※2020.1.24追記:最新のLoGoチャットニュースについてはこちらをご参照
令和元年11月1日、ふるさと納税総合サイト『ふるさとチョイス』を企画・運営する株式会社トラストバンクが、新たにビジネスチャットツール『LoGo(ロゴ)チャット』を開発・提供開始したと発表した。
ただのチャットツールではない。
行政専用回線の総合行政ネットワーク(LGWAN)を介して業務アプリケーションを共同利用できる「LGWAN-ASP」を活用した、自治体専用ビジネスチャットツールだという。“LoGo”とは、「Local Government(地方自治体)」の頭文字2字から名付けられたようだ。
LGWAN-ASPサービスとしての提供により、庁内だけでなく自治体間でも使えるPC・モバイル端末向けビジネスチャットツールの導入は、国内初事例である。
株式会社トラストバンク 代表取締役 須永珠代氏
行政職員の人手不足が深刻化する中で、各レイヤー間における情報のやり取りを円滑にし、コミュニケーションコストを軽減させることで、行政が本来的に注力すべき事象により多くの時間を割けるようにする点が、なんともLoveTechなサービスだと感じる。
本記事では、LGWANやLGWAN-ASPの解説とともに、新サービスの内容及び具体的な自治体による導入事例についてお伝えする。
LGWAN・LGWAN-ASPとは
まずは本取り組みの前提となる「LGWAN」および「LGWAN-ASP」について、ご存知ない方に向けて説明する。
高度なセキュリティを維持した行政専用の閉域ネットワーク
出典:「総合行政ネットワーク(LGWAN)の概要」より(地方公共団体情報システム機構総合行政ネットワーク全国センター)
LGWANとは “Local Government Wide Area Network”(総合⾏政ネットワーク)の略称。地方公共団体情報システム機構(略称:J-LIS)が提供する“行政専用のネットワーク”のことだ。
「地方公共団体相互間のコミュニケーション円滑化」及び「情報の共有による情報の高度利用」を図るための基盤として整備されたもので、全国の地方公共団体(以下、自治体)の組織内ネットワークを相互に接続している。また、府省間ネットワークである「政府共通ネットワーク」との相互接続により、国の機関との情報交換も行っている。
つまりは、「インターネットから切り離され、⾼度なセキュリティを維持した⾏政専⽤の閉域ネットワーク」というわけだ。
このLGWAN、平成13年度から運⽤が⾏われており、現在、“全ての都道府県及び市区町村”が接続されているほか、一部事務組合や広域連合の接続も増加している。
出典:「総合行政ネットワーク(LGWAN)の概要」より(地方公共団体情報システム機構総合行政ネットワーク全国センター)
LGWANでは、自治体が電子メールやWebページをセキュアなネットワーク上で利⽤できる他、電子掲示板やメーリングリスト等、情報の収集・交換・提供が可能な基本サービスを提供している。
自治体間のIT格差軽減に寄与するLGWAN-ASP
上記に加えて、LGWANという非常にセキュアなネットワークを介しつつ、自治体職員に各種行政事務サービスの提供を可能にするのが、LGWAN-ASPである。
つまり、LGWAN回線に接続できるLGWAN-ASPネットワーク環境に設置することで、自治体内でも便利な外部サービスを活用することができるようになるのだ。
出典:「LGWAN-ASPの目的」より(地方公共団体情報システム機構ホームページ内)
LGWAN-ASPを活用し、自治体間のIT格差を軽減し、品質及びサービスレベルの高いアプリケーションを自治体間で共同利用することで、標準的で経済的な形で自治体のIT化を促進できることになる。
自治体内コミュニケーション改良のために生まれた『LoGoチャット』
株式会社トラストバンク 取締役 木澤真澄氏
今回、トラストバンクより発表された『LoGoチャット』は、上述のLGWAN-ASPを活用したもの。一言でお伝えすると、「LGWANとインターネットをつなぐ、国内で初めてのビジネスチャットツール」である。
自治体職員が庁内・他自治体とテキストやファイル・写真などの送受信を、チャット形式にて、通信の安全性の高いLGWAN上でできるPC・モバイル端末用アプリだ。
業務の報連相や会議資料の共有、自治体の広域協議会の調整、災害時の情報共有など、多様なシーンでの活用を想定して開発されている。
背景にあるのは、以下に挙げられるような、自治体におけるコミュニケーションの課題だ。
総務省発表の「地方公共団体の総職員数の推移~平成30年」によると、自治体職員数は過去24年間で約55万人減少した一方で、地域課題の複雑化や災害対応など業務は増大しており、国でもデジタル手続法の成立や自治体情報システムの標準化など、ICTの活用による行政事務の効率化が推進されている。
しかし、自治体では未だに電話・メール・FAX・会議に多くの時間が割かれており、コミュニケーションのデジタル化が喫緊の課題となっている。
そこで同社が注目したのがチャットツールである。民間企業でのモニタリング結果によると、同様のツールを活用することで、1人あたり1日27分、年間約105時間[*]の削減効果がみられたという(業務日数/235日×27分の計算)。民間企業で効果があるということは、自治体においても言わずもがなだ。
電話やメールよりも効率的にエビデンスを残す形でコミュニケーションができ、物理的な会議室に集まらずとも会議の開催が可能で、緊急性の高い情報共有であっても全員宛に即時に伝達することができる。
なぜそれが実現するかというと、LoGoチャットはLGWAN上のみならず、インターネットからも使うことのできるクラウド型ビジネスチャットだからだ。要は、通常のネット環境から接続することができるので、例えば手持ちのスマホ端末からでも、自治体の許可を得た外部の民間事業者とやり取りすることが可能なのである。
リモートワーク〜災害対応まで、様々なユースケース
より具体的なユースケースとしては、以下が挙げられる。
リモートワークでの活用
これまで上長が出張に出てしまうと、それだけで業務が滞ってしまっていたもの。また会議が多い職員に書類のチェックを依頼しようとしても、そもそもつかまらないことがネックになることが多々ある。
その点、LoGoチャットはネット経由でのやりとりが可能となるので、次のアポイントまでに目を通して欲しい資料を送信したり、移動中や会議中で電話に出られないときもチャットで連絡することが可能となる。
複数自治体での利用
移住定住推進協議会、情報化推進協議会、次世代育成支援推進協議会、防災会議といったユニット同士の連絡や、県などが事務局をもつ広域協議会においても、コミュニケーションが格段に楽になる。
会議の日程調整や事前の情報共有がスムーズになり、簡単な相談や調整はチャットで済まし、会議ではより具体的な議論を進めることが可能となる。また、自治体間のオープンで気軽なコミュニケーションにより、様々なアイデアを創出することも期待できるようになる。
事業者間での利用
コミュニケーションコストの軽減は自治体関係団体のみならず、ふるさと納税担当者や事業者とのやりとりにも言えるだろう。
返礼品を提供する事業者とスムーズに写真やメッセージをやり取りしたり、異なる自治体の担当者同士で、日々の困りごとから新制度の相談などを気軽に意見交換できる。
災害対応での利用
最近我が国で多くなってきた災害などの現場対応時にも、LoGoチャットは従来とは比べものにならない機動性を発揮してくれる。
災害による被害箇所の写真や、現地の位置情報などを即座に報告し、停電で電話などが使えない場合でも、災害対策本部と現地派遣職員や県と市区町村間で情報共有することが可能だ。
もちろん、災害時のライフラインとして、他の手段と併用で利用することを前提にしている。
導入費用約500万円に対して年間2億6,400万円の削減効果を試算
ここまで見てきたLoGoチャットであるが、今年9月13日から受付開始した「1年間無料トライアル」には、早くも36自治体が申し込んでおり、合計12,960アカウントが具体的に稼働しているという。
サービス発表がなされた11月1日記者会見には、同サービスの試験導入を進める3自治体により、今の進捗状況を報告された(埼玉県深谷市、福島県伊達市、北海道北広島市)。
今回はその中でも、深谷市からの発表内容についてご紹介する。
埼玉県深谷市企画財政部ICT推進室主査 齋藤理栄氏
同市では以下のタイムスケジュールに沿って、試験導入が進んでいった。
導入にあたっては、昨今何かと話題に出ることが多くなったRPAとの比較で、業務改善効果および投資対効果の検討がなされたという。
先述の通り、同様のサービスを使っての民間企業モニタリングでは、1人あたり1日27分の業務時間削減効果がみられたということなので、ここでは1日15分の業務時間削減効果があるとみなし、職員1,100人に適用した場合の試算で比較している。
RPAの範囲等、前提となる条件は多岐にわたるので単純な比較はできかねるが、削減時間としては大きな効果が期待できることがお分りいただけるだろう。
また投資対効果についても、RPAが300万円の導入費用に対して年間800万円の削減費用を創出できるのに対し、チャット導入では508万2,000円の導入費用に対して年間2億6,400万円の削減費用を捻出できるようになるという試算だ。
つまり、即効性があるソリューションとして期待できるわけだ。
実際の担当者による声としても、現地聞き取り調査の内容をLoGoチャットに直接打ち込んで議事録活用するなど、離れた場所から同僚のフォローが受けられるメリットを享受しており、業務効率化を実感しているようだ。
深谷市としては「RPA対チャット」という二項対立的な比較ではなく、両者の良いところを組み合わせながら、並行して業務改善を進めていく予定だという。
変えられる自治体業務にはパブリテックを
福祉サービスや公共インフラの適正維持、災害対応、住民との対話など、既存のアナログ運用を安易に変えられないものがある一方で、紙や押印による手続きといった非効率なコミュニケーションなど、テクノロジーを活用して変えられるものも、自治体内業務にはたくさんある。
そんなPublic(公共) × Technology、通称パブリテック領域でのサービス提供が、これからますます求められるフェーズに突入していくだろう。
ちなみに、LoGoチャットのモバイル端末用アプリ提供開始予定は2020年1月とのこと。
善は急げである。
(会見写真:株式会社トラストバンク提供)
*2020.1.7修正:(修正前)150時間 → (修正後)105時間
編集後記
昨今、DXをはじめとする「スマート自治体」といった、Society5.0時代の公共のあり方が盛んに議論されており、エンドユーザーである住民の利便性は当然のこと、バックヤードで地域を支える自治体内部の構造改革も、重要なテーマであると言えます。
本年10月11日総務省発表の「地方自治体におけるデジタル・ガバメントの推進について」でも、「今の仕事を前提にした『改築方式』でなく、仕事の仕方を抜本的に見直す『引っ越し方式』が必要。」との問題意識が提示されており、様々な具体的方策の中で、セキュリティ等を考慮したシステム・AI等のサービス利用として「LGWAN-ASP」の更なる活用が期待されていました。
日々の業務を左右する根っこの部分は「人」であり、ほとんどの問題はコミュニケーションに起因します。
今回発表されたLoGoチャットを通じて、これまでボトルネックとなっていたコミュニケーション起因の問題が解決し、国内標準のシステムとして広く普及することが、結果として自治体間IT格差是正に繋がっていくと感じます。
まずは、今後の導入自治体による成果報告に期待したいと思います。