4月17日「ふたりの妊活」セミナー
不妊大国ニッポン。
ここ10年ほどの間に、そんな言葉が頻繁にさけばれるようになった。確かに最近、「不妊に悩んでいる」という声を多く耳にするようになってきた印象だ。
現に、国立社会保障・人口問題研究所が2015年に実施した調査結果によると、わが国では夫婦のおよそ3組に1組が不妊に悩んでいる、という具体的なデータがはじき出されている。
ご存知の方も多いと思うが、不妊は何も、女性だけの問題ではない。むしろ、半分程度は男性にも原因があることが、世界保健機関(WHO)の報告から明らかになっている。
「そんなことはわかっちゃいるが、自分は大丈夫だと思う。」
そう、事態を認識しているが行動にまで至っていない男性が実は多い。このことについては、昨年夏にリクルートライフスタイルが発表した調査結果でも、明らかになっている。
[clink url=”https://lovetech-media.com/news/baby/20180730_01/”]そんな現状を打開すべく、「妊活は、パートナーといっしょに取り組むもの」という啓発を進めるべく企画されたメディア向けセミナーが、4月17日に実施された。
題して「ふたりの妊活」セミナー。
主催は、リクルートライフスタイルが提供する、自宅でできるスマホ精子セルフチェック『Seem(シーム)』。
LoveTech Mediaでも以前取材させていただいた、専用キットを使って精子の状態をスマホでチェックできるという、ユニークなプロダクトである。
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/seem20180822/”]今回の催し内容について、前編・後編に分けてレポートする。
まず前編では、会場に併設されていた妊活事業者ブースと、産婦人科医である宋美玄氏による基調講演内容についてお伝えする。
妊活関連製品展示コーナー
会場に到着すると、会場後方に様々な妊活関連製品やサービスに関する展示コーナーが出展されていた。
以下、LoveTech Mediaとして特に気になったもの2製品について、チョイスしてお伝えする。
BUDDY CHECK(株式会社ダンテ)
世界初の精液成分(正確には”精しょう”)に特化した検査「BUDDY CHECK」を提供する株式会社ダンテ。
精液内の精子をスマホでチェックするSeemと異なり、精液内の液体部分である精しょうをチェックするという観点がユニークである。
同社は、生殖科学の第一人者である広島大学 大学院 統合生命科学研究科 生生・応用動物生命科学 教授の島田昌之氏を役員に迎えており、同大学の研究成果である「家畜や実験動物では精液の液体部分の”精しょう”が精子の運動、受精能力に大きく影響する」ことに着目してサービス提供している。
そう、同社の基幹技術は、もともとはヒトの生殖機関に関する研究ではなく、家畜や実験動物の研究からスタートしたものなのである。家畜等の受精率を上げるために精液成分が研究されおり、その分野ではヒトよりも家畜の方が研究が進んでいるというから驚きである。
検査の流れはいたって簡単。販売されている専用キットを使って自宅で採精し、同封されている封筒でポスト投函する。キット内に購入者用のマイページアクセス情報が記載されており、ポスト投函よりおよそ3週間で結果がマイページ上に帰ってくるという流れだ。
精子の数や動き・パーフォマンスと関わりが深い成分や、そのほか健康状態が反映されやすい精液中の成分について、測定することができる。具体的には、以下の項目群である。
酸化ストレス、テストステロン、亜鉛、クレアチン、スペルミン
株式会社ダンテ 代表取締役 萩原啓太郎氏
実は今回のセミナー取材の前に、LoveTech Mediaでは編集長自らが、このBUDDY CHECKを使った検査を実施している。自身の精液および健康状態について、面白い結果が返ってきた。結果詳細については、追って別記事としてレポートしたいと思う。
ちなみに、会社名のダンテについて。LoveTech Mediaはてっきり、地獄篇・煉獄篇・天国篇からなる長編叙事詩「神曲」の作者からきた名前と勘違いしていたが、そうではない。
「男って」を音読みでローマ字にしたものが「DANTTE」という社名なのだそうだ。
ネーミングセンスもユニークすぎて、忘れることがないだろう。
サプリメント(株式会社パートナーズ)
妊娠を望む日本人カップル向け医療機関専用サプリメントを提供する株式会社パートナーズ。健康な子どもの妊娠・出産を栄養面からサポートすることを目的に、科学的根拠(エビデンス)に基づき、安全性を最優先して企画・設計・製造されているBABY&MEシリーズを提供している。全国の大学病院や不妊治療クリニックにて取り扱われているものだ。
BABY&MEシリーズにはマルチビタミンやラクトフェリンなど様々なサプリメントがあるが、今回はその中でも、還元型コエンザイムQ10を高容量に配合するサプリメントが展示されていた。
男性不妊原因で最も多いのは原因不明の乏精子症や精子無力症であるが、その多くに精子への酸化ストレスによる障害が関与していることが明らかになっている。
ここでいう酸化とは、要は「サビつき」である。例えば、リンゴを切ったままにしておくと色が変色する現象や、油が古くなると黒ずんだりする現象を見たことがある方は多いだろう。これと原理は同じで、体内で発生する「活性酸素」が、体をサビつかせ(酸化させ)、様々な不調や病気の原因になる。
一方、我々の体内には活性酸素を無毒化する、抗酸化作用が備わっている。抗酸化酸素を中心に、ビタミンCやE・グルタチオン・コエンザイムQ10・ポリフェノールなどが協働して抗酸化ネットワークを張り巡らせている。これが「抗酸化力」と呼ばれているものだ。
つまり酸化ストレスとは、活性酸素レベルが抗酸化力を上回っている状態なのである。精子が酸化ストレスにさらされることより、DNA損傷(DNA断片化)をはじめとする様々な損傷が発生し、男性不妊の原因となる。
この精子DNA断片化に対する治療法としては、禁煙や陰嚢冷却、禁欲期間を短くするといった生活習慣の改善手段や、精索静脈瘤手術や精巣精子採取といった外科療法がある。そして第三の手段として、抗酸化剤の服用がある。
コクランレビュー(※1)では、男性パートナーが抗酸化サプリを摂取していたART(生殖補助医療)患者の女性は、そうでない女性に比べて妊娠率・生産率ともに有意に高いと報告している。中でも特にコエンザイムQ10は、ランダム化比較試験による男性不妊患者の精子の質改善効果について、多くの報告がなされているという。
還元型コエンザイムQ10を高容量に配合するサプリメントを摂取した男性OAT症候群(※2)患者19名(30〜37歳、中央値36歳)の、摂取前後の精液所見を投与前・投与後8週間・16週間後に調査したところ、精子DNA断片化率が低下していることが明らかになっている。(第106回日本泌尿器科学会ポスター発表資料より)
以上、専門的な内容となってしまったが、エビデンスに基づいた良質なサプリメントとしてご紹介した。
なお、こちらの根拠となる臨床データについては、不妊治療専門クリニックの男性不妊外来での臨床試験データ論文が、泌尿器科専門誌に掲載されている。興味のある方はこちらもご覧いただきたい。
※1:コクランレビューとは、エビデンスに基づく医療情報源
※2:OAT症候群とは、乏精子症(Oligozoosperma)、精子無力症(Asthenozoosperma)、奇形精子症(Teratozoosperma)を総称した言葉
妊活をふたりで実施すべきこれだけの理由
続いて、メインコンテンツである「ふたりの妊活」セミナーの開始だ。
第一部では、産婦人科医である宋美玄(ソン ミヒョン)氏がお話された。書籍執筆やテレビ出演などを通じて、セックスや女性の性・妊娠などについて、女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行なっている方である。統計データや妊活当事者生の声から見えるこれまでの「妊活」と、「ふたりの妊活」の重要性について解説された。
そもそも宋氏が「ふたりの妊活」の重要性を説かれている背景には、昨今の日本における社会構造の変化とヒトの生殖適齢期という、大きく2つの事情がある。
社会構造の変化
まずは社会構造について。多くの方が認識している通り、女性の社会進出加速に伴い女性就業率も向上しており、内閣府発表データによると、2018年には約7割の女性が就業している。それにより共働き世帯も首都圏を中心に増加しており、同じく2018年には1,200万世帯を超えている。
また働き方と密接に関わってくる結婚についても、昔に比べて男女の初婚年齢は高まってきており、2016年のデータによると、男性は31歳、女性は29歳となっている。同様のデータを平成元年である1989年と比較すると、女性は実に3歳以上も高くなっていることがわかる。
ヒトの生殖適齢期
このように社会構造は変わってきているが、ヒトの生殖適齢期についてはどうだろうか。結論としては、男女ともに加齢の影響を確実に受ける。
まず、卵子の「数」は、加齢とともに低下する。生まれる前の胎生20週までに卵の数はピークを迎え、そこからはずっと減り続ける。
また、卵子の「質」も、加齢とともに低下する。以下の図は提供(ドナー)卵子と自分の卵子、それぞれを用いた場合の生殖補助医療による治療成績を図説したもので、自身の卵子における著しい質の低下が確認できる。
一方、精子についても、加齢とともに状態が悪くなることがわかっている。精液量・精子濃度・精子運動率・総運動精子数、いずれも加齢に伴い減少していることがお分かりいただけるだろう。
現に、不妊治療の成功率は女性の加齢と共に低下していることが、以下のグラフからもわかる。ちなみに生産率とは、子どもが生きて産まれてくる率を示す。
つまり、タイムリミットは「男女共にある」ということだ。
先ほども記載した通り、WHOの調査では、不妊の原因の約半分は男性に原因がある。男性不妊にも様々な症状があるが、例えば無精子症についていうと、100人に1人が統計的に該当しているという。男は関係ない、では済まされないのだ。
これが「ふたりで妊活」する必要性の、根本的な理由である。
「ふたりの妊活」実施によるメリット
「ふたりの妊活」をすることで、かけがえのない費用と時間を節約することができるだろう。
また、男女間にありがちな温度差を埋めることもできるかもしれない。さらに、妊活以外での夫婦間コミュニケーションも取りやすくなり、妊娠や育児の際の主体性も高まる可能性がある。
「ご夫婦が何人の子どもを持ちたいかという人数は、実は昔から変わっていないのですが、昨今の社会構造の変化によって、欲しい数の子どもを授かれていないというのが今の妊活の課題であり、人口学的に大きな問題と感じています。
レディースクリニックとして多くの患者さまのお話を伺っていると、主に旦那さんによる協力の有無が、妊活のメンタル面における大きなポイントになっていると感じます。
また、せっかく子どもを授かったとしても、片側に育児の当事者意識がないと、ハッピーな育児にはなりにくいのではないかと思います。
ぜひ、妊活は『ふたりで』協力しながら進めていってほしいなと思います!」
[clink url=”https://lovetech-media.com/interview/20190424futarininkatsu/”]
登壇者情報
宋美玄(ソン ミヒョン)
産婦人科医
1976年神戸市生まれ。医学博士。産婦人科医。2001年、大阪大学医学部卒。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院(胎児超音波部門)留学を経て、国内で産婦人科医として勤務。また、書籍執筆やテレビ出演などを通じて、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。