福祉大国・フィンランド発の妊娠・子育て無料アプリ「Layette(レイエッテ)」からのコラム寄稿シリーズ「The letter from Layette」。
今回は、妊娠中の女性による温浴やサウナの使用についてお伝えする。
かつて日本では、温泉の保護等を定めた「温泉法」という法律で、妊娠に対する温泉への入浴は「禁忌」とされていた。しかし、科学的根拠のない話だとして専門家等からの指摘があった背景から、一般より意見公募を経て、2014年改訂の際にそれまで禁忌症に挙げられていた「妊娠中」の文言が削除されることになった。
それでは、サウナについてはどうなのか。
ここでは、サウナ発祥の地と言われるフィンランドの医学会によるガイドライン等を参照しながら、サウナおよび“温浴”という観点について以下寄稿いただいた。
※以下より寄稿文
妊娠中の女性も、低リスクで温浴とサウナを楽しめる
妊娠中の女性の温浴やサウナの使用は、リスクを引き起こす確率も低く、お腹に赤ちゃんがいる女性でも心配せずに楽しめるということを知っていましたか?フィンランドの調査データやイギリスでの最近の見解では、サウナによる胎児への影響の可能性は見つかっていないと言われています。その中でもアメリカやイギリスのいくつかの推奨事項では、温浴とサウナは避けるようにとも促されています。
その根底にあるのは、特に妊娠初期に流産や先天性欠損症を引き起こすとされている、母体の体温上昇の恐れです。しかし、フィンランドの医学会“Duodecim”はガイドラインへこのように明記しています:妊娠中のサウナの使用によって、胎児への奇形等の影響を及ぼすという事実はない。
フィンランドの広範な調査データでは、サウナと胎児の危害との関連は発見されていません。 さらに、妊娠中のほとんどのフィンランド人女性がサウナを利用しているのにもかかわらず、中枢神経系のこの発達障害は、世界的に比較してもフィンランドでは稀なケースです。 したがって、サウナを楽しむ際の高温状態へ身体をさらすことによる胎児への発達障害の影響は、ほぼないと結論付けることができます。
妊娠中のサウナが問題ないと考えるのはフィンランド人だけではありません。British Journal of Sports Medicineで、運動とスポーツ科学の准教授であるOllie Jay博士は、妊娠中の女性は、胎児に影響のないレベルでの体温であれば温浴やサウナを楽しむことができると述べています。
347人の女性が対象となった12ケースの研究結果をまとめた見解には、サウナに座ったり、熱いお風呂を楽しんだりしても、危険なレベルまで体温が上昇することはありませんでした。すべての研究において、女性が推奨されているコアの体温制限102F(39°C)を超えていなかったのです。
体温を穏やかに保ち、休憩を取る
ただし、身体に“負担”をかけるような体温上昇(変動)は、緊縮を引き起こす可能性があるため、必ず避けてください。 そのような状況を避けるため、妊娠中の女性は、適度に穏やかな温度でサウナを利用し、十分な休憩を取る必要があります。 サウナの蒸気により異常な緊縮を引き起こしてしまう妊娠中の女性、血管が広がって血圧が下がりやすい、もしくは子癇前症のある妊婦の方は、サウナの使用を制限する必要があります。
出典情報:
https://www.ebm-guidelines.com/xmedia/duo/duo96586.pdf
https://www.vau.fi/raskaus/elamantavat-raskauden-aikana/onko-sauna-tai-kuuma-kylpy-riski-raskausaikana/
https://www.telegraph.co.uk/science/2018/03/01/pregnant-women-can-enjoy-hot-baths-saunas-without-risk-says/
※寄稿文は以上
Ollie Jay博士による発表論文内容
寄稿文中で紹介されていた、Ollie Jay博士らによる発表論文はこちら(タイトル訳:熱ストレスと胎児のリスク。妊娠中の運動および受動的熱ストレスの環境制限:BES法によるシステマティック・レビュー)。サウナに限らず、過度の運動や高熱暴露といった母体への“熱ストレス”について、その胎児への影響の相関を調べるべく、2017年7月12日までに各所より報告された関連調査を、システマティック・レビューを通じて解析した内容となっている。システマティック・レビューとは、文献をまなく調査して同質の研究をまとめ、バイアスを評価しながらデータの偏りを限りなく除いて分析・統合を行う手法であり、エビデンスレベルの高いアプローチと言えるものだ。
ここでは妊娠中の催奇形性における母体温の閾値(以下、Tcore値)を≦39.0°Cと定義し、陸上運動、水中運動、温浴、サウナ実施時における母体温への影響を検討している。要するに、決まった環境でそれぞれの活動を実施して、一般生活における高熱レベルの体温・39.0°Cを超えるか否かを調べていったわけだ。
まずは研究ベースで見ていくと、寄稿文中にもある通り、12のケース・計347人の女性が適確基準を満たしており、サンプル数としては非常に多いものとなった。
それぞれのケースにおける設定基準は以下の通り。
- 陸上運動:25°C・45%の相対湿度(RH)で最大心拍数の80%〜90%で最大35分間の運動
- 水中運動:33.4°C以下の水温で最大45分間の運動
- 温浴:40°Cの環境で20分間
- サウナ:70°C、15%の相対湿度の高温および乾燥サウナで20分間
研究の結果として、347人の中で最も高い母体温となったのは38.9°Cであり、どのデータも39°Cを超えるには至らなかった。また平均体温についても、陸上運動では38.3°C、水中運動では37.5°C、温浴は36.9°C、サウナは37.6℃だったということで、いずれもTcore値よりも低い結果となった。
つまりここから言えることは、上述の設定基準の範囲内においては、陸上運動や水中運動のみならず、温浴やサウナも胎児の催奇形性を引き起こすレベルの母体温度にならないということである。温浴であれば「40°Cの環境で20分間」、サウナであれば「70°C、15%の相対湿度の高温および乾燥サウナで20分間」という具合だ。
自身の身体の状態を見極めて楽しむべき
ここまで見てきた通り、世界の論文を参照する範囲では、妊婦さんでもサウナや温浴を楽しんでも問題ないことがエビデンスベースで確認できる。
しかし当然のことながら、つわりがひどい時や、体調そのものが優れない時など、自身の身体の調子が悪い時は決して無理をするべきではないだろう。
自身の身体の状態をしっかりと見極めて、かつ上述の範囲内でサウナや温浴を楽しむことで、ストレスの発散等にも繋がるのではないだろうか。
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本記事の寄稿原文はこちら
Pregnant women can enjoy hot baths and saunas without risk
Hot baths and sauna don’t raise risks for pregnant women, so even women carrying a baby can enjoy them without risk. Extensive Finnish research data or recent reviews in UK have not found a connection between sauna and fetal harm. Some recommendations in US and UK urge you to avoid hot baths and saunas.
Underlying is the fear of a rise in maternal body temperature, which is claimed to cause miscarriages and birth defects, especially in early pregnancy. But the Finnish Medical Society Duodecim is clear on their guidelines: sauna during pregnancy does not predispose the fetus to malformations.
Extensive Finnish research data have not found a connection between sauna and fetal harm. Moreover, this developmental disorder of the central nervous system is rare in Finland in international comparison, even though practically all pregnant Finnish women take saunas. So it can be concluded that the thermal exposure in enjoying sauna does not cause developmental disorders in the fetus.
It’s not only Finns who think sauna is OK even when you are pregnant. Writing in the British Journal of Sports Medicine, Dr Ollie Jay, Associate Professor in Exercise and Sports Science, says that pregnant women can enjoy hot baths and saunas without raising their temperature to levels that might harm their unborn child.
The review, which compiled the results of 12 studies involved 347 women, found that sitting in a sauna, exercising or enjoying a hot bath did not dangerously elevate temperature. No woman exceeded the recommended core temperature limit of 102F (39°C) across all studies.
Keep the temperature mild and take breaks
However, rapid fluctuations in body temperature that strain the body should be avoided as they can cause contraction. A pregnant woman should therefore take a sauna only in reasonably mild temperature and take good breaks. Pregnant women should also limit their use of the sauna if the steam causes them unusual contractions or if they have a rise in blood pressure during pregnancy or even pre-eclampsia.