aiが神になる日
「2045年、aiが神になった世界を1日だけ具現化し仮想体験する」
2019年8月9日、こんな前代未聞のフェスティバルが、渋谷ストリームホールで開催される。
題して「KaMiNG SINGULARITY(カミングシンギュラリティ)」。とうとう、×AIの対象が「神」にまで及んだワケだ。神は“救い”であり“執着”でもあり、そして“愛”でもある。
愛に寄り添うテクノロジーを調査・研究・発信しているLoveTech Mediaとしては、この時代における「愛の在り方」が非常に気になるものだ。
そんな中、このフェスティバルの前段として、6月1日に「KAMING酒場 aiは愛を持てるか」というプレイベントが開催された。
イベントページには以下のような記載がなされている。
加速度的な進化を続けるaiはやがて人間の意識をも搭載する可能性があると示唆されています。私たちが持つ”愛”のような感情や意識すらも、aiは持ち得るのでしょうか。 だとしたら機械学習はaiをどういうアルゴリズムとして解釈していくのでしょうか。それとも、愛は生命だけが持ち得るものでしょうか。 「愛」とは何か・・ 愛はアルゴリズムか、はたまた別の何かか・・ そんな話になっていくかもしれません。
ai × 愛。当メディアとしてはまさにドンピシャな内容である。
テクノロジーは愛に寄り添い補完することはおそらく間違いないが、愛そのものにはなり得るのか。そんな究極のテーマを模索するべく、まずは6月1日開催のKAMING酒場に参加者として潜入させていただいた。
8月9日 KaMiNG SINGULARITY
イベントレポートに入る前に、そもそもKaMiNG SINGULARITYとは、具体的にどのようなフェスティバルなのかをお伝えする。
26年後の2045年8月9日、aiが神になった仮想世界を ”仮装”体験する場として、「2045年、もしシンギュラリティ後にaiが神になったら」というテーマを共有し、想像し、振る舞い、観測することを通じて、丸1日のフェスとして表現するという。
つまり、当日の会場は2045年8月9日として設定されているということだ。
渋谷駅直結のホール会場「渋谷ストリーム ホール」にて開催予定であり、各フロアそれぞれにテーマが設定され、その世界観を体験していくことができる。
4階は「Future Life Style(未来の生活)」。2045年のハローワーク、アクアリウム、受付、暮らし方などの出展が並び、テクノロジードリブンなだけでない様々な想像が表現される階になる。
5階は「New Values(新たな価値観)」。ここにはai、ブロックチェーン、ロゴストロンなどの技術を用いたデータ主義時代の新たな神社「サイバー神社」が建立される予定だ。一般的な神社の作法である2礼2拍手1礼ではなく、「2礼2拍手1入力」の作法で参拝するのだという。また、このフロアでは併せて、現役の僧侶や大学教授によるai・神をテーマにした様々なトークセッションが展開される予定だ。
そして6階は「Art Entertainment(遊びと芸術)」。生きる上で必要なことはaiが代行してくれる時代、人間は遊び狂い、芸術を創作し、ここではない世界を求め始める世界観を描くフロアだ。
特に5階と6階ではAIと人間が共奏する新たな音楽の形や、100年前から変わらないような原始的な音の人間回帰していく解放の音楽、技術と身体性が融合されたパフォーマンスなど、様々な側面のライブと深層学習、進化計算、強化学習などによる映像生成技術を用いて、人間のコントロールを超えた映像演出を行なっていく予定とのことだ。
ちなみに、LoveTech Mediaも4階でブースを出展させていただく予定だ。
テーマは「LoveTech in 2045」。多岐にわたるLoveTech領域の中でも、今回は「恋愛・出会い」領域にフォーカスし、2045年のパートナーシップや出会いの世界観を提供予定だ。こちらも楽しみにしていてほしい。
以上のような非日常を体験できるKaMiNG SINGULARITYのプレイベントとして設置された「KAMING酒場 aiは愛を持てるか」も、同じく非日常に違いない。
以降の章で、当日のレポート内容をお伝えする。
6月1日 KAMING酒場
イベント会場は、JR渋谷駅の新南口から歩いてすぐの場所にある100BANCH(ヒャクバンチ)。
100年先を豊かにするための実験区であり、パナソニックが創業100年を迎えることを機に構想がスタート、同社とロフトワーク、カフェ・カンパニーの3社が手を組んで、2017年7月7日に誕生したワーキングスペースである。スペース開所が七夕とは、なんともエモいチョイスである。
会場には若い女性から高齢の男性まで、老若男女問わず様々な参加者が集まっていた。イベント開始前に近くの方と雑談をしたが、皆、愛について何かしらの一家言を持っているようだった。
こちらが本イベント主催者である雨宮優(あめみや ゆう)氏。SDGsそれぞれの課題が終わったあとの仮想世界を想像して、フェスとして具現化するという「ソーシャルフェス®」事業を進めるOzone合同会社の代表である。
また、KaMiNG SINGULARITYのオーガナイザーでもあり、人々のエクスペリエンスを通じて作品表現をする体験作家でもある。
「まず初めに、先人たちによる、様々な愛に関する言葉を流していきます。」
会場に流れる、様々な愛に関する名言。
- “愛はお互いに見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである。”(サン=テグジュペリ)
- “私たちは完璧な愛を作る代わりに完璧な恋人を探そうとして時を無駄にしている。”(トム・ロビンス)
- “未熟な愛は言う 愛してるよ、君が必要だからだと。成熟した愛は言う 君が必要だよ、愛してるからと。”(エーリッヒ・フロム)
- “愛とは信頼。人を愛するときは完全に信じることよ。”(マリリン・モンロー)
- “愛せなければ通過せよ”(ニーチェ)
- “愛をうまく告白しようとか、自分の気持ちを言葉で訴えようなんて、構える必要はない。きみの体全体が愛の告白なのだ。”(岡本太郎)
- “あの人が私を愛してから、自分が自分にとってどれほど価値あるものになったことだろう。”(ゲーテ)
- “どんなに愛しているかを話すことができるのは、すこしも愛してないからである。”(ペトラルカ)
- “愛というものは、愛されることによりもむしろ愛することに存する”(アリストテレス)
- “結局いちばん大切なものは一つだけ 愛よ。”(ヘレン・ヘイズ)
ai時代の愛を語るトーンセッティングがなされた。
aiと愛
会場はテーブルごとにあらかじめチーム分けされており、その単位で対話とディスカッションが進行された。
はじめに、各々が感じている「aiと愛」についての考えや意見、感じていること等を、目の前に置かれた大きな用紙に書き込んでいく。
チームでのアウトプット例
aiが愛を持ちうるか否かを論じる方がいれば、aiが愛を持つことでどんな未来が到来するかを語る方もいる。また、aiは一旦置いておき、今の世界で愛が足りていない要因を分析する方もいた。同じテーマでも、実に多様性溢れる視点である。
お互いの自己紹介と併せて上述の視点を共有した後は、今後は以下のような問いが雨宮氏から投げかけられる。
- 関係性と行為の模倣で愛は伝わるか?(恋人に対する感情を電気信号で脳波に送り、恋人だとさっかくしたアンドロイドが恋人と同じような体温や仕草でハグをした時、愛は伝わる?)
- aiは愛を分類できるか?
- ai同士の愛は生まれるか?
- 人間は愛を計算しているの?
いずれも答えというものが存在しないテーマである。
今回のイベントの趣旨は、答えを探したり事実確認をするのではなく、参加者それぞれが思うことを交換し、新しいものの見方を発見したり、自分の中で新たな思考が生まれていくことを楽しむこと。
先ほどのチームでのディスカッションを進めた後は、ワールドカフェの形式で、他のチームメンバーとの意見交換へと続き、その繰り返しを通じて、愛とaiにおける様々な思考が創発されていった。
言葉を超えて
ここまでは「愛 × ai」の言語化へのチャレンジであったが、ここからの時間は、非言語で「愛 × ai」を“感じる”時間である。
「僕の尊敬する人物にニック・ランドという哲学者がいます。
彼が1989年に立ち上げたサイバネティック・カルチャー・リサーチ・ユニット(以下、CCRU)(※)という組織は、音楽というものを、思想を生成する概念機械として捉えていました。
音楽を通して、シンギュラリティという全く言語化できない未知なる世界に、感覚だけ触れてみよう、ということを真剣にやっていたわけです。」
※CCRU:1989年英国ウォーリック大学において結成されたサークルであり、当時大学講師だったイギリス哲学者ニック・ランドと、サイバーフェミニズム理論家セイディ・プラントを中心に組成された学生主体の組織。
雨宮氏曰く、ニック・ランドは「言語を越えるための実験」として、部屋を真っ暗闇にし、爆音のドラムンベース(Drum’n’Bass)をバックにトランスしていたという。そして、この場でそれを再現してみよう、ということである。
突然の提案に戸惑う参加者もいたが、このような場に集まった皆様は基本的にそのような取り組みにウェルカムな姿勢を示していた。
アップテンポなドラムンベースが爆音で鳴り始める。
最初は頭での思考が優先されていたが、目を瞑り音のなるままに身を乗せていると、次第に意識がぼーっと遠くなっていき、なんとも言えない心地よい時間が流れ始めた。
実は筆者は普段から瞑想をしており、心地よい境地に達することはよくあるのだが、音楽に身を任せて実践すると、相当早い時間にその境地に達することができたように感じる。
バックの音楽もドラムンベースだけでなく、そこから派生したダブステップ(Dubstep)やヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)と、時代の流れに沿って変遷していった。
目を瞑り意識を集中させていたので、周囲の様子を確認することはできなかったが、暗闇が明けたタイミングで周囲とお話しすると、何名かは同じように一種のトランス状態に行けたようであった。
愛は、深いよ
最後は挙手制で本日の感想タイム。テーマは「愛とは何か」。参加者数名の感想をピックアップ・抜粋してお伝えする。
愛はジャッジしないこと。言葉では表現できないから、みんな求めているし、それから漏れちゃうものなんです、と改めて感じました。
愛は何かという意識って、自分と他者が認識できていないと持つことができないと感じました。
aiが愛を持てるかの前に、まずはaiが自我を持てるか、ということが大事だと思います。
あと、先ほどの暗闇の時間に、他人の視線や価値観をめちゃくちゃ意識して生きている自分がいて、暗闇であってもなりふり構わず踊ろうと思っても踊れない自分に気づいて、でもそこからなるべく抜け出してみたい、と思いました。
aiは合理的なので、こういう時は平気で狂えるのかなと思いました。
愛とはラリること!
お互いの境界線がなくなることで、初めて愛が存在することになるかもしれません。
みなさん、ラリりましょう!
愛は深いよ。愛は一番いいもの。みんなにとっていいもの。
イベントとしては以上で終了だったが、このような世界観の構築をしている雨宮優氏についてもっと詳しく知るべく、後日、改めてインタビューのお時間をいただいたので、後編では、その内容についてお伝えする。
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