キュレートポイント
ITジャーナリスト・湯川鶴章氏が編集長を務めるWebメディア『AI新聞』より。本記事は、昨年11月に米シリコンバレー・パロアルトで開催されたテクノロジーカンファレンス「TransTech Conference」のレポートシリーズです。(TransTechについては、当メディアでも取材した記事はこちら)
日本では瞑想やヨガへの関心の高まりとともに、その領域をサポートするアプリが徐々に増えてきています。今回TransTech Conferenceのセッションで紹介されたのは、アプリというソフトウェアではなく、身体に直接つける小型デバイスについて。神経組織を刺激し、その活動に干渉するニューロモジュレーションの領域の可能性について解説したものとなります。
経頭蓋直流刺激(tDCS)、経頭蓋磁気刺激(TMS)、迷走神経刺激(VNS)など、様々なタイプのニューロモジュレーション技術がある中で、一体どれがどのような可能性を秘めているのか。
リラックス効果や、認知能力、記憶力、スポーツのパフォーマンス向上など、人類にどのような「ウェルビーイング」をもたらしてくれるのか。
脳の働きと行動の仕組みを理解したデータドリブンなAIが、私たちの脳に超音波等で直接介入して症状を改善してくれるという、ちょっと先の未来をご紹介したく、本記事をキュレートしました。
本記事は「AI新聞」のキュレーション記事で、元記事の一部転載版となります。
耳につけるだけで心が落ち着くイヤホンから、額につけるだけでストレスを軽減できる小型デバイスまで、神経組織を刺激し、その活動に干渉するニューロモジュレーションの領域が、ここにきて急速に進化している。シリコンバレーで開催されたTransTech Conference2019に登壇したMathew Markert医師は、ニューロモジュレーション研究の現状と未来への展望を語った。この分野の研究が進めば、将来的にはボタン一つでリラックスできたり、超人的な能力を持てるようになるかもしれないという。ただこの領域でもやはり、データとAIの活用がカギとなりそうだ。
ニューロモジュレーションには、経頭蓋直流刺激(tDCS)、経頭蓋磁気刺激(TMS)、迷走神経刺激(VNS)など、いろいろなタイプがある。直流電流、交流電流、磁気、近赤外線、超音波など、与える刺激はいろいろあるが、どの刺激でも医療用としては、鬱やてんかん、痛み緩和などに用いられることが多い。一方、消費者向けのデバイスとしては体内に埋め込む必要のないウエアラブル機器としての開発、市販化が進んでいる。消費者向けデバイスは、リラックス効果や、認知能力や、記憶力、スポーツのパフォーマンスの向上などをうたっているものが多いようだ。
「人類の意識進化を促進。脳への直接刺激技術にブレークスルー、10年以内の実用化目指す=TransTech2019から」の記事の中で、Jeffery A. Martin博士が超音波による脳への刺激こそが人類の意識を進化させる技術だと確信した話を紹介したが、Markert医師も焦点式超音波療法には高い期待を寄せているという。「超音波で最もエクサイティングなのが、弱い周波数で分子の薬を放出させる方法。狙ったところだけに効果を出せるので、可能性にワクワクしている」と語っている。
廉価版デバイスが可能な直流電気が一足先にプラットフォーム化?
ニューロモジュレーションの現状と未来について語るMarkert医師の話を聞いて、個人的に興味を持った話の一つが直流の電流を脳に流すtDCSだ。
同医師によると、tDCSはコストが低く、リスクも少ないのがメリット。一方で、脳全体への刺激になるので、脳の特定の場所をターゲットできないというデメリットもある。
医療用の機器としては、うつや、脳梗塞の後遺症の改善を目的としたものがあり、「そのメカニズムがまだ完璧に解明されたわけではないが、とても大きな可能性を感じる」と同医師は語る。
消費者向けには、スポーツ・パフォーマンスや、認知能力の向上に対する効果が期待されている。また同医師によると「例えば何かを学ぶたびに脳を刺激して興奮を促進すれば、学ぶことが楽しくなる。そうなれば学習スピードが向上するという研究結果もある」という。
小型電池で動くので米国では消費者向けに20ドル程度の廉価版小型デバイスが既に多く発売され、使用方法を解説するYouTube動画も多くアップされているという。
同医師は、低価格と安全性の理由からtDCSが広く利用されるようになり、データを収集することができれば、理想的な研究プラットフォームになり得る、と指摘する。
後述するが、同医師は、ニューロモジュレーションの領域で将来、刺激と同時にデータを収集するフィードバックループのプラットフォームが形成されることになると考えている。そうしたプラットフォームが巨大ビジネスになることは間違いない。まずは、tDCSで研究プラットフォームが作れるのか。その研究プラットフォームが果たして、巨大ビジネスへの足掛かりとなるのか。ニューロモジュレーション・ビジネスの最初の動きとして、個人的にこの領域の動向に注目していきたいと思う。
つづきは以下よりご覧ください。
また、元記事執筆者である湯川鶴章氏が主宰する、2歩先の未来を読む少人数制勉強会「TheWave湯川塾」の詳細は以下となります。