近年、社会における多様性の確保が重要視されてきている。企業はこれまで多様な人材の確保・育成に努め、女性は社会に出て「輝く」ことをしきりに推奨されてきた。しかしそれは、誰のためであり、そして何のためなのか?
そんな疑問に対し、様々な角度から社会の多様性を考える場がセッティングされた。2018年11月29日・30日の2日に渡り、渋谷区神宮前のトランクホテルで開催された「MASHING UP」だ。
女性をはじめとして、異なる業種、性別、国籍、コミュニティの人々が、しなやかに活躍できるような社会を創出する場として企画されたビジネスカンファレンスである。
多様な価値観に触れ、理解することで、これからの生き方やキャリアが変わってくるかもしれない。そして「ダイバーシティ」の本当の意味を一緒に考えてみたい。
そんな国内外多種多様な参加者が来場したMASHING UPの様子をお届けする。
本記事ではMASHING UPについてご紹介し、その後、韓国で性文化を変えようとするスタートアップ企業 ”EVE CONDOME”(イブコンドーム)のキーノートセッション内容についてご紹介する。
MASHING UPとは?
はじめに、そもそもなぜMASHING UPという場が企画されたのか。どのような背景と意図を持ってそれぞれのセッションが設計されたのか。
MASHING UP公式ページ記載の「5 REASONS WHY “MASHING UP”」について簡単に触れる。
1. 組織の価値を上げるため
世界的にみて、女性取締役を1人以上有する企業はそうでない企業に比べて株式時価総額が高い傾向にある。この傾向はリーマンショックがあった2009年以降に特に顕著で、その差は拡大し続けている。
【全世界】でダイバーシティに取り組む企業の株式パフォーマンス推移
(株式時価総額が100億ドルを超える企業)
(出典)Credit Suisse Reserch Institute “The CS Gender 3000:Women in Senior Management”
(注1)2006年1月を100とし、各ポートフォリオの時価総額月次伸び率で延伸。各年末に時価総額及び役員構成を再評価しポートフォリオを修正し、修正後ポートフォリオの時価総額伸び率で翌年分を延伸。
(注2)上記のグラフデータを元にMASHING UP運営事務局にて作成。
2. 不平等をなくすため
世界男女格差ランキング2017
(出典)World Economic Forum “The Global Gender Gap Report 2017”
世界経済フォーラム(WEF)が発表した2017年版「ジェンダー・ギャップ指数」によれば、日本は男女平等ランキング114位。教育達成度、健康と生存、政治的エンパワーメントという4種類の指標を基に格差を算定しているこのランキングで、3年連続で順位を落としている。
3. 最善を求めて意見を交わすため
【国別】企業における女性役員の割合
(出典) Credit Suisse Reserch Institute “The CS Gender 3000:Women in Senior Management” , 2013
日本企業の役員は、他国に比べて圧倒的に女性の比率が低いというデータがある。先進国のみならず、実はカザフスタン(16.0%)、インドネシア(5.0%)、トルコ(6.6%)など女性に厳しいイメージを持たれがちなイスラム圏に比べてもさらに低い。
4. 協力して社会を動かしていくため
日本における障がい者雇用の総数と雇用率
(出典)厚生労働省「障害者雇用状況調査」(平成21年6月)
障がい者を雇用する企業は増えつつあり、従業員数が1000人を超える企業では約半数が法で定められた人数を雇用できている。ここでは少しずつだが、多様性の輪が広がりはじめていると考えることできるだろう。
5. 理想と現実のギャップを埋めるため
女性が働くことに対する意識調査(左:女性回答、右:男性回答)
(出典)内閣府男女共同参画局「男女共同参画社会に関する世論調査」(2016年9月)
現在は男女共に半数以上の人が、子どもがいても女性は働き続ける方がいいと考えている。しかし実際には、少なくない数の女性が出産を機に離職を経験している。
イベントテーマ:Bravery & Empathy – 勇気と共感
初日のオープニングでは、今回のMASHING UPの企画意図について、株式会社メディアジーン執行役員の遠藤祐子(えんどうゆうこ)氏より説明があった。
遠藤氏:私たちはこのMASHING UPの活動を通じ、人と社会をエンパワーして、イノベーションを起こそうと思っています。
人と人が出会い、異なる文化、世代、あるいは業種、ジェンダーなど、違う人との繋がりができ、新しい出会いが生まれる中で化学変化が起こるはず。
社会構造がドラスティックに変わる今、知るべき情報、あってほしい人など、皆さんに知っていただきたいセッションを沢山ご用意しました。
今回のテーマは、「Bravery & Empathy – 勇気と共感」です。
まず「勇気」と聞くと、どのようなことを思い浮かべますか?
社会活動を推し進める勇敢な女性活動家のようなイメージでしょうか?
私たちは、そういった華々しい活動だけではなく、一人一人が自分自身であり、自分自身である勇気を持つこと、自分の言葉を持つことも「勇気」だと捉えています。
また「共感」について。
テクノロジーが発達し、コミュニケーションが希薄になった今だからこそ、深い対話と共感こそが求められています。
ビジネスや製品の開発の場でも、「共感」というキーワードはグローバルレベルで注目されています。
私たちはこの「Bravery & Empathy – 勇気と共感」というテーマで、今回のセッションをデザインしました。
他者との違いを求め、互いに深くわかりあい、個性を尊重し合い、誰もが自分をスペシャルだと思える世界、そんな社会を作っていきたいと思っています。
2日間で実に124人43セッションが企画されていた。そのどれもが、これからのダイバーシティ社会を目指す上で必要であり、未来を見据えた内容であった。
誰もが買えるコンドームで韓国の性文化に革命を起こす
初日のキーノートセッションでは、動物性素材を使わないヴィーガンコンドームやナチュラル素材の生理カップなど女性を支援するプロダクトを開発・販売するEVE CONDOME(イブコンドーム)のファウンダー、GINA PARK(ジーナ・パーク)氏が登壇された。
セックスと聞くと、どんなイメージがあるだろうか?我が国・日本と同様、韓国においても「恥ずかしいこと」として捉えられている。故に話題にされることもなく、男性のみが市場の主なターゲットになってきた。
「結果としてマーケティングも非常に挑発的な内容となることが多く、女性は常に『性の対象』として扱われてきました。」
韓国では20歳以前の性交渉はタブーとされており、コンビニなど店舗でコンドームを買おうとすると、大人達から冷ややかな目で見られたり、攻撃的な言葉を浴びせられることが多い。特に女性が買おうとしたら、その人自身が安っぽく、性にだらしないイメージで見られてしまう。
その結果、全体の40%程度しか避妊をせず、半分以上が避妊していない状況だ。性文化については、アジアでも最も保守的な国の一つだと言えるだろう。
「年齢、ジェンダー、性的嗜好、職業、住所、国籍、性別にかかわらず、この惑星の一人一人が安全で安心なセックスを受ける権利があるはずです。
そのため、私たちはコンドームを『成人向け製品』というイメージではなく『ヘルスケア製品』として理解してもらうべきだと考え、3つのコンセプトを掲げています。」
「1つ目はHealthy(健康)。私たちの身体で最も大事な部分に直接触れるものなので、化学的に安全なものでなければならず、化学薬品を一切使用していません。
2つ目はNatural(自然)。私たちのエゴでどんな動物が犠牲になってもいけません。コンドームの品質テストでは動物実験がなされることが一般的であり、例えばコンドームを別の動物の膣の中に塗って、最終的に殺してしまうことも多いのです。私たちの製品は、地球上の生態系に優しい、ヴィーガンコンドームです。
3つ目はEqual(平等)。先ほども申し上げた通り、年齢、ジェンダー、性的嗜好、職業、住所、国籍、性別にかかわらず、誰もが使用できるに製品開発をしています。」
このようなコンセプトの製品から、一般的なコンドームは購入者の80〜90%が男性であるのに対し、EVE CONDOME社製品は70〜80%が女性だという。
「製品を作って販売しておしまい、ではなく、私たちは自分の体の中に入るものへの関心の醸成を目指しています。」
性分野のパタゴニアになりたい
EVE CONDOME社では、コンドーム以外にも様々な製品を開発・販売している。
EVE personal gel(イブパーソナルジェル)は96.48%のオーガニックジェルを使用しており、セックスの際に安全に使用でき、間違って飲み込んでも健康に害を及ぼす化学物質は入っていない。また、女性の膣と同等の酸度と濃度のオーガニックジェル成分を使うことで、使用の際の身体への不快感は一切なく安全な物質という。
95%オーガニックコットンを使用した生理用下着EVE P. Panty(イブPパンティー)は、同社特別5層技術によって生み出された最高の生理パンティー。漏れがなく、整理中の不快な臭いもせず、バクテリアフリーだ。着用後、洗って何度でも使えるので、ナプキン・タンポン・そのほかの生理用品は必要ない。
「韓国では実に80%の女性がナプキンを使っています。しかし、基本的に一回使ったら捨てられるもの。毎日大量の生理用品ゴミが廃棄されているので、地球に対する配慮をしたいと考えました。」
また、月経カップであるEVE cup(イブカップ)も、100%医療用シリコンを利用した、再利用可能な製品。月経をカップの中に吸収することなく閉じ込めるので、洗って何度でも使えるというわけだ。
「私たちは性的な存在であり、安全に行為をする権利を持っています。世の中でタブーであった”性”の既成概念を打ち破って、性分野のパタゴニアになりたいと考えています!」
韓国の人たちにも多くの選択肢を与えたい
プレゼンテーションの後、パネルディスカッションという形でジーナ氏が各種質問に答えていった。モデラーは、MASHING UP企画考案者の一人である株式会社マッシュ 代表取締役の中村寛子(なかむらひろこ)氏だ。内容をピックアップしてご紹介する。
中村氏:セックスや性がタブーという風潮は、日本にも共通するところがあると感じます。コンドームはいつも持っていらっしゃるのですか?
ジーナ氏:はい、持ち歩いています。持っているということが、即ち自分のセクシュアリティをコントロールしているという実感につながると考えています。
中村氏:私の友人にEVE CONDOME社の取り組みを話したところ、「良いムーブメントだと思うけど、教育が変わらないと性産業も変わらないと思うよ?」と言ってました。その辺りはいかがでしょうか?
ジーナ氏:おっしゃる通りで、私たちもフェミニズムや性教育、ジェンダーレスといったテーマで活動・研究されている教師グループとコラボしています。
中村氏:お話いただいた製品の中で、月経カップについて教えてください。どういう背景で開発されたのでしょうか?
ジーナ氏:少し前に、発がん性物質が生理用品に使われているということが韓国内で発覚しまして、これが韓国の女性の意識を大きく変えるきっかけになりました。韓国にはタンポンかナプキンしかありません。でも、米国や日本にはちゃんと月経カップがあります。韓国の人たちにも多くの選択肢を与えたいと思って、開発しました。
中村氏:タンポンやナプキンに慣れているので、人々の気持ち的に、参入は難しいのではと感じたのですが、いかがでしょうか?
ジーナ氏:確かに、啓蒙が必要です。でも、タンポンやナプキン以外のソリューションがあることを教えるのは、絶対に必要です。
シチュエーションごとにチュートリアル化した動画を作って、啓蒙していく予定です。
ジーナ氏:カップって聞くと大きいと思うかもしれませんが、こんなサイズ感です。その人にフィットするよう、サイズのバリエーションも用意しています。
私たちは、自分たちの膣の形状がどうなっているか、誰も教えてくれません。なんとなく三角形、くらいに思っている方が多いのではないでしょうか。
月経カップを使うと、自然と自分の膣のことや状態を学ぶ人が増えます。
またカップを使うことで、自分の経血の色を生まれて初めて見ることができます。経血は汚い色ではないし、汚いものでもないです。自分自身の健康状態を知ることができるものなのです。
もちろん、最初は抵抗があると思いますが、慣れていきますよ。
中村氏:最後に一言お願いします。
ジーナ氏:セックスの領域で、問題を隠し続けることをそろそろやめなければならないと考えています。
お金を払って買う、ということに自分の信念が関わっているからこそ、私たちの活動はNGO(非政府組織)ではなく、ビジネスとしてやっています。それによって私は支えられています。
セックスは自然な行為であるにも関わらず、教育がまだまだ少ない領域なので、私たちの活動を通じて改善していきたいと思います。
編集後記
今回は韓国の性文化事情について教えていただきましたが、日本も同様の課題を抱えていると感じました。
セックス=タブーという暗黙の了解が蔓延しているからこそ、若者の避妊に限らず、セックスの若者離れや、夫婦の妊活フェーズで周りに相談しにくいなどの現状につながってしまっていると感じます。
自分の体の中に入るものへの関心を醸成し、自分たちの身体のことをもっと良く知る。これは日本でも大事な教育分野でしょう。
Forbesが実施する30 Under 30 Asia 2018にも選出された同社は今後、日本でも積極的にマーケティングパートナーを探して進出されるとのことでした。
MASHING UP会場内では同社製品も展示されており、講演後、参加者は積極的に手にとってご覧になっていました。
国内での同社製品展開に興味のある企業様は、ぜひこちらにご連絡さててみてはいかがでしょうか。
official@evecondoms.com
今後もLove Tech MediaではEVE CONDOME社を注視して参りたいと思います。
会場で展示されていたEVE CONDOME社ブース