2024年8月28日〜29日の二日間に亘り、暗号資産・Web3メディア「CoinPost」主催のWeb3グローバルカンファレンス「WebX2024」が、東京・品川のTHE PRINCE PARK TOWER TOKYOにて開催された。「Web3技術の普及と社会実装を加速させる」というメインテーマのもと、当日の会場にはブロックチェーンや暗号資産、その他のWeb3技術に従事する企業・プロジェクトや、起業家・投資家・政府関係者・メディアなど、Web3に関心を寄せる人々が国内外より一同に集結。セッションやネットワーキングなど、大いに盛り上がっていた。
LoveTech Mediaによるセッションレポート第三弾では、「官民共創:web3など新興技術の推進のための政策の在り方」と題されたセッションの様子をお伝えする。Web3のような新興技術に対して、行政の中では具体的にどんな取り組みがなされており、また何を課題意識として持たれているのか。経済産業省と金融庁所属の三名による実務者視点での考えが紹介された。
- 板垣 和夏(経済産業省 課長補佐)※モデレーター
- 池田 陽子(経済産業省 競争環境整備室長 (元内閣官房企画官))
- 清水 秋帆(金融庁イノベーション推進室 課長補佐)
宮内庁以外のあらゆる役所とやり取りをして政策をまとめた
板垣:最初に自己紹介から始めたいと思います。まず私・板垣ですが、経済産業省でWeb3の担当を3年ほどやっています。
池田:競争環境整備室の池田と申します。大企業から中小企業、スタートアップなど、日本の企業が競争力を高められるようにと日々仕事をしています。その前は内閣官房の新しい資本主義事務局というところにおりまして、スタートアップ政策全体の取りまとめをしていました。そこでWeb3のような先端技術の各プレイヤーともやりとりをさせていただいておりました。
清水:金融庁イノベーション推進室の清水と申します。約2年前、2022年6月頃からイノベーション推進室に所属をしておりまして、FinTechサポートデスクという事業者の皆様から幅広くご相談をお受けする業務を主にしております。
板垣:ありがとうございます。早速始めていきたのですが、最初に、いろんな民間の方から「各省庁、どこが何しているのかわからない」「自分たちが相談したいときに、どこに行けばいいのかわからない」と言われることが多く、まずは皆様の所属でどんなことをやっているのかを教えてください。
池田:先ほど、内閣官房でスタートアップ政策の担当をしていたと申し上げました。スタートアップに関しては、それこそ宮内庁以外のあらゆる役所とやり取りをして政策をまとめたという経緯があり、本当にやっていない省庁はないなと思っております。そうした中で岸田政権では、スタートアップがこれからの日本社会の起爆剤になるということで一丁目一番地の政策として力を入れていき、その結果、今考えられるあらゆる政策指標を取り入れてまとめた政策のパッケージが2022年にできた「スタートアップ育成5か年計画」になります。
こうしたプロセスに携わって思うのが、どうしても縦割りになりがちである中、例えばWeb3サービスに携わるスタートアップの方が何かご相談をしたいというときに、やはり内閣官房が全体を見ているということで、いろんなご相談に対するある種一元的な窓口的役割も担っていたところがあると感じています。
清水:ここまでのお話と同様、金融庁でも皆様からの相談先に関するお悩みを感じるところがありまして、私のいるイノベーション推進室では、いわゆる監督業務ではなく、国内外のステークホルダーとの対話やフィンテックイベントへの参加や相談を通して情報収集等を行い、監督部署と事業者のみなさまの橋渡しになるような業務をしております。そのうちの一つの機能としてあるのが「FinTechサポートデスク」です。ご相談で一番多いのは、これから新しく事業を始められようとしているスタートアップ企業の方なのですが、それ以外にも、今後の検討のためにちょっと相談したいといったケースや、ライセンスを持っている銀行のような事業者をクライアントに持つ事業者さんからのご相談も、対応しています。ぜひ今後も皆様にご利用いただきたく思っています。
板垣:せっかくなので経産省の宣伝も兼ねて。当省では全体として産業振興を担当しており、Web3についても日本のGDPが上がっていくためにいろいろな活動をする、というのが基本的なスタンスになっています。その前提で、様々な産業においていかにWeb3が活用できるかといったところで、ユースケースの創出支援みたいなところもやっています。
実務者レベルでしっかりとエビデンスを確認することの大切さ
板垣:Web3業界の皆さんからのご要望を受ける際に、税制改正や法改正といった骨太な内容をご相談いただくことも多いかと思います。そういった課題を解決をする上で、具体的にどういったことが政府内で行われ、何が必要になるのかについて教えてください。
池田:大きな制度改正をやるとなった時に、よく「偉い人に売り込めばいい」みたいなことが思い浮かぶと思うのですが、単純にそんな話ではなく、私自身スタートアップ政策に携わって改めて思ったのが、「時代のトレンドに合っている話なのかどうか」が大事だということです。例えば日本社会における終身雇用や年功序列といった従来の硬直的な仕組みが解き放たれている中で、スタートアップという存在は、産業振興の観点以上に、それ自体が非常に象徴的であると感じました。もちろん実際に制度を変えるとなった際には、実務者レベルでしっかりとエビデンスを確認し、その重要さを順番にチェックしていく必要があります。
清水:エビデンスが重要なのは間違いないですね。何かやりたい政策があって、それを推進する業界の方々もいれば、業界に属していないけれどもその政策の影響を受ける人々がいる。特に後者の方々から該当の政策がどう見えているのか、具体的に需要があるのかといったポイントが非常に重要になってくると思います。では、どうしたら社会的コンセンサスが得られるかということですが、そこはやはり、わかりやすくて世の中に響くようなユースケースの存在が大事だと考えています。また我々としても、それらのユースケースをただ待っているのではなく、ご相談いただいた際にすぐに対応できるように、日々勉強/キャッチアップする必要があると思っています。
板垣:立法事実/エビデンス確認のような細かい詰めをやると同時に、より大きな話になればなるほど、先生方に5分で説明しなければいけないことも、難しいなと感じています。他の技術と比べてもWeb3ってわかりにくいですし、「あれのことですよ」とパッと言えるユースケースがあるわけでもないので、少しでもわかりやすく「確かに必要だ」と思ってもらうことが重要だと思っています。そのためにも、私たち行政だけではなく、民間の皆様の力を借りないとできないところだとも思っています。この官民共創については、池田さんは『官民共創のイノベーション』という本も出されていると思うのですが、どのようにお考えでしょうか?
池田:今これだけ民間サイドでいろんな新しい技術を使ったビジネスが生まれている中において、そのイノベーションを少しでも社会実装するにはどうしたらいいか。その気持ちは本当に一緒で、いろんな制度の作り方とか法制の方でもいろいろ変えていく必要があるという中において、一例として「規制のサンドボックス制度」というものがあります。先ほどもエビデンスが大事だというお話がありましたが、何か新しいルールを作りたいと言っても、新ルールを作るにあたっての試行錯誤が、何か不意に規則や規律に抵触してしまう可能性はあります。規制のサンドボックス制度を使うことで、「この限定された空間内であれば自由にトライしてみてください」という感じで、まずはやってみていただき、その中で取れたデータ/エビデンスを用いて、実際に事業化を進めたり場合によっては既成改革を進めることができる仕組みになっています。ですから我々行政サイドとしても、柔軟性といったものが改めて問われているといった認識です。
清水:実は金融庁には、FinTechサポートデスクの他にもう一つ、「FinTech実証実験ハブ」というものがございます。これは、民間事業者の皆様の実証実験を、金融庁と一緒にやろうというようなプロジェクトです。何点か要件はあるのですが、規制のサンドボックス制度と並行して一つの候補に入れていただけると嬉しいです。
板垣:民間の意見を取り込むのは非常に重要ですが、一方で私たちが既存で回すプロセスは硬直的と言いますか、特定の委員の方にお話を伺いましょうだったり、個社というよりかは業界団体の人にまずは話を聞きに行こうだったりと、役所のお作法とかがあるものです。でも、そこからだけだと見えてこないものも沢山あると考えています。例えば暗号資産取引所の声とスタートアップの声、それから投資家の声はそれぞれ違ったものになるはずですが、どうしても取りまとめをやっている人たちの声が優先されてしまうのは、乗り越えていかないといけないところです。それをやるためには、時間がなくても個社と話すとか、いろんな人たちと話すのが大事になってくると思っています。
いい意味で「みんなで作っていく」という意識があればいい
板垣:私がこの2〜3年取り組む中で感じていることなのですが、世の中の動きがものすごく早い一方で、法改正は2年ほどかかるので、なかなか追いつきません。また、法改正自体非常に大変な作業で、何十人と人を巻き込む必要があるので、重たい話を進めるためには相当強いエビデンスやモチベーションがないとできないと思います。そういった中で、行政は仕組み及び人材面でどのように対応できるのか、お考えを教えてください。
池田:いろんな制度の在り方自体を時代に合わせて変えていく必要がありますし、行政官が全てをキャッチアップするのも限界があるので、実際の現場にはかなり出向者の方が多いです。それこそ技術や法律の専門家など、私のチームも半分以上が出向者で構成されています。ですから官民共創においては、官と民の行き来、リボルビングドアが促されていく中で、一つの目的に向かってみんなで向かっていくことが実際の動きとしては大きいと感じています。
清水:将来的には官の中で人材育成できるような仕組みを構築するのが理想的ですが、それが明日できるかというと難しいので、現状は外部出向者の方の協力や、民間事業者へのヒアリングを通じての情報収集などを進めています。アカデミアと民間事業者と官という形で明確に分けるのではなく、いい意味で「みんなで作っていく」という意識があればいいかなと思います。
板垣:諸先輩方からお話を伺うと、技術革新のスピードに追いつくためにこれまで色んな試行錯誤がなされてきたんだなという気がしています。例えば、自動走行ロボットの話でも、規制の対応を素早くできるようにするために、法律の中で「この団体がある種の権限を持ちます」みたいな形で、その団体が自動走行ロボットについてのルールメイキングができるような形にしている、という話を聞きました。私たちも、このような形でアップデートを行っていくことがすごく重要だと思います。
取材/文:長岡武司
写真提供:一般社団法人WebX実行委員会