2020年11月6日に開催された、国内サーキュラー・エコノミーを代表する企業が集うオンラインカンファレンス。
レポート第1弾では、カンファレンス主催者である一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンの中石和良氏によるオープニングトークの内容に沿ってサーキュラー・エコノミーの概念整理をしたレポートをお届けし、第2弾では国内企業の最新事例として印刷業界の構造改革を進めるベンチャー・株式会社グーフの事例をご紹介した。
第3弾である本記事では、2020年に創業216年を迎えた老舗企業、株式会社Mizkan Holdings(以下、ミツカン)の事例を取り上げる。
サーキュラー・エコノミー型食品ブランド「ZENB」
食品業界にも解決しなければならない社会課題は数多くあり、食品ロスもそのひとつだ。農林水産省によると、日本の食品廃棄物等は年間2,550万t、その中で本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間612万tにものぼる(2017年度推計値)。日本人の1人当たりの食品ロス量は1年で約48kgで、これは日本人1人当たりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じ量になる。
ミツカンでは、そんな食品ロス課題への取り組みを加速すべく、2019年3月に新ブランド「ZENB(ゼンブ)」を立ち上げた。
ZENBの由来は「全部」。コンセプトはその名の通り、「植物の普段食べているところだけでなく、可能な限りまるごと全部使用し、素材まるごとの栄養をおいしく食べる」ことだという。廃棄を出さない、まさにサーキュラー・エコノミーの思想から生まれたブランドだと言える。
同社はブランド立ち上げと同時に、2つの商品のEC販売を開始。片手で食べられる野菜スティックバー「ZENB STICK」は、普段食べている部分だけでなく、皮、芯、さやまでまるごと細かくつぶした濃縮野菜に雑穀やナッツ、果汁などを加えたものだ。また、パンなどに塗って食べるペースト「ZENB PASTE」は、まるごとなめらかにすりつぶした濃縮野菜とオリーブオイルだけでつくってある。どちらも余計なものが入っていないからこそ野菜本来の旨味を味わえるし、野菜の芯や皮など普段捨てているところこそ栄養価が高いのだという。
商品化に向けたクラウドファンディングプロジェクトページ。多くの支援が集まっていることがわかる
「主食」でなければ意味がない
ZENB立ち上げから1年半後、2020年9月にミツカンは、ブランド初の「主食」発売に踏み切った。豆100%で出来ている「ZENB NOODLE」である。主食でなければ実生活へのインパクトがないとのことで、同社肝いりで開発されたものだ。
原材料は、「黄えんどう豆」のみ。北欧やロシアなどで伝統的に食べられてきた食材だ。植物性たんぱく質や食物繊維が豊富なことで知られており、大豆よりも脂質が少ないことでも注目されている。
その黄えんどう豆だけを、薄皮までまるごと使って独自製法でつくりあげられた麺は、もちっとした弾力のある触感と、一口噛むと広がる豆の旨味が特徴だという。1食で、植物性たんぱく質は13g、食物繊維は1日に摂りたい食物繊維の1/2以上(※)の14gが摂れ、さらに糖質は、パスタやうどん、ごはんに比べ30%カットできる。
※食物繊維の1日あたりの摂取量は、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の「18~64歳の男性・女性」の値を用いています。
使い方はいつもの乾麺と一緒なので、その他の麺と置き換えるだけで日々の食卓で健康食を食べられる手軽さも魅力だ。テレビの情報番組からヘルスコンシャスな女性誌まで、メディアで見かける機会も多く、この新「主食」への支持の風向きを感じた。
環境と健康にコミットしない企業は淘汰される
なぜ、ミツカンはZENBを立ち上げたのか。
カンファレンス終了後のQAにて、同社執行役員 新規事業開発担当の石垣浩司氏は、ミツカンがZENBを設立するに至ったのは「そうしないと生き残れないから」だと語っている。
ミツカンといえば「お酢」を売るドメスティックなメーカーという印象が強かったのだが、実は同社の売上の約半分は海外である。主戦市場である北米を含め、グローバルでの食品事業戦略を考えたときに、ミレニアル世代や、Z世代といった次世代が今後の消費を支えることは明らかだ。彼ら彼女らが受け入れるのは企業や商材のネームバリューではなく、いかにメーカーが社会、環境、そして健康にコミットしているかどうかだと痛感したという。
老舗の大手食品メーカーが廃業へと追い込まれ、名もないスタートアップの存在感が増していく勢いを肌で感じ、生き残りをかけてZENBを立ち上げたというわけだ。
ミツカンが「ZENB」立ち上げ時に策定した「未来ビジョン宣言」イメージ動画
同社では2018年に、10年先の未来へ向けた指針「未来ビジョン宣言」を発表しており、以下の3点を軸に、ZENBのような具体的な取り組みを推進している。
- 人と社会と地球の健康:自然を敬い、自然に学び、 自然が生み出す いのちを育むことに貢献する
- 新しいおいしさで変えていく社会:おいしさと健康を一致させる努力によって、世界の人々とコミュニケートしていく
- 未来を支えるガバナンス:世界で束ね、地域で活かし、 おいしさを広げる ガバナンスを推進する
これまで提供してきた伝統的なローカルブランドの味を守りつつ、“おいしさと健康の一致”をめざしたニューブランドを加速させる。同社のサーキュラー・エコノミー・モデルへの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
ライター後記
サーキュラー・エコノミーへの移行をグローバルで推進するエレン・マッカーサー財団によると、化石燃料を再生可能エネルギーに変えても削減できる温室効果ガスは55%だといいます。つまり、企業の経済活動によって生まれる残りの45%への対策が必至であり、だからこそ、サーキュラー・エコノミーの仕組みに期待が集まっていると言えます。
ベンチャー企業から老舗企業まで、幅広い業界、企業規模で、新しいビジネスモデルによる革新的な製品・サービスが生まれ始めています。
この先進んでいく未来が豊かで明るいものであるように、私たち一人ひとりが、思慮深い生産者であり消費者でなくては「生き残れない」時代が到来していると言えるでしょう。