記事の要点
・ヤマハ株式会社が2020年6月、インターネット回線を介して遠隔地間の音楽合奏を実現し、複数のユーザー同士(最大5拠点)でオンラインセッションが楽しめるサービス『SYNCROOM(シンクルーム)』をリリース予定と発表。
・同社ではネットワーク上の通信の揺らぎを吸収し、オーディオデータの双方向送受信を極力小さな遅れで実現する独自技術を研究開発している。SYNCROOMでは、これを基盤エンジンとして搭載する予定。
・ほぼ同等の機能を持つベータ版サービスが、「NETDUETTO」という名称で2011年より公開。SYNCROOMは、このNETDUETTOの安定版として、一部機能追加されて提供される。これに伴い、「NETDUETTO」シリーズは2020年秋頃のサービス終了を予定している。
LoveTechポイント
いつの時代も、音楽は人々の心に彩りを与えてくれます。
ライブで音楽セッションを聴くという文化をオンラインでも実現し、人々に癒しとエネルギーを提供するだけでなく、演奏家の活動場所を拡張している点が、非常にLoveTechだと感じます。
編集部コメント
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう昨今。活動自粛を余儀なくされる多くの地球市民の生活に“彩り”を与える様々な取り組みが、毎日のように発表されている。
例えば、音楽の合奏。
今年3月24日、新日本フィルハーモニー交響楽団の有志「シンニチ・テレワーク部」は、物理的に離れた場所にいる部員たち一人ひとりによる「パプリカ」演奏を編集でつなぎ合わせ、壮大な「テレワークオーケストラ演奏会」へと昇華させた動画をYouTubeに公開した。
その数、なんと総勢62名。
限られた環境下であっても、ここまで素敵な演奏を耳にすることができるのかと、涙を流しながら聴き入った方も多いのではないだろうか。
このテレワーク合奏を、今度は「リアルタイム」に楽しめるシステムが、2020年6月にヤマハ株式会社よりリリースされる。
その名も『SYNCROOM(シンクルーム)』。
インターネット回線を介して遠隔地間の音楽合奏を実現し、複数のユーザー同士(最大5拠点)でオンラインセッションが楽しめるサービスである。
通常、音楽の合奏をするとき、相手に音が届くまでに一定の「遅れ」が生じる。大気中での音速は約340m/s(秒速340m)なので、例えば5m離れた相手に届くには、15ミリ秒(1/1000秒)の遅れが発生することになる。現実的にはこの程度の遅れであれば、人間は問題なく合奏をすることができる。
だが、一般的なIP電話や遠隔会議システムの場合、この遅延秒数は大幅に膨れる。そもそも通話や会議を想定して設計されており、一定の音の遅れは想定された仕様なので、互いの音を同時に聞きながら合奏することは至難の技なのだ。
これに対してヤマハでは、ネットを介したオーディオデータの双方向送受信を、極力小さな遅れで実現する独自技術を研究開発しており、今回発表されたSYNCROOMのエンジンとして搭載している。ネットワーク上の通信の揺らぎを吸収し、できるかぎり音楽的に破綻しないような工夫がされているというのだ。
よって、遠隔地間でも違和感をほとんど感じることなくオンラインセッションを楽しむことができる仕組みになっている。
『SYNCROOM』アプリ画面イメージ
※開発中につき変更となる可能性あり
実はこれ、ほぼ同等の機能を持つベータ版サービスが「NETDUETTO」という名称で、2011年より公開されている。Windows/macOS上で動作する、ダウンロード型の無料アプリケーションソフトだ(現在ダウンロード可能なのは「NETDUETTO β2」)。
SYNCROOMはこのNETDUETTOの“安定版”として提供されるもの。搭載する基盤エンジンはそのままに、メトロノーム機能・録音に相当する機能・リバーブエフェクト機能などを追加してリリースされる予定だという。
またこれに伴い、現在提供されている「NETDUETTO」シリーズは、2020年秋頃のサービス終了を予定している。
ちなみにこの「NETDUETTO β2」を用いたオンライン合奏のトライアル体験は、ソニーネットワークコミュニケーションズのCSR活動の一環として、2019年12月に東京都品川シーサイドと静岡県浜松市の子どもたちに提供されている。SYNCROOM活用の具体的なイメージを持ちたい方は、以下の動画もご覧いただきたい。
良質な音楽、特に“ライブ”演奏は、心地よい波動を人に与える。
「やっぱり生演奏は違うよね」
液晶画面越しのリアルタイム遠隔コンサートを聴きながら、そんなことをつぶやく日も近いだろう。
以下、リリース内容となります。