未来永劫、皇紀を刻み続けるアートから始まった 〜超高級クロック「YATAGALLAS」の挑戦《後編》

インタビュー

 2019年10月に正式販売を開始した大型高級ニキシー管時計「YATAGALLAS(ヤタガラス)」。「失われていくテクノロジーを現代に呼び起こし、世界で唯一の高級置き時計を作るという哲学を具現化する。」という、なんともLoveTechなコンセプトで製造されているプロダクトだ。

 後編では、その仕掛人であるJAEGER DOCSON株式会社(以下、イエガードクソン社) Founder & CEOの中野功詞(なかの こうじ)氏にお話を伺った。実はYATAGALLASの原型となったのは、今年2680年となる“皇紀”を刻み続けるアート作品「JAEGER DOCSON」(社名と同じ読み方)だという。

 JAEGER DOCSONとは何なのか。その由来は何で、どういう思想が流れているのか。じっくりとお話を伺った。

》前編記事はこちら

古き良きもの、廃れつつある伝統を再生して、未来に向けて循環させる

--ニキシー管という存在。YATAGALLASを通じて初めて知りましたが、すごくいい色を出しますね。

中野氏:僕も2年前に、うちの河上から「ニキシー管というのがありますよ」と教えてもらって、初めてその存在を知ました。

東京タワーを見るのとスカイツリーを見るのとだと、東京タワーの方がセクシーですよね?癒しになる。

チェコでニキシー管を買った時も、あたかも真空のかなたの星を見るかのような、そういう感覚になりました。究極の“癒し”の存在を作りたいと思って、ゼロから構想していきました。

 

--実際にニキシー管を日本に持ってこられてから、どのような流れで、今のYATAGALLASに至ったのでしょうか?

中野氏:実はそのDNAは、社名にもなっている「JAEGER DOCSON」というアート作品にあります。ニキシー管を使って最初に作ったものです。

「古き良きもの、廃れつつある伝統を再生して、未来に向けて循環させる」

これをコンセプトに、神武天皇が即位した1秒からの“皇紀”を刻み続ける最高級クロックです。

神武天皇とは、日本神話に登場する伝説上の人物。日本書紀に基づく明治時代の計算によると、西暦紀元前660年2月11日に、奈良県橿原神宮にて即位し、日本を建国したとされている。この2月11日という日付は、文部省天文局が算出し、暦学者の塚本明毅氏が審査して決定した。その具体的な計算方法は明らかになっていないが、当時の説明では「干支に相より簡法相立て」としている。JAEGER DOCSONは、その2680年(西暦2020年時点)にも及ぶ経過時間を、1秒ずつ刻み続けている(画像提供:イエガードクソン社)

 

--これまたすごい作品ですね!中の秒数も圧巻ですし、周りのガラスもすごくキレイです。

中野氏:これは光学ガラスを使っています。カメラや天体望遠鏡のレンズに使われているもので、暮石など削っている彫刻技師の方にお願いをして形成していきました。全長1m8cmで、重さは150kgもあります。

(画像提供:イエガードクソン社)

「家を大事にする人たち」にお贈りしたい

--JAEGER DOCSONは、どんな方が買われる想定でしょうか?

中野氏:究極の理想は、天皇家に納品したいと考えています。

信任状捧呈式(しんにんじょうほうていしき)といって、各国の特命全権大使・公使が派遣元の元首から託された信任状を皇居へ提出する儀式があります。

その儀式の際に、陛下の後ろにこれが飾られていたら、各大使は必ず「あの数字はなんですか?」と聞いてくるじゃないですか。それに対し「これは天皇家の、そして国の歴史だ」と説明される。刻まれた数字の背景にある歴史に、思いが巡らされるわけです。

アートは基本的に、一度作ると経年劣化していくのですが、これはずっと1秒ごとに変化し続けます。まさに、時を刻むアート

JAEGER DOCSONもYATAGALLASも、家そして家族にとって大切な時間を永遠に刻むものとして、「家を大事にする人たち」にお贈りしたいと思っています。

JAEGER DOCSONのカタログカード一式

 

--とても素敵ですね。OQTAといいYATAGALLASといい、中野さんの発表されるプロダクトはいつも洗練されていて、シンプルなデザインの中にも奥深い哲学が凝縮されていると感じます。いずれもソフトウェアではなく実際の「筐体」として形にされていますが、ここはこだわりがあるのでしょうか?

中野氏:もともと美術商の家に生まれ、またTOTOに31年間務めた人間なので、商売のDNAとしては「メーカー」なんですよ。“ものづくり”がしたい。

でも、ただのメーカーはイヤだったんです。

日本では、安心安全を当たり前に作るけど、もはやそこに大きな付加価値はつかない。大量生産も、これからどんどんできなくなっていく。

だからこそ、日本に「超高級ブランド」を作り、創作に携わっている職人さん達に還元しようと考えました。

 

--国産の超高級ブランドって、パッと思い浮かびませんね。

中野氏:そう、一つもありません。同じ材料で原価が一緒でも、例えばエルメスなら5倍くらいの価格で販売されているわけです。

よく「王室御用達」ってあるじゃないですか。

それと一緒で、世界中のお金持ちにJAEGER DOCSONのパトロンになってもらいます。そのお金を分配すれば、経済的な心配をせずに良い伝統が紡いでいける。そういうことをやりたいんです。

美術商の家に生まれ、TOTOに鍛えられた

--中野さんの中にある“伝統の保全と循環”の思い。これはどこから来ているのですか?

中野氏:美術商の家に生まれたことも大きいですが、一番はTOTOという会社の影響ですね。

日本には100年続く会社が3万社以上あって、それぞれが各時代の環境変化に対応しているわけですが、その根っこにあるのは“変えない伝統”。一本の筋が通っています。

TOTOも100年続いている会社で、そこには「愛業至誠」(※)という理念があり、さらにその下に「良品と均質」「奉仕と信用」「協力と発展」という社是が書かれています。

これが100年前から培われている。

僕自身、ここでしっかり鍛えられました。

※愛業至誠:「奉仕の精神でお客様の生活文化の向上に貢献し、一致協力して社会の発展に貢献する」というTOTO株式会社の決意を表す言葉

TOTO株式会社に入社後、TOTO USAにおいて北中米を担当。New York 初代支社長、米国本社アトランタ本社にてセールス&マーケティング統括副社長としてアメリカ事業黒字化実現。

その後、TOTO本社国際事業部長として、米国及び中国以外の全海外市場を担当し、アジア及び中東の事業規模向上。

欧州事業を立ち上げ、TOTO Europe社長を歴任。

 

--そのまま美術商を継ぐという選択肢もあった中で、なぜTOTOにご入社されたのですか?

中野氏:家の商売は兄が継いでいましたし、彼自身が「外で働いてこい」という人でした。なので、大学ではきちんと就活しました。

たまたま商社や銀行から内定をいただいていたのですが、そんな中TOTOの面接に行ったら、お茶が出てきたんです。それと、面接が終わったらエレベータまで送ってくれた。

当時の就活市場は圧倒的な買い手だったので、結構失礼な会社が多かったんですよ。そんな中で「丁寧な会社だな」と。あとは、創業事業が「衛生陶器」だった点も、美術商の息子として違和感なく入れました。

 

--なるほど。TOTOを退社されたあとは、どのようなご経歴で現在に到るのでしょう?

中野氏:色々な事業に投資をしながら、ハンズオンで事業開発もしてきました。

サッカーボールを作る会社やクラウドファンディングの会社、キッチンスクールと飲み屋を展開する会社、ラーメンの宅配会社、量子コンピューターの会社、ピーナッツバターの会社など、投資先は様々ですね。

事業会社としては、以前取材して頂いたOQTA株式会社を2015年に、続いて現在のイエガードクソン社の前身となるWave89株式会社(ウェーブハック)を2017年に設立しました。こちらは2019年に社名変更しています。

画像引用:イエガードクソン社ホームページより

 

--アート作品をそのまま現在の社名に変更されたのですね。“イエガードクソン”って、そもそもどういう意味なのですか?

中野氏:「唯我独尊(ユイガドクソン)」を、英語風に直したものです。完全にゴロです。

ちなみにこの唯我独尊って、多くの人が“うぬぼれる様”を表す用語として使っていますが、もともとの「天上天下唯我独尊」の意味は、「人は生まれてきたまんま、それぞれが尊い」です。

こっちの方が夢のある名称だったので、思い切って社名も変えました。

超高級は超高級で、ちゃんとマーケットがある

--先ほど「超高級ブランドは日本にはない」というお話がありましたが、これは何故なのでしょうか?

中野氏:産業の作り方に起因していると感じます。

ヨーロッパの人たちはみんな「ブランドは上から下に作っていかないとダメだ」と言います。でも、日本は下から上に作っていく。高度経済成長期に、安くて大量生産をやってきたのが一つあるんじゃないかと思います。

 

--超高級マーケットって、日常生活ではなかなか触れることのない世界なので、いまいちピンときません。

中野氏:そうですよね。

例えばTOTOには、ネオレストという高級ブランドがあります。日本では35万円程度で販売されているものですが、僕がTOTO Europeにいた頃、これを1台約100万円にして現地で売ったんです。

これがホテルに200台入ったりして、結構売れたんですよ。要は、35万で買おうとする人は100万でも買う。

この時に、超高級は超高級でちゃんとマーケットがあることを知りました。

 

--JAEGER DOCSONとYATAGALLASは、それぞれおいくらなのでしょうか?

中野氏:YATAGALLASはプロダクトによって変わるのですが、今あるものは250万〜500万円のレンジで販売しています。

JAEGER DOCSONについては、3億円で販売しようとしています。

3億のJAEGER DOCSONのDNAとしてYATAGALLASがある。こういう形を取るようにしています。

 

--3億円!想像できない世界です。そもそもですが、いきなり3億で売れるものなのでしょうか?

中野氏:もちろん、まずは1つ目を売るのがとても大変ですが、伝統がなくても超高級ブランドは作れます。

Richard Mille(リシャール・ミル)をご存知ですか?1個1,000万円を下らない価格の腕時計を販売しているスイスのメーカーなのですが、ここは会社は設立されてからまだ20年足らずなんです。

もともと、ヨーロッパの6大腕時計メーカーのトップはPatek Philippe(パテック フィリップ)でした。最低価格200〜300万円はする、伝統ある会社です。

それが、2001年に誕生したリシャール・ミルがあっという間にブランド力を高めていき、結局今では超高級メーカーになっている。

スタイルは違いますが、ここを一つのベンチマークにしています。

 

--ブランドには、必ずしも伝統は必要ないんですね。

中野氏:だからこそ、持つことで価値になるもの、財産になるものにしっかりとしていく必要がある。そのためにうちは素材にトコトンこだわりますし、製品そのものの「100年保証」を謳っています。

もちろん、落としたりしたらダメですが、7年くらいは無償でメンテしますよ。

100年続く会社をつくる

--イエガードクソン社の次なる目標を教えてください。

中野氏:モノを作ったら売らねばなりません。

YATAGALLASを超高級クロックブランドとして展開していくために、まずはカタログの種類を増やします。

今は250万〜500万のもの3種類ですが、この他に1,000万を超えるものと、逆にエントリーレベルとして100万円を切るものを、それぞれ展開していく予定です。

また、要となるニキシー管は現在チェコで制作しているのですが、こちらもクオリティーを高めるべく、メイド・イン・ジャパンにする予定です。もちろん、作り方についてはダリボルさんが先生なので、彼にはアドバイザー的な役割で引き続き携わってもらいたいと思っています。

あと実は全く別の製品として、エンジニアの河上と「自分たちが純粋に作りたいものを作ろう」という話もしています。

具体的には「オーディオ」。日本のオーディオメーカーって、ほとんどが倒産したかもしくは海外に買収されているのですが、僕がやるんだったら、ちょっと違う発想で仕掛けたいと考えています。

できたらアナログレコード系をやりたいですね。

 

--夢が広がりますね!最後に、中野さんご自身のミッションについてはいかがでしょうか?

中野氏:100年続く会社を作ることですね。

これもTOTOの影響を強く受けているのですが、会社として職を提供し続けることが、もっとも大事なことだと考えています。

今は仲間と一緒に様々な事業を仕掛けていますが、将来的には僕だけでなく、みんなが雇用主として大勢に喜ばれる職を作って、それぞれしっかりと儲けてほしいなと考えています。

編集後記

家を大事にする人たちに送る「時を刻むアート」。

 

とても素敵なコンセプトでした。

 

その象徴的な存在として、世界で最も長い歴史を誇る(とされている)天皇家の時間(皇紀)を刻む「JAEGER DOCSON」も、まさに圧巻の品。

 

ニキシー管の灯りにもなんとも言えない癒し効果があり、まさに中野さんのおっしゃる「セクシー」な雰囲気を醸し出していました。

 

一般的に時間とは24時間365日で認識されますが、そうではなく、「家族の時間」という家独自の時間概念を与えてくれる存在は、なんとも言えずエモく、LoveTechだなと感じます。

 

実家に戻ったら、常にそこに存在する家族時間。

 

個人主義が加速する現代社会だからこそ、ふとした瞬間にイエ制度の暖かさを思い出す。そんな家族シーンを連想させてくれるのではないでしょうか。

 

日本発、そして世界初の「家族時間」を刻む超高級ブランドとして、JAEGER DOCSONおよびYATAGALLASブランドを、引き続き注視して参りたいと思います。

(画像提供:イエガードクソン社)

 

本記事のインタビュイー

中野功詞(なかの こうじ)

JAEGER DOCSON株式会社 Founder & CEO

広島県出身 美術商の家に生まれる。
大学卒業後、TOTO株式会社に入社。TOTO USAにおいて北中米を担当。
New York 初代支社長、米国本社アトランタ本社にてセールス&マーケティング統括副社長としてアメリカ事業黒字化実現。
TOTO本社国際事業部長として、米国及び中国以外の全海外市場を担当し、アジア及び中東の事業規模向上。
欧州事業を立ち上げ、TOTO Europe社長歴任。
2017年旧Wave89株式会社(現JAEGER DOCSON株式会社)を設立、現在に至る。

YATAGALLAS公式サイトはこちら

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

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