ペット業界の倫理感アップデートを目指すparnoviが最優秀賞、TSG2018 THE FINALレポート

インタビュー

 2014年から続く、東京都主催のスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」。

 テクノロジーから、モノづくり、ソーシャルイノベーション、リアルビジネス、グローバルを見据えた起業など、分野を越えて東京から世界を変える若き起業家がこれまで多数輩出されてきた、起業家の卵たちにとっての登竜門の一つだ。

 エントリー内容は氏名・職業など基本情報の他に、400文字の事業案のみでOK。2018年は1,229件の応募があり、その中から約半年のプログラムを経て残った10名が、コンテスト部門のファイナリストとして2018年12月1日にTHE FINALの場でプレゼンテーションを行った。

当日の審査員は以下の4名。

・各務茂夫氏(東京大学 教授/産学協創推進本部イノベーション推進部長)

・中村友哉氏(株式会社アクセルスペース 代表取締役CEO)

・福田浩士氏(株式会社meleap CEO)

・米倉史夏氏(株式会社Waris 共同代表)

右から順番に各務氏、中村氏、福田氏、米倉氏

また授賞式には急遽、東京都知事の小池百合子氏も会場に駆けつけた。

 今年の最優秀賞に選出されたのは、トークンエコノミーでペット業界からビジネスと倫理を両立させる事業プラン「parnovi(ぱるのび)」を発表した遠藤玲希央(えんどうれきお)氏。

 パピーミル、多頭飼い、殺処分、販売業者のモラルの低さなど、生き物を扱うにはあまりにも課題の多いペット業界に対し、業界全体のモラルアップデートを狙った事業提案に、審査員のみならず会場からの共感と賛同も得て、オーディエンス賞もダブル受賞した形だ。

 当日は遠藤氏の発表事業の他にも、Love Techと感じた取り組み・サービスがたくさんあった。本記事では、ファイナリスト10名とセミファイナリストの19名も含めた中で、計10名のLove Techな取り組みについてご紹介していく。

最優秀賞&オーディエンス賞:遠藤玲希央 氏(parnovi)

事業テーマ:トークンエコノミーでペット業界からビジネスと倫理を両立させる

現在、犬・猫のペット飼育頭数は1800万頭を超え、人々はペットたちから大いなる癒しと生きがいを得ている。それに併せ、ペットショップや動物病院・トリミングショップからペットフード業者まで、世の中には様々なサービスが存在する。故に、人々は何を選べば良いかわからない状況だ。

そんな現状に対し、遠藤氏はペット業界に特化した口コミプラットフォーム「parnovi(ぱるのび)」を提案する。一言で言えば、食べログのペットサービス版だ。

これまでの口コミサイトでは、価格や立地・外見などの写真しか項目がなかったが、parnoviでは様々な評価項目を設置することで、ユーザーが本当に必要とする情報を提供し、且つ現在のペット業界の課題も根本解決を試みるという。

そもそも、パピーミルやバックヤードブリーダー、保護犬、殺処分、野生化など、ペット業界にまつわる課題は大きく二つの原因からなっている。

飼い主がイケていないのと、従事者側がイケていないという二点だ。

そして、これらを「評価×トークン(以下、独自通貨)」というスキームに当てはめることで、解決しようというのがparnoviの構想だ。

ユーザーは口コミで評価をすることで、ブロックチェーンベースの独自通貨を受け取ることができる。つまり、口コミを書くインセンティブが生まれるというわけだ。例えば評価項目に「このお店では、どこの親犬から産まれたかの情報開示があるか」というものがあり、ユーザーはこのような観点でサービス提供者を見ることで、結果として飼い主としてのリテラシーが上がっていくという。

一方、サービス提供者側は評価を受け取ることになるので、評価が高くなるような努力をする。それにより、業界としての健全性が上がっていく。

こういうメリットの循環を形成することで、「倫理をとるかビジネスをとるか」の業界が「倫理もビジネスも両方」という形に昇華される想定とのこと。

最優秀賞受賞スピーチ中の遠藤氏

現在は東京大学獣医学科内科研究室に籍を置く学生でもある遠藤氏。各賞の授賞式が終わると、真っ先に事業を共にする仲間たちの元に駆け寄って行かれた。

優秀賞&オーディエンス賞:清水章矢 氏(Hakara)

事業テーマ:10分1,000円からの治療をしない予防歯科Hakara

「80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという掛け声のもと、元気な歯を維持する啓蒙が進められる8020(ハチマルニイマル)運動という動きがあります。人間の歯は28本ありますが、正直、現状は多くの方が銀歯に頼ってしまっています。」

こう語るのは、歯科医師の清水章矢(しみずふみや)氏だ。

多くの人にとって歯医者は痛くならないと行かない場所であり、現に定期検診に行っているのは全体の24%弱というデータもある(2014年歯科医師会より)。

どうしたら痛くなる前に歯医者に来てもらえるか。これを解決しようと考えた際に、出てきたアイデアが「Hakara」だという。

Hakaraは予約や保険証が不要で来店でき、10分1,000円で歯科健診、歯面清掃・フッ素塗布、歯石除去、オーラルケア指導・物販そして医療機関の紹介などをしてくれる、ビル・駅ナカの店舗だ。

つまり、いつでも気軽に安心して利用できる歯科衛生士による予防専門クリニックというわけだ。

ターゲットはビジネスパーソン。実はこの層が課題であり、多くの方は働いてから歯を悪くするという。忙しいビジネスパーソンでも気軽に来店できるよう、所要時間をギュッと短くし、通常の半分以下の時間での処置を可能にするという。

まずは5年で10店舗を目指すということで、歯から治療のない世界を目指す考えだ。

 

優秀賞:丸山亜由美 氏

事業テーマ:アート&デザインからワクワクできるヘルスケアを作ろう

医療系の大学卒業後、製薬会社で3年間働いたのちに、美術大学に4年通って、今年3月に卒業された丸山亜由美(まるやまあゆみ)氏。医療と芸術をつなぐデザイナーだ。そんな彼女が今回提案するサービスは、唾液で簡単に血糖値を測定できるキットである。

現在、糖尿病患者は日本だけで2,000万人、世界には4億人以上いると言われている。また、丸山氏自身、過去10年にわたって糖尿病患者であった。

「この糖尿病患者の皆様が、それぞれ健康のリーダーシップを取れたら世界が変わると考えています」

その第一歩として、妊婦さんの血糖値測定を簡単に、そしておしゃれにするべく開発を進めているのが、開発を進める血糖値測定キット「pepe」である。

 8人に1人の妊婦さんが高い血糖値と言われており、針を使って血糖値を図るツールはあったものの、人前で使えないという声が多いことが課題であった。

pepeは唾液を使って血糖値を測定するので、人前でも簡単に測定可能だ。食後30分から2時間の唾液内グルコースは血中グルコース濃度と相関があるという。唾液を垂らした後の、pepeの色とデザインの変化をチェックするという使い方だ。

身体と心に寄り添う血糖値測定キットを通じて、「健康をないがしろにしてまで働く意味ってあるのか?」というメッセージを発信し続けていくつもりだ。

そのほかLoveTechなファイナリスト2名

 ここでは、惜しくも受賞には至らなかったが、当メディアがLove Techと感じた取り組み2つについてご紹介する。

稲葉可奈子 氏

事業テーマ:「子どもをのぞんでいる人が産める」当たり前のことが当たり前な世の中に!

 

産婦人科専門医として勤務する稲葉可奈子(いなばかなこ)氏は日々、不妊治療に悩む夫婦に寄り添っている。

日本は不妊治療数が最も多いのに対し、成功率は最下位というのが現状。子どもを望む人が、なかなか授かれないという実情がある。

一方、望まない妊娠で年間約17万人が人口妊娠中絶しているという現実もある。

つまり、みんなが不妊というわけではなく、不妊は予防し得るとの考えで、今回の事業アイデアに至ったとのこと。

稲葉氏が考えるのは、産婦人科医が答えるオンライン相談サービス。これを婚活やブライダルのプレ妊活段階で提供して早くからの意識啓蒙を進めたり、企業の福利厚生や自治体サービスとして提供することで休職・離職の防止と出生率向上を目指すことを考えている。

サービスではまず初めにチャットボットが自動応対し、必要に応じて産婦人科の対応に進むという想定だ。

「子どもをのぞんでいる人が産める」という当たり前が実現する世の中を目指している。

田ヶ原絵里氏

事業テーマ:食べられないものがある31億人の外食を救うスマホオーダーアプリ

普段は事業会社で新規事業立ち上げ企画や実行を担当している田ヶ原絵里(たがはらえり)氏。

実はお母様が米とトマトとキウイにアレルギーがあり、さらに鶏肉が食べられないという、食の制限問題の当事者だ。

ここまで食べられないものがあると、外食の時に大変である。何が、なぜ、どういったレベルで食べられないのかを、キッチンと顧客とで何度もやりとりが必要になり、どれだけ丁寧な対応をしても、対応が漏れてしまうこともある。

アレルギーに限らず、宗教など、食べられないものがある人は世界に31億人いると言われている。

そこで田ヶ原氏は、お店の料理の原材料を可視化することで自分が食べられるものが一目でわかり、そのまま注文までできるアプリ「CAN EAT」の開発を進めている。

食べられないものがある人にとっては外食ストレスが減り、お店サイドにとっては人手不足解消とサービスレベル向上につながる。

2月には浅草の居酒屋で、実際にベジタリアンなど食事制限がある方にアプリを使ってもらうという実証実験を予定しているとのこと。

誰もが食を心から楽しめる日本初のおもてなしサービスを目指している。

そのほかLoveTechなセミファイナリスト5名

 最後に、惜しくもファイナリストには選出されなかったが、当メディアがLove Techと感じた取り組み5つについてご紹介する。当日は1分間という非常に短いピッチ時間であり、もっと知りたいと思わせる取り組みばかりであった。

奥村葵 氏

事業テーマ:産後ママの孤立をなくす!ナースとママのオンライン暖和室

都内で助産師として働く奥村葵(おくむらあおい)氏は、病院での勤務経験などから、児童虐待をゼロにしたいと考えてこられ、解決策の一つとして産後ママの孤立をなくすサービスを開発している。

産後ママの社会的接点で最も大きいのは、SNSである。

産後ママと潜在医療者を、即時で悩み相談ができるLINEでつなぐことで、児童虐待や産後うつの原因の1つである産後孤立を無くし、家族みんなが笑顔で暮らせる世の中を目指す。

福井真衣

事業テーマ:ヤングケアラーを孤独から救う革新的コミュニティサイトの設立

現役高校二年生の福井真衣(ふくいまい)氏が課題と設定するのはヤングケアラー問題。

ヤングケアラーとは、慢性的な病気や障害あるいは精神的な問題を抱える親や兄弟、祖父母兄弟のお世話をする18歳未満の子どものことである。

ヤングケアラーには身体的・精神的・経済的負担がのしかかっており、福井氏の提案では特に、精神的サポートにフォーカスするという。

オンラインチャットやメールで悩みを共有することで、日頃のヤングケアラーの精神的負担を少しでも軽減させることを目指す。

藤川宗治

事業テーマ:快適に睡眠しながら移動できるパーソナルモビリティサービス

2016年にお子様が生まれた一児のパパである藤川宗治(ふじかわむねはる)氏。子供目線で、世の中の最適化されていない物事を改善したいと考えた際に、「移動」をアップデートしたいと考えた。

車というプライベート空間で、快適に寝ている間に目的地にたどり着くという、夢のようなサービスだ。必要な技術はすでに世の中に揃っているという。

関連技術を持つ各社と協力しながら、長距離移動が困難だったり、遠方に住む大切な人に会いたい人のためのサービスを目指す。

森美由紀

事業テーマ:喘息の治療と管理を手助けする喘息治療アプリを提供する

現在、歯科医師として勤務する森美由紀(もりみゆき)氏。ご家族が喘息を発症したことで、喘息が日常生活を過ごすことも難しくなるような病気であることを身を以て実感し、喘息の治療と管理を手助けするアプリを開発している。

喘息患者に必要な喘息日誌、アクションプラン、服薬などをアプリで管理できるようになる。

現在、一緒に開発を進める仲間の先生と共に、パーソナライズドされた喘息治療と管理を効率的に行えるサービスを目指す。

山本雄士

事業テーマ:ムスリムが安心して日本を楽しめる環境の実現 

ムスリムのご友人が約400名もいらっしゃるという山本雄士(やまもとゆうじ)氏。ムスリムは世界中に19億人、そのうちの10億人がアジアに住んでいると言われているが、日本に住む多くのムスリムは「外食」に困っているという。ハラームフード(食べてはいけないもの)に抵触していないかが判断できないのだ。

その課題を解決すべく、山本氏はムスリム対応メニュー(成分表示)を簡単に作成できる飲食店支援サービスを開発しているという。

ムスリムのご友人の結婚式に参加した際に感じた不便から考案されたこのサービス。宗教上食の制限があるイスラム教でも安心して日本食を楽しめる環境を目指す。

 

編集後記

丸半日をかけて実施されたTOKYO STARTUP GATEWAY 2018 THE FINAL。本記事ではLove Techという切り口で10サービスのご紹介にとどまりましたが、どの発表内容も素敵なものばかりでした。

 

また、優勝されたparnovi事業については、筆者自身も犬好きで保護犬活動を支援する身でもあるので、ぜひ業界の倫理観をアップデートしてもらいたいと切に願っています。

 

ここから、世のルールを変えるゲームチェンジャーが出てくるかもしれません。これからがますます楽しみです!

 

『TOKYO STARTUP GATEWAY』詳細についてはこちらをご覧ください

LoveTechMedia編集部

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