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子育てをする家庭にとって、保育園・幼稚園ほどありがたい存在はないだろう。
共働き世帯の増加や核家族化の進展を背景として、祖父母含めた家族やご近所さん以外のヘルプが必要な家庭が激増している状況の中、保育園・幼稚園は欠かせない存在となっており、精神的・経済的そして社会的セーフティーネットとなっている。
そんな保育園・幼稚園に通えない子がいることを、あなたはご存知だろうか。
2018年1月に内閣府庁舎で開催された「第1回 幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会」で配布された資料「認可外保育施設・幼稚園預かり保育の現状について」によると、3歳以降で保育園・幼稚園に通っていない子ども(つまり、3〜5歳の未就園児)は、約14万人いるという。
想像以上に多くはないだろうか。
もちろん、あえて通わせていないケースもある。
幼児教育の重要性がさけばれている昨今において、園に預けるという選択肢をとらず、家庭内や民間スクールに通わせることで「幼児期からの教育効果最大化」をはかる家庭も多くなってきているであろうからだ。
しかし、問題はこういったケースでない。
今回、北里大学が発表した研究結果によると、3歳以降の未就園は低所得、多子、外国籍など社会経済的に不利な家庭や、発達や健康の問題(早産、先天性疾患)を抱えた子どもで多い傾向が明らかになったという。
つまり、本来はセーフティーネットとして機能すべき保育園・幼稚園が、本当に助けが必要な人たちのセーフティーネットになれていない、ということなのである。
この研究では、厚生労働省が全国規模で実施している21世紀出生児縦断調査に参加した平成13年生まれの子ども17,019名と平成22年生まれの子ども24,333名を対象に、3、4歳時点で保育園・幼稚園・認定こども園に通っていない要因について、家庭の社会経済的状況と子どもの健康・発達に着目して分析した。分析は、13年と22年生まれの子どもで別々に行ったという。
その結果を受けての研究チームの考察は以下の通り。
- 低所得家庭で未就園が多い傾向にあったが、公的援助により保育料は世帯収入に比例するため、単純に保育料の問題ではなく、保育料以外の費用(課外活動費や給食費など)が負担になっている可能性がある。
- 低所得家庭では親がメンタルヘルスの問題を抱える傾向があるため、親のメンタルヘルスの問題によって未就園になっている可能性もある。
- 多子世帯では、兄や姉が面倒をみていて、親が就園させる必要を感じていない可能性がある。
- 早産や先天性疾患は直接、未就園と関連している可能性に加え、それらが発達の遅れと関連し、発達の遅れが未就園と関連している可能性もある。
- 親のどちらかが外国籍の場合には、言語・金銭的なハードルにより就園していない可能性がある。幼児教育に対する価値観の違いなどが影響している可能性もある。
また、研究チームは以下の政策提言も記載している。
- 未就園児は、社会的に不利な家庭に多い可能性があります。
- 未就園児の状況を各自治体が把握するべきではないでしょうか。その上で、保育園・幼稚園等の利用に係る障壁を取り除く努力をして、幼児教育を受ける機会の公平性を担保することが望まれます。
- 産前産後の切れ目のない支援は、現状では3歳児健診で途切れがちですが、それ以降から小学校入学まで実施すべきではないでしょうか。
- 健康や発達に問題を抱えている子どもたちも幼児教育を受けられるよう、障害児保育を充実すべきではないでしょうか。
- 親が外国籍の子どもは増えており、今後も増える可能性が高いと考えられます。親が外国籍の子どもたちも幼児教育を受けられるように、障壁となっている要因を調べ、対策を打つことが必要ではないでしょうか。
例えば未就園児についての情報を自治体サイドが把握できていないことは致命的だ。具体的な状況を把握していない限り、具体的な対策を打ちようもないからだ。
今回、北里大学が発したリリース内容と関連する諸問題については、病児保育などで有名なNPO法人フローレンスの代表理事・駒崎弘樹氏も自身のnoteで論じている。
https://note.mu/komazaki/n/n52d7efd3fecf
LoveTech Mediaでは電子母子手帳や地域情報ポータルといった「街に寄り添うテクノロジー」も多く紹介してきたが、今回の未就園児問題を解決する糸口となるLoveTechな取り組みについても、積極的に発信していきたいと考えている。
何か情報がある方は、編集部(press@lovetech-media.com)までご連絡いただきたい。
詳細については以下、リリース内容をご覧ください。
社会的不利や健康・発達の問題が3、4歳で 保育園・幼稚園等に通っていないことと関連
――約4万人を対象とした全国調査の分析から――
リリース概要
子どもの貧困が社会問題となっている昨今、幼児教育が貧困の連鎖を断つ鍵として注目されています。アメリカの経済学者ヘックマンによると、質の高い幼児教育は、低社会階層の家庭の子どもの非認知能力(社会性や忍耐力など)を伸ばすことで、成人後の経済状況を改善する効果が期待されています。しかし、その一方で、海外の先進国の研究では、社会的に不利な家庭ほど幼児教育を受けていないことが指摘されており、日本でも同様の傾向が懸念されています。
そこで、全国から抽出した子ども(平成13年生まれ17,019名、平成22年生まれ24,333名)を対象に、3、4歳時点で保育園・幼稚園・認定子ども園に通っていない(未就園)の要因を調べた結果、3歳以降の未就園は低所得、多子、外国籍など社会経済的に不利な家庭や、発達や健康の問題(早産、先天性疾患)を抱えた子どもで多い傾向が明らかになりました(下グラフ)。この傾向は平成13年、22年生まれの子どもの両方で一貫して見られました。
最も高所得世帯の子どもと比べ、最も低所得の世帯の子どもは未就園の可能性が高い。
背景
近年、アメリカの経済学者であるヘックマンが、質の高い幼児教育の長期的な経済的効果の高さを検証したことから、幼児教育の重要性に注目が集まっている。経済学分野での研究では、家庭でのリソースが少ない低社会階層の子どもにこそ質の高い幼児教育が重要であり、公的資金投入の費用対効果が高いとの説が有力になりつつある。しかし、アメリカやヨーロッパの研究では、社会的に不利な家庭ほど幼児教育を受けていないことも明らかになっている。日本では全国で、3歳児の8.9%、4歳児の2.7%、5歳児の1.9%が保育園・幼稚園・こども園に就園していない(未就園)と推計されている(2017年度)。しかし、どういった特徴を持つ子どもたちが未就園なのかを分析した研究はない。
研究方法
厚生労働省が全国規模で実施している、21世紀出生児縦断調査に参加した平成13年生まれの子ども17,019名と平成22年生まれの子ども24,333名を対象に、3、4歳時点で保育園・幼稚園・認定こども園注1に通っていない要因について、家庭の社会経済的状況と子どもの健康・発達に着目して分析した。分析は、13年と22年生まれの子どもで別々に行った。
研究結果のポイント
13年生まれの3、4歳クラスに未就園の子の割合は、それぞれ18%、5%であった。22年生まれの3歳クラスに未就園の子の割合は、8%であった。本研究の結果を、以下の3つのポイント、考察および政策提言にまとめる。
①家庭の社会経済的状況と未就園との関連(P.3)
②子どもの健康や発達の問題と未就園との関連(P.4)
③未就園の理由(P.4)
未就園の原因に関する考察(P.5)
本研究の結果を踏まえた政策提言(P.5)
①家庭の社会経済的状況と未就園との関連
13年と22年生まれで共通して未就園と関連した要因は、(a)低所得家庭、(b)きょうだいが3人以上、(c)親が外国籍だった(表1)。ここでは、4歳(平成13年生まれ)の数値を用いて説明する。
(a)世帯所得を均等に5群に分けて、最も高所得の世帯と比較した場合、最も低所得の世帯では、未就園の可能性が1.5倍高い(調整後オッズ比注21.54:95%信頼区間1.20-1.98)。
(b)きょうだいがいない一人っ子と比べて、本人以外に3人以上いる場合では、未就園の可能性が9倍高い(調整後オッズ比1.92:95%信頼区間1.28-2.89)。
(c)親が日本国籍と比べて、両親のどちらかが外国籍の場合では、未就園の可能性が5倍高い(調整後オッズ比1.48:95%信頼区間1.00-2.24)。
②子の健康や発達の問題と未就園との関連
未就園と関連した要因は、(a)早産、(b)先天性疾患、(c)発達の遅れだった(表2)。
(a)4歳(13年生まれ)では、出生週数が37週以降の正規産と比較して、36週未満の早産では、未就園の可能性が2倍高い(調整後オッズ比1.97:95%信頼区間1.50-2.59)。3歳(22年生まれ)でも同様の傾向が見られた。
(b)13年と22年生まれの3歳では、先天性疾患がない場合と比べ、ある場合では未就園の可能性が4-1.5倍高い(13年生まれでの調整後オッズ比1.55:95%信頼区間1.05-2.27;22年生まれでの調整後オッズ比1.40:95%信頼区間1.04-1.89)。
(c)22年生まれの3歳において、発達の遅れがない場合と比べ、ある場合では未就園の可能性が4倍高い(調整後オッズ比1.37:95%信頼区間1.20-1.55)。
③未就園の理由
22年生まれでは未就園の理由も尋ねており、低所得家庭の場合、経済的理由の割合が高く、保育園や幼稚園の利用は必要がないという理由の割合は低かった。
未就園の原因に関する考察
- 低所得家庭で未就園が多い傾向にあったが、公的援助により保育料は世帯収入に比例するため、単純に保育料の問題ではなく、保育料以外の費用(課外活動費や給食費など)が負担になっている可能性がある。
- 低所得家庭では親がメンタルヘルスの問題を抱える傾向があるため、親のメンタルヘルスの問題によって未就園になっている可能性もある。
- 多子世帯では、兄や姉が面倒をみていて、親が就園させる必要を感じていない可能性がある。
- 早産や先天性疾患は直接、未就園と関連している可能性に加え、それらが発達の遅れと関連し、発達の遅れが未就園と関連している可能性もある。
- 親のどちらかが外国籍の場合には、言語・金銭的なハードルにより就園していない可能性がある。幼児教育に対する価値観の違いなどが影響している可能性もある。
政策提言
- 未就園児は、社会的に不利な家庭に多い可能性があります。
- 未就園児の状況を各自治体が把握するべきではないでしょうか。その上で、保育園・幼稚園等の利用に係る障壁を取り除く努力をして、幼児教育を受ける機会の公平性を担保することが望まれます。
- 産前産後の切れ目のない支援は、現状では3歳児健診で途切れがちですが、それ以降から小学校入学まで実施すべきではないでしょうか。
- 健康や発達に問題を抱えている子どもたちも幼児教育を受けられるよう、障害児保育を充実すべきではないでしょうか。
- 親が外国籍の子どもは増えており、今後も増える可能性が高いと考えられます。親が外国籍の子どもたちも幼児教育を受けられるように、障壁となっている要因を調べ、対策を打つことが必要ではないでしょうか。
書誌情報
雑誌名:JournalofEpidemiology(掲載日:2019年3月23日) |
タイトル:Socio-economicdisparitiesinearlychildhoodeducationenrollment:Japanesepopulation-basedstudy |
著者名:可知悠子(北里大学医学部公衆衛生学単位)加藤承彦(国立成育医療研究センター社会医学研究部)カワチイチロー(ハーバード公衆衛生大学院・行動科学学部) |
謝辞
本研究は「平成28-32年度科学研究費補助金若手研究(B)(16K16631)」の助成を受けている。
脚注
注1)認定こども園は平成18年に創設された施設のため、平成22年生まれのみで対象となっている。
注2)オッズ比は、曝露とアウトカムの関連の強さの指標。本研究では、曝露は社会経済的状況、アウトカムは未就園かどうかになる。オッズ比の値が1を超える場合、基準の曝露の人と比べて、評価項目が発生する可能性(オッズ)が高いことを意味する。ここでのオッズ比は、親の要因(世帯所得、母親の教育歴、母親の就労状況、世帯構造、両親の国籍、育児不安)、子の要因(性別、きょうだいの数、早産、先天性疾患、発達の遅れ)、環境要因(都市の規模、地域)を調整した値を示している。