AG/SUM 2019 開幕!
日本経済新聞社が主催する、国内最大のAgriTech & FoodTech(※)カンファレンス「AG/SUM(アグサム)」が、11月18日から3日間に渡って東京・日本橋で開催された。
※AgriTech(アグリテック):農業(Agriculture)× 技術(Technology)の造語。従来の農業における課題を、ドローンやIoT、ブロックチェーン等の最新技術を活用して解決するトレンド
※FoodTech(フードテック):食料(Food)× 技術(Technology)の造語。人類が直面する食料不足や、食の生産・流通・消費等に関する課題を、様々な最新技術を活用して解決するトレンド。AgriTechはFoodTechの位置領域との見方もできる
昨年に引き続き、2回目の開催となった今年のAG/SUMメインテーマは「技術と経営と社会の調和による持続的発展を目指して」、英語表記は“Bridge over Sustainable Development Goals”である。先端的な農業技術が、良い農業経営に結びついてこそ価値を持ち、また良い農業経営こそが、人々の食と地球環境の保全を可能にし、結果として持続可能な社会と経済成長をもたらす。そんなメッセージが込められている。
3日間を通して、会場には昨年度を上回る7,500名以上の来場者が集まり、また設置された40以上のセッションには国内外様々な要人が登壇。AgriTechおよびFoodTechにおける今後の可能性や課題について、金融・企業・政府・大学・スタートアップ等が活発に意見を交わしていた。
イベントレポートを配信する前に、まず本記事では事前学習として農業を取り巻く国内外の環境を復習するべく、ここ数年で国連にて採択された「家族農業の10年」と「小農権利宣言」について確認し、その後に我が国の農業領域を語る上で理解が欠かせない「JAグループ」における経済事業の棲み分けや役割等について解説することにする。
国連による「家族農業の10年」と「小農権利宣言」
当編集部がカンファレンス来場者の方々に「国連による『家族農業の10年』と『小農権利宣言』をご存知ですか?」と質問したところ、多くの方々は「なんとなく知っている」という回答であった。さすがAG/SUMということで、多くの方はグローバルな流れをしっかりと抑えているというわけだ。
本記事では初めに、昨今の農業環境を取り巻くグローバルな潮流として、2017年に国連で採択された「家族農業の10年」と、2018年に採択された「小農権利宣言」について、復習したいと思う。
「家族農業」とは?
そもそも「家族農業」という言葉自体、聞き慣れない方が多いかもしれない。
家族農業とは、その名の通り、農場の運営・管理を1戸の家族、すなわち家族労働力を基幹として営む農業のことを示す。国連では、「農業労働力の過半を家族労働力が占めている農林漁業」と定義している。
より詳しい定義の考察が、小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(以下、SFFNJ)により提供されている。
(以下引用紹介)
家族農業は家族を基盤とした農業ですが、家族の形態は時代とともに変化しています。家族農業は人的つながり(絆)を持つ社会集団による農業であり、必ずしも血縁によって結びついた家族による農業のみではありません。非血縁の養子縁組や事実婚の家族も含まれるでしょう。また、一人で営む個人経営も、労働力の過半をその個人の労働力でまかなっている場合は、家族農業に準じて議論されています。
つまり、家族農業とは、資本的つながりによって結合した社会集団による企業的農業に対置する概念として位置づけられています。今日では、法人化した家族経営の大規模農業も存在しますが、労働力の過半を家族労働力でまかなっていると定義することで、おおよその経営の性格区分をしています。もちろん、この定義は国・地域の多様性に合わせて検討されるべき課題です。
SFFNJによると、現在、世界の食料の約80%が家族農業もしくは小規模農業によって生産されており、世界の全農業経営体数の実に90%以上を占めているという。世界の農業経営の72%は1ヘクタール未満の小規模経営である一方で、世界の食料安全保障や食料主権を支える基盤にもなっていることから、小規模・家族農業は、環境保全、生物多様性の保護、地域経済の活性化において重要な役割を果たしていると言える。
ちなみに農林水産省の調査結果によると、我が国の農業経営体数は約138万経営体(2015年時点)であり、このうち家族経営体は134万経営体。つまり、国内農業経営体全体の約98%を家族農業が占めていることになる。
それは多い!と思われるだろうが、実はEU、米国など他の先進国についても、同様の状況となっている。
なぜ「家族農業」が注目されているか
つい10数年前までは、大規模化・効率化一辺倒の農業政策がもてはやされていた。作業労働時間と生産費用を削減し、農作物の生産効率性を上げる。特に、生産品目数を絞った上で大規模化を行えば、農業機材の性能をフル活用し、効率よく作業を進めるという大きな経済的メリットを享受できるわけだ。
一方で、このような近代的農業を展開していったことで、環境汚染や水資源の枯渇、枯渇性資源への依存、食の安全性リスク、気候変動といった負の側面が明らかになってきた。
また、このようなモデルの下で進んだ国際農産物・食品市場への過度の依存が、地域の食料主権を脅かしているのも、おそらく間違いないということがわかってきた。
このような背景より、かつては時代遅れと思われていた小規模・家族農業が、持続可能(サステナブル)な農業に向けて、実は最も効率的だという評価がなされるようになる。
国連食糧農業機関(FAO)によると、家族農業は、開発途上国・先進国ともに主要な農業形態となっており、社会経済や環境、文化といった側面でも重要な役割を担っているという。また、彼らは地域ネットワークや文化の中に組み込まれており、多くの農業・非農業の雇用を創出している。
農村地域の開発と持続可能な農業に対する資源の投入や、小規模農家、特に女性農業者への支援が、とりわけ就農者の生活を改善し、すべての形態の貧困を終わらせる鍵になっているというわけだ。
国連「家族農業の10年」
ここまでの流れを受けて、国連は2017年の国連総会において、2019年~2028年を国連「家族農業の10年」として定めた。
これは、2014年の「国際家族農業年」を事実上10年間延長するもので、日本を含む国連加盟国104か国が共同提案、全会一致で可決されたものである。
加盟国及び関係機関等に対して、食料安全保障確保と貧困・飢餓撲滅に大きな役割を果たす「家族農業」についての施策の推進・知見の共有等を求めており、詳細は以下となる(小規模・家族農業ネットワーク・ジャパンによる翻訳転載)。
1 家族農業を強化するための実現可能な政策環境を構築する
2(横断的柱) 若者を支援し、家族農業の世代間の持続可能性を確保する
3(横断的柱) 家族農業における男女平等と農村の女性のリーダーシップを促進する
4 家族農業組織とその知識を生み出す能力、加盟農民の代表性、農村と都市で包括的なサービスを提供する能力を強化する
5 家族農家、農村世帯および農村コミュニティの社会経済的統合、レジリエンス(回復力)および福祉を改善する
6 気候変動に強い食料システムのために家族農業の持続可能性を促進する
7 地域の発展と生物多様性、環境、文化を保護する食料システムに貢献する社会的イノベーションを促進するために、家族農家の多面性を強化する
小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言
もう一つ関連する動きとして、同じく国連で2018年11月に採択された「小農の権利宣言」(正式名称:小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言)についてもチェックしておく。
これはもともと、ボリビアにおける小農活動グループ等が声をあげ、それを受けて同国政府が国連に提言する形で議論が重ねていったことから、採択にまで至った宣言である。
背景にあるのは、主に先進諸国による経済至上主義に基づく大規模化・効率化一辺倒の農業政策への危機感からだった。食のグローバル化に伴う先進諸国の大きな資本が、現地の小農たちを「使う」形で輸出型農産品の開発を進めていったことで、農村は疲弊し、田畑は荒れ、生物多様性が損なわれていった。
このままでは収奪と格差が広がるばかりという危機感から、小農民のみならず、先住民や牧畜民の権利を確立し、その土地ならではの文化やアイデンティティ、生物多様性を守ろうというアクションにつながり、権利宣言に盛り込まれることとなったわけだ。
ちなみに、国連総会では121カ国が賛成、8カ国が反対、棄権が54出会った。日本は棄権組である。
反対組の筆頭はアメリカ。大規模農業と企業化の筆頭である国だからこそ、小農重視の施策は、産業拡張の観点で不都合だったことが予想される。
いずれにせよ、国連による「家族農業の10年」「小農の権利宣言」という大きな流れを受けて、環境対応型かつ持続可能型の農業が世界的に標榜されるようになってきたと言える。
JAグループの各組織について理解を深める
さて、今回のAG/SUMでは「JA全農」がスポンサー協力している。
読者の皆様は、JA全農がどのような組織で、どのような役割を担っているのか、ご存知だろうか。JA・JA単協・JA経済連・県JA・JA全農など、近しい名称の組織の区別がついているだろうか。
AG/SUM会場内で、先ほどと同じく当編集部から来場者何名かにこのような質問をしたところ、ほとんどの方は言葉としてご存知であったが、ビジネスサイドの来場者を中心に、事業内容や役割等について把握されていないようだった。
よってここでは、日本の農業を語る上で欠かせない「JAグループ」の中でも、営農に強く関わる組織と役割概要についてお伝えする。
JA(農業協同組合)
生活の各所で目にするJAとは、正式名称である「農業協同組合」(以下、農協)の英名、“Japan Agricultural Cooperative”から来ている。
要は、日本のほとんど農家が加入している、農業協同組合法に基づく協同組合法人のことだ。
組合員である農家からの出資金で成り立っており、農家の生産活動(資金調達、生産資材購入、生産、生産物の販売等)すべてに関わっている。具体的には、農畜産物の販売や必要資材等の購入を行う経済事業、各種金融サービスを行う信用事業、農政活動やJA指導などを行う指導事業、組合員の生活を保障する役割を担う共済事業などがある。
以下がJAグループの全貌となる。
出典:JA全中ホームページ「グループ組織図」
JA単協とJA経済連と県JA
もともと農協は、市町村をもとに構成されることが多かった。一般的にこのような農協を「単位農協」(通称:JA単協や単位JA、本記事では以下「JA単協」)とも呼んでおり、かつては何千とあったようだが、2019年7月1日時点では607のJA単協が存在している。
このJA単協が、一部の都道府県レベルでのまとまりで形成されたのが、「経済農業協同組合連合会」(通称:JA経済連)や「県JA」として存在することになる。
【JA経済連(8組織)】
ホクレン(北海道)、静岡、愛知、福井、和歌山、熊本、宮崎、鹿児島
【県JA(7組織)】
奈良、島根、山口、香川、高知、佐賀、沖縄
※佐賀県のJAは、経済連を包括承継し、県域機能を持つJAさがの他、JAからつ、JA伊万里、JA探し中央の計4JA
※高知県のJAは、県内12JAと連合会機能が統合したJA高知県の他、JA土佐くろしお、JA馬路村、JA高知市の計4JA
JA全農(全国農業協同組合連合会)
全国の各市町村にある単協の経済事業は、都道府県単位ごとに組織されたJA経済連および県JAを通じ、さらに「全国農業協同組合連合会」(以下、JA全農)へとつながった、計3段階の系統組織によって運営されている。
JA全農の事業は大きく分けて2つ、販売事業と購買事業だ。
販売事業では、組合員が生産した農畜産物をJAが集荷して共同販売(共販)をしている。共販をすることによって、農畜産物の数量がまとまり、一定レベルの品質が均一にそろうことから、市場で良い条件での販売が可能になるというのだ。
また購買事業については、組合員に肥料、農機具、飼料等の生産資材や生活資材をできるだけ安く、良質なものを安定的に供給しようとするものである。肥料・農薬・飼料・農機具など組合員の営農活動に必要な品目の供給を行う「生産資材購買」と、食品・日用雑貨用品・耐久消費財など組合員の生活に必要な品目を供給する「生活資材購買」の2つが事業として存在する。
JA都道府県中央会とJA全中(全国農業協同組合連合会)
JA経済連・県JA・JA全農がJAグループにおける「経済事業」を担っている一方で、各JA単協の農政や広報、人材育成などの経営支援を担っているのが、「JA都道府県中央会」と「全国農業協同組合連合会」(以下、JA全中)である。
JA経済連・県JAとJA全農の関係性と同様、都道府県レベルでのまとまりで形成されたのが「JA都道府県中央会」で、全国としてまとめているのが「JA全中」となる。
農政部門では、各現場の要望を積み上げ、政策企画・提案にかかる組織内のとりまとめを行い、その具体化・実現のために活動している。
広報部門では、全国のJAや連合会を代表し、食料・農業・JAに関する情報発信を多様な媒体で行っている。広報が苦手なJA単協等にとってはありがたい話なのだろう。
他にも、人材開発領域を担うJA経営支援部門や、システムコストの削減や情報セキュリティ対策などを行う情報システム部門など、まさに民間企業と同等の機能を有して提供している。
一点特記事項として、今年、JA全中の組織体が一般社団法人へと移行され、農協法に基づく特別な組織ではなくなった。トップダウンでの意思決定権を縮小し、組合員による自主性を尊重するための措置であると言え、より農家と農業に貢献する存在へと昇華されていくことが期待されている。
——
ここまでAG/SUM 2019を楽しむための事前知識整理を行った。本情報をもとにして、次回以降のレポートを楽しんでいただきたい。
編集後記
AG/SUM 2019、始まりました!
一次産業と食の未来を皆で考える、良質なカンファレンスとして、今回もLoveTech Mediaでは複数記事に渡ってレポート記事を配信する予定です。
それらに先駆けて、まずは国際的な潮流と国内におけるJAグループの役割について、それぞれ解説しております。
特に後者については、組織ごとの立ち位置や役割等をしっかりと理解できていない、という声が聞こえてきたので、pre-Reportとして急遽まとめました。
次回以降のレポートの参考になれば幸いです!
AG/SUM 2019 レポートシリーズ by LoveTech Media
pre-Report. 家族農業の10年、小農権利宣言、そしてJAグループ 〜AG/SUM 2019レポートを楽しむための事前解説
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