妊活分野でオンラインコンシェルジュサービスを提供する株式会社ファミワン。前編では同社代表取締役の石川勇介氏にお話を伺った。
後編では、同社にて妊活コンシェルジュアドバイザーをされている不妊症看護認定看護師の西岡有可氏と、実際に『famione』を使いながら妊活を進める丸山氏(仮名)に、それぞれお話を伺うことにした。
医療機関勤務の看護師として感じていた課題
まずは不妊症看護認定看護師の西岡有可氏にお話を伺った。
--まずは西岡さんの現在のお仕事について教えてください。
西岡有可(以下、西岡氏):今は不妊症看護認定看護師(※)という立場で、ファミワンの妊活コンシェルジュサービスのアドバイザーをしています。アドバイザーチームの一員として、ユーザーの方からの相談対応や、提出された妊活チェックシートの確認と回答業務などを行なっています。
※認定看護師制度とは、特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護実践のできる認定看護師を社会に送り出すことにより、看護現場における看護ケアの広がりと質の向上をはかることを目的としています。西岡氏は不妊症看護領域における認定看護師となります。全国に171名(2017年8月時点)のみ認定されています。
--どのような経緯でファミワンさんにジョインされたのですか?
西岡氏:もともとはずっと、都内の大きな病院の生殖医療部門や、不妊症治療をするクリニックで働いていました。仕事自体は使命感を持って取り組んでおり、非常にやりがいがあったのですが、一点ストレスに感じることがありまして。クリニックという経営体の中では、基本的に”転院”を勧めることができなかったんです。看護師の気持ちの面で患者さんにずっと寄り添って対応したいというのはもちろんですが、医師の方針に反したケアはできない、という側面も正直あります。
選択肢として転院を考えても良いケースの場合にその選択肢を提示できない、というもどかしさがありましたね。患者さんにとって本当に必要なことって何なんだろうって。
そんな中ご縁があってファミワンのことを知り、より中立的な立場で患者さんに寄り添えると感じて、ジョインしました。
--なるほど。転院を考えても良いと思われるのは、どのようなケースなのでしょうか?
西岡氏:色々あります。同じクリニックで何度も体外受精をしているのに結果が伴わなかったり、ドクターのやり方が合わないように思われたり。また、クリニックには体外受精を実際に行う培養室があるのですが、そこでの技術はクリニックによって本当にまちまちでして、培養液など使っているものが合わないかもしれない、と感じることもあります。あと患者さんの気持ち面でも、妊娠ができていない状態であるところにずーっといるのは苦痛だと思うので、セカンドオピニオンを受ける意味も込めて、転院を選択肢として提案するのは十分アリだと考えていました。
文字のやり取りだとユーザーさんがズバッと言ってくれる
--ファミワンさんでは、実際にどのようなアドバイスをされていらっしゃるのでしょうか?
西岡氏:内容としては、定期的なアセスメントを通じての妊活チェックと、病院選びをサポートするという、大きく2つに別れています。
前者では、登録後の細かいヒアリングと、毎月もしくは3ヶ月ごとの定期的なアンケートを通じて、記入内容に応じたフィードバックをするようにしています。
後者では、より広い選択肢の中で病院選びや転院の検討ができるように、各医療機関に関する様々な情報提供を行なっています。先ほどお伝えした課題感もあって、中立の立場で医療機関をリコメンドできるのは、ユーザーさんにとっても大きなメリットだなと日々感じています。
--LINEでのサポートと聞くと、どうしても定型文のような回答をイメージしますが、実際の対応メッセージを拝見して、非常に丁寧なアドバイスが記載されていてびっくりしました。LINEだからこそ気をつけていることなどはありますか?
西岡氏:看護って、基本的に目の前に患者さんがいらっしゃることが前提じゃないですか。でもファミワンでは、その人のお顔や表情が見えない中でアドバイスをするので、最初は非常に難しいと感じました。この回答であっているのかとか、どのくらい理解をされていて、どれくらい説明を足したらいいのかなど、今でも苦慮することが多いです。
ユーザーの方への回答をする前に、チーム内でよく相談していますね。
--スカイプのようなビデオ通話などは選択肢になかったのですか?
西岡氏:もちろん検討はしましたが、最終的には「文字情報でのやり取りが良い」という結論になりました。
いつでも相談できるということが最大のメリットです。それに、LINEのような文字のやり取りだと、ユーザーさんがズバッと言いやすいんですよ。辛口な意見だったり、すごくディープな性交渉に関するお悩みだったり。対面や電話越しだとなかなか伝えられない内容も、文字としてであれば伝えられる方が多い印象です。あと、感情表現もしやすくなりますね。妊活がうまく進まないと、どうしてもマイナスの感情になります。そんな時に感情を出していただきたいのですが、文字であれば出しやすいという側面がありますね。
他にも、後からやり取りの履歴を見返せたり、ご主人さんにそのままシェアできたりするのも、文字でのやり取りのメリットですね。
--なるほど。感情的なメッセージは、やはり多いものでしょうか?
西岡氏:大なり小なり頂きますね。特に女性は、小さい頃からおままごとをして「親になる自分」を意識して育っています。私たちはこの考え方を『生殖物語』と呼んでいて、無意識に自分がママになることが刷り込まれていきます。それが大人になって突然不妊という事実を突きつけられても、理解が追いつかないんです。また、妊活中は毎月が合格判定を待っているような状態です。妊娠しない自分に対して自尊感情が低くなりやすくもあります。不妊治療中であれば、精神的負担に加えて痛みなどの身体的負担、自由診療であるための経済的負担、などもあります。
それでどうしても、感情的になってしまうことはあると思います。
私たちのミッションはプロセスに寄り添ってあげること
--妊活を進められる中で、どこかで「決め」のタイミングを作る必要ってあると思うのですが、その辺りはどのようにアドバイスされていますか?
西岡氏:女性はどうしても年齢が重なる毎に妊娠がしにくくなるというデータがあるので、具体的な数値情報をお伝えした上で妊活の進め方を話し合うようにしています。例えばですが、●●歳までの妊娠率は統計的に△%なので来年の誕生日までに妊娠しなかったら治療に関して考え直すタイミングにする、ということを選択肢として提示して、ユーザーさんがちゃんと納得して動けるように道筋を立てるようにしていますね。
私たちのミッションは、ユーザーさんが自分たちで判断する力を持って妊活の進め方を決めていただけるように、そのプロセスに寄り添うことです。私たちの業界ではこのことを『意思決定支援』と呼んでいます。
--自分ごととして情報を整理した上で考えれるようにする、ということですね。
西岡氏:そういうことです。何かを決めつけて提案するのではなく、あくまで”選択肢”として提示をする、ということがポイントと捉えています。
--男性についてはどうでしょうか?
西岡氏:最近講演などで夫婦のお二人にお話することも増えているのですが、男性の方が興味津々で聞かれるケースも多いですよ。例えば先日の講演では、子供が絶対に3人欲しい場合、何歳くらいから妊活すると90%できるか?70%できるか?みたいなクイズを出して、それぞれグラフで示したものがあるのですが、男性は結構そういうのが好きみたいです。自分ごとになると、ちゃんと聞いて頭で考えて整理しますね。
そもそもファミワンも経営陣含め、チームがほとんど男性なんですよね(笑)。
--男性の自分としても、その気持ちがよくわかります。最後に、今後の目標や取り組まれたいことなど教えてください。
西岡氏:やはり性教育ですね。これはお子さんだけではなく、親御さんにも受けていただきたいなと思います。性というものが非常に尊いものであることを、子供のうちから理解してもらうのは、非常に重要だと考えています。また親御さんとしても、お子さんが何か性被害にあわれた時の対応とか、改めて性について考える機会を作ることが、全体的な理解の向上・促進につながると考えています。
--本日は貴重なお話をありがとうございました!
男性不妊・体外受精・2度の流産を超えて
最後に、実際に妊活コンシェルジュ『famione』を利用している丸山氏(仮)にお話を伺った。
--本日は宜しくお願いします!まずは丸山さんの妊活歴について教えてください。
丸山氏:時系列にお伝えしますと、2015年2月に入籍をして、9月に挙式しました。挙式前の8月くらいから子供が欲しいとなって、避妊をやめました。でも年末になってもできないので不安を感じ始め、翌年6月には検査を始めるようになりました。最初は私1人で検査に行ったのですが、進めていく中で旦那さんにも検査に行ってもらい、9月には男性不妊の傾向が見られました。そこから、本格的に妊活を開始しました。
--男性不妊とは、具体的にどういう症状だったのでしょうか?
丸山氏:『精子無力症』という症状です。精子はちゃんといるのですが、運動率が低かったり、量もWHOの基準こそ上回っているものの多くはない、という状況でした。このままタイミング法を続けていても妊娠は難しいとなって、人工授精に進もうということになりました。
採取した精液を綺麗に濃縮してから子宮に戻すという処理をするのですが、その際に精子の数が一定数以上いないと、戻しても確率的に高くない、と言われました。チャンスは7回あったのですが、一定数以上になったのは2回しかなく、しかもその事実は当日わかるので、ダメだったときは年12回しかないチャンスが…と毎回落ち込み、焦りました。そもそも確率が高くない治療法を続けることに疑問を感じ、2回目がダメだったら別の方法に進もうと決めました。
そして、2回目も結局うまくいかなかったので、体外受精に切り替えることにしました。
--なるほど。現在はどのような状況なのですか?
丸山氏:体外受精を始めてから1年ほど経過するのですが、その間に2度流産しまして、現在は体を休ませています。1回目は2017年8月末でして、心拍が確認できて不妊治療の病院も卒業と言われた当日に、いきなり赤ちゃんが出てきてしまいました。進行性流産です。2回目は、毎週の検診で育ちが良くないことは指摘されていまして、1ヶ月後の2018年3月末に流産ということがわかりました。こちらは稽留流産です。
流産をするとどうしても一定期間体を休ませる必要があるので、妊活のスピードの観点でいうと、もう一年経ったんだ、という感覚ですね。正直、焦りが出てしまいます。
--そんな中、ファミワンご利用の感想はいかがですか?
丸山氏:もともと私は都内の不妊治療病院に通っていまして、2回妊娠という結果に導いてくださったので、とても信頼していました。ただ、2回流産した理由がわからなくて。不育症の検査をしても、特に問題無いようでした。
そんな中、次の検査ステップを含めてどのような選択肢が考えられるのか、そもそもどの病院が良いのか相談したくて登録しました。最初のアセスメントで悩みを詳しく書いたのですが、思った以上にしっかりと丁寧に、検査内容や病院選びのポイントを返答してくださったので、とても有難かったです。
--LINEでのやり取りって、もっと定型文のようなものかと思いましたが、個別に細かくアドバイスが記載されていますね。
丸山氏:そうですね、しっかりと回答してくださいます。
--『famione』サービスは、定期的なアンケートの入力内容へのフィードバックが中心ということで、頻繁なやりとりではないかと思いますが、その辺りは利用者としていかがでしょうか?
丸山氏:実際に悩むタイミングって当然何度もあるのですが、そう頻繁ではないんですね。私の場合は、何かを決断する時に情報を知りたくて相談をする、という使い方を主にしています。ですので、このペースはちょうどいいのかなと感じます。LINEを使って相談できるというのも、生活にフィットした感じでいいなとは思います。
当事者として積極的に発信していきたい
--妊活をされていると、感情面で落ちこまれることもあると思いますが、そのような時はどうされていらっしゃいますか?
丸山氏:私の場合は、赤ちゃんを見たり親子を見たりして落ち込む、ということは特にないです。ただし、友人から妊娠報告を受けた時は、結構きますね。すごく複雑なのですが、その人たちにマイナスの感情を抱くわけではなく、自分自身の中が妊娠・出産への気持ちで占領されて、変な焦りが出てきてしまいます。
私自身治療歴が長いので、ずっと妊活のことばかり考えていると、おそらく抑うつ状態になってしまうと思うんです。ですから生活の一部として捉えたく、持病を持っているくらいの感覚で、自分の感情と付き合うようにしています。
あとは、そういう時こそ仕事に邁進したり、旦那さんに話をひたすら聞いてもらったりなどで、意識を妊活以外のものに向けるようにしています。
--ファミワンサービス含め、もっとこうなって欲しい、という事はありますか?
丸山氏:やはり、男性にもっと使ってもらうサービスになって欲しいなと思います。
今ファミワンさんは企業の福利厚生でもサービス展開をされようとしているので、より男性にとっても身近な話題になって来るのかなと思っています。
--なるほど、有難うございます。最後に一言お願いします。
丸山氏:私自身、妊活の当事者としてもっと世の中に発信したい、と思うようになりました。今の妊活とか不妊治療の領域って、話題としてどうしても避けられがちなんですよね。タブー的な雰囲気です。
この空気感を打開するためには、当事者である私たちが、積極的に発信していくことが大切なんだなと、ファミワンさんのサービスを使ったり、関係者の方々とお話をする中で気づかされました。
今後も私でできることは、どんどん取り組んでいきたいと思っています。
編集後記
本記事では、実際に妊活をサポートしている側とされる側のお話を伺いました。
とても素敵だと感じたのが、サポートする側のみならず、妊活当事者の方からも積極的に発信をしたい、という声が聞こえてきたことです。
当事者の声が増えることで、我が事として認識する方も増えていきます。
妊活・不妊治療領域の話題がより身近なテーマとして発信され、誰もが自分ごととして妊娠について考えることができる世の中になって欲しいと、関係者の皆様へのインタビューを通じて率直に感じました。
これからもLoveTechMediaでは、LoveTechな企業としてファミワンさんを追って参りたいと考えております。
本記事のインタビュイー
西岡有可(にしおかゆか)
不妊症看護認定看護師
国立看護大学校・大学院卒業 看護学修士
大学院にて「不妊治療を受ける女性の思いとかかわり」の研究に取り組みつつ、国立成育医療研究センター生殖医療外来にて勤務。その後、生殖医療専門クリニックにて10年勤務。 某IT企業「妊活コンシェルジュ」として企業内妊活相談担当。ファミワンのアドバイザーとして、LINEサービス「famione」のアドバイスを担当。
フジテレビドラマ「隣の家族は青く見える」医療監修、企業・ホテルにて社員様向け、ご夫婦様向けに「妊活に関するセミナーを担当。