深谷市のアグリテック集積戦略
深谷市が提唱するアグリテック集積戦略のステップは大きく5段階ある。
まずは今回のDEEP VALLEY宣言。深谷市がDEEP VALLEYという旗を掲げ、アグリテックの集積に向けた取り組みを本格的に始動させる決意表明が、最初のステップとなる。宣言では「様々な知識や技術を深谷市に集め、アグリテックを生み出し、この地から日本の農業課題の解決を図り、これからの日本の産業の発展に資する企業や人財を多く輩出していく」などとしている。
次に農業課題の収集とデータバンクの創設。集積するアグリテック企業に協力する農業者や実証フィールド、現場で起きている課題などを集め、解決すべき問題を可視化する。
3番目は、解決する技術の収集である。深谷市の農業課題解決に資する企業や技術が集まるべく、後述するアグリテックコンテストなど、企業や団体の誘致活動を推進していく。
4番目は、農業課題と技術のつなぎ合わせ。深谷市が抱える農業課題と技術のマッチング、および農業者と企業の相互理解を促進する活動を通じ、サステナブルな企業活動を推進する。
最後は、取り組みの拡張である。深谷市に集まる起業家同士や異業種交流の促進を進めるほか、各種展示会への出展支援やイベントの開催など、様々な支援活動を通じて取り組みの広がりを図る。
これらの施策を進めることで、以下のような効果を想定しているという。
アグリテック集積推進体制
今回のプロジェクトは体制も厚く、深谷市が全体を牽引しつつ、市内3農協や商工団体、教育機関と民間企業という、産学官連携しての取り組みとなっている。
市内3農協の主な役割は、実証実験フィールドの提供のための、生産者とのマッチング支援である。今回は、ふかや農業協同組合、埼玉岡部農業協同組合、花園農業協同組合が参加している。
写真左)ふかや農業協同組合 代表理事組合長 石沢清治氏
写真中央)埼玉岡部農業協同組合 代表理事組合長 今井一二氏
写真右)花園農業協同組合 代表理事組合長 松本博道氏
市内商工団体の主な役割は、技術提供者の企業や創業支援、および市内事業者とのマッチング支援である。
写真左)深谷商工会議所 会頭 村岡正巳氏
写真右)ふかや市商工会 会長 沼尻芳治氏
教育機関として参加する埼玉工業大学は、研究における連携や大学施設の貸与、そのほか農業課題やアグリテック関連のセミナーや講演会の実施などを担当する。同大学ではこれからの時代を見据え、2019年春にAI専攻を工学部情報システム学科に新設したり、来年4月には機械工学科にスマート・ロボット機会専攻を開設予定など、時代のニーズに対応した先進的な教育・研究の推進に取り組んでいる。
学校法人智香寺学園 埼玉工業大学 学長 内山俊一氏
民間企業として参加する株式会社トラストバンクと株式会社マイナビは、後述のアグリテックビジネスコンテストの企画・運営やセミナー等の開催、および就農プログラムや人財育成塾の開催などを担当する。
写真左)株式会社トラストバンク 代表取締役 須永珠代氏
写真右)株式会社マイナビ 執行役員 池本博則氏
ちなみにトラストバンクは、このDEEP VALLEY宣言以前にも、先述した地域内経済循環を高める取組みの実証実験である「深谷市電子プレミアム商品券」に技術協力しており、こちらについては同社が提供する地域通貨プラットフォームサービス「chiica(チーカ)」が採用されているという背景がある。
同社はふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」で有名だが、寄附金を地域に届けるだけではなく、その活用と循環も含めたグランドデザインを支援している点が、非常にユニークでLoveTechと感じる。
DEEP VALLEY Agritech Award 2019
今回発表されたDEEP VALLEY宣言の第一弾の取り組みとして、併せて発表されたのが、アグリテックビジネスコンテスト「DEEP VALLEY Agritech Award 2019」である。
深谷市が抱える農業課題を解決するアグリテックを表彰する取組みであり、受賞者には、深谷市と多様な担い手が連携しながら、実証フィールド提供や出資等を通じて全力で支援し、受賞者が深谷市さらには日本全国の農業課題の解決に向けて展開していけるように支援してくれるという。
各賞として最優秀賞(プロダクト部門・コンセプト部門)と協賛企業賞があり、出資金として賞金総額1,000万円も用意されているという。もちろん出資金額については、出資の可否含めた受賞者との協議の上で決めていくという。
具体的なスケジュールは以下の通りとなっている。
- 応募受付 7月16日(火)~8月31日(土)
- 一次審査(書類審査) 9月上旬
- 一次審査通過者へのメール通知 9月9日(月)~9月13日(金)
- 二次審査(プレゼン審査、面談)9 月21日(土)、9月22日(日)いずれかの日程 会場:東京都内 ※ 審査の過程において、必要に応じて提案製品の実地審査・見学等を実施する場合あり
- 二次審査通過者の公表 9月下旬
- 最終審査(公開プレゼン) 10月31日(木) 会場:埼玉グランドホテル深谷
- 事業化に向けた支援検討開始 12月~
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