埼玉県深谷市の小島進(こじま すすむ)市長が6月27日、「DEEP VALLEY アグリテック集積宣言」(以下、DEEP VALLEY宣言)をした。
アグリテックとは、Agriculture(農業)×Technology(テクノロジー)の造語。農業産出額が約350億円で全国23位、うち野菜産出額では全国6位(※)と、深谷ねぎを始め首都圏に多種多様な農産物を供給している“関東の台所”の深谷市が、本格的にアグリテック事業にも進出するというわけだ。
※出典:平成29年全国の市町村別農業産出額(推計)統計表
「この時代に渋沢栄一がいたらどうするか。この視点を大切に、今の日本の農業をなんとかすべく、今回の発表に至りました。」
冒頭のあいさつでこのように切り出す小島市長。そう、同地は2024年からの新1万円札の顔、渋沢栄一翁の地元なのである。「論語と算盤」の精神に基づき、産業の力で社会課題を解決し、まちと国家の発展に尽力した郷土の偉人の精神を大いに尊重した取り組みであることが、冒頭に強調されたわけだ。
深谷市も他都市同様、農家の高齢化が進み、使われない土地が増える一方で、「きつい」「稼げない」「休めない」と言った農業イメージから後継者不足に悩んでいる。今回の宣言とそれに伴うアグリテック集積戦略の始動は、農業分野における一連の課題に対するサステナブルな解決策に向けたファーストステップと見ることができるだろう。
本記事ではまず、今回のDEEP VALLEY宣言の前提となる、深谷市全体のブランディング推進方針について触れ、その後、今回のアグリテック集積戦略の背景や内容、今後の施策等についてお伝えする。
「儲かる農業都市ふかや」を目指して
こちらが深谷市の産業ブランディング推進方針をまとめた図である。農業を核とした「儲かる農業都市ふかや」の実現に向け、3つの領域における取組を実施していくことが明示されている。
まずは「人を呼び込むための取組」。人が深谷に来る理由をつくるべく、観光資源として野菜を活用し、深谷といえば「野菜を楽しめるまち」というイメージを確立するという。具体的には「野菜を楽しめるまちづくり戦略」を策定しており、深谷市全体を「VEGETABLE THEME PARK-FUKAYA-(ベジタブルテーマパーク フカヤ)」としてブランディングを進めている。
出典)深谷市ホームページ
次に「新たな企業を誘致するための取組」。IT、食品、農業関連企業の集積を図ることで、深谷市における産業の強みを伸ばしていくことを想定している。同市が強みとするのは、農業と食料品製造業。特に前者において、同市はアグリテック集積地帯として、全国でも名だたる農業先進都市を目指している。
最後に「地域内経済循環を高める取組」。お金が地域からの漏れることを防ぎ、地域内における経済循環を高める施策として、地域通貨の導入検討を進めている。具体的には、今年9月末までの使用期限で定められた「深谷市電子プレミアム商品券(電子地域ポイント)」が、実証実験として今年5月に販売されている。このプレミアム商品券を購入した方には、negi(ネギー)という単位の電子地域ポイントが付与され、1negi=1円で換算し、お店でスマートフォンまたはQRコード付きカードで決済を行うことができるという内容だ。
出典)深谷市ホームページ(http://www.city.fukaya.saitama.jp/topics/1555923359271.html)
今回のDEEP VALLEY宣言の背景は、この2番目に記載した施策として、深谷市の強みである農業が抱える課題を解決しうる技術やノウハウを持つ企業の誘致と集積を図ったものなのである。
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