日本が向かうべき信頼ベースのガバナンスイノベーション 〜AI/SUM Report 8

イベントレポート

 日本経済新聞社が主催する、人工知能(AI)の活用をテーマにした初のグローバルイベント「AI/SUM(アイサム)」。「AIと人・産業の共進化」をメインテーマに掲げ、4月22日〜24日の3日間かけて東京・丸の内で開催された、大規模ビジネス&テクノロジーカンファレンスである。6月に大阪で開催されるG20に先駆けた取り組みとも言える。

 レポート第8弾の本記事では、「今年、世界(G20)が語ること 〜信頼、ガバナンスイノベーション〜」というテーマで設置されたセッションについてお伝えする。

 世界が抱える社会課題を解決するために、人類は如何なる舵を切るべきか。本年6月に開催されるG20デジタル大臣会合で議論予定のテーマである『信頼』とは何か、21世紀の公共財の在り方(ガバナンス・イノベーション)とは何か等を中心に、デジタル技術がもたらす未来について、G20大臣会合を担当する現役官僚と、元WIRED編集長による議論の様子を、ほぼノーカットでお伝えする。

(表現方法などは、都度読みやすいように修正しております)

※写真左から順番に
<モデレーター>
・瀧口友里奈(たきぐち ゆりな)氏
 セント・フォース キャスター

<登壇者>
・瀧島勇樹(たきしま ゆうき)氏
 経済産業省 大臣官房企画官(デジタル戦略担当)

・若林恵(わかばやし けい)氏
 黒鳥社 編集者

》AI/SUM 2019記事一覧はこちら

インターネットは失敗に終わった、と言う世界の潮流

瀧口氏(モデレーター):本日は宜しくお願いします。

早速ですが、本日は「今年、世界(G20)が語ること 〜信頼、ガバナンスイノベーション〜」がテーマということで、このセッションの背景を教えてください。

 

瀧島氏(経済産業省):今年1月のダボス会議で、日本からデータ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(以下、DFFT)の概念を発表しまして、世界から大きな反響がありました。

今、世の中では個人情報・金融情報といった様々なデータの”量”が増えてきており、このまま放っておくとセキュリティ・プライバシーの問題が絶対起きると思われます。

そんな課題感の中で、今日のテーマでもある「信頼」がキーワードになっています。

 

瀧口氏(モデレーター):なるほど。このDFFTですが、要(カナメ)はなんなのでしょうか?

 

若林氏(黒鳥社):カナメ。うーん、難しいですね。

先に背景をお伝えしますと、インターネットはもともと軍用だったものが一般に開放されたという歴史がありまして、初期のアメリカ西海岸で「インターネットによって新しい時代・社会が来る」ということを喧伝したITパイオニアたちは、そこを一種の自由空間だと考えたわけです。

その時点で本当に自由な空間だったかは疑問がありますが。

つまり、国の規定などから自由になって、しかも世界を一つにつなげるようなもの、という考え方です。一種のコモンズ(Commons)として、自由に出入りし、資産も自由に使えるものとしてある、という理念です。

それがある時点から、人の経済活動が入ってくることになり、インターネットが商業空間に作り変えられていく中で、あれよあれよという間に、いくつかの企業による寡占が起きていきました。

その中で、僕たちが提供していた個人情報含めたデータが特定の私企業のために使われている、ということも判ってきました。

ケンブリッジ・アナリティカの問題でも明らかになったように、アメリカ大統領選挙に干渉するためにすら使われてきたわけです。非常に好ましからざる影響力です。

欧米では「基本的にインターネットは失敗に終わった」という表現がなされていますし、World Wide Webの考案者であるティム・バーナーズ=リー氏もそう言っています。

また、インターネットは一種のインフラであり、本来は行政がやるべきだったよね、という意見も出てきています。

私企業による占有空間ではなく、もうちょっとパブリックな領域としてもう一度策定し直さねばならない、ということで行政が入らざるを得ないことになってきた。

これがが、大きな流れの中での背景となります。

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長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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