日本経済新聞社が主催する、人工知能(AI)の活用をテーマにした初のグローバルイベント「AI/SUM(アイサム)」。「AIと人・産業の共進化」をメインテーマに掲げ、4月22日〜24日の3日間かけて東京・丸の内で開催された、大規模ビジネス&テクノロジーカンファレンスである。6月に大阪で開催されるG20に先駆けた取り組みとも言える。
レポート第2弾の本記事では、「世界を席巻するMade AI Japan!」というテーマで設置されたセッションについてお伝えする。
GAFAが集めた消費ビッグデータをベースにした米国型AIでもなく、習近平書記長がリードする中国の国家統制型AIでもない、日本独自なAIの強み、特長は何なのか。どんな形で社会、世界に広がっていくのか。Made AI Japan の潜在力と可能性について、最先端テクノロジーを有する企業4社を交えて議論された。
写真左から順番に
<モデレーター>
・柳川範之(やながわ のりゆき)氏
東京大学大学院経済学研究科 教授
<登壇者>
・井口圭一(いぐち けいいち)氏
HEROZ株式会社 最高技術責任者 開発部長
・市村雄二(いちむら ゆうじ)氏
コニカミノルタ株式会社 常務執行役 産業光学システム事業本部長 ビジネスイノベーションセンター
・今岡仁(いまおか ひとし)氏
NEC バイオメトリクス研究所 リサーチフェロー&ダイレクター
・滝野一征(たきの いっせい)氏
株式会社MUJIN CEO 兼 共同創設者
4社によるAI関連事業紹介
まず始めに、登壇4社のAI関連事業内容について紹介された。
将棋AIを生かしたHEROZ Kishin(HEROZ、井口圭一氏)
「AI革命を起こし、未来を創っていく」というコンセプトで事業展開するHEROZは、何と言っても、将棋AIでご存知の方が多いだろう。同社創業者の一人である林隆弘氏は、将棋でアマチュア全国優勝数回の経歴と当時のアマチュア最高段位である六段を取得た人物でもある。
1997年にIBMのDeepBlue(チェス専用のスーパーコンピューター)が、当時のチェス世界チャンピオンに初めて勝利したというニュースが非常にショッキングであった。将棋はチェスに比べてより複雑なルールなので、10年くらいはまだ人間の方が上だろうと考えられていたのだが、2013年にはHEROZ在籍エンジニア開発のAIが現役プロ棋士に勝利した。そして同時期に、GoogleのAlphaGo(Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム)が現役の囲碁プロ棋士に勝利した。
ボードゲーム史上で語られることの多いこの3つのAIだが、IBMおよびGoogleと、HEROZとでは圧倒的にマシンリソースが異なる。前者はスパコンを利用したり、学習サーバーを何台も接続している一方で、後者は家庭用PCで開発されたという。技術力の高さをお分りいただけるだろう。
その後、対局中に将棋AIが5手/120円で代わりに指してくれる「棋神降臨」や、お気に入りの大局から自分の現状の騎力を数値で確認できる「精密解析」など、将棋AIエンジンを活用したBtoCサービスを複数展開しており、プロ棋士も多く利用している。
また、同社では将棋AIで培った技術を活かし、数年前から他分野でもAI事業を展開している。建設・金融・製造・不動産・物流など、様々な業種業態に対して「HEROZ Kishin」というBtoB事業を進めている。
B2B2P(Professionals)の意識(コニカミノルタ、市村雄二氏)
1873年にカメラ・写真用フィルム事業で創業されたコニカミノルタは、そのコア技術を活用し、プリンターなどのビジネスソリューションを始め、ヘルスケア・光学製品・勇気EL照明など、様々な事業領域を有している。
同社のAI戦略のポイントは「B2B2P(BtoBtoP)」だという。”P”とはプロフェッショナルのこと。ものづくりのプロやビジネスパーソン、介護士・保育士・医師といった働くプロフェッショナルによる最良の教師モデルと、現場の画像データや動体データ、音響データ、構造化データといったエッジ(現場)起点の高品質なデータを掛け合わせた事業創造を推進している。
昨今のAIは、ガベージイン・ガベージアウト、つまり学習による出力の質は入力の質次第というところがあり、いわゆるGAFAによる消費ビッグデータをベースにしたAIでは、データの質はそこまで求められなかった。
一方ものづくりの現場では、高品質なアルゴリズムと併せて「データの精度」が重要となってくるので、そのような観点で、日本のものづくりの逆襲が十分にあり得るという。
なお、同社が取り組むプロダクトの一つとして「Workplace Hub」がある。複合機とオフィス内のITシステムを統合し、働き方や業務改革を次世代へ進化させる統合プラットフォームである。モノとして複合機に必要な機能を提供するだけでなく、顧客とコニカミノルタをつなぐインタフェースにもなるものとして、将来的にはそこで発生するデータを解析・活用可能なプラットフォームとなりうる設計をしている。
売り上げや収益性の向上はもちろん、様々な人のクリエイティビティに着目するような観点でも、事業展開していくという。
世界一の顔認証技術(NEC、今岡仁氏)
NECによるAI技術として、多くの方が思い浮かべるのが「顔認証技術」だろう。
「深層学習を使えば精度が出るんでしょ?」という認識の発言がいまだに多いが、この技術はあくまでツールである。使い方次第で、結果の精度は大きく変わる。具体的には、ネットワークや損失関数といったモデル設計、データの量や質、そしてハード・ソフトなどのインプリ技術の組み合わせによって千差万別だ。
世界的権威である米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した動画顔認証技術のベンチマークテスト(FIVE)において、同社の動画顔認証照合精度99.2%と、2位の4分の1以下のエラー率を達成し、他社を大きく引き離す第1位の性能評価を獲得している。ちなみに同社の技術は、2017年実施の本ベンチマーク実施により、4回連続の第1位獲得となっている。
飛行機への搭乗から店舗決済まで、シームレスに対応する技術が理屈上はできており、特に2020年東京オリンピック・パラリンピックで顔認証システムが使われることから、今の10倍以上のスピードで世の中に広まっていくと考えられる。
プレゼンターの今岡氏は同社で実に15年以上にわたり、顔認証技術の研究開発に従事された人物で、今年5月には同社役員級プロフェッショナルであるNECフェローにも登用される予定だ。
なお、顔認証技術とは具体的に「AI」「生体認証」「画像認識」という3つの側面があり、昨今の深層学習の進化による画像認識技術の向上や、今後の決済系を中心に急速な普及が予想される生体認証技術を通じて、顔認証技術も人間を超える認証精度と速度を実現していくと想定される。
ティーチレスでロボットに知性を与えるMUJINコントローラ(MUJIN、滝野一征氏)
「ロボットをソフトウェアの力によって自動化し、世界の生産性向上に貢献する」ことを使命に、産業用ロボットコントローラの総合メーカーとして事業展開する株式会社MUJINは、2011年に創立されたばかりのロボットベンチャーである。
家庭用のPCを考えると、どれもだいたい同じようなOSが入っているので、多くの方は安心して利用でき、故にここまで普及している。
一方、ロボットがまだ一般的に普及できていない理由として、この汎用性がなく、且つ教えたことしかできないという2点がある。
そこで同社が開発したのが、モーションプランニングAIを活用した「MUJINコントローラ」である。そう、深層学習(ディープラーニング)を使っていないのである。モーションプランニングとは、Googleが自動運転技術で採用していることで知られているが、一般に知名度は高くない。ディープラーニングのような不確実性を伴うものはものづくりの現場で使うにはリスクが大きく、故にいかに確実性を追求するか、中身をしっかりわかっているかという観点で、この技術を採用しているという。
産業用ロボットは、「腕」に当たるロボットアームと「頭脳」にあたるコントローラで構成されており、MUJINコントローラは、この頭脳部分を自動化し、自律的に見て動けるティーチレスロボットへと昇華させるソフトウェアプラットフォームとして、開発されている。
以下が紹介動画となるので、ぜひ見ていただきたい。オートマチックトランスミッション事業でシェア世界1位を誇るアイシン・エィ・ダブリュ株式会社様との共同開発を進める、バラ積み部品ピッキングロボットの様子である。
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