よって、このような脱炭素に関わるプロセス領域を自動化するための支援を行っています。

※組込型金融については以下の記事もご参照いただきたい

各国市場へのローカライズ体制がポイント

Sansan株式会社のRegional CEOとして、シンガポールを拠点に、マレーシアやインドネシア、タイ、ベトナムなどのASEAN地域の事業開拓責任を担うエドワード・千住氏。同社では、名刺管理サービスの展開を強化することで、アジアでのビジネスプラットフォームの確立を目指している。

 

--Sansanは、創業9年目となる2015年にシンガポール現法(Sansan Global Pte. Ltd.)を設立されました。まずは地域としての魅力について教えてください。

千住:私達Sansanにとってシンガポールは、先ほどのSMBCさんと同様、ASEAN各国でビジネスをするための「ハブ」のような役割だと捉えています。たくさんの情報が集まってくる存在で、とても多様化しているからこそ、色々なところにチャンスがあると思っています。政府も新たなスタンダードを次々と発表しており、それに伴って新たなチャンスもどんどんと生まれている状況です。

--貴社の事業展開としてはいかがでしょうか?

千住:現在、51カ国で7,000件以上の顧客がいるのですが、まだまだこれからだと思っています。APAC全体で見たときに一つのポイントとして捉えているのは、メイドインジャパンを超えていく方法は何か、ということです。つまり、各市場へといかにローカライズしていくのか、ということです。

日本企業には、ソリューションをメイドインジャパンのままで別マーケットへと持っていく傾向があるのですが、私たちは法的な違い含めて各国にフィットするようにしていますし、そのために各マーケットごとの専属開発チームがいます。

ラジェンドラさんがおっしゃっていたことと通じるのですが、特にシンガポールでは適応するスピードがかなり早く、要求も非常に高いです。全部をすぐに用意して欲しいという要望も多いのでとても大変ですが、製品を磨くには非常に良い環境だと捉えています。

ラジェンドラ:インドのクライアントでは、何千もの取引をたった2時間でやって欲しい、という要望を言われたことがあります。とても驚きました。こういう要件は日本ではなかなかないでしょうから、改善のための環境という意味で非常に強力だと感じます。

AI・データプラットフォーム企業であるSentient.ioのファウンダーおよびCEOであるクリストファー・ヨー氏。同社の他にも、Credence Partners社(シンガポールに拠点を置くVC)のアドバイザーやCap Vista社(シンガポール国防省に設置された防衛科学技術庁の完全子会社)の取締役を務めている他、過去にはシンガポール国立大学が運営するインキュベーション事業「NUS Enterprise」において、AI技術を含めたソフトウェア技術の商業化に関する専門家としてアサインもされていた。

 

--ヨーさんが立ち上げたSentientでは、シンガポール企業として日本との関係構築によって成長されてきたと思うのですが、日本の投資家や企業の関心を集めるのにどう取り組んで来られましたか?

ヨー:Sentientという会社はAIプラットフォームを提供しております。日本企業の多くがAIソリューションに注目しているからこそ、一社の開拓からネットワーク的に広がっていきました。私の場合、日本企業とのお付き合いは名古屋の会社が最初だったのですが、そこからJETROや金融機関などからご紹介いただくようになり、ここ2年で非常に協力なクライアントネットワークを築くことができました。

--素晴らしいですね。

ヨー:日本企業は、ビジネスがスタートするまでは非常に長い道のりであることが多いのですが、一度プロジェクトが始まって無事に成功すると、そこからは末長く良い関係でお付き合いいただける。そんな特徴を感じています。まさに、弊社としてはエコシステムを築いていけたというわけです。

Santient提供のAIクラウドプラットフォームパッケージ「ai & data」の画面例(画像:Santientホームページより)。同社ではこの他にも、AI導入支援ソリューションである「ai co-lab」サービスや、ブロックチェーン技術を活用して企業間データ共有プラットフォームの構築を支援する「data alliance」サービスなどを提供している

 

日本企業は、日本以外の企業とも積極的に協力したいと思っている

--SMBCから見て、東南アジアでのBtoBデジタル化ソリューション展開における特徴や留意点などがあれば、教えてください。

ラジェンドラ:全体としてはBtoBtoCになるわけですが、たくさんの小口取引がそこに含まれています。だからこそ、クライアントはキャッシュマネジメントに大変慎重です。

日本市場を見てみると、マイナス金利だしファンドへのアクセスも十分にあって、且つ流動性も十分に保たれている国なので、小さくてスピーディーな取引が可能になっています。一方でASEAN諸国をみると、必ずしもそうではありません。先ほど組込型金融の話をしましたが、まさに多くの中小・零細企業が金融の最適化をしたがっている状況でして、非常に高いニーズがあると日々感じています。

またこのような中小・零細企業は、日本と比べるとAPAC地域は非常に多いと言え、だからこそキャッシュの取り扱いが大きな課題となっています。QRコードなどでの支払いが他の途上国よりも早く進展したのは、まさにそれが理由だと言えます。決済をデジタル化して、そのデータを使って会計処理をしていく。この動きが非常に早く広まったわけです。私たちとしては、試験的な地域だと考えています。

--なるほど。そんな皆様から見て、東南アジア市場の活況は今後どうなっていくと考えていますか?

ラジェンドラ:これからも引き続き成長していくと思いますよ。そのためにも、その国の企業としっかりと手を取り合って、パートナーとして事業展開をしていく姿勢が必要でしょう。

千住:先ほどお伝えしたように、国ごとにフィットさせてその国でしっかりと活動する。これが大きなトレンドになっている気がします。とはいえ、特にスタートアップについて言うと、コアとする事業をしっかりと忘れないことも大切です。軸をブラさないことで、パートナーも必然的に見つかってくるでしょう。未知との遭遇的なイノベーションだと思います。

--有難うございます。最後にヨーさんから、東南アジアに進出したい日本企業や、逆に日本に進出したい海外企業に対してのアドバイスをお願いします。

ヨー:私の方からは、主に後者について。日本で事業展開したい企業に対して言いたいのは、日本企業とは長い時間かけてしっかりとコンセンサスをとる必要がある、ということです。同時に数社のステークホルダーとも話をする必要があります。1社だけ見つけて成功するのは、期待しない方が良いでしょう。あと、日本企業の中には日本語しか喋れないメンバーだけのところも多いので、ぜひスタッフの中に日本人メンバーも入れるようにすると良いでしょう。

日本は日本ベンダーだけとしか活動しないという誤解があるようですが、そんなことはありません。日本以外の企業とも積極的に協力したいと思っています。だからこそ、クオリティと信頼こそが大切だと思いますよ。

 

World Fintech Festival Japan 2021レポートシリーズ by LoveTech Media

Report1. Web3.0に向けて、Stake Technologies渡辺氏が”日本人として”目指すこと

Report2-前編. BaaS、ことら、OIDC4IDA等。有識者が語るAPIエコノミーの現在地

Report2-後編. APIエコノミーで問われる「標準」との付き合い方とは

Report3. 金融包摂(Financial Inclusion)の観点で考える、APIの未来

Report4. Trusted Webタスクフォースメンバーが語る、新たな「トラスト」の仕組み

Report5. 急成長する東南アジア市場。現法責任者らが考える地域の魅力談義

Report6. シンガポール政府Chief Fintech Officerと考える、日本の強みと課題

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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