日本発、Fintechの国際的カンファレンス『FIN/SUM』
テクノロジーが産業をエンパワーするxTech(クロステック)領域の中でも、「Fintech」ほど認知が広がっている領域はないと感じる。
Fintechとは、金融(Finance)× Technologyの造語。世の中にある多種多様な金融サービスと情報技術を結びつけた、様々な革新的動向を示した言葉である。
ワード自体は、2003年に米国の金融業界紙American Bankerが“Fintech 100”と題して金融IT番付をした際に使われたのが起源とされているが、本格的な発展の契機となったのは、2008年のリーマン・ショックと言われている。
この、指数関数的な成長を追い求めるあまり発生した、ダグラス・ラシュコフ氏のいうところの“デジタル産業主義”に立脚した金融システムの自壊こそが、人材の流動性を爆発的に高め、昨今のFintechムーブメントの旗手を生み出すきっかけとなったわけである。そう考えると、リーマン・ショックは大規模なスクラップ・アンド・ビルドの起点となったわけだ。
そんなFintechムーブメントも、ビジョンが本格的にさけばれ始めてからはや10年が経過。その語り口の空気感も大きく変容してきている印象だ。
少し前にFintechと聞くと、仮想通貨をはじめとする一種のバズワードとして使われることが大多数であった。ところがここ最近になって、「社会課題を解決する可能性を秘めた社会的および技術的基盤」としてのFintechの可能性を語る人間が多くなってきているではないか。
現に当メディアでも、サービスリリース初期の昨年夏頃は、愛に寄り添うテクノロジーとしての観点ではFintechに全く興味が湧かなかったが、Fintechがもたらし得る「金融包摂」、さらには一段階進んでの「社会的包摂」に果敢に取り組むスタートアップ企業の活動を知り、途端に魅了された経緯がある。
そんなFintechの祭典とも言える国際カンファレンス『FIN/SUM 2019 Fintech & Regtech Summit』(以下、『FIN/SUM 2019』)が、今年9月3日〜6日の4日間に渡って東京・丸の内にある丸ビルで開催される。
日本経済新聞社(以下、日経新聞社)と金融庁が2016年より毎年共催している国内最大のFintech & Regtech(※)カンファレンスであり、国内外の金融・企業・政府・大学・スタートアップが集結し連携するプラットフォームとして、Fintechの潜在力とRegtechの重要性を広く発信し、社会課題を解決するデジタルイノベーションを模索、スタートアップエコシステムを醸成し、グローバルな発展を目指す取り組みだ。
※Regtech(レグテック):規制(Regulation)×技術(Technology)の造語。主にICTを活用して複雑化・高度化が進む金融規制に対応する金融ITソリューションを示す
FIN/SUM 2018より(photo by 日本経済新聞社)
4回目となる今年のテーマは「新しい成長の源泉を求めて」。
本記事では、『FIN/SUM 2019』開催に先立って、そのテーマセッティングやここに至るまでの歴史、イベントの見どころ等について、日本経済新聞社 FIN/SUM事務局である柴山重久(しばやましげひさ)氏にお話を伺った。
日経新聞「SUMシリーズ」と、FIN/SUMの歴史
今年度開催『FIN/SUM 2019』の具体的な内容に入る前に、まずは本イベントシリーズの全体像を俯瞰する。
そもそもこのFIN/SUMは、日経新聞が主催する「SUMシリーズ」の一つなのである。SUMシリーズとは、オープンイノベーションの推進と新しい成長産業の創出を目指して開催されるxTechのグローバルビジネスカンファレンス。
上画像のロゴにもある通り、FIN/SUMの他に、「AI/SUM」(アイサム:AI領域)、「AG/SUM」(アグサム:農業×テクノロジーのAgriTech領域)、「TRAN/SUM」(トランザム:Transportation and Mobility Technology:交通・移動領域)というイベントレーベルが存在する。
ちなみに、この中でAI/SUMについては、当メディアでも全13回に渡って取材記事を配信した。AIという広大なテーマについて、ただテクノロジー礼賛に終始するような内容ではなく、AI活用に付随する倫理面への考察や、その土台となるアーキテクチャ設計への言及など、社会実装を進めるための是々非々な議論が展開されていたことが、産官学連携プラットフォームとしての場の質を大きく引き上げていたように感じる。
さて、話を戻すと、FIN/SUMは今年で4回目の開催となる。以下がそれぞれの開催テーマ変遷だ。
- 第一回(2016.9.20-21):フィンテックがやってくる!
- 第二回(2017.9.19-22):フィンテック、金融を超えろ!
- 第三回(2018.9.25-28):競争と協調
- 第四回(2019.9.3-6予定):新しい成長の源泉を求めて
これまでに開催されたFIN/SUMプログラム&アフターレポート冊子等
2016年の第一回目ではFintechそのものへの真新しさと新しいイノベーションの登場に沸く様子が伺え、2017年第二回目では金融領域以外でのFintechの可能性が語られた。
昨年開催の第三回目ともなると、Fintechがもたらす陰陽それぞれの影響について忌憚のないディスカッションが展開され、またFIN/SUMと同時開催のREG/SUMも合わさることで、より社会実装とその先のコンセンサスに向けた議論が深まっていった。
FIN/SUM 2018より(photo by 日本経済新聞社)
そして第四回目となる今年度では、イノベーションを活用して世界中に存在する環境問題、地域間格差、高齢化といった様々な社会課題の解決に役立てるフェーズへと突入するわけだ。
このテーマ変遷からも、Fintechの社会的興味関心領域の変化を垣間見ることができる。
ちなみに2016年の第一回目来場者数が合計873名だったのに対し、2018年の第三回目は合計12,359名、参加企業数としては750社以上にのぼっている。昨年度参加者の国籍も23カ国以上となっており、Fintechというテーマそのものが成熟してきた一つの指標として、大変興味深い。
FIN/SUM 2019の各セッションテーマとプログラム例
今年度開催される『FIN/SUM 2019』は、昨年同時開催したRegtechを包含する形で“Tintech & Regtech Summit”という領域に括られ、個別セッションテーマも以下6つの内容に大きく分けられている。
- 決済・送金 : キャッシュレス、ブロックチェーン、生体認証、オープンネットワーク、API etc…
- 資産運用・管理 : ポイント交換投資、仮想通貨、ロボアド、オンライン証券、ICO、PFM(個人財務管理)etc…
- 融資・貸付 : AI融資、オンラインレンディング、クラウドファンディング、スコアリング、中小企業支援
- 信用・セキュリティ : サイバーセキュリティー、個人情報保護、AML/KYC、AIの説明責任、デジタル課税etc…
- 社会課題解決 : インシュアテック、金融包摂、高齢者金融、ESG、貧富・地域間格差の是正etc…
- デジタルガバメント : レグテック・スプテック、データ情報基盤・利活用、レギュラトリー・サンドボックスetc…
また、メイン会場である丸ビルホールのプログラムタイムテーブルについては、以下となっている。(※)
9月3日(火) | 午前 | 講演 | 北尾吉孝 SBIホールディングス社長 |
対談 | カレン・ミルズ元米中小企業庁長官 | ||
午後 | パネル | キャッシュレス率80%の日本、ここまで変わる | |
パネル | 金融の新領域 新しい成長の源泉を求めて | ||
パネル | お金はどうあるべきか リブラが突きつける未来の金融 | ||
パネル | 高齢化社会と金融包摂 | ||
パネル | 世界のキャッシュレス事情と日本の課題 | ||
9月4日(水) | 午前 | 挨拶 | 黒田東彦 日本銀行総裁(9:50登壇予定) |
講演 | 高島誠 全国銀行協会会長/三井住友銀行頭取(10:00登壇予定) | ||
パネル | 未来の金融機関 | ||
講演 | マイケル・ダーシー アイルランド金融担当大臣 | ||
午後 | パネル | 「アフターデジタル」で変わるキャッシュレスの社会 | |
ピッチ | スタートアップピッチコンテスト | ||
パネル | フィンテック時代の金融経営とサイバーセキュリティー | ||
パネル | 人生100年時代の救世主、ポイント投資の侮れない実力 | ||
9月5日(木) | 午前 | 挨拶 | 遠藤俊英 金融庁長官(9:00登壇予定) |
パネル | 巨大テック企業は金融に革命を起こすか | ||
パネル | ブロックチェーン・エコノミーの新たな国際協調 | ||
午後 | パネル | 人工知能(AI)とデータ倫理 | |
パネル | ブロックチェーンをベースとした金融システムの課題への処方箋 | ||
パネル | アーキテクチャーとセキュリティの観点から日本のオープンAPIについて考える | ||
パネル | サイバーセキュリティー | ||
座談会 | バンキングプラットフォームの将来像 | ||
挨拶 | 麻生太郎 副総理・財務大臣・金融担当大臣(17:00以降登壇予定) | ||
9月6日(金) | 午前 | ピッチ | スタートアップピッチコンテスト |
午後 | 講演 | 根本匠 厚生労働大臣(13:00登壇予定) | |
パネル | 社会実装のためのレグテック 〜イノベーションフレンドリーな規制対応〜 | ||
パネル | 国際的レグテックエコシステムの形成に向けて | ||
パネル | 未来の金融機関 | ||
表彰式 | ピッチコンテスト表彰式 | ||
パネル | 国民のペインポイントを吸い上げろ!レグテック先進国になる方策 |
※記事配信時点(2019.8.19時点)の情報であり、最新情報は公式ページよりチェックをお願いします。
セッションの組み合わせを俯瞰して見てみると、4日間のうち前半の方に我々のライフスタイルに喫緊で影響する決済・送金・融資・貸付といった内容が多く配置されており、日が重なるごとに、信用・セキュリティ・社会課題・デジタルガバメントといった、より広義のFintechへと議論が広がっていく様子が伺える。
FIN/SUM 2018より(photo by 日本経済新聞社)
また、これまでSUMシリーズに参加されたことのある方ならお分かりかと思うが、上記はあくまでメイン会場でのプログラムスケジュールであり、他のセッションスペースでも並行して、よりテーマを深掘りした内容でのセミナーやパネルディスカッション、ワークショップ等が、合計100程度展開される予定でもある。
全てのセッションプログラムはガチンコ
『FIN/SUM 2019』企画のポイントとその見どころについて、日本経済新聞社 FIN/SUM事務局の柴山重久氏にもお話しいただいた。
--まず、FIN/SUM 2019のテーマ設定を「新しい成長の源泉を求めて」にされた経緯について教えてください。
柴山氏:私たちがFIN/SUMを初めて開催した2016年当時、Fintechはまだ一種のバズワード状態でした。
それが回を重ねるごとに議論が成熟していき、4回目となる今年はようやく「どのように社会のためになるのか」、「既存の企業体のビジネスにどう繋がるのか」といった、社会実装の部分にフォーカスする形にしています。
英語版では“Discover New Source of Growth with Multi-Stakeholder Collaboration”としており、産官学における多くの主体(Stakeholder)が協力(Collaboration)しながら、成長の源泉を求めていく、ということに軸を置いています。
--AI/SUMでも感じたことですが、良い報告だけを予定調和的に発信するような会ではなく、課題や失敗事例もしっかりと含めて「議論」することに重きを置かれていることに、とても好感を持ちました。
柴山氏:全てのセッションプログラムはガチンコです。
また、Multi-Stakeholderには消費者、つまりはFIN/SUMご参加の皆さまももちろん含まれています。
これまでは丸ビルと新丸ビルという物理的に離れた会場でプログラム展開していたのですが、セッション後の登壇者と参加者のディスカッションやネットワーキングがしやすいように、今回は会場を丸ビルだけに統一させています。
より充実したコラボレーション環境を提供できるかと思います。
『FIN/SUM 2019』では、2日目の夜にウエルカムパーティーが、最終日の夜にアフターパーティーがそれぞれ開催される。前者については、一般の参加者も参加可能なものとなっている。写真はFIN/SUM 2018より(photo by 日本経済新聞社)
見どころは全て。100近くのセッションを楽しんでほしい
--今回企画されているプログラムの見どころは、どういったところになるでしょうか?
柴山氏:そうですね、色々とありすぎて絞れませんね(笑)
まずは、昨年に引き続き今年も、SBIホールディングスの北尾社長に、初日の午前にご登壇いただきます。今年は創立20周年ということで、どんなお話を伺えるか楽しみですね。
また今回、SUMシリーズを通じて初めて日本銀行総裁の黒田様が登壇するのも注目です。こちらも何を語っていただけるのか楽しみですね。
今話題のキャッシュレスについても、経済産業省に後援いただく予定でして、今年7月にキャッシュレス推進室長になった津脇様をモデレーターに、キャッシュレス積極推進企業様とのパネルディスカッションを予定しています。
キャッシュレス・ビジョン(※)で2025年までにキャッシュレス決済比率を40%にすると目標が設定されましたが、その先の80%になった時に社会はどうなっているのか。FIN/SUMにはこの領域に精通した方が多数参加されるので、もっと先の未来を見据えようよ、という内容にしていきます。(9/3午後「キャッシュレス率80%の日本、ここまで変わる」)
※キャッシュレス・ビジョン:2018年4月11日に経済産業省が公表。日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催される2025年までにキャッシュレス決済比率を40%とする目標を設定した上で、将来的には世界最高水準の80%を目指すとした「支払い方改革宣言」が提示された
FIN/SUM 2018より(photo by 日本経済新聞社)
--キャッシュレス、いろいろな意味で今最も注目されているテーマですから、より先の未来を見据えた議論が楽しみですね。
柴山氏:3日目のシンポジウム会場については全て、共催の金融庁が仕切っての内容となっていて、会の冒頭に金融庁長官の遠藤様が、最後には副総理・財務大臣・金融担当大臣の麻生様がそれぞれお話しされます。
ここではFintechの他にRegtech領域もふんだんに議論される予定でして、例えば「AIとデータ倫理」なんかは、相当拡張したお話を聞けると思います。
--データ倫理についてはAI/SUMでも議論の的となっていましたから、引き続き注目テーマと言えます。これまでに引き続き、海外の方も多く登壇されますね。
柴山氏:おかげさまで国内外問わず「FIN/SUMは面白い」とおっしゃっていただけていまして、海外からも多く、自薦・他薦問わずご連絡いただけるようになってきました。あと、今回はFintech協会様にも後援いただいてまして、その海外ネットワークもあります。
登壇者で言いますと、例えば米シティグループのChief Innovation Officerでありシティ・ベンチャーズの社長でもあるバネッサ・コレラ様にご登壇いただくのですが、この方のセッションも楽しみですよ。
モダンライフというテーマが予定されていまして、未来の社会的生活をまずは考えて、そこから逆算して必要なFintechを考えよう、というリバースエンジニアリング的な発想でのセッション内容を予定しています。
--あまり聞いたことのないアプローチですね。すごく楽しみです。
FIN/SUM 2018より(photo by 日本経済新聞社)
柴山氏:他にも、人生100年時代の高齢者金融やポイント交換投資、米Facebook発表のリブラが見据える未来の金融、金融包摂や貧富・地域間格差の是正といった社会課題解決領域など、注目のセッションがたくさんあります。
もちろん、これまでに引き続き、スタートアップピッチコンテストも実施します。
あと今回は、AI/SUMで大変盛り上がった全国大学ビジネスプランコンテスト(大学ビジコン)を、FIN/SUMでも開催します。全国大学データ・AIビジネスコンテストは、全国の大学や大学発スタートアップのフィンテック部門の予選会を、『FIN/SUM 2019』で実施します。
--目白押しですね!
柴山氏:セッションは全部で100近くを予定しております。
これからイベント当日に向けて、順次情報公開して参りますので、ぜひ、逐一チェックしてください!
<イベント概要>
名称:FIN/SUM2019 Fintech & Regtech Summit
期間:9月3日(火)〜6日(金)(4日間)
会場:丸ビル(東京・丸の内)
主催:日本経済新聞社、金融庁
後援:日本銀行、経済産業省(予定)、東京大学、フィンテック協会、キャッシュレス推進協議会
特別協賛:三菱地所
協賛:SBIホールディングス、NEC、マスターカード、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、EY Japan、農林中央金庫、野村ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループ、アフラック生命保険ほか
公式サイト:https://finsum.jp/ja/
編集後記
今年のFIN/SUMは特に面白い。純粋にそう感じます。
FinTechというと、仮想通貨(本来的には暗号通貨)や資産管理など、お金を管理したり増やすことを効率化する技術のトレンドという認識が強く、LoveTech Mediaとしてさほど興味のわくものでもありませんでした。
そんな中、昨年開催の『FIN/SUM 2018』に参加された方から「Fintechって予想以上に面白いし広い!」という声を多数方面から伺っていたこともあり、昨年のセッション内容からたどる形で、国内外様々なFinTech事例をチェックして参りました。
そこで、Fintechは一部の“意識高い系”だけが盛り上がるものではなく、本来的にはあらゆる社会課題を解決し、各ステークホルダーをエンパワーするような可能性を秘めた技術トレンドとして、多くの方々が「正確に」知るべきトレンドだと認識するに至りました。
一つ例をあげるとするならば、AI/SUMのイベントレポートでも取り扱った、インド政府が進める公共のデジタルインフラ「インディア・スタック」などはまさに、全ての国民を一つの経済システムの中に包摂する、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)の代表的なFintech事例とも言えるでしょう。
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食糧難やフィルターバブルといった人類規模で考えるべき社会課題から、少子高齢化・女性の貧困・地域間格差などの日々の生活レベルでの課題意識まで、当事者意識を持つ方はぜひ、9月2日からスタートするFIN/SUM 2019に参加されてみることをオススメします。
日経新聞社本社内FIN/SUM事務局に積まれている、過去SUMシリーズの当日パンフレットおよびアフターレポート冊子等