課題先進国だからこそデザイン領域含めたAIリテラシー教育が必要 〜AI/SUM Report 4

イベントレポート

 日本経済新聞社が主催する、人工知能(AI)の活用をテーマにした初のグローバルイベント「AI/SUM(アイサム)」。「AIと人・産業の共進化」をメインテーマに掲げ、4月22日〜24日の3日間かけて東京・丸の内で開催された、大規模ビジネス&テクノロジーカンファレンスである。6月に大阪で開催されるG20に先駆けた取り組みとも言える。

 レポート第4弾の本記事では、「課題先進国日本でAIスタートアップが注目される理由!?」というテーマで設置されたセッションについてお伝えする。

 高齢化、人手不足、地域間格差の拡大など、多くの課題に直面する日本。そこから生まれるAIスタートアップは、社会課題解決を大きなミッションに掲げているのが特長であり、強みでもあると言える。起業家、投資家双方の立場から、その特長と強みについてディスカッションされた。

<モデレーター>
・櫛田健児(くしだ けんじ)氏
スタンフォード大学 Research Scholar

<登壇者>※写真左から順番に
・金井良太(かない りょうた)氏
株式会社アラヤ 代表取締役

・中村晃一(なかむら こういち)氏
Idein株式会社 代表取締役

・郷治友孝(ごうじ ともたか)氏
株式会社東京大学エッジキャピタル/株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)代表取締役社長

・仮屋薗聡一(かりやぞの そういち)氏
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 会長 株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージング・パートナー

・伊佐山元(いさやま げん)氏
WiL, LLC General Partner / CEO

》AI/SUM 2019記事一覧はこちら

ベンチャー投資家から見た日本のAIスタートアップ事情

 登壇者5名のうち、まずは投資家3名より、ベンチャー投資家から見た日本のAIスタートアップ界隈に対して感じていることについてお話された。

創業のタイミングからグローバル展開を意識すべき(郷治友孝氏)

 大学関係ベンチャーキャピタルとして、これまでに累積で540億円以上となる4本のファンドを運営し、約100社に投資を行ってきた東京大学エッジキャピタルでは、AI関係企業への投資も多くなってきており、AI/SUMにも10社以上の出資企業が登壇ないしはピッチ出場をしている。

 課題先進国である日本のスタートアップがグローバルレベルで活躍する条件として、創業当初からチーム及びパートナー企業がグローバル展開を意識することが、ポイントだという。

「例えば出資先のMUJINという知能ロボットコントローラメーカーは、創業者が日本人とアメリカ人で、最初からグローバル展開を目指して、現在世界各国でプロダクトが活用されています。

また、同じく出資先の自律制御システム研究所(ACSL)も、千葉大学発のドローンを活用した無人化システムの会社なのですが、元米ボーイング社に勤務していたアメリカ人研究者がCTOに就任しております。

このように、意識して海外の創業者が入っているような会社が、日本にもっと増えていったら良いと感じています。

大企業こそ本業でのオープンイノベーションが必要(仮屋薗聡一氏)

 日本ベンチャーキャピタル協会 会長の仮屋薗氏は、昨今、日本のベンチャー投資におけるマクロな視点での流れについてお話された。投資界隈のエリアセクター別で「AI」がトップになったのは2017年〜2018年にかけてだという。2015年以前は10位以下だった状況から急浮上している背景として、大企業のオープンイノベーションの流れがあるという。

 協会の会員企業によるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が急激に伸びてきたようだ。これが、昨今のAIブームを牽引する本丸となっている印象だという。

「AIをメインの潮流とした企業によるオープンイノベーション推進の一方で、この2年間で、投資がPoC(Proof of Concept)で止まっている企業やベンチャーが多い、という話が聞かれるようになってきました。

その要因は、日本の大企業AI投資が『新規事業領域で何かをやろう』というアプローチが多いことに起因していると感じます。世界のメジャーCVCは、本業における収益機会を探すようにしており、そこが日本との差がある印象です。

その中でも、例えばJRさんによる『JR東日本スタートアッププログラム』などは、鉄道事業などの本業領域におけるイノベーションを推進しており、非常にユニークだと感じています。

このように本業でAIを使い始めると、大きな社会課題解決の動きになると感じます。

自動走行こそ日本にチャンスあり(伊佐山元氏)

 シリコンバレー・パロアルトに拠点を置くWiLの伊佐山氏は、海外視点からの日本の強みについてお話された。

 近年のAIブームの中で圧倒的に実用化が進んでいるのは”weak AI”(弱いAI)、つまりプログラムを実行していく類のAIである。画像解析などはわかりやすく、圧倒的に実用化が進んでいる分野である。

 その中で同社の地元・シリコンバレーにおける課題としてあげられたのが「車の自動走行」だという。

「車の自動走行技術を実装する上で大事なことは、具体的な画像データです。つまり、しっかりと白線が敷かれていたり、標識がちゃんと表示されている、といったことがAI学習において大切になります。

でも、アメリカの道路インフラはしっかりと整備されているとは言い難く、このインフラが弱いことで、想定以上にAI開発に苦労しているという現状があります。また、インフラだけではなく、実際に運転する人のマナーも重要であり、例えば運転が荒い人がいると、自動走行の車が計算しきれなくなり、止まってしまいます。

つまり、自動走行への期待が高まる一方で、インフラや人々のマナーの問題で、AIが期待通りの動きをしないことがあります。

そういう意味で、標識や信号のインフラが整っており、人々の運転マナーも大変良い日本は、実はチャンスなのではないかと感じています。

だからこそ、自動走行の法的制限がある日本の現状は、非常にもったいないと感じています。

AIスタートアップ2

次に、実際にAIスタートアップとして事業展開する2社による事業紹介がなされた。

人類の面白い未来を期待しよう(金井良太氏)

 高度なAIソリューションを提供する株式会社アラヤは、大きく以下3軸での事業展開をしている。

  • ディープラーニングを活用した画像・IoTセンサー識別ソリューション
  • ディープラーニングの精度を下げないように演算量を削減する技術提供
  • 深層強化学習の応用(これからPoC段階)

 特に2番目の「ディープラーニング小型化ソリューション」について、ディープラーニングが研究・開発から実用・普及フェーズに入ってくる中で、スマートフォンや自動車・家電といったエッジ側での処理実行ニーズが高まっており、これらを実現する小型化・高速化・低消費電力化ソリューションとして注目されている。同社独自開発のディープラーニング演算量削減技術は、Microsoft Innovation Award 2018の最優秀賞を受賞している。

「人類の面白い未来を期待しよう、というコンセンサスが弊社内にあり、私たちが想像していないような産業が、AIの発達により誕生すると期待しています。

インターネットが登場した時と比較して考えると、今はまだ『ホームページを作成します』みたいな段階だと思うんです。今後、検索サービスやSNSに準じたものが出てくるはずです。

今は、知っている問題にAIを当てはめる形が多いですが、今後、AIを使って新しく解ける問題を見つけるようになるでしょう。そしてそれらを解くことで、人類の未来に劇的な効果が現れると期待しています。

安いデバイスに乗せて大量に運用する(中村晃一氏)

 ディープラーニングによる画像認識等の推論技術を、ハードウェア製品に搭載する技術に取り組むIdein株式会社。

 ディープラーニング演算を行うには、できるだけ高性能なプロセッサを利用したい一方で、製品価格や消費電力がかかりすぎるという課題がある。また熱や湿気、埃といった環境を考慮する必要もあり、ハードウェアについてもしっかりと考える必要がある。現状では、このソフトとハード、両方において選択肢が少ないという状況がある。

 そんな中、クラウドやサーバーではなく末端のデバイス上でディープラーニングを実行するというエッジコンピューティングのニーズが高まっており、同社はそのための「最適化コンパイラ技術」を研究開発している。

「エッジコンピューティングは、『いかに安いデバイスに乗せれるか』というエッジサイドにばかり注目が行きがちですが、実は『どうやって大規模に運用できるシステムにするか』という点が盲点になっています。

実は弊社は、そっち側がメインの売り物でして、『大量のデバイスにAIを配って、遠隔運用する』ためのクラウドサービスを提供しています。

昨今ではソフトウェアでできることが増えており、これに併せて組み込みソフトウェアの立ち位置も変わってきております。

弊社はAIの周辺技術企業として、『安いデバイスに乗せて大量に運用する』というソリューションを提供しております。

投資家&起業家パネルディスカッション

 次にスタンフォード大学 Research Scholarの櫛田健児氏をモデレーターとして、登壇者全員を含めたパネルディスカッションタイムとなった。投資家から起業家への質問など、登壇者同士の議論も活発になった中で、それぞれの議題についての意見や思いをピックアップしてお伝えする。

議題:日本社会でAIにより実現を期待する具体的なことは?

<議題内容>
伊佐山氏(WiL):よく、AIを使うことで劇的に効率化される領域に、皿洗いや食器の片付けといった人の手がかかるものがあげられますが、実際の現場で「これができたらすごく良い」なんて具体的なものがあれば教えてください。

 

中村氏(Idein):在庫の管理や店頭品出しといった、小売現場で人間がわざわざやらなくてもいいけど重要なことを、AIにやってもらいたいと思います。

例えばコンビニへプリンを買いに来たけど、プリンがなかった時の機会損失って、大きいじゃないですか。

こういった、人間が目視しているものを安価に代替できるようにできたらと思います。

 

金井氏(アラヤ):今後、人の手がマシンで置き換えられる可能性があると思っていまして、5Gが前提になる世の中では、ロボットを遠隔で操作して仕事をするのが可能になると思います。

それが実現するようになったらデータ量もすごいことになって、自律エージェントとして将来的に裏に人が入らない状態になるのではと期待しています。

時間はかかるとは思いますが

 

仮屋薗氏(日本ベンチャーキャピタル協会):労働力を代替するという観点ではなく、人が持っているコンピテンシーといった能力を再評価するような仕組みに興味があります。

例えば、ボイス・レコメンデーションの領域。

声って感情・感情傾向値・倫理観といったものが出やすいらしく、この部分をAIで分析すると、フェイクにかかりにくい判断ができると感じます。

いわゆるHRTechの領域で、個人が持っている能力の再発見・再配置ができる仕組みになると非常に良いと感じまして、日本が得意とする非言語領域における機能開発をしていくことが、課題先進国として世界に広がっていきやすいポイントではないかと感じます。

議題:データ活用における倫理面はビジネスシーンでどのように対処している?

<議題内容>
伊佐山氏(WiL):海外ではヒューマン・センタードAIということで、AIが便利である一方で、悪用するリスクを考えるべきという動きが加速しています。AIをどう防ぐか、もしくはどう使うかなどと、議論は複雑化しています。

よく、AIが本当にワークする国は独裁国家だ、とも言われており、トップダウンで推進する方が勧めやすいといった見方もあります。

個人的印象としては、日本は音声・画像を使うことによるプライバシー問題が表面化しやすいと感じており、誰かが音頭を取って仕切る人がいる必要があると感じます。

センサーが安くなって情報が取りやすい社会において、プライバシーの侵害といった強烈な倫理の壁に対して、ビジネス現場ではどのような対処をされているのでしょうか?

 

中村氏(Idein):まさに、そういうご相談はすごく多いです。

基本的には我々は生のデータは取らないです。エッジコンピューティングなので、生の画像をどこかに保存したりとかではなく、カメラで捉えた人の数を数えるだけとか、そういう使い方をします。

ただ、だからと言ってオーケーかというと、気持ち悪いというご意見は絶対につきものです。また、撮られている人からは、画像を撮られているのか計算されたものが格納されているのか、わからないですよね。

ポイントは、導入することによって何かがすごく便利になる、という体験提供をすることだと考えています。

例えば無人コンビニなどは、すごい量のデータが抜かれていますが、それに勝る体験提供ができている例だと思います。

UX設計が勝負どころになるだろうな、と感じています。

議題:AIに対する日本のリテラシーについて思うことは?

<議題内容>
郷治氏(東京大学エッジキャピタル):AIスタートアップだけでなく日本全体のリテラシーが高まっていく必要があると思いますが、基盤的なビジネスをされていらっしゃるからこそ、そのあたりの取り組みや必要性などについて感じることを教えてください。

 

金井氏(アラヤ):人によってもちろん幅はありますが、企業におけるAIリテラシーは確実に高くなってきていると思います。3年前はAIを実装するというサービス提供で終わっていましたが、現在はすでにAIを実装した上でのご相談が多くなってきており、じわじわとレベル感が上がっている印象です。

一方、一般の方に対しては、AIを使って何をどこまでできるのかがまだ浸透していないとも感じており、もっとAIについて伝える機会が必要だなと感じます。

 

中村氏(Idein):ビジネスモデルやデザイン論といった領域含めたリテラシー教育の必要性を感じています。この技術がどう、サステイナブルなものを作っていくのか。そういったことを設計する人材不足の方が、大問題なんじゃないのかと思います。

 

伊佐山氏(WiL):デザイン=コミュニケーション能力だと思っています。

アメリカ西海岸がビジネス的に強く見える理由は、あらゆる民族、ジェンダーが集まっている、要はダイバーシティだからだと考えておりまして、様々なコミュニケーションをしている人達と、単一民族の中でコミュニケーションしている人達の違いがあると感じます。

だからこそ、デザイン思考を他国以上に意識的にやらないと、日本は世界標準にすらついて行けなくなると感じます。

まずはこのことを認知するところからスタートすべきです。

 

郷治氏(東京大学エッジキャピタル):確かに、日本だけでデザイン思考をやっていても、ガラパゴス化してしまうだけです。

もっと世界を意識したデザインが必要ということですね。

 

編集後記

AI人材におけるリテラシー教育の話が出てきました。

複数提示された議題の中で、もっとも議論が加熱した領域であり、登壇者のみなさま、それぞれが課題を感じている領域でした。

 

課題先進国だからこそ、外からの人材を積極的に取り入れ、ガラパゴス化した事業とならないような意識が重要であると、セッションを通じて改めて感じました。

 

筆者個人的には、外国語に対する必要以上の不安感を抱えた起業家が多い印象で、SLUSH TOKYOといった外国語ベースのイベントに登壇するスタートアップがある程度固定化してしまっているのは、とても残念なことだと感じます。

 

次回Report5では、「デジタル社会における産業とガバナンスのアーキテクチャ」についてのセッション内容をレポートします。

 

AIをはじめとするテクノロジーが急速に発達したことにより、ガバナンスのアーキテクチャ設計は非常に重要なポイントと認識しています。

 

お楽しみに!

 

AI/SUMレポートシリーズ by LoveTech Media

Report1. 令和時代成長の鍵は「AIとデータ」、G20大阪に先駆け開催されたAI/SUM

Report2. 精度の高いデータ集めと現場力こそ日本の強み、Made AI Japan

Report3. 武力の種類・性質が変わるAI時代で国連が果たすべき役割とは

Report4. 課題先進国だからこそデザイン領域含めたAIリテラシー教育が必要

Report5. デジタル時代に日本が進めるべきアーキテクチャ思考《前編》

Report6.デジタル時代に日本が進めるべきアーキテクチャ思考《後編》

Report7. 官民それぞれから見るヘルスケア領域でのAI活用の可能性

Report8. 日本が向かうべき信頼ベースのガバナンスイノベーション

Report9. 世界のソーシャル・グッド領域で活用されるAIが人々を救う

Report10. インディア・スタック事例から考えるSociety5.0時代のガバナンス《前編》

Report11. インディア・スタック事例から考えるSociety5.0時代のガバナンス《後編》

Report12. LoveTech Mediaが選ぶAI/SUM Next 90登壇社注目スタートアップ

Report13.(仮題)AI からALIFE へ(2019年5月16日以降公開予定)

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