昆虫肥飼料で育った肉/野菜はウマい!サスティナブルフード試食会 〜ムスカと振り返る昆虫産業元年《前編》

イベントレポート

「MUSCA飼料で育った鶏の試食会をしたら、参加したい人ってどれくらいいるんだろう?」(原文ママ)

 株式会社ムスカ 代表取締役CEOである流郷綾乃(りゅうごう あやの)氏による、この何気ないFacebook投稿がなされたのが今年9月19日。それから約3ヶ月後、クリスマス前となる12月16日に渋谷・EDGEofにて、この試食会が有限実行された。

株式会社ムスカ 代表取締役CEOである流郷綾乃氏

 題して「サスティナブルフード」試食会。

 MUSCAソリューションを使って生産された飼料と肥料によって飼育された鶏肉を始め、キュウリやトマト、お米、イチゴなど、様々な“ムスカ由来食材”が会場に並べられた。

会場で並べられた食材

 実際にそれぞれを食べてみたが、鶏肉は弾力感があって噛みごたえがあり、イチゴは噛んだ瞬間から甘みがジワッと口に広がった。そのほか、キュウリ、トマト、お米も自然由来の“健康な味”が口に広がり、どれも非常に美味しかった。

 LoveTech Mediaでは今年1月2日〜4日にかけて、2019年の昆虫産業ひいてはアグリテック領域を牽引していくであろう同社の取り組みを特集取材し、実際に宮崎県のラボに伺い、コア技術となるイエバエの幼虫に触れ、過去の取り組みから未来への展望までを伺ってきた。

 今回の試食会は、そんな同社による1年間の事業開発の集大成であると感じており、当メディアでは前後編に渡って、試食会の様子、およびボードメンバーへのインタビュー内容をお伝えする。

サラブレッド化したイエバエを使った、壮大なバイオマスリサイクル・システム

 まずはムスカという会社について、その基幹技術やビジネスモデル、最新情報までを改めてお伝えする。

地球環境と人類に貢献する循環システム、MUSCAソリューション

 ムスカといえば、生ゴミや畜産糞尿、食品残渣といった有機廃棄物を、1週間足らずで100%飼料と肥料に変えるという、独自の循環システム(バイオマスリサイクル)構築に向けた技術を持っている昆虫テクノロジー企業。

 そのエンジンともなる、約50年に渡る1,200世代の選別交配を経て育った「サラブレッド化したイエバエ」は、もともとは旧ソ連における米国との宇宙開発競争の一環で、宇宙での排泄物処理と食料への転換を目指した技術として採用された生物。ソ連崩壊と共に、日本の技術商社がイエバエの種を買い付け、今日に至るまでその“命のバトン”をつなげてきた人物が、年始のインタビューにも対応していただいた、ムスカの創業者であり取締役会長でもある串間充崇(くしま みつたか)氏だ。

開会の挨拶をする株式会社ムスカ 創業者・取締役会長 串間充崇氏
「MUSCAソリューションから生まれた野菜やお肉を通じた循環型システムによって、日本および世界、環境、そして人類に貢献して参りたいと考えております。」

 MUSCAソリューションの仕組みは至ってシンプル。専用トレーに有機廃棄物を乗せ、その上からイエバエの卵をふりかける。それを幼虫飼育室に格納して7日間待つと、有機廃棄物は幼虫の分解酵素によって「有機肥料」へと変わっており、また習性によって有機物から這い出してきた幼虫たちを回収・ボイルすることで家畜用に、乾燥して粉末状にすることで魚の養殖用に、それぞれ「飼料」として利用することができる。

 ちなみにこの「飼料」は、耐病性付与効果・増体効果・誘引効果(魚の食いつき向上)など、複数の機能性が大学機関によって実証されており、また「有機肥料」についても土壌改善効果・病原菌抑制効果・農作物の成長促進効果・収穫量の増加など、完熟させて作られた堆肥よりも優位な機能性を持つことが大学機関によって実証されている。

2020年内のムスカ実証試験設備の稼働を目指す

ムスカの解決したい課題やビジネスモデル等を説明する 取締役 COO 安藤正英氏

 このMUSCAソリューションが何を解決しようとしているかというと、大きくは以下の2点。

  • タンパク源の枯渇
  • 有機廃棄物処理

 前者については当メディアでも以前取材した、いわゆる「タンパク質危機」問題である。グローバルな人口増加と中間層の拡大により、世界規模で一人あたりの肉や魚の消費量が増加し続ける一方で、現状の畜産や養殖は生産物の何倍もの穀物や魚粉によって賄われており、供給スピードが需要に追いつかなくなっていくというものだ。詳しくは、以下記事をご覧いただきたい。

 また後者については、畜産動物から発生する有機廃棄物は日々刻々と発生しているが、それらを効率的に廃棄処理できるシステムが不在であることが課題としてあげられており、それによる環境への影響も大きな問題となっている。

 このような背景から、同社は2020年内のムスカ実証試験設備の稼働を目指しているという。

 真ん中にあるムスカ実証試験設備の設置によって、廃棄物の処理、および資料と肥料の販売の両面から収入を得られるという仕組みであり、ソリューションをパッケージ化し、畜産業や廃棄物処理、行政等に販売・普及させていくことで、上述の課題解決の加速を目下進めているという。

協力生産農家によるパネルディスカッション

 試食会に先駆けて、当日は実際にムスカ飼料・肥料を用いて野菜や果物、鶏の飼育等を進める協力生産農家の方々によるパネルディスカッションが展開された。

<登壇者>※写真左から順に

  • 松田宗史氏(祝子(ほうり)農園 園主)<生産物:コメ>
  • 宮澤大樹氏(遊士屋株式会社 共同創業社・代表取締役)<生産物:イチゴ>
  • 白木原康則氏(農業研究家)<生産物:キュウリ>
  • 串間充崇氏(株式会社ムスカ 創業者・取締役会長)※モデレーター

病気減り、収量が上がり、味も良くなった

--実際にムスカ肥料を使ってみて、従来の肥料との違いについて教えてください。

松田氏:宮崎県延岡市で米4町5反(4.5ヘクタール)と野菜を少々育てています。ムスカ肥料を使って、もう7年です。

かつてうちの畑で農薬をやめたんですが、それから3年間、米が全然採れなくなりました。要は土が死んでしまっていたんです。3年間「もうやめよう、もうやめよう」と思いながら続けた中で、3年経過してから少しずつ収量が上がってきました。

そんな中、ムスカ肥料をいただいて試しました。すると、程なくして土がトロトロになって、雑草が生えなくなったんですね。「これは面白い!」と思って観察していると、今度は稲の姿が変わってきました。最初は田んぼ一枚だけで使っていましたが、今は全部で使っています。

病気減り、収量が上がり、味も良くなる。ハエの幼虫肥料は素晴らしいです。

宮澤氏:三重県伊賀市でイチゴの生産を行なっている農業ベンチャーです。ムスカ肥料は今年使い始めたばかりなので、成果に関してはこれからなのですが、他の肥料と比較しても遜色なく使えています。

イチゴって病気と虫にすごく弱く、世界的にはカリフォルニアやスペインなど年中温暖なところで本当は育つものなのですが、日本では寒暖差を利用することで甘さを引き出せるよう300種くらい品種改良されているので、結果本来のものよりも「脆く」なっています。虫がたくさん寄ってきて、病気にも弱くなっています。だからこそ、毎日手をかけていく必要があるんです。

現在、元の土のところにムスカ肥料を入れていますが、その列だけは、いまだに病気が出ていません。とはいえ、今の時点だとまだ言い切るのは時期尚早なので、時間をかけてここをしっかりと検証していく予定です。

※以下、参考記事


白木原氏:野菜の病気原因はだいたい90%が「土壌菌」です。

ムスカの有機肥料の中には、私たちがまだ全くキャッチできてないすごい酵素が眠っていると考えられ、これを撒いた土では野菜の初期生育が4割くらい大きく成長し、また成長と同時に病気が出にくく、害虫も来にくいことになります。

おそらく“忌避効果”が残っているのだろうと思います。

今日の会場の入り口付近に10年くらいテストした作物の写真を展示していますが、要は全ての農作物は初期生育さえ健全であれば、収穫は8割がた成功するんです。


 実際に会場展示物をチェックしたが、中でも衝撃的だったのがキュウリを使った実験。

 要は、生育中のキュウリを折って、10秒間空気にさらし、改めて接合して10秒間押さえておくと、なんとそのまま粘着して先端が落ちず、収穫まで種を作ろうとする、というものだ。

 化学肥料中心で農薬を使用した場合は、活着率は極めて低いとのことで、ムスカ肥料は野菜の免疫力を向上させ、生命力を高める効果もあることがうかがい知れる内容であった。

こういうことを長く広範にやるときには、注意も必要

--今後のムスカに期待することを教えてください。

松田氏:今のムスカ肥料は目が細かいので、ちょっとした風でも隣の田んぼに飛んでいき、使いづらいところがあります。ぜひペレット化していただきたいです。

宮澤氏:これだけ農業に注目が集まるのは近年ではまれです。だからこそ、色々と怪しい話も多く、本質の伴わないマーケティングが横行しているとも感じます。

実際どうなんだというところをしっかりと明らかにしながら、人類の未来を創っていくという点で、すごいチャンスだと思っています。

白木原氏:期待することはたくさんありますが、今のうちに、一点、心配なことをお伝えします。

こういう自然を相手にする技術は、人間の知恵ではなんともできなくなる瞬間があるので、そういう事態に対応する心の準備をしていくのが大切です。

皆さんもご存知の「堆肥」は微生物を使って作るものですが、これがなかなかうまくいかない。理想的に発酵してくれると2〜3ヶ月でいいものができるんですが、半年経っても1年経ってもなかなか発酵しないんです。

これがなぜかというと、要は現代社会の縮図です。抗生物質と農薬が多すぎる。そういうものが残渣に入っていると、菌は動きません。

幸い、ムスカの扱っているものはもっと強大な生物ですから、それくらいへっちゃらだろうと思いますが、これを長いこと広範にやるときには、必ずマイナスのことも起きるのでは、と感じているので、今のうちから注意する必要があると思います。

サスティナブル試食会参加者からのコメント

 試食会には実に様々な関係者が一堂に集結していた。大型商業施設や百貨店といった小売関係者、外食や飲食店関係者、農業関係者、銀行関係者、そして行政・自治体サイドの方々。ムスカが、食のインフラ、そして社会のインフラを再構築しようとしてをいるからこそ、その分ステークホルダーも広範囲に渡ることとなる。その中でもアーリーアダプター達が、当日のイベントに来場されていたというわけだ。

 LoveTech Mediaでは今回、来場者を代表して、自治体および政府関係者からのコメントをそれぞれ頂戴した。

熊本県合志市におけるムスカ肥料のニーズ

写真左)熊本県東京事務所  くまもとビジネス推進課 主任主事 佐藤エミリー氏
写真中央)合志市 産業振興部 農政課 課長 塚本健洋氏
写真右)合志市 産業振興部 商工振興課 商工振興班 主査 衞藤剛氏

「熊本県合志市は、熊本市の北東部に隣接している、畜産農家の多い農業地帯です。

近年人口が急激に伸びてきており、農地の隣に住宅が建つという状況が増えている中で、臭気を含む環境問題という点で、畜産農家さんの経営がやりづらくなっていることが挙げられます。

とはいえ畑で飼料を作っているので家畜糞尿は必要という状況の中で、その辺りをどうにか処理できないかということで、ムスカさんと話をしたのが最初のきっかけです。今年の3月くらいの話です。

臭いがなく地下水の汚染にも繋がらないということで、合志市にある家畜糞尿を提供して、そこから生産される肥料を畑に撒くことで解決を図ることができるのではないか、と考えています。

とはいえ、誰がプラントに持っていくかという話や輸送コスト、飼料や肥料の生産について市がどのように関与できるのかといった、整理がまだまだ必要な状況なので、一つずつ検討して参りたいと考えています。

高付加価値な部分を狙っていくという話として期待できる

 次に、行政サイドからもコメントを頂戴した。今回お話を伺った田島氏は、農林水産省 大臣官房の中でも「スマート農業」を担当されている人物だ。

農林水産省 大臣官房 政策課 イノベーション創出グループ 企画官 田島隆自氏

「この話の出発点である“家畜の糞尿”という観点で見ると、特にムスカさんの拠点がある九州では畜産が盛んな反面その処理に悩んでいます。また、循環型農業の推進の必要性が高まっており、他方水産業では飼料価格が高いという課題があります。

ムスカさんの技術は、これらの課題をつなげることで新たな価値を創造しようとする全く新しい取組だと思います。既存の糞尿処理と比べると手が込んだ方法ですので、高コストになることを心配していましたが、今日、高付加価値な肥料・飼料生産を狙っていくという話をお聞きして、そうであれば技術的には取組が広まっていく可能性は十分にあるのではと考えています。

個人的には、このようなイノベーティブな技術について、障害になるような制度などがあるのであれば、一個一個解決を模索して、意欲的な取組の可能性を広げていくのが、この分野の行政の仕事だと考えています。

 

》後編記事につづく

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧

LoveTechMedia

テクノロジーに触れないことによる”愛”損失を最小限に留める。
LoveTechMediaとは