2022年7月14日、一般社団法人Metaverse Japanが主催する大型カンファレンス「Metaverse Japan Summit 2022」が開催された。
1,000人以上が集まったMetaverse Japan Summit 2022
一般社団法人Metaverse Japanとは、「日本の可能性をメタバースを通じて世界に解き放つハブとなる」ことをミッションに据え、メタバースという新しい概念を議論していく礎となることを目指して2022年3月に設立された団体である。錚々たるメンバーがプロボノとして理事・アドバイザーとして名を連ねており、カンファレンス開催時点で140社が入会意向を示し、すでに90社が入会しているという。設立4ヵ月程度でここまで多くの企業・団体が入会希望をしているケースも珍しく、いかにメタバースへの期待感が高まっているかが分かるだろう。今回開催されたMetaverse Japan Summit 2022も、会場参加費用が10,000円(オンライン参加は3,000円)であるにもかかわらず、合計で1,000人以上が参加申請をしたというから驚きだ。
LoveTech Mediaでは、個人のライフスタイルの拡張と、それに伴う新たなるウェルビーイングな生き方に向けた選択肢のトレンドとしての「メタバースの未来」を捉えたく、全5回にわたって同イベントの各セッションをレポートする。
レポート第1弾となる本記事では、「Web3メタバースが拓く新しい日本のデジタル経済」と題された冒頭セッションの様子をお伝えする。
ゲストとなるのは、衆議院議員の平 将明氏。内閣府副大臣(IT政策・サイバーセキュリティ戦略・クールジャパン・地域創生・国家戦略特区等担当)、経済産業大臣政務官、衆議院環境委員会委員長、自民党副幹事長、情報調査局長等を歴任した後、現在は自民党広報本部ネットメディア局長とデジタル社会推進本部 本部長代理、それからNFT政策検討プロジェクトチーム(以下、NFT政策検討PT)の座長を務めている人物だ。
今年3月に提言として発表された「NFTホワイトペーパー(案)」は、まさに平氏を中心としてNFT政策検討PTが作成したもの。国内外におけるweb3界隈で大きな話題となったことは記憶に新しく、「Web3.0(ウェブスリー)時代の到来は日本にとって大きなチャンス。しかし今のままでは必ず乗り遅れる。」という冒頭の文言が非常に印象深く、いかに危機意識を強く持たれているかが分かるものとなっている。
ホワイトペーパー発表から約4ヵ月が経過し、現在はどのような活動をしていて、web3のあり方をどのように捉えているのか。セッションの様子をレポートする。
生態系として完成されつつあると感じた
そもそも平氏が前述のホワイトペーパーを出すことになったきっかけは、過去にクールジャパンや地方創生を推進していた中で、日本のコンテンツやサービスの価値がグローバル市場において低すぎる、という課題を感じていたことにあるという。そんな中でNFT(ブロックチェーンを活用した非代替性トークン)の存在を知り、この領域に注目するようになって、2022年に入ってからNFT政策検討PTの座長に任命されたという流れになる。
「ウィズコロナでDXが進んでいたこともあり、web3界隈の人とオンライン上で色々と議論させてもらったのですが、どうも生態系として完成されつつあり、領域として急成長しているなと感じました。日本は何をやるにしても時間がかかるものですから、早くキャッチアップをするということで、web3をかなり網羅的に捉える形でホワイトペーパーで24の論定にまとめ、その全てについて提言として方向性をまとめました。岸田総理が進める「新しい資本主義」の成長戦略にも資するし、分配政策にも資する新しいトークンエコノミーができてきているので、国家戦略にしようということで出したわけです」
平氏をはじめとするNFT政策検討PTの強い働きかけが奏功し、政府の骨太方針やデジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」、「知的財産推進計画2022」、そして自民党の公約に、それぞれweb3に関わる内容が盛り込まれることになった。
「NFTの先にはDAOがあると思いますが、これは株式会社以来の大発明になると感じています。ブロックチェーンについては、たとえばインフラ自体がどこまで強固かなど、まだ色々な課題等はあると思いますが、この流れは止まらないでしょう。Web1.0でもWeb2.0でも乗り遅れた経験から、レギュレーションや税制のデザインについて乗り遅れないようにしようと思っています」
「DAO特区」のような形は十分考えられる
web3のようなスピーディーな世界に対して、Metaverse Japan代表理事である長田 新子氏が懸念するのが「スピード感」である。日本で何か新しいことを進める際には、どうしても既存のルールに則った多くのプロセスを減る必要がある。
プロセスが多く煩雑であることから、海外との競争で後手になってしまい、ひいては人材の流出にもつながってしまうのではないか。このような課題に対して、平氏は「構造的な問題」である点に言及する。
「テクノロジー領域で先端を走っているところは英米法のところで、いわゆる判例法主義なので、新しい技術やサービスがあったらどんどんと始めて、その後にトラブル発生したら判例を積み重ねて新たなルールを作っていくという流れになります。一方で日本やドイツは大陸法ということで、ルールを変えないとグレーゾーンが解消できないので、普通に進めると2〜3年はかかってしまうことになります。だからこそ、アジャイルが当たり前になってきたデジタルの世界で負け続けていると言えます」
たとえば、以前当メディアでご紹介したStake Technologies Pte Ltd CEOの渡辺 創太氏は、日本で起業したかったものの税制等に課題を感じ、やむなくシンガポールで起業せざるを得なかったという背景がある。
[clink url=”https://lovetech-media.com/eventreport/20211112_wffj2021_1/”]衆議院内閣委員会質問通告(所要30分)平将明
①WEB3.0(ブロックチェーン・トークンエコノミー・NFT・メタバース)のインパクトについて
→山際大臣(成長戦略)・牧島大臣(デジタル政策)
②スタートアップのガバナンストークンに対する課税について→財務副大臣— 平将明(たいらまさあき/Taira Masaaki) (@TAIRAMASAAKI) February 3, 2022
「税金も年に一回しか議論できないので、ガバナンストークンの時価課税問題や暗号資産の最高税率問題など、この年末で進めなければいけません。少なくとも、今年中にガバナンストークンの問題を解決できなければ、たとえば私が起業家の方に相談されたとしたら、ビジネスモデルによってはシンガポールでやったほうが良いと言わざるを得ないかもしれません」
法改正に時間がかかるのだとしたら、特区のようなものはあり得るのだろうか。これについて平氏は「税金の部分はなかなか難しい」としつつ、一方で「DAO特区」のようなものは十分に考えられると言う。
「私自身、一番可能性があると感じているのは「DAO」です。では、DAOを法定化しようとなると法務省担当になるのですが、そうなるとどうしても時間がかかってしまいます。一方で米国のワイオミング州や欧州の一部の国では、すでにDAOが一部法定化されている状況なので、たとえば県や市町村の条例でそのような形を作っていただき、そこを「DAO特区」みたいな形で運営していただくことは、十分に考えられると思います。あとは、クリプトビザのようなものもあり得ますね。いずれにせよ、法律を変えるか運用解釈でいくか、もしくは国家戦略特区・レギュラトリーサンドボックス・グレーゾーン解消制度でいくか。この3ついずれかの方法で進めていくことになるでしょう」
そして、最も大事なポイントとして、平氏は「総理のフルコミット」の必要性を強調する。
「先ほど、日本は何をやるにも2〜3年はかかるとお伝えしたが、デジタル庁は1年でできました。あれは普通は3〜5年でできるものでしょうが、当時の菅総理がフルコミットしたから1年でできたわけです。国家戦略特区についても、私が副大臣をやっていたときにすごく進んだのですが、あれも当時の安倍総理がフルコミットしてくれたからです。総理がフルコミットすると、進みが3倍くらい早くなるでしょう」
「Web3.0担当大臣」と「省庁横断の相談窓口」設置に向けて
セッションテーマである「デジタル経済」を考えた際に、まさにデジタルネイティブ世代が日々誕生しているわけだが、彼ら彼女らが活躍できるような環境としてのweb3時代の日本について、平氏は特に「スタートアップ人材」の観点でコメントを続ける。
「新しい資本主義の成長戦略の目玉の一つはスタートアップ支援です。ここは税制と併せてになりますが、たとえば年金ファンドからある程度の金額を切り出してきてスタートアップファンドを作ろうという計画もありますし、スタートアップキャンパスのようなものを作って人が集まってくるエコシステムを作るという考えもあります。いずれにせよ、私の頭の中では、web3の政策とスタートアップの政策を車の両輪にして実施していこうと考えています」
web3やメタバースのようなテーマは各省庁をまたがる話になるわけだが、それらを集約してまとめていくにあたって、先述したNFTホワイトペーパー(案)では2つの提言がなされている。「Web3.0担当大臣」を置くことと「省庁横断の相談窓口」の設置だ。
「Web3.0担当大臣については、内閣府の「新しい資本主義」の特命担当大臣かデジタル庁か、どちらかに担当してもらうことを想定していました。これについて官邸に確認をすると、web3担当大臣はデジタル担当大臣ということで落ち着きました。デジタル庁の事務方トップであるデジタル監は各省の事務次官に「勧告」できることになっているので、内閣府的な役割で音頭をとっていくことになるでしょう。もちろん、ここで大事なことは、先ほどもお伝えしたとおり岸田総理のフルコミットがることです」
西側のグローバル戦略としてもweb3は重要
ここまでweb3を起点にした国家戦略像について話されてきたわけだが、この領域について、果たして日本は本当にグローバルなポジションをとることができるのだろうか。この点について平氏は、「日本はやり方次第では聖地的な拠点になり得る」と強調する。
「円安はしばらく続くでしょうから、インバウンドは重要な収益源になると思います。知的財産面やサービスなど、日本の良いものを国際価格に引き直して売上にするということは国家戦略として非常に重要なことなので、国内産業を伸ばすためにもweb3は大変重要だと捉えています。またその際に俯瞰して見てみると、日本にはいい人材が多いし、グローバルなクリプト人材でも「日本が好きだ」と言ってくださる大物の方も多いので、やり方次第では聖地的な拠点になりうると考えています。日本はもともとゲームが強くて、世界観の構築やキャラクター分野についても色々なノウハウの蓄積があると思うので、本気で入って行ったら日本は強いんじゃないかなと思っています」
さらにweb3で音頭をとっていくことは、西側諸国のグローバル戦略としても重要だと平氏は続ける。
「昨今では中国のようなデータドリブンエコノミーが力を発揮しているわけですが、個人情報保護を重視するような日本のような国家ではなかなかそうはいきません。そんな中でweb3の話が急加速してきたわけで、たとえば中国としては乗れないでしょうから、世界戦略として非常に重要だと思っています。来年、日本はG7の議長国になるので、ルール整備も含めて日本だけでなく西側のグローバル戦略としても重要だろうと思っています」
最後に、カンファレンス参加者に向けて平氏は、web3に関する直近の目標とお願いについて語った。
「世界的なネットワークができつつあるので、政府としても何かカンファレンスみたいなものができたらいいなと考えています。できれば年内に、ということでお願いをしているところです。
私たちNFTプロジェクトチームが立ち上がって半年ですが、この世界はスピードがとても速いです。色々な技術が日々立ち上がり、様々な試みや失敗が毎日起きているので、なかなかキャッチアップしきれないところがあります。今はSNSの時代なので、お互いに発信をキャッチしながら、ぜひリアルタイムで情報をご提供いただけたらと思います。
私たちのチームについては、NFT政策検討PTをWeb3プロジェクトチームに格上げしたいと考えているので、いずれにせよMetaverse Japanさんのような団体には、提言がまとまり次第すぐにプレゼンに来てもらえればと思っています」