2020年11月6日、サーキュラー・エコノミーを代表する企業の面々が集うオンラインカンファレンス「国内サーキュラーエコノミーの最前線」が催された。
廃棄と汚染を出さないデザイン、すなわち設計を行い、製品や材料を使い続け、自然システムを再生するという原則に基づく経済システム「サーキュラー・エコノミー」。EUや北米を中心に主要アジアの各国・都市、企業は既にサーキュラー・エコノミーへの移行を加速している。
LoveTech Mediaでは、サーキュラー・エコノミーの概念整理、及び国内において実践されているサーキュラー・エコノミーの最前線をレポートすべく、本カンファレンスを3編に渡ってレポートする。
そもそも、サーキュラー・エコノミーとは何か?
カンファレンスの主催者であり、オープニングトークを担ったのは、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 代表理事の中石和良氏。同氏が2020年8月に出した書籍「サーキュラー・エコノミー」(ポプラ新書)では、サーキュラー・エコノミーとは、「SDGs(持続可能な開発目標)を達成するための実践的な考え方」だと説明されている。
どういうことか。
中石氏は、サーキュラー・エコノミーという産業モデルの根底には「有限な資源を無駄に使わず、その資源を循環させながらとことん使い続ける」という考え方があり、従来からある「3R」とは異なるアプローチであることを理解することが重要だという。
3Rとは即ち、「Reduce:資源の使用と廃棄物の排出抑制、Reuse:再使用、Recycle:再生利用」のこと。この3Rを核にした循環型社会の取り組みにおいて、日本は廃棄物量の削減やリサイクル率の向上で、実はグローバルでみても飛躍的な成果を収めてきた。だからこそ「今さら“環境”や“循環”と言われても、もう既に取り組んでいるよ」という反応が多いという。
3Rとサーキュラー・エコノミーの違いについては、2050年までに100%サーキュラー・エコノミーにシフトすると発表しているオランダ政府の発表資料でも取り上げられている。
A Circular Economy by Netherlands by 2050
産業革命以降の資本主義の発展と急速な技術進歩やイノベーションは、大量生産・大量消費を前提とした経済システムの上に成り立っている。地球から資源やエネルギーを奪い、製品を製造・販売し、使い終わった ら廃棄するLinear economy(リニア・エコノミー:直線型)だ。
日本でこれまで進められてきた3R、即ち上図真ん中のReuse economyは、廃棄物の発生を抑制し、廃棄物のうち有用なモノを循環型資源として利用。適正な廃棄物の処理を行い天然資源の消費を抑制することで、環境への負荷をできる限り低減するシステムだ。
3Rが、廃棄物を排出することが前提になっているのに対し、サーキュラー・エコノミーは「そもそも廃棄物と汚染を発生させない」ことを前提にした考えに立脚している。モノやサービスを最初に設計する段階から、廃棄物と汚染を生み出さないプランを考え、モノやサービスを使い続け、ぐるぐると巡るサーキュラーの円を開けない。さらにこれは、環境については負荷を与えないだけでなく、「自然システムを再生する」ところまで踏み込む。
3Rの延長線上にサーキュラー・エコノミーがあるという誤解を捨てなければ、この新しい産業モデルに移行できる日は来ないというわけだ。
サーキュラー・エコノミーの実践プロセス
中石氏:「サーキュラー・エコノミーを実現するためのプロセスを分かりやすく図式化したのは、イギリスに本部を置くエレン・マッカーサー財団です。同財団はヨットで単独無寄港の世界一周を行ったデイム・エレン・マッカーサー氏が2010年に設立した財団で、グーグルやユニリーバ、ナイキなどがグローバルパートナーとして参画。NGOや欧州各国の政府なども巻き込んで、サーキュラー・エコノミーへの移行を世界規模で推進しています。」
中石氏:「蝶が羽を広げているように見えるこの図式は、バタフライ・ダイアグラムと呼ばれ、左右に2つの循環が広がっています。右の技術的サイクルは、石油や石炭、金属、鉱物といった『枯渇資源』の循環、左の生物的サイクルは、植物、動物、魚といった『再生可能資源』の循環となります。資源の性質により循環の仕方が違ってくるので、この2つのサイクルは、別々に進めていくことが必要です。」
技術的サイクル(図の右側)では、経済活動のなかで無駄なく使い続けることが基本となり、メンテナンス、シェア、リユースなどが該当する。リユースとなるといったん回収して配送し直さなければならなくなるので、エネルギーや資源、労働力がより少なく済むメンテナンスやシェアなどの“内側の循環”から実践していくことが重要だ。だからこそ、製品の設計段階で、内側から循環させていけるようなデザイン・設計を考えていくことがポイントになる。
一方で生物的サイクル(図の左側)では、再生可能資源は永続的には循環できない。ここで、元の品質を低下、劣化させながらもリサイクルする「カスケード・リサイクル」の出番となる。繊維素材を例に考えると、古着となったジーンズを回収し、椅子のファブリックとして利用し、その後椅子の中材に転用し、さらに劣化すると断熱材や車の緩衝材とするなど、業界横断の連携が必然的に求められることになる。
サーキュラー・エコノミーへの移行の加速要因
総合コンサルティング会社のアクセンチュア・ストラテジーは、サーキュラー・エコノミーによる経済効果は2030年までに世界で4.5兆ドル(約500兆円)、2050年までに2700兆円を創出すると発表。併せて同社による著書「Waste to Wealth」において、サーキュラー・エコノミーを進化させるビジネスモデルとして以下5つをあげている。
- シェアリング・プラットフォーム(Sharing Platforms)
- プロダクト・アズ・ア・サービス(Products-as-a-Service)
- 製品寿命の延長(Product Life Extension)
- サーキュラー・サプライチェーン(Circular Supply Chains)
- 回収とリサイクル(Recovery and Recycling)
中石氏は、サーキュラー・エコノミーは、環境問題・社会問題の解決と経済成長を両立させるシステムだと述べ、この新たな産業モデルへの転換動機を、以下のマトリックスで説明する。
左側2象限「収益の創出」と「コストの削減」は、多くの企業にとってイメージしやすいだろう。また右下の象限「リスクの軽減」については、例えば枯渇性資源への依存度が減少することで、結果として原材料価格が安定するといった要因が考えられる。
また、右上の「ブランドの強化」象限に明記されている、ESG投資の浸透による企業姿勢の変化も大きいだろう。2006年に国連が「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)を発表し、機関投資家が投資する際に企業のESG、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を意識することが提唱され、企業による積極的な情報開示が重要視されるようになった。今では、世界の全投資の約3割にESGが関連しているともいわれている。
ディストピアへの歯止めとなるか
中石氏の著書「サーキュラー・エコノミー」(ポプラ新書)にあるプロローグでは、地球環境が直面する厳しいデータの提示も含まれている。
2019年の「国連気候行動サミット2019」では、北極圏の冬の気温が1990年から3度も高くなり、海水面の上昇とともにサンゴ礁が死滅へ向かっていると警告されました。経済活動や日常生活で生まれる廃棄物の処理による環境問題もかなり深刻です。
世界銀行の報告書によると、現在年間20億トンの廃棄物は、2050年までには年間34億トンに達すると予測されています。さらに、年に3臆トンにも及ぶプラスチック廃棄物はそのうち800万~1200万トンが海へ流出し、海の生態系を脅かす海洋プラスチック廃棄物問題に発展しています。
また、国連が2019年に発表した報告書によると、現在77億人の世界人工は2050年には97億人まで増加すると見込まれています。それなのに資源は枯渇し始め、爆発する人口を支えるエネルギーや食糧は足りなくなる状況です。
-「サーキュラー・エコノミー」(ポプラ新書)より引用抜粋
このままでは、2050年の地球は持続不能に陥り、2100年には人類は地球上には存在していないことになる。そんなディストピアなシナリオが目前に迫っているからこそ、SDGsの達成は必要不可欠な条件であり、そのための具体的な指針がサーキュラー・エコノミーというわけだ。
それでは、具体的な取り組みにはどのようなものがあるのだろうか。レポート第2弾、第3弾では、国内市場における実践例をレポートする。
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