後半:ベビーテックピッチ
第2部後半は「ベビーテックピッチ」ということで、ベビー×テクノロジーで育児を幸せにするサービスや商品を提供する企業及び団体によるリレーピッチが行われた。今回はその中から3社についてお伝えする。
パパっと育児@赤ちゃん手帳 by.株式会社ファーストアセント
最初は、育児日記アプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」(以下、パパっと育児)の開発等を展開する株式会社ファーストアセント。プレゼンターは同社代表取締役CEOの服部伴之(はっとりともゆき)氏である。
「テクノロジーで子育てを変える」ことをミッションにした同社では、「パパっと育児」アプリを通じて育児記録の見える化体験を提供している。
これまでの総アプリ利用ユーザー数は50万人以上。各々が日々入力する食事や授乳、排泄といった記録が積み上がっていくことで、唯一無二の育児ビッグデータが溜まっている。
中でもユニークな機能が、赤ちゃんの泣き声を自動で分析してくれる「泣き声診断」。赤ちゃんの泣き声をにマイクをかざすと、泣いている理由とその確率を、独自のアルゴリズムで診断してくれるものだ。その正答率は、ユーザーのフィードバックベースで80%を超えているというから驚きだ。当メディアでも、昨年に機能がリリースされたタイミングで取材させていただいた。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/firstascent20180731/”]最近では、そもそもスマホで都度かざす必要をなくすべく、24時間365日泣き声をモニタリングしてくれるハードデバイスの開発も進めているという。
「これらを使うと、赤ちゃんの感情サイクルが見える化され、いつもと様子が違う場合に検知することが可能になります。
あと、これが個人的に一番大事だと考えているのですが、どれくらい夜泣きをしたかがわかるので、パパは翌朝、ママに対して一言声がけできるようになります。『昨日大変だったね、ありがとう』と朝に一言添えることのできる、偉い旦那になれる機能でもあります(笑)
ぜひお使いください!」
mamaro & Baby map by.Trim株式会社
次は、授乳室・おむつ交換台検索アプリ「Baby map」や、完全個室のベビーケアルーム「mamaro」の開発・設置を進めているTrim株式会社。プレゼンターは同社代表取締役社長の長谷川裕介(はせがわゆうすけ)氏である。
“All for mom. For all mom.”という、世のお母さんを幸せにするミッションを掲げる同社が最初に着目したテーマが「授乳室」である。
既存の授乳室は、「安かろう(質が)悪かろう」か「良かろう(価格が)高かろう」のいずれかであった。また、ニーズに対しての供給量が圧倒的に不足している現状もある。
特に後者について障害となっているのが、設置に対する費用対効果の不透明さだという。設置が即ち利益に直結するものでもないので、多くの場合、企業のCSRとして設置されようとするものの、どうしても優先順位が下がってしまうため、結果として設置が見送られることも多い。
しかし、ここ数年において国主導で授乳室が標準装備となる社会的機運が醸成されており、その流れから、CSRではなく必須の設備としての認知が広がっているという。
そんな背景から、今、同社が提供するmamaroが非常に注目されている。180cmの幅と90cmの奥行があればどこでも設置可能であり、1畳ほどのそのスペースは完全個室仕様なので、大人数の授乳室よりも快適にベビーケアができる。
また、室内にはスクリーンが設置されているので、授乳時間を有効活用して育児情報を楽しむことができる。
さらに、同社が提供するBabyMapと連動することで、遠くからでもmamaroの空き状況が確認できるので、長蛇の列で並ぶという苦痛からも解放される。
「昨年末からお問い合わせが急増しておりまして、現在、mamaroは全国106箇所に設置され稼働しています。また、これまでに通算6万回程度利用されており、利用者の実に96%が、mamaroに好感を持ってくださっています。
今後は授乳やオムツ替えスペースとしての活用のみならず、遠隔医療やヘルスケアプラットフォームとして応用活用できるよう開発を進め、中長期的には母子手帳や定期検診といった自治体の既存サービスと連携することで、お母さんたちがもっと気軽にお出かけできる社会を実現できたらと考えています。」
母乳フローラ by株式会社こそらぼ
最後は、母乳フローラ(細菌叢)セルフチェックサービスの開発を進める株式会社こそらぼ。プレゼンターは同社ファウンダーの久保主税(くぼちから)氏である。
フローラという単語は、“腸活”における腸内フローラなどの文脈で聞いたことのある方も多いと思うが、母乳フローラという考え方は初めてではないだろうか。
これまで母乳といえば、その栄養面にフォーカスして議論されることが多かったわけだが、最近では母乳に含まれる細菌の研究も進んできており、その免疫機能も注目されるようになってきている。
生まれてから数ヶ月間、赤ちゃんは母乳による免疫機能に守られているからこそ、病気をしないと言われている。
またこの免疫は、アレルギーや精神疾患とも相関があると言われており、赤ちゃんのみならず、ママ・プレママの健康状態の指標にもなり得ることが想定される。
同社はこのような観点から、まずは母乳に含まれる細菌叢とヒトミルクオリゴ糖という栄養による免疫形成の過程をデータ化していき、赤ちゃんの腸管における免疫機能の可視化に取り組む。またそれと並行して、母体のライフログを収集し併せて解析していくことで、例えば母乳を調べることによる産後うつのリスク判定といった疾患検査サービスを展開していく予定だという。
母子ともに健康という状態を、感覚ではなくデータに基づく「サイエンスベース」で考えることで、健康に赤ちゃんが成長し、ママも自分のキャリアややりたいことを実現することができるとしている。
「母乳解析による免疫システムデータとライフログの解析によるエビデンスが揃うことで、医療含めた専門家とつながる環境とネットワークを作り、データを蓄積し評価するというエコサイクルを構築したいと考えています。
その上で、医療機関との連携や製薬会社との共同研究なども実施していきたいと考えています。
いずれにしても、難しいことを言っていても認知は広まらないので、今年の年末に向けて、これだけ読めばわかるという書籍を書いておりますので、楽しみにしていてください!」
編集後記
日本で初めての「母乳×テクノロジー」特化のイベントは、筆者としても非常に学びの多い内容でした。
水野先生の講演を拝聴して、初めて「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」の存在を知りましたが、これが今年の7月にようやく出てきたものである、という現状に驚きもしました。
母乳の領域が、いかにサイエンスベースの研究が進んでいない状況かということです。
最近の社会では、自身の正義を振りかざして二項対立議論がなされてしまう傾向が強いですが、本来的にはそこに正解も不正解もなく、全てはコインの裏表のような存在です。
母乳議論についても同様であり、授乳における多様性とその内容を正しく認知することが、最初の一歩だと感じます。
今回のイベントと本記事が、多くの方の授乳価値観に風穴をあけることができれば幸いです。
イベント会場後方に展示されていた数々の授乳・育児関連グッズ