薬局をイノベートするカケハシがグランプリ、介護テックのウェルモがダブル特別賞など、ヘルスケアの未来照らす経産省主催ビジコン

インタビュー

 2019年1月30日、経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019」が、東京都内にて開催された。

 世界に先駆けて超高齢化社会に突入し、ヘルスケア領域において様々な社会課題が山積する中、課題解決に果敢に挑戦する優れたベンチャー・スタートアップ等の企業を表彰し、社会の認知を広げ、各関連企業とのビジネスマッチングを促進する狙いで開催されたのが、本コンテストだ。

 2016年3月の初回開催から数えて4回目となる今回。アイデアコンテスト部門では3名が、ビジネスコンテスト部門では7社がそれぞれファイナリストとして登壇し、最終プレゼンを実施した。

 また、今年はサポート団体数が、昨年の33団体と比較して桁が変わり、107団体にものぼった(2016年は15団体、2017年は22団体、2018年は33団体、2019年は107団体)。コンテスト自体の認知向上はもちろんだが、それだけ多くの企業が、ベンチャー・スタートアップとの協働を希望しているということだろう。

 そんな大きな期待の中、今年のグランプリに輝いたのは、調剤薬局の薬剤師向け服薬指導支援ツール「Musubi」を提供する株式会社カケハシだ。薬剤師の業務効率化による薬局経営改善に寄与するだけでなく、調剤薬局利用の患者さんの健康リテラシーも向上させるという、三方良しの仕組みとして注目される仕組みである。

 また他にも、超小型の脳活動計測装置を開発する株式会社NeUや、ITを通じて介護業界の情報透明化と働き手の負荷低減に着手する株式会社ウェルモなど、非常に面白く医療介護業界の未来に一石を投じる事業会社が一堂に会した。

 日本の医療・介護の現場にイノベーションをもたらすLove Techな発表事業について、本記事でレポートする。

ビジネスコンテスト部門(複数賞受賞)

株式会社カケハシ:グランプリ&特別賞

特別賞提供団体:一般社団法人日本スタートアップ支援協会

グランプリ受賞後にスピーチをする株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中尾豊氏

調剤薬局の薬剤師向け服薬指導支援ツール「Musubi」を提供する株式会社カケハシ。

超高齢社会に突入するわが国で、医療機関が情報を共有し、患者に適切な医療を提供することは、非常に重要である。一方、高齢者に対して的確な情報を届けるのに、WEBやアプリを通じたサービスでは不十分だ。ITツールの普及が十分でないことに併せ、IT活用に抵抗のある一定層も存在するからだ。

では、高齢者含めた全国民に対し、生活習慣病の重症化を防ぎ、患者の健康リテラシーを自然な形で高めるには、どうしたら良いのか。

同社が出した事業仮説は「薬局の活用」である。

薬局は全国に6万店以上存在し、コンビニの数よりも多い。さらに、薬局における患者と薬剤師の1年間の会話回数は、なんと総計8億回を超えると試算されている。もしもこの会話一回一回においてしっかりとした対人業務がなされるとしたら、どれだけ患者にとって健康リテラシー向上につながるだろうか。

しかし、現状の薬局における薬剤師は、とにかく忙しい。様々な業務の中でも、最も工数が割かれる業務が「薬歴(※)の記入業務」である。

※薬歴:薬剤服用歴のこと。薬剤師が行う調剤や、薬の飲み方指導の内容を記録したもの。薬局内薬剤師が入力する。

患者40人あたりの薬歴記入時間は2時間ほどかかるという。こんなことでは、対人業務どころではない。

そこで同社が開発したのが、次世代薬歴システム「Musubi」だ。なんと、先ほどの2時間かかる薬歴業務を、Musubiを使うことで20分にまで短縮することができるという。

患者の疾患・飲んでいる薬・生活習慣・季節・過去処方などを元に服薬指導と生活アドバイスを自動で提案し、タブレット画面でタップされた指導内容が自動で薬歴として下書き保存される。指導内容を一から入力する必要がなく、また、「指導したのに記載するのを忘れてしまった…」を防いでくれる。結果として業務時間に余裕ができ、患者に向き合う時間が増えるという好循環を創出するというわけだ。

「全国には約60,000店舗の薬局があるのですが、2017年8月のサービスリリースから約1年半で、これまで10,000店舗以上から問い合わせをいただいており、順次システムを導入しています。おかげさまで患者および薬剤師の皆様からの評価も非常に高く、弊社事業を通じて、医療費を下げながら健康意識を向上させるというジャパンモデルを追求して参りたいと思います。」

株式会社ウェルモ:優秀賞&特別賞2賞

特別賞提供団体:株式会社ヘルスアンドソーシャルケア事業団、株式会社みずほ銀行

プレゼンする株式会社ウェルモ 代表取締役CEO 鹿野佑介氏

人工知能(NLP)を活用してケアプランの作成を補助する「ケアプランアシスタント(以下、CPA)」や、アナログな地域の介護情報を整理して見える化した地域情報プラットフォーム「ミルモ」などを展開する株式会社ウェルモ。

同コンテストで最多賞となる、優秀賞と特別賞2賞の合計3賞を受賞した。

以前、Love Tech Mediaでもインタビューさせていただいた、代表取締役CEOの鹿野佑介(かのゆうすけ)氏がプレゼンされた。

介護業界は今、構造的な課題を抱えている。

まずは介護事業所について、2016年度の介護事業所総数は215,561件と、コンビニの4倍にものぼる。しかしこれら事業所の多くはデータ化されていない。約80%が資本金1,000万円以下の中小企業であり、住宅と見分けがつかないような事業所にて、チラシをメインの集客ツールとして活用して運営しているという。つまり、個人にとって最適な介護事業所が非常に「見つけにくい状況」となっているのだ。

また介護の要となるケアマネジャー(以下、ケアマネ)であるが、自分の能力や資質に不安があると感じている方が、実に50.4%も存在するという。つまり半分のケアマネは、日々の介護について「不安な意思決定をしている」ということだ。

この大きな2つの課題が構造的に根付いてしまっていることで、介護の現場は刻々と破綻に近づいていると言える。個人の頑張りでは限界があるのだ。

そこで同社は、大きく2つのアプローチを並行して進めている。

まずは、コンビニの4倍近く存在する介護保険内および保険外サービスのアナログな情報を見える化し、プラットフォーム「ミルモ」として提供している。これにより、ケアマネは1つのシステムを通じて横断的に介護事業所などの地域資源を検索・確認することができる。

次にケアマネの不安課題について、ケアプランの作成を支援するAI「ケアプランアシスタント」を開発し、知識と経験の両面でケアマネをフォローする。「経験」については、ケアマネがこれまで作成した膨大な量のケアプランデータを学習させ、統計処理して文章案を提示するという手法を採用している。一方で「知識」については、医療看護・介護・リハビリなど様々な領域におけるガイドラインや教科書などの知識を横断的に学習させている。

この2つのアプローチを合体させた、ハイブリッドな人工知能が、同社の開発するCPAのユニークなところだ。経験における最適解を弾き出すと同時に、的確な知識フォローをする介護AIシステムは、他に存在しないだろう。

「弊社事業は福岡市での実証実験フルサポート事業に採択され、同市と福岡県介護支援専門員協会の協力によるケアプラン作成支援AIの大規模な試みを進めています。今年の1月21日には福岡市役所で、日本初の介護事業所向け説明会も実施しました。非常に歴史的意義のある選択をしてくださった福岡市と協会には、大変感謝しています。これから官民連携し、多くのステークホルダーを巻き込みながら、介護という、資本主義の世界では評価されにくい領域の課題を改善・発信して参ります。」

ビジネスコンテスト部門(その他優秀賞)

ここでは、他の優秀賞受賞企業について触れていく。

アンター株式会社:優秀賞

プレゼンするアンター株式会社 代表取締役 中山俊氏

医師同士のオンライン相談サービス「AntaaQA」を提供するアンター株式会社。

現在の医療では90を超える診療科があり、専門性が高く細分化してきたことで、それぞれの医師は専門分野外の診療を行うシーンが増えてきた。しかし一人の能力には限界があり、自分の専門外領域に関する選択を迫られた場合でも、なかなか専門医に相談できないという悩みが存在する。

「AntaaQA」は、この「医師による医師への相談領域」に寄り添ったもの。実名の医師専用のオンライン相談サービスだ。

医師と医師がオンラインでつながることで、”いのち”がつながるサービスである。

株式会社ニューロスペース:優秀賞

プレゼンする株式会社ニューロスペース 代表取締役CEO 小林孝徳氏

企業向けの睡眠改善プログラムを国内大手企業に提供し、企業の健康経営と生産性最大化を支援する株式会社ニューロスペース。

様々な業種業態で働く従業員、合計60社以上・のべ1万人以上の睡眠課題に対し、集合研修やe-learningなど組織実態に即したソリューションを展開してきた。

2019年からはイスラエル発の高精度睡眠計測デバイスと、「日中の眠気」に着目した睡眠改善助言アプリを活用し、個人の睡眠改善も行なっている。

組織と個人の両面から支援する、睡眠テクノロジーカンパニーである。

株式会社リモハブ:優秀賞

プレゼンする株式会社リモハブ 代表取締役社長 谷口達典氏

遠隔心臓リハビリプログラム「リモハブ」を提供する株式会社リモハブ。

日本における国民死亡原因の第2位である心疾患の中でも、心臓の機能が低下して生じる心不全は患者数が120万人以上存在すると推定され、今後も増加が見込まれる。

同社は遠隔でも実施できる心臓リハビリテーションを通じて、運動を続けてもらいたい医療サイドの思いと、医療者に診てもらいながら自宅ですぐに心臓リハビリを実施したい患者の思いをつなげている。

今後は心疾患に限らず、運動が効果的とされる前疾患へ応用する在宅疾病管理プラットフォームとしての応用を目指すという。

株式会社T-ICU:優秀賞

プレゼンする株式会社T-ICU 代表取締役社長 中西智之氏

重篤患者のための遠隔集中治療システム「Tele-ICU」を開発・提供する株式会社T-ICU。

日本には約1,100の集中治療室(ICU/HCU)を持つ病院があるが、その約7割である約800の病院では、集中治療専門医が不在だという。衝撃的な事実だ。

同社はそのような医療施設をメインターゲットに、集中治療専門医がチームとなって、遠隔から24時間体制で生体情報などを監視し、早期に的確な治療方針を提案し、現場の医師や看護師の負担を軽減できるシステムと体制を構築している。

株式会社NeU:優秀賞

プレゼンする株式会社NeU 代表取締役CEO 長谷川清氏

近赤外光を使った脳計測技術をベースに、「日常的な生活環境かでの自然な脳活動」の計測を可能にするウェアラブルデバイスを開発する株式会社NeU。

同社では「脳科学でQuality of Lifeの向上に貢献する」というミッションを掲げており、日常生活でも手軽にどこでも自分の脳活動を知ることができるよう、重さわずか30gの超小型脳活動計測装置「XB-01」を開発した。

従来の脳活動計測装置と比較すると、格段に小さいことがわかる。

長年培った脳科学の知見と技術を軸に、現在は効率的な認知機能トレーニングサービスも生み出しており、脳科学の産業応用をめざしている。

アイデアコンテスト部門

ここでは、アイデアコンテストにおける優秀賞受賞者について触れていく。

木野瀬友人氏:優秀賞&特別賞

特別賞提供団体:株式会社グロービッツ

プレゼンする木野瀬友人氏

「緑内障視野欠損簡易発見VR」事業を発表された木野瀬氏。

世の中の失明原因の1位は緑内障であり、日本には潜在患者数が400万人いるとされているが、その中で約89%は未発見という状況だという。既存の緑内障発見ツールというものも存在するが、全くもって面白くなく、もっとエンタメ性を追求するべきと考えた同氏は、一般的なVRゲームにような見た目の簡易発見プロダクトを考案する。

緑内障による失明患者の経済コストは年間約2兆円にも登ると言われており、緑内障による離職をゼロにし、人々がクリアな視界を保てるよう、今後はクリニックのみならず社会の様々なところへの導入を目指すという。

原陽介氏:優秀賞

プレゼンする原陽介氏

「嚥下障害リハビリの質を高める誤嚥検出センサーデバイスおよびアプリケーションの開発」事業を発表された原氏。

そもそも嚥下(えんか)障害とは、脳卒中やがん等で食事が困難になり、肺炎・窒息・栄養障害などになる疾患。高齢化が進む日本で、これから増えていくであろう社会課題だ。

実際に食物を食べながらの訓練がもっとも効果的だが、そもそもその際に、安全に食事が摂れているかを評価する方法がないのが現状だ。

そこで原氏が考えたのが、ウェアラブルセンサーと医療用アプリを使って、ご縁の発生を簡便かつ高精度で検出する手法だ。現在は東北大学事業化プログラムで本研究課題を推進する同氏は、2021までにベンチャーを立ち上げ、その後の医療機器承認を目標に、臨床試験の申請中だという。

丸山亜由美氏:優秀賞

プレゼンする丸山亜由美氏

「アート&デザインからワクワクできるヘルスケアをつくろう」というタイトルで事業案を発表された丸山氏。

病気を「自分にとって関係ないもの」と捉えるのではなく、多くの人に対して予防の意識づけを行い、治療を楽しめる世界をアートとデザインから作っていくことを目指している。

そういう丸山氏自身も、実は10年前までは糖尿病患者だったという。現在は「血糖値」というキーワードを軸に、Designart TokyoやPanasonic100周年記念フォーラムへの出展を行なっている。将来的には、食科学をアカデミックに学び、健康に貢献できる事業をさらに拡大していくという。

 

編集後記

医療介護業界における様々な取り組みの中でも、今回のコンテストに登壇された企業は特に、「実際の医療および介護現場が感じている課題の解決」というテーマが多い印象でした。

 

そして冒頭にも記載しましたが、今回は会場に集まったサポート企業が非常に多く、発表企業それぞれによるプレゼン後の協働希望の挙手も非常に多く、それだけ社会課題の解決に積極的な企業が多いことの現れだと感じました。

 

来年度もぜひ、Love Tech Mediaは本コンテストを取材し、コンテストそのものの経過を確認したいと思います。

 

なお、経済産業省では、ヘルスケア分野のベンチャー企業等に対する支援関連施策を集約し、イノベーションの創出・活性化を目的として、ワンストップ相談窓口「Healthcare Innovation Hub」(「イノハブ)」)を2019年4月に立ち上げる予定とのことです。

 

イノハブでは、ヘルスケアベンチャーに限らず、イノベーションを必要とする多様なスタートアップ企業等からの相談を受け付け、国内外のネットワークを活用して、相談者を支援するとのことで、ご興味のある方は是非、今後の情報をキャッチしていただければと思います。

LoveTechMedia編集部

恋愛/結婚・妊娠/出産・育児・家族生活・医療/福祉・社会課題の6分野を「人の”愛”に寄り添うテーマ」と定義し、これらのテーマにおけるテクノロジープロダクトや...

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