カナダ発VR/メタバース・ソーシャルプラットフォームを手がけるUtherverseは、2026年7月9日、成人向けゲームに焦点を当てた見本市「Adult Game Fest」を同年9月24日から26日までオンラインで開催すると発表した。
参加者はアバターでUtherverseの仮想空間に入り、ゲームスタジオや技術企業、決済事業者のブースを回る。スタートアップによる投資家向けのピッチや、AI活用、収益化、法令遵守などを扱う講演も予定されている。
「この分野で初めての専門業界イベント」と主催者が説明する本見本市は、どのような背景から企画され、どんなプログラムを予定しているのか。詳しく見ていく。
仮想展示ホールから投資家向けピッチまでを3日間で実施
Adult Game FestのオフィシャルメディアパートナーであるXBIZが掲載した発表内容によると、同イベントはUtherverseのプラットフォーム内でオンライン完結。物理会場は設けず、参加者はアバターを操作して展示ホールや交流イベントへと参加することになる。
会期中は、ゲームスタジオや技術企業、決済事業者がアバター空間に出展する仮想展示ホールのほか、スタートアップが投資家へ事業計画を売り込む「Adult Game Investment Forum」、AI活用・収益化・法令遵守などを扱う講演などが予定されている。あわせて経営層向けのビジネスマッチングや閉会後のバーチャル懇親会、割引や限定コンテンツをまとめたデジタルスワッグバッグの配布も告知されているが、現時点では登壇者や公園テーマなどの詳細はほとんど公表されていない。
| Day1 | Day2 | Day3 |
| 【10:00am】 Opening Ceremony + Platform Experience Tour 【11:00am】 Panel — TBA 【12:00pm】 Live Game Showcase Hour 【1:00pm】 Networking + Expo Hall Exploration 【2:00pm】 Workshop — TBA 【3:00pm】 Panel — TBA 【4:00pm】 Stream Lounge — Creator Spotlight Interviews 【5:00pm】 Tournament Block — Day 1 Competition 【6:00pm】 Day 1 Wrap + Happy Hour Social | 【10:00am】 Keynote — The Creator Economy in Adult Gaming 【11:00am】 Workshop — TBA 【12:00pm】 Game Lab — Interactive Beta Testing Session 【1:00pm】 Expo Hall + Sponsor Spotlights 【2:00pm】 Investor Pitch Arena — Main Event 【4:00pm】 Stream Lounge — Live Creator & Investor Interviews 【5:00pm】 Tournament Finals Qualifier 【6:00pm】 Day 2 Social Mixer + DJ Lounge | 【10:00am】 Keynote — The Future of Immersive Adult Entertainment 【11:00am】 Workshop — TBA 【12:00pm】 Community Showcase Hour 【1:00pm】 Final Expo Walkthrough + Networking 【2:00pm】 Live Podcast — “Where We Go Next” 【3:00pm】 Grand Championship Finals 【4:00pm】 Pre-Awards Show — Red Carpet & Highlights 【5:00pm】 Adult Game Fest Awards Ceremony |
Utherverseのエグゼクティブ・バイスプレジデントであるAnna Lee(アンナ・リー)氏は、成人向けゲームの各ステークホルダーが集まれる場所がなかったとの認識を示し、イベントを次のように説明している。
“Adult Game Fest was created to solve that gap by offering a fully immersive, avatar-driven convention experience.”
「Adult Game Festは、その空白を埋めるため、アバターで参加する没入型の見本市体験として企画された」(編集部訳)
— アンナ・リー、Utherverseエグゼクティブ・バイスプレジデント(XBIZ、2026年7月9日)
一般参加の早割チケットは8月14日まで99ドルで、その後は199ドルになる。またSexTech Guideの7月13日付記事によると、出展ブースは500ドルからで、スポンサー枠は1,500〜3万ドルと報じられている。資格審査を通過した業界関係者やインフルエンサーは、無料参加を申請できるという。
なお、Utherverseは「専門イベントとして初」と説明しているが、同社は2012年、XBIZなどとともに「Adult Entertainment Virtual Convention」を仮想空間で開催している。当時の報道では、映像会社、出演者、玩具メーカー、小売事業者など、アダルトエンターテインメント全般を扱う催しとして紹介されていたので厳密なターゲット等は異なるものの、見本市の建て付けや各コンテンツのテイスト等は当時の実績が参考になるだろう。
また、Utherverseは、Steamやitch.ioでの販売や、Patreonでの継続支援などを合わせ、成人向けゲーム分野が年間5億ドル超を生み出していると説明しているが、集計の根拠は示されていないため、あくまで参考値として理解するにとどめるのが良いだろう。
法規制の外側で、決済網が成人向け作品の流通を左右する現実

これまで成人ゲームは、一種のアンダーグラウンドな領域として、少なくとも今回のような大々的なビジネスカンファレンス・商談会に対する機運は決して高くない印象だった。だが、ここ数年で市場感が大きく変わってきている。各国における法規制以上に、決済ネットワークが「事実上の規制者」になってきたからだ。
そう、成人向けゲームの流通を左右するのは、販売プラットフォームの掲載規約だけではない。VisaやMastercardなどのカードブランド、Stripeなどの決済代行、その背後にいる銀行の取引条件等に対応できなければ、作品が適法であっても、ユーザーが検索、購入、支援できる状態を維持するのは難しくなる。
この問題は、欧米で注目される前から日本で起きていた。同人・PCソフト・電子書籍等コンテンツのダウンロード販売・購入を手がけるDLsiteでは、2024年4月3日にVisaとMastercardの決済が一時停止され、翌4日にはAmerican Expressも停止。クレジットカードで残ったのはJCBだけだった。直前には、カード会社側の要請を受け、一部の語句を伏せ字にしたり別の表現へ置き換えたりする対応も行われていたとファミ通.comが報じている。同年6月にはFANZA同人でもVisa決済が一時停止されたが、運営会社は理由や期限を公表しなかった。
DLsiteはPayPayやコンビニ払いなどの選択肢を案内し、2025年10月にはカードブランドを介さず、銀行口座から支払う「みんなの銀行決済」を導入した。Game*Sparkによると、この時点でもVisa、Mastercard、American Expressの再開は難しく、クレジットカード決済はJCBのみだった。このように、販売サイトが決済手段を増やす動きは、ユーザーの利便性を高めるだけでなく、特定のカードブランドとの取引が止まっても販売を続けるための備えとしての側面が強い。
販売サイトからクラウドファンディングサイトまで、広がる決済停止の動き

欧米では2025年7月、豪州の人権擁護団体Collective Shoutが、PCゲーム専用のデジタル配信プラットフォーム最大手「Steam」と、インディゲーム等デジタルコンテンツを扱う「itch.io」上の作品を問題視し、決済事業者へ働きかけるキャンペーンを展開した。
同団体は7月11日、VisaやMastercardなどに決済停止を求める公開書簡を提出。その後、決済網からの圧力を受けてSteamとitch.ioが多数の成人向けゲームを削除、または公開動線から外したとThe A.V. Clubなどが報じている。一部のゲーム開発者からは、ポルノ作品に限らず、LGBTQを主題とする作品や、性暴力・虐待の被害を扱う作品まで巻き込まれたとの報告も出た。
加えてitch.ioは2025年7月24日、決済事業者から掲載内容について照会を受けたとして、成人向けのNSFW(Not safe for work)コンテンツを検索、一覧、推薦などの公開動線から一括で外したと公式で説明している。すでに入手した作品はユーザーのライブラリから引き続きアクセスでき、ページ自体も直接開けたため、全作品が直ちに削除されたわけではない。ただし、新規ユーザーが作品を見つける機会は大きく狭まったことになる。
itch.ioは7月31日、決済を伴わない無料作品から検索対象への再登録を開始し、有料作品については決済事業者との協議を続け、段階的な復帰を目指すとした。決済代行のStripeは、銀行パートナーから課された制約により、「性的満足を目的とする」成人向けコンテンツを扱えないと説明し、将来的には対応したいとの意向も示したとPC Gamerが伝えている。同じ時期にはSteamでも一部作品が販売終了となり、決済網の判断がゲームスタジオ/ゲーム開発者とユーザーへ及ぼす影響がGuardianでも報じられた。
影響は販売サイトにとどまらない。世界最大級の購入型クラウドファンディング・プラットフォームであるKickstarterは2026年5月11日、成人向けコンテンツを対象とする詳細な制限指針を初めて公表した。同社は後に、この変更は主としてStripeの要件に対応するためだったと説明している。しかし、クリエイターから強い反発を受け、同月19日までに従来の指針へ戻し、対応を誤ったとKickstarter公式ブログで認めている。それでも、Kickstarterが承認した企画をStripeが資金募集の途中で停止できる状況は残るとWargamerは報じている。
こうした動きに異議を唱える事業者もある。PCゲームのデジタル配信プラットフォームであるGOGは、ゲームスタジオ/ゲーム開発者と共同で「FreedomToBuy.games」を立ち上げ、成人向けゲーム13本を48時間無料で配布した。同社は、合法かつ責任を持って作られた作品を、ユーザーが将来にわたってプレイできる状態にすべきだとの立場を示したわけだ。
日本のDLsiteやFANZA、欧米のSteam、itch.io、Kickstarterで続いた出来事は、政府が新たな法律で販売を禁じたわけではない。民間企業間の取引条件が上流から適用され、販売サイトの掲載方針や検索導線、資金調達の可否まで変えた事例である。
適法かどうかだけでは流通を保証できず、決済網が事実上の審査主体になり得る。この業界環境を踏まえると、Adult Game Festが決済事業者を出展主体に含めていることには、作品を継続して販売できる経路を協議する場としての意味があると言えるだろう。
投資・法令遵守・AIをめぐる実務課題

このような状況の中、法令遵守や決済条件への対応には人員と費用がかかる。年齢確認、禁止表現の審査、ユーザー投稿の監視、異議申し立てへの対応を求められれば、小規模なゲームスタジオや個人で活動するゲーム開発者ほど負担は重くなる。
今回の見本市で予定されている「Investor Pitch Arena」では、スタートアップ含むこうした小規模事業者が投資家等へと事業計画を説明し、投資や仲間を増やすきっかけとして機能することが期待されている。登壇企業や投資家、審査方法等はまだ公表されていないが、成人向けゲーム業界としては新しい試みと言えるだろう。
また、当日はAI活用にまつわる講演やパネル等も予定されているようだ。現時点では具体的な議題は分からないが、想定される用途はキャラクターとの会話生成、画像制作、翻訳、開発支援など幅広く、学習データの権利や生成内容の管理、ユーザーとのやりとりデータの保存といった論点をどこまで扱うかによって、プログラムの実務的な価値は変わるだろう。
成人向けゲームは、ユーザーが性欲や性的指向、他者との関係等を、画面上の操作を通して試せるメディアでもある。販売サイトの掲載基準が変われば、ユーザーが触れられる物語や身体表現の幅まで変わり得る。
Adult Game Festを通じてゲームスタジオ/ゲーム開発者、決済事業者、投資家、法務担当者が同じ催しに参加すれば、作品を公開・継続開発し続けるための共通課題を業界単位で扱う機会が生まれるかもしれない。


