新型コロナウイルス感染拡大に伴う長い自粛生活の中。子育て世帯にとっては、毎日が葛藤の連続であるに違いない。緊急事態宣言が解除になったとは言え、学校はもとより、まだ利用できない施設も多く、親子共に家の中で過ごす時間が圧倒的に多いことから、ストレスも着実に溜まっていることだろう。
「いつになったら普通の生活に戻れるのか?」
「どうやって子どもと向き合ったらいいのか?」
「学校に頼れない今、どんな姿勢で教育と向き合えば良いのか?」
そんな保護者の悩みに寄り添う、いや、エナジャイズするような場が、2020年5月29日に設けられた。
題して「オンライン大保護者会」。「コロナ時代の子育てて本当に大切なこと」というテーマのもと、STEAM教育や探求学習の実践など、教育業界のトップランナー5名がオンラインで集結し、YouTubeにてライブ討論を行った。2時間という長時間にも関わらず、リアルタイムで約2,000名が参加し、記事執筆時点で動画再生数は12,000回を超えていた。
トークテーマとしては以下4点。
- 親の子育て感はどう変わった?
- オンライン化に取り組んで見えたこと
- オンライン学習と学校、どうブレンドする?
- これからの子育てで大切なこと
子育てや教育に悩んでいるという保護者の方は、ぜひご覧いただきたい。
http://onlinehogosha.mystrikingly.com/
<登壇者>※画像左から
- 重見彰則氏(ロボ団 団長/株式会社エディオン 教育事業統括部長)
- 宝槻泰伸氏(探究学舎 代表)※モデレーターを兼務
- 高濱正伸氏(花まる学習会 代表)
- 矢萩邦彦氏(知窓学舎 塾長/実践教育ジャーナリスト)
- 讃井康智氏(ライフイズテック株式会社 取締役)
※記事中の表現等は、実際の発言を文章ライクに修正しております
親の子育て感はどう変わった?
まずは、コロナ禍における「親の子育て感」の変化について。花まる学習会の高濱氏によると、家族というユニットが特に大切な今、夫婦の「壁」が大きな問題になっているという。
花まる学習会 代表 高濱正伸氏
高濱氏:「 まず大前提として、子育ては、ユニットである“家庭”が安定しないとうまくいかないというのが、私が30年やってきた中での絶対的な結論です。
共働き前提で、お母さんがニコニコしていて、前向きで、輝いていられれば、育つ子は育つんです。お母さんがホッとした感があると、あらゆる傷は癒える。
でも今のコロナ禍で、そこがひどく傷んでいます。
日頃から言いたいことを伝え合えている夫婦は、この状況下でむしろ結束しているのですが、この人に言ってもしょうがないって状態だと、一気に爆発して殺伐としてきている。
この夫婦の大きな壁が、最大の問題になっていると感じます。」
これを前提に、これからの心持ちとして「常に最悪の状態に備える心持ち」でいることが大人の見識だと、高濱氏は述べた。
高濱氏:「2年も3年も続く可能性あると、こういう前提で大人は、心構えや仕組みづくりをしなければならないです。
その時、一番大事なのは「つながる」ということ。今回のイベントみたいに、みんなで知見をシェアする。そこで、他の人も同じく心配なんだな、と思うだけでも安心するものです。」
また同じ状況下であったとしても、「ないもの」に不満を出すのではなく、「あるもの」に目を向けることが大切だと、高濱氏は続ける。
高濱氏:「今まで街にいたけど、難破して無人島に流されたとします。無人島には、せいぜい井戸と廃校くらいしかない。
ここで何を思うかですよ。
何もないよりマシじゃん、水があるって最高じゃん、島だから魚も獲れるし、みんなで頑張っていこうぜ!とポジティブになるか。それとも、街だったら何でも揃ってて最高なのに、冗談じゃないよ、となるか。ネガティブな人が一人でもユニットにいると、めちゃくちゃになっちゃうんですよね。
「あるもの」をきちんと直視することで、子どもの寝顔がカワイイとか、毎日楽しく遊んでくれてるとか、本当の幸せみたいなものに気づき始めるんです。」
5社それぞれが進める「学びのオンライン化」
このような状況下において、教育事業者はどのような形で授業の「オンライン化」を進めているのか。次に、登壇各社の取り組み内容が紹介された。
インプット・アウトプット・コミュニティ・メディアの循環(by. 探究学舎)
子どもたちが「好きなこと」「やりたいこと」を見つけることができるよう、一人ひとりの“探究心”に火をつける興味開発型のコンテンツを展開しているのが探究学舎だ。
その驚きと感動のタネをまくコンセプトは、オンラインになっても変わらない。同社では「オンライン探究」と題して、インプット・アウトプット・コミュニティ・メディアの循環をオンライン上でぐるぐると回している。
具体的には、ただ一方通行の授業を配信するのではなく、クイズアプリを活用するなどして、双方向コミュニケーションを取る仕組みを採用。「マイ探究」と呼ばれる、自分なりの問いに自分なりのやり方で探求する取り組みを通じて、インプットした情報から実際のアウトプットを出すことが重視されている。
また「部活動」と呼ばれる、同じ「好き」をもつ仲間と集うオンラインサークルの場も用意されており、そこではお互いのアウトプットを承認し合うという“あたたかい文化”が醸成されている。
そして子ども達の作ったアウトプット物は、「探究ラジオ」と呼ばれるYouTube上の公開コミュニティメディアにて、生配信で発表する機会も作られている。こちらは一般視聴が可能なので、ぜひご覧いただきたい(例えば、ピアノの生配信が発表された回はこちら)。
探究学舎 代表 宝槻泰伸氏
宝槻氏:「要するに、画面を見て先生の授業をただ見てるだけじゃないんですよ。オンラインの可能性は。
色んなことをやってみる。興味のあることをやってみる。このアウトプットがオンラインでもすごい重要だと気づきました。いや、子ども達に“気づかされ”ました。」
オンラインでも、ライバルはディズニーランド(by. ライフイズテック)
中学生・高校生向けのプログラミング教育サービス事業を手がけているのがライフイズテック株式会社。2011年創業から数えて延べ46,000人以上が参加しており、最近では自治体の場においても積極的にサービス展開している、プログラミング教育サービスの雄である。
(参考記事:2019年、高知県での取り組みの様子)
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20190611kochiitcontents/#_by”]中でも人気なのが、夏や冬などの長期休み中に開催される「ITキャンプ」だ。これは4日間でプログラミングやデジタルアートを学べる短期集中プログラム。学習意欲を駆り立てるエンタメ要素たっぷりの独自カリキュラムを通じて、「好きを形にする力」や「未来の選択肢」の拡張を提供している。筆者も昨年度のキャンプにメディアとして参加したが、まるで“良質な漫才”や“シルク・ドゥ・ソレイユ”を見ているかのような、エンタメ要素満載の場、まさに「EduTainment(エデュテイメント、Education × Entertainment)」を追求した空間となっていた。
今年は、このITキャンプのオンライン開催にもチャレンジ。対面式と同様、グループごとに“メンター”と呼ばれる大学生インストラクターがつき、一人ひとりの経験値や理解度にあわせてサポートするため、初⼼者・経験者を問わず安⼼して参加できるように工夫されているという。
ライフイズテック株式会社 取締役 讃井康智氏
讃井氏:「取り組みを通じて感じていることは、オンラインかリアルか、どちらかだけ取るのはやめようよ、ということです。それぞれの良さがあるわけで、一番大事なのは、子ども達の学習体験にとって最も良いものは何かを考えることです。僕たちはこれをLX(Learning eXperience)と呼んでいます。
その上で意識しているのは“楽しさ”、つまりは“エンタメ”です。創業からずっと、ライバルはディズニーランドだと思っているので、それよりも楽しい体験提供を求めていきたいと思います。」
行動するものにちゃんと持っていく(by. 花まる学習会)
幼稚園児~小学生を対象に、将来「メシが食える大人」「魅力的な人」を育てることに軸をおいた学習塾を展開しているのが花まる学習会(運営会社は株式会社こうゆう)。思考力・国語力・野外体験の3本を柱に、実に30年以上前から、社会で必要となる“実学”に即した本質的な学びを提唱し実践している、「二歩先の学びの老舗」とも言える存在だ。本イベントでは、代表の高濱氏が「ヨーダ」(※)と呼ばれていた。
※映画「スターウォーズ」シリーズにおける最高齢群のメンターキャラクター
そんな花まる学習会でも、コロナ禍の早い段階からオンライン授業の取り組みをスタート。「まいにち花まる」と「花まるスタディルーム」というネット上の学び空間を作り上げている。
「まいにち花まる」は、花まるの先生と一緒に毎日の「できた!」を実感するために設けられている、10〜15分のオンラインレッスンだ。毎週火〜土曜、コツコツと取り組むことで学習習慣の定着を図りながら、学習の土台を固めていく。
また「花まるスタディルーム」は、教室長や同じクラスの仲間達とコミュニケーションを取りながら学習を進める、インタラクティブ性の高いオンラインレッスン。例えば「おうちの中にある○○を探そう」レッスンでは、家の中の様々なモノを探すミッションを子ども達に与えるなど、画面越しで実際に行動させるための工夫がなされている。
高濱氏:「オンラインだからいいことって、いっぱいあるんですよね。例えばみんな最前列に座った感じになるとか、お母さん方に楽しそうなところを直接見てもらえるとか。
やってみた気づきとして、オンラインで大事なのは大きく3つ。授業はしっかりと見せる、コミュニケーションを取る、そして行動するものにちゃんと持っていくこと、です。
オンラインの玄人がいない中、「俺たちがやるしかない」精神で、ありものを使って短期間で作っていきました。学校でできない理由がわからないです。」
教育者である我々が、実は勝手に天井を作っちゃっていた(by. ロボ団)
主に小学生向けに、ロボット制作とプログラミング教室を運営しているのがロボ団。国内外で120以上の教室を展開しており、「理数 × 好き = やりきる力」というビジョンの方程式を軸に、学びの場を提供している。ロボ団の「団(ダン)」には、団結や団体の他に、“done.”(やりきった)の意味も含まれており、ものごとを最後までやりきる力を、これからのグローバル人材に必要不可欠な素養と位置づけている。
ロボ団ではもともと、教室という完全オフラインの場で学びを提供していたのだが、今回のコロナ禍をきっかけに、思い切って「ロボ団オンライン」というオンラインコンテンツの提供を開始。様々な映像授業とホームルームという2種類のコンテンツを用意し、エデュテイメント×グループワークというコンセプトの元、インタラクティブな学びを設計している。
また、自宅に実物のロボットキットがない子どもに向けては、「つくロボ」というサービスを5月に開始。通常18,700円するキットを、希望する生徒一人につき一台、無償でプレゼントしてくれるという。なんとも太っ腹な企画だ。
ロボ団 団長/株式会社エディオン 教育事業統括部長 重見彰則氏
重見氏:「オンラインは正直、相当躊躇しました。ずっとできないって、思い込んでいたんです。休講の意思決定もできたのですが、僕たちの中で〜Never Stop Learning〜を合言葉に、一週間くらいで、走りながらオンライン講座を作っていきました。教育者である我々が、実は勝手に天井を作っちゃっていたというのが、今回の気づきと反省、そして大きな可能性だと感じています。
今、1,700人くらいの子ども達が参加してくれています。」
オンライン授業は、参加の意義を見つけやすい(by. 知窓学舎)
知窓学舎 塾長/実践教育ジャーナリスト 矢萩邦彦氏
「受験指導 × 探究型学習」をコンセプトにした統合型学習塾が「知窓学舎」。塾長の矢萩邦彦氏は、1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア × プレイングマネージャー」としてのキャリアを積んできた人物である。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに、現在は実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラーとしての活動もしている。
そんな矢萩氏がこれまで進めてきた探究的学びのモデルがこちら。
2000年代初頭から同氏が取り組んできたインターネットラジオでの経験をオフライン授業に活かし、ペンネームを使っての発言システムを取り入れることで、今まで話さなかった子どもが積極的に発言するようになる、といった現象が確認されていた。よって今回のコロナ禍においては、その手法をそのままストレートにネット空間に戻し、ラジオの生放送形式の授業を進めているという。
わかりやすい例としては、以下のニュースについて考えるケース。
試しに本イベントで、オンライン上の参加者に回答をお願いすると、「ぬりかべ」「塩」「発泡スチロール」「豆腐」「マット」など、様々な答えが次々とチャット上に流れてきた。
矢萩氏:「オンラインだと、このようにスピード感があるのと、“ログの流れなさ”も特徴としてあるんです。つまり、ちょっと声の小さい子が発言した時に、リアルの教室だと誰も聞き取れなくて流れちゃうことがあるのですが、チャットだと、どの子の意見も追えば全部見れるんです。「ここに参加している」という意義を見つけやすいんです。」
ちなみに答えをいうと、この画像は「NASAが南極で謎の四角い表彰を発見した」というニュースのもの。つまりこれは、NASAでもわからない、答えのない問いというわけだ。
矢萩氏:「僕もわからないので一緒に考えましょう、というスタイルが、今後の教育では非常に重要になると思います。」
なぜ、受験業界はオンライン化に成功できていないのか
ここまで見てきた通り、学びのオンライン化には「インプット」のみならず、「アウトプット」と「コミュニティ」の要素も非常に大切なことがわかった。
一方で、受験産業に軸を置く学習塾等においては、成功していないところが圧倒的に多い印象である。何故なのか。これについて、矢萩氏が鋭く解説した。
矢萩氏:「そもそも、一問一答の答えを出す先生というロールをずっと演じてきた人たちなんです。それが一番いいと思っているし、それ以外をあまりやったことがない。
従来型の学びをやってる先生方の大半は、従来型の学びにすごく意味を感じています。なぜならば、自分が仕事で従来型の学びで得たものを使っているから。だから、社会に出てから役に立つって、本当に思っています。もちろん、これはこれで大切なことです。
だけど、それって教育業界の中だけの話であって、外の世界で「食っていく力」になるかというと、決してそうではないと。
まさにこの“ズレ”が、今回のコロナで噴出したというのが根本にあると思います。」
当事者であれば納得だろうが、受験、特に中学受験や大学受験の場合、授業は圧倒的にクローズドで行われている。何故見せられないかというと、様々な要因があるわけだが、一番は生徒・先生ともに授業が“苦痛”になってしまっていることがあげられる。ほとんどの場合、”知識詰め込み型”の一方向授業が展開されているので、生徒にとってはずっと座っているだけの時間がとにかく苦痛であり、またそんな状況下でもロールを淡々とこなす必要がある先生もメンタル的にきついのが、正直なところと言える。つまり、そもそもの構造部分に欠陥があるというわけだ。
矢萩氏:「意味というものが生きる上ですごく大事だとした場合、意味をどういう風に持つのかということをどう与えるかというのが、教育の中ですごく重要だと言えます。
これまで受験業界の意味は「いいところに受かれば、いいところに就職できる」というような話だったのですが、それが崩れた今、意味がすごく誤魔化されています。
誤魔化されている中で、現場の先生は腑に落ちていないことをやっている。そんな授業は、生徒達にとっても苦痛なはず。
これが、オンライン化でオープンにできない要因の一つになっていると考えます。オンライン化すると、毎日が授業参観状態になりますからね。」
インターネットネイティブな子ども達の可能性を、ちゃんと引き出す教育をやろうよ!
オンライン学習が得意な事業者が次々と出てくる一方で、上述の通り、なるべくオープンにしたくない受験業界や学校という場も、しばらくは続く可能性が高い。でも保護者としては、学校もオンラインサービスも習い事も大事なところ。実際、どうやってブレンドすれば良いのだろうか?
宝槻氏(探究学舎):「子どもがすごく面白いことを言っていました。「オンライン学習楽しいけど、やっぱり教育も欲しい」。要するに、全部自分で組み立てるオンライン学習体験だけだと、正直しんどいと。やっぱり学校に行って時間割があって、先生に教育されるということも、実は楽だと。小学生でも気づいているんですよね。
本人もポートフォリオを組んでいきたいんだろうし、保護者も学校と習い事を上手に組み合わせたいと思っているんでしょう。」
高濱氏(花まる学習会): 「俺に言わせると、どこかで群れがキャーキャー言ってると、子どもは絶対にそっちにいくんですよ。騒ぎがあるところに行きたくなるんです。動物の本能でね。
つまり、仲間の動物が集まっているところに行きたい、というのが言いたいことの本質であって、習うこと自体はオンラインでできちゃうんです。
だから、学校側の本質は何かを再定義すればいいと思いますね。
結論として僕は、学校の先生は「結果に責任を持つ人」に変わればいいと思っています。時間数ばかり意識しないで。
授業は集まることの価値に特化して、社会やモラルを学ぶ場にすればいい。無駄な部分は、思い直すべきだと思います。」
讃井氏(ライフイズテック):「この議論の大前提として、今の子ども達はデジタルネイティブどころか「インターネットネイティブ」なので、その子ども達の時代に合わせた学力感やテストにしなきゃダメだよね、と思っています。
考えてみてください。みんな知りたいことがあったらググるでしょ?なんで子ども達だけ、Googleを禁止されて、覚え続けなきゃいけないのか。マジで意味不明なんですよ。
インターネットネイティブじゃない大人が、自分の経験の中でやっているからなんです。でもそうじゃなくて、インターネットネイティブの子ども達は自分で色々と調べることができます。
その子たちの可能性を、ちゃんと引き出す教育をやろうよ、ということです。そこに低い天井をつけてるのは大人、特にそういうことに対応していない学校ですよ。」
宝槻氏:「学校のインターネットネイティブ教育に10年かかるとしたら、どうするの?」
讃井氏:「まず学校の中で格差がついているので、学校選びの一つの観点として、インターネットネイティブの教育方針になっているかを絶対に考えたほうがいいです。
もう一つ、学校がどうしようもないとなったら、家からオンラインを使うなど、学外の可能性を伸ばす教育をやっているところを選ぶのが大事だと思います。」
重見氏(ロボ団):「これまで散々言われている通り、オンラインとオフラインのハイブリッドがいいと思います。
その上で、何を学校に求めるのか。学校はオフラインの場なので、人とのぬくもりなど、オフラインに特化したものに価値を見出していくのが一番良いと思います。
ここで「プログラミング学習をやれ」だったり「探究学習を頑張れ」と言った、先生に無理難題を押し付けても、正直無理だと思います。」
宝槻氏:「9時〜15時まで学校でアフタースクールで習い事というのも、もしかしたらBeforeコロナの慣習でしかなくて、例えば「選択的登校」というのをやってもいいと思うんですよ。
文化祭や運動会はオンラインじゃできないわけで、そのための集団での協働とかが素晴らしいじゃないですか。そういうものを学校の“ベネフィット”として選択的に受け取って、変な授業はボイコットする。そんなのもありですよね。」
矢萩氏(知窓学舎):「変な授業から得れる学びもあると思うので(一同笑)
たぶんオンラインの危険性って、それ全部ボイコットできちゃうところだと思うんですね。反面教師から学ぶってことも、僕はあったなーって思いますね。」
宝槻氏:「確かに!そもそもですけど、保護者って、順風を求めすぎるところがありますよね?」
高濱氏:「親になるとさ、変わるのよ(笑)傷が当たらないようにって考えるのが本能でもあるからね。
今は新しいお母さん像をやる人が増えてきたから、お母さん同士で繋がって、「こういうやり方もあるんだな」って知っていくと、もしかしたら選択的登校なんかも一気にいけちゃうと思いますよ。まだまだですけどね。」
宝槻氏:「なるほど。自分の中でフィットするママ友を見つけたりして、自分自身のブレンドの仕方に対する固定観念をハッキングしていく。そこから自分なりのフィット感を見つけていく。
そういう人がマジョリティになったときに、一気に変換が起こっていくというのは、ありそうですね。」
昆虫や鉄道にハマってたのも、立派なキャリアですから
最後のテーマは「これからの子育てで大切なこと」について。
「好きなことで飯を食える時代なんて言われるが、本当にそんなこと可能なのか?」
「学力が低くなるんじゃないか?」
「正直、受験も無視できない」
そんな風に思っている人も多いだろう。
そこで議論に入る前に、宝槻氏から「ファンクショナル産業」と「エモーショナル産業」という2つのキーワードが伝えられた。
つまり、20世紀の産業は主役が完全にファンクショナル産業であり、それで仕事するのがかっこよかった偉大だった。だから自身のスペックを高め、採用試験に合格し、産業の担い手になっていくというストーリーが圧倒的な主流であった。
一方、これからの時代はどうかというと、YouTuberなど「エモ」をうまく使っていくようなエモーショナル産業が、今後台頭していくのではないか、という仮説が説明された。
重見氏(ロボ団):「親が子どもに教育で関われる期間って、短いですよね。その時に僕は、いかに子ども達にとって、経験がその先の未来に再現できるかが大事だと思っています。
「好き」ってことを掘り下げるのは、子ども達にとっては難しくありません。一方、大人になったときに、好きってなんだろうなと突き詰めれる人が少ない現状があります。小さい頃にそういった経験を積み続けていない、再現性が持ててないということなのです。
だから、好きなことを今やらせていいのかというと、間違いなく“YES”だなと思っています。しっかりと掘り下げるという「経験」を持たせることが、先々再現性を持たせることに繋がると思うんです。だから、エモーショナルな部分というのが、僕はより重要だと考えています。」
讃井氏(ライフイズテック):「これからの時代、自分の“語りたいこと”を持つのが大事だと思っています。僕は、人間はもともとコミュニケーション能力や深掘っていく力を子どもでも大人でも、根源的に持っていると信じています。
そうなった時、その持ちうるポテンシャルを引き出すのに必要なことが、自分がめちゃくちゃ好きなことなど、特別なものを一つ持つことだと思っています。
そうなった時に「アニメやゲーム、スポーツでもいいの?将来食っていけないかも」と言われることがありますが、大丈夫です。学習科学の世界には「学習転移」という言葉があって、めちゃくちゃ探求したことが他の分野でも発揮される現象があります。
だから、21世紀の子ども達の可能性を引き出す一番のキーは、自分の好きなことやこだわりを一緒に探すことだと思っているし、それが見つかれば、将来食っていくところに繋がるので、安心してください。」
矢萩氏(知窓学舎):「みんな仕事の経歴だけをキャリアだと考えちゃってるのですが、昆虫や鉄道にハマってたのも、立派なキャリアですから。特に大人はそれをキャリアとしては見れなくなってることが多いので、今の時点では、周りがそれを教えてあげる必要があります。
探究経験をキャリアとして見れる大人が増えたら、それを見て子ども達も、好きなことでもなんとかなるんだな、という感覚が自然と芽生えます。
あともう一つ、自己肯定感ってすごく大事だと思うんです。今の教室って、自分がいてもいなくても、何も授業は変わらない。予定調和で進むだけ。そんな、自分がいてもいなくても変わらない感覚を何年も受け続けると、自己肯定感も感じなくなるし、無力感を感じる大人ができてしまう。
だからこそ、アウトプットをどう対話的にコミュニティで拾うか、どう授業中にフィードバックするかという点に学校的な価値があると思うし、オンラインのいいところを使い、できないことは現場でやるというのが、重要な視点だと思います。」
大事なのは、国語力&褒められるのが当たり前というコミュニティへの所属
宝槻氏(探究学舎):「いま「昆虫もキャリア!」みたいな話が出た時、参加者の皆さんのチャットがバズったんですが、結局は昆虫や鉄道のキャリアがファンクショナル産業の仕事に転移したら安心だ、みたいな雰囲気にもなってて。それも少し古くないですか、と思います。」
ここで宝槻氏は二つのエピソードをあげた。
一つ目は、著作家である山口周氏の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)について。
要するに、家電や自動車メーカーなどのエリート達は、みんな「機能」で差別化することに限界があることを知っている。一方で重要なことは、美意識やエモーショナルなところに目を向けること。むしろここでしか、差別化することはできないと気づいているわけだ。米アップル社のiPhoneなどは、その最たる例といえるだろう。
エモーショナルとファンクショナル、両方を持っていることがゴールなのではなく、エモだけでも良いのだ。なぜなら、チームになってプロジェクトを進めていくからだと、宝槻氏は続ける。
宝槻氏:「もう一つの例は、野鳥観察が好きな女の子について。この子は学校に行っていなくて、自分が将来何になるのか不安なわけ。
野鳥博士になるのが君のゴールかって聞くと、「それは違うと思う」と言う。
でもその子は、鳥の中に、人間が空を飛びたいという欲求を叶えるためのヒントが詰まっていると思う、って言っていたんですね。野鳥観察しながら、そういうことを考えるのが勉強になると。
「じゃあ、もしかしたら君は、野鳥観察という好きなことを突き詰めていったときに、将来新しい飛行ツールの発明チームに、デザイナーとして参画する事になるかもしれない」って言ったんです。
その瞬間、 その子の表情がブワーって晴れたんです。私、突き抜けていってもいいんだなって。
こういう感覚をお父さんお母さんが持たずに、例えば「野鳥の観察なんて土日だけにしなさいよ」とか言うかもしれませんが、全部を子どもがバランシングしなくてもいいのかな、と思います。」
高濱氏(花まる学習会): 「お母さんのリアルを想像すると、既存の見える道を選びたくなるのは本音だと思うんです。
一つ言っておくと、エモで勝負するにせよ、サッカーみたいにプロで勝負するにせよ、それで食っていくには相当実力がなきゃいけないです。
そこを目指す人へのアドバイスとしては、エモを突き詰めるなら、「国語力」も同時につけとけよ、ということです。
ものすごい経験や脳の働きしていても、言語化できないと、伝えられないので、価値を認めてもらえなくなるんです。
エモを本気で目指すなら、他の教科の先生に怒られちゃうけど、語れる言語力をつけることが、具体的なアドバイスになります。」
宝槻氏:「みなさん、またチャットが「国語が大事!」「言語化重要!」ってなっていますが、ここでまたお母さんが良くないのが、「じゃあ国語が大事だから、漢字ドリル買ってこよう」ってなることなんですよね。
あくまで「ベターな世界」なんです!
「高濱先生が言うから国語マスト」みたいになるから、子育てがバグるんであって、適切に自分の子どもの「いい感じ」を見立てる能力への試行錯誤が、大事なんです。」
讃井氏(ライフイズテック):「高濱先生の話って、“国語力”以上の広がりがあると思っていて、自分で作ったものをしっかりと伝えられないと、社会で苦しいよって話だと思うんです。
僕らプログラミングも一緒。ITキャンプ最後の発表会では、親御さんが大勢見守る中で一人ひとり発表していくんですが、そこで皆さん、自分の子どもがあんなにイキイキと大人の前で発表するのは見たことがないっておっしゃるんですよ。
子ども達は本来、言葉で発表したり表現する力を持っています。それをどう引き出すかを、僕ら大人は考えなきゃいけないんです。好きなポケモンの話だったら、大人よりも先生よりも雄弁に語りますよね。だから、入り口は何でもいいので、めちゃくちゃ好きなものを一つ持てれば、子ども達は必ず国語力を持てるし、理数も同じく身に付くと考えます。
あと最後に一つ、今回皆さんの話を聞いて、子ども達が表現したり探求するのを「褒めて受け入れる文化」が必要なんだな、ということを改めて思いました。
好きなことを好きって言っていいんだ、ということが当たり前になっているコミュニティに属さないと、そもそもこういうことを子ども達もできないってことだと思うんです。学校で言ったら気まずいとか、何か言われるかもって。文化が違うんですよね。
褒められるのが当たり前、というコミュニティに所属することこそ大事です。」
編集後記
学校や塾の先生だったら、自分だってできる。むしろ泥臭いこと含めて、実社会経験がある自分の方が、よっぽど子ども達の身になることを教えることができる。
社会人5年目くらいから、ずっとそう思っていました。恥ずかしながら。いや、実は心の奥底でそういう風に思っている大人は、割と少なくないのかもしれません。
でも今回のイベントに参加して、「真の教育者は、圧倒的な情熱と思い、そして専門性がある仕事」だということをまざまざと見せつけられました。
そして、あまり涙もろい方ではないのですが、イベントにリアルタイムで参加し、登壇者の皆様の子ども達への真摯で素直な姿勢に触れ、思わず涙が流れてしまう始末。
こういう方々が一人や二人じゃないことこそ、日本の未来への希望だと感じました。教育という狭い領域に限らず、です。
その血湧き肉躍る思いは、リアルタイムで視聴していた保護者の皆様の「チャット」にもよく現れていました。実に多様でポジティブな意見や感想が刻一刻と流れていき、まるでオフラインイベントのような、いや、それを超えるような一体感がYouTube上に生まれていました。
「好きなことをとことん突き詰めてみようかな。」
そんな前向きな気持ちにさせてくれる本イベント。ぜひ、動画でもご覧ください!