記事の要点
・酪農・畜産向けIoTソリューションを提供するファームノートホールディングスのグループ会社が、北海道標津郡「中標津町」に自社牧場を立ち上げ、酪農生産のDX化に向けた実証を開始したことを発表。
・IoTやAIソリューションの導入のみならず、牛舎設計から搾乳等の自動化技術・牛の遺伝改良技術・疾病予防技術・繁殖改善など、酪農生産技術を高次に両立させパッケージングした「酪農生産のDX化」を実証する第一号牛舎となる。
・4dBarn社(フィンランド)の設計思想を取り入れ、自動搾乳ロボットを中心とした働く「人」にも「牛」にも配慮された生産性の高い牛舎を実現。牛舎内の総労働時間として、1日あたり8時間程度、同規模の牧場の約1/3の時間で作業が可能になる見通し。
LoveTechポイント
ここ数年で酪農や畜産領域のテック活用が進んでおりますが、牛舎全体のUXを再設計した牧場はなかなかないケースだと感じます。
牛にとっても人にとっても過ごしやすい環境を目指している点が、LoveTechだと感じます。
編集部コメント
酪農・畜産向けIoTソリューションを提供するファームノートホールディングスのグループ会社が、北海道標津郡「中標津町」に自社牧場を立ち上げ、酪農生産のDX化に向けた実証を開始したことを発表した。
ファームノートといえば、牛群の情報を記録・分析・共有できるクラウドシステム「Farmnote」をはじめ、リアルタイムに牛の活動情報を収集するスマートデバイス「Farmnote Color」、肥育牛の起立困難状態を検知・通知するセンサーデバイス「うしらせ®︎」などを展開するアグリテック企業。
2013年11月の会社(株式会社ファームノート)設立以降、酪農生産のDXに向けたプロダクトを展開しており、現在はユーザー数:4,400生産者、累計利用頭数:42万頭(日本の飼養頭数は全部で380万頭)にまで成長している。
今回生産を開始する自社牧場は、IoTやAIソリューションの導入のみならず、牛舎設計から搾乳等の自動化技術・牛の遺伝改良技術・疾病予防技術・繁殖改善など、酪農生産技術を高次に両立させパッケージングした「酪農生産のDX化」を実証する第一号牛舎だという。
背景にあるのは、主に小-中規模生産者による「離農」トレンド。過去20年をみると半分以下に、ここ10年を見ても70%以下に減少するなど、酪農生産の基盤を揺るがしかねない現状にある。長時間労働や生産性、設備投資の重さなどが原因で、次世代へのバトンが受け継がれていない状況だからこそ、デジタルの力を活かしたインターネットネイティブな酪農のあり方が求められているというわけだ。
酪農家戸数の推移(戸)】(一般社団法人中央酪農会議「酪農全国基礎調査からみる日本酪農の現状」p.1より)
今回運用がスタートした新牛舎では、自社サービスである「Farmnote Cloud」や「Farmnote Color」の他にも自動搾乳ロボットを導入。Farmnote Cloudにより生産データを可視化し、全ての従業員に分析結果が共有され、Farmnote Colorによって誰でも発情や疾病兆候といった牛の状態変化を発見できる状態になっているという。さらに搾乳ロボットによる搾乳作業の自動化や整備されたオペレーションマニュアルによって従業員の習熟度にかかわらず業務の再現性が向上し、業務の最適化と従業員教育の効率化につながる。
また生産データの共有に加えて、クラウドカメラによる牛舎状況のリアルタイムな観察と、ボディコンディションスコアカメラ(※)による牛の栄養状態も自動で分析。牧場管理者が遠隔であっても牧場の状況を適切に把握して従業員に指示を出すことができ、また獣医師などの専門家も遠隔から生産状況を確認して適切なアドバイスをすることができる。
※ボディコンティションスコア:牛体への脂肪蓄積の程度から、牛の栄養状態を評価する手法。自社開発のボディコンディションスコアカメラによって牛体の画像から栄養状態を自動的に評価する。
さらに、牛舎にはフィンランドの4dBarn社による設計思想が取り入れられており、自動搾乳ロボットを中心に、牛だけでなく人にも配慮された仕様となっている。具体的には搾乳・繁殖・乾乳・分娩・育成・治療等の作業が一つの牛舎内ですべて完結するよう導線が設計されており、一般的な牛舎の4倍程度のソーティングゲートを設置・活用することで、作業者一名でも牛の移動が短時間でスムーズに行えるようになっているという。
その結果、牛舎内の総労働時間としては、1日あたり8時間程度、同規模の牧場の約1/3の時間(※)で作業が可能になる見通しだという。
※中央酪農会議H30資料などからファームノート社が推計
IoTなどツールを入れることで情報の可視化がなされるものの、本来的なDXとは、それらを前提にした構造的なUXを再設計すること。今回、中標津町に開設した牧場は、その先駆けとして期待される実証と言えるだろう。
2020年10月以降に視察受け入れを開始するとのことで、興味のある方はファームノートWebサイトまたはファームノート公式SNSを要チェックだ。
以下、リリース内容となります。