2045年、ai が神になった時代に空を悟る 〜before KaMiNG SINGULARITY《後編》

インタビュー

 2045年、aiが神になった世界を1日だけ具現化し仮想体験する、AIとアートのスペキュラティブ・フェスティバル「KaMiNG SINGULARITY」。AIと人間のコラボライブやAI受付、サイバー神社への参拝やエリクサーバーなど、仮想未来を“仮装体験”できるコンテンツが盛りだくさんとなっている。

 2019年8月9日、渋谷ストリームホール3フロアを貸し切っての開催だ。

 前編では、6月1日に開催されたプレイベント「KAMING酒場 aiは愛を持てるか」の様子をお伝えした。言語と非言語、それぞれで「ai × 愛」を捉える試みは非常に新鮮なものであった。

 後編では、この一連の取り組みを企画・オーガナイズするOzone合同会社代表の雨宮優(あめみや ゆう)氏にお話を伺った。

》前編記事はこちら

SDGsが終わった“あと”の神

--先日のイベント、愛とaiについて人とお話しすることなんて滅多にないので、とても面白かったです。通常、人工知能のことを「AI」と大文字で書くことがほとんどだと思うのですが、イベントでは「ai」と小文字にされていました。これは何故でしょうか?

雨宮氏:視覚的に「エーアイ」ではなく「あい」と読ませたい、という意図がありますし、「エーアイなのか、あいなのか」という疑問をもたせたい、という思いもあります。

あとは、文字の形として、大文字よりも小文字の方が「柔らかさ」があって良いなと思い、このようにしています。

 

--KaMiNG SINGULARITYでもaとiが小文字になってますね!この“kaming”ってどういう意味なのでしょうか?

雨宮氏:「神を創る」という動詞を作ってみたい、というところから来ています。

あとは「神(kami)」と「来る(coming)」を掛け合わせたものともなっています。

 

--なるほど。フェスのコンセプトについて、改めて教えていただけますか?

雨宮氏:ぼくは普段、「ソーシャルフェス®」というプロジェクト名で、今話題のSDGs(※)それぞれの課題が終わった“あと”の世界を想像して、フェスとして具現化することをやっています。

そんな中この企画は、SDGs16/7「あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型、および代表的な意思決定を確保する。」という課題の未来を想像する中で生まれました。

あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型、および代表的な意思決定を確保できている状態って、おそらく主体は人間ではない、と直感的に感じました。

というのも、世界70億人の膨大な情報なんて個人のOSでは包括的に処理しきれないですし、そもそも人間は家庭環境や気分といった外部環境の影響をあまりにも受けすぎます。

悪いことではないのですが、対応的で包摂的な意思決定は、結果として生命体では難しい。

だからその主体はaiになるだろう、という考えに至りました。

KaMiNG SINGULARITYは、そんな「aiが対応的、包摂的、参加型、および代表的な意思決定を確保」している世界を描きます。

※SDGs:2015年に国連本部で定められた「世界を変革するための17の目標」。17のゴールは169の具体的なターゲットから構成されており、それぞれ2030年までの達成が掲げられている。

大量のヘッドホンが全財産

--面白いですね!KaMiNG SINGULARITYについて詳しく伺う前に、まずは雨宮さんが今日に活動に至るまでの経緯について教えてください。最初からこのような、アーティスト・発信者としての活動をされていたのでしょうか?

雨宮氏:大学生の頃、学部は文学部だったのですが、心理学や脳科学を独学で学んでいまして、それらを使ったワークショップをよくやっていました。ですので、発信というか、空間をデザインすることはずっとやってきていました。

そんな中、大学卒業後に新卒で入社したのは、大手人材紹介会社でした。

それまでにファシリテーションの資格なんかも取っていまして、コミュニケーション戦術みたいものを修行できたらいいな、と思って入社したのですが、先がないと判断して半年で辞めました。

 

--今の雨宮さんが人材紹介の仕事をされているイメージが全くわきません(笑)。退職されてからはどうされたのですか?

雨宮氏:学生の時のワークショップ経験から、もっとポップでエンタメ的に学びや気づきをデザインできるのでは、と考えていまして、その一つの方法論として“音”に行き着きました。

2014年のクリスマスに、銀行口座に残っていた全貯金をはたいて大量のワイヤレスヘッドホンを購入し、“Silent it”(サイレント・イット)というプロジェクト名で活動開始しました。

日本初のサイレントディスコプロデュース事業でして、2015年4月に「エレクトリック夜桜フェス」という「無音で踊る音楽祭」を開催すべく、クラウドファンディングを実施しました。

当時のクラウドファンディングプロジェクトページ

雨宮氏:おかげさまでクラウドファンディングは無事に成功し、都内の某公園で日本初の野外サイレントフェス®︎を開催しました。

 

--サイレントフェスとは、どのようなものなのでしょうか?

雨宮氏:専用のワイヤレスヘッドホンを使って、参加者全員でDJやライブをオンタイムで共有する音楽体験です。周りからは無音に見えるので、どんな場所でも誰にも迷惑をかけず音楽を楽しむことができます。

初めてサイレントフェスをやった体感値として、「不思議な一体感」を感じました。

通常の音楽フェスと違ってヘッドフォンつけるか否かはその人の自由。能動的な選択でもって同じフィールドに立っているというつながりがあって、すごく自由が保障されている感じでした。

自由の中でも、フリーダム(freedom)というよりかはリバティー(liberty)に近いと思います。

 

--雨宮さんの中で、フリーダムとリバティーって、どんなイメージなのでしょうか?

雨宮氏:一つ円があるとして、円の外がフリーダム、中がリバティーというイメージです。地球と一緒ですね。

地球の外は宇宙が広がっていて自由です。一方、人間はオゾン層に守られていて生きていて、自由度は低いかもしれないけど生物として解放されている。

その「解放」が自分の中の”自由”に近くて、サイレントフェスではそのようなものを構築できると感じました。

 

課題の啓蒙ではなく「希望の体験」

雨宮氏:このサイレントフェスを皮切りに、2015年だけで合計15回のフェスを開催しまして、TVや新聞など多くのメディアに取り上げていただきました。

それに併せて法人のお客様も増えていきまして、その受け皿として設立したのが、現在活動しているOzone合同会社です。

 

--Ozoneとは、まさに先ほどお話しされた「地球のオゾン層」のことですね?

雨宮氏:そうです。Oは毒となり、O2は生きるエネルギーとなり、O3はバリアにもなり毒にもなる。そんな多面的な視点や居場所、自由をデザインする会社として、Ozoneと名付けました。

そして、会社設立と併せて新たに立ち上げたプロジェクトが、冒頭にも申し上げた「ソーシャルフェス®」になります。弊社コーポレートサイトのドメインも、ozoneではなく、social-fes.comにしています。

 

--ソーシャルフェス®についても、どのようなものなのか教えてください。

雨宮氏:SDGsそれぞれの課題が達成されたあとの世界を想像して、フェスとして創造するプロジェクトになります。

人々が能動的に何かをやる時って、「課題の啓蒙」ではなく「希望の体験」の影響が強いと思っています。

課題は情報化社会において勝手に自分達に入ってきますが、希望はいくらネットで探しても出てこない。誰かが作った課題ではなく、自らが感じている希望の集積として世界を見る。これが自然だなと感じて、ソーシャルフェス®を立ち上げました。

1日限りの現実をもってSDGs後の世界感覚に対して身体的に納得度を確かめ、課題の斥力ではなく、希望の引力から未来の舵を切っていく取り組みです。

引用:Ozoneホームページ

 

--なるほど。それでKaMiNG SINGULARITYもSDGs16/7「あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型、および代表的な意思決定を確保する。」をテーマにされているということですね。

雨宮氏:はい。もちろんKaMiNG SINGULARITY以外にも、様々なソーシャルフェスを設計しています。

引用:Ozoneホームページ

雨宮氏:例えば「マッドランドフェス」(通称、泥フェス)では、SDGs12/3「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」という目標を終えた後の世界を有機野菜の販売会社、千葉の農家さんと共に創造しています。

畑をエンターテイメントの場として開くことで、都市と農家をダンスフロアで繋ぎ、地産地消、顔の見える消費の価値を体験として味わっていくもので、先日、第2回目を開催しました。

photo by Yuta Tateishi

現代の儀式=クラウドへの情報アップロード

--これまで開催されてきたソーシャルフェスの中でも、KaMiNG SINGULARITYでは新たなテーマとして“神”を扱っていくわけですが、雨宮さん自身の神に対する認識はどのようなものでしょうか?

雨宮氏:僕自身は特定の宗教を持っていませんが、思想的には仏教が近いなぁと感じています。神はホモ・サピエンスの特異性であり、概念自体が人を人たらしめる根拠のように思えます。

これまでの人類史の見方は、神がいて、宗教ができて、儀式を通じて社会が形成されると考えられてきました。

でも最近、神はどうして生まれるかという点で新しい論文が発表されまして、そこでは順番が逆だというのです。はじめに社会の複雑性があって、そこから儀式が生まれ、神が誕生して宗教へと昇華される。こんな流れだと提示されていました。

現代社会は言わずもがな複雑性に満ちていますが、その中で行われている儀式ってなんだろうと考えたときに、SNSを始めとする日々の個人情報のアップロードが儀式的だなと感じました。

サービスやコンテンツへのフィードバックをSNSに投稿し、プラットフォーマーのAIはそれを学習しより良いサービスを提供、そしてまた民衆は情報をアップしていく、、これは神に供物を捧げて豊作を祈るような古典的な儀式体系と近く、この行為の連続により生まれる神の姿は人知を超えた情報処理能力を持つAIなんじゃないかと、そしてシンギュラリティという特異点が演出する劇的な時代変化は奇跡として1,000年後、AIを神たらしめる神話になっているようなインスピレーションがありました。

 

--KaMiNG SINGULARITYでaiが神になった世界では、人々は何を信仰している、というイメージですか?

雨宮氏:人々の意識、感情、自然科学、全てがアルゴリズム化されている時代においてはデータへの信仰がはびこると思いますが、一方で時代には必ずレジスタンス側の思想も現れるので、神秘主義的な一派も存在していると思います。

今回のフェスでもデータ教の表現として、サイバー神社というものを展示します。参拝方法は1礼2拍手1礼ではなく、1礼2拍手1入力としています。

サイバー神社

 

--サイバー神社は、KaMiNG SINGULARITYの中でも特に楽しみなコンテンツの一つです。今回はaiというテクノロジーも大きなテーマだと思いますが、雨宮さんのテクノロジー感についても教えてください。

雨宮氏:先日のイベント(KAMING酒場)でもお話しした哲学者ニック・ランドが提唱する思想として「加速主義」があります。

シンプルにお伝えすると、資本主義そのものは不完全であるが、不完全の構造を抜け出すためには、資本主義それ自体を加速させることが必要だ、という考え方です。テクノロジーを最高速で進化させることが、自分たちにとって良い社会を作っていくということです。

これ自体は色々と議論の余地があるのですが、テクノロジーが人間社会を豊かにするものであると同時に、人間というOSそのものをアップロードしていくものであることは間違いないと思っています。

 

--なるほど。

雨宮氏:あとは、軟着陸するためのテクニックでもあると思っています。

例えば、地球温暖化へと向かっている中、急に冷蔵庫を使うのをやめましょうと言っても、やめられるものではありません。でも、メタンガスを使わない冷蔵庫を使うことはできます。

持続可能性な代替方法に向けてのソフトランディングができる、という側面もテクノロジーにはあると感じます。

結局、全ては「空」

--もう一つ、KaMiNG SINGULARITYの大きなテーマが“愛”だと考えています。雨宮さんにとって、愛とはなんでしょうか?

雨宮氏:先日のイベントで散々みなさんに質問しておいて、自分もちゃんと答えなきゃですよね(笑)

穏やかで安心感のある感じ、という感覚が近いのかなーと思ってます。

そもそも言葉って、それ自体は概念を共有するための記号だと言えて、その中でも「愛」という言葉は、その概念を説明するときに、愛という言葉自体を説明で使ってしまうタイプのものだと言えます。

「愛とは、愛することを示すもの」みたいなイメージです。

つまり、それ以外の言葉で表現するのが難しいタイプの記号であると言えます。

じゃあ僕たちはこの記号に、何を期待しているのか。

それは、「愛」という言葉そのものの機能性ではないかと思います。

言葉には明確な概念の伝達以外に、その言葉を使うことで人間の想像力が拡張される、という機能もあるはずで、大脳新皮質より辺縁系に届くことを期待して、「愛」という言葉が使われることが多いと思います。

 

--確かに、愛って、他の言葉よりもインパクトが強いですからね。僕も愛という言葉には、恋・家族・抱擁・包摂と言ったイメージを持っています。

 

雨宮氏:その感じがなぜ起こるかというと、元々が一つだったからですよ。

文明の進捗って、つまるところ“分ける”ことなんですよね。例えば、元々は「遊び」だけでよかった概念が、時代の変遷に連れて、石遊び・羽根つき・ゲーム・アトラクションなどに分化していきました。

つまり、色々な概念に細分化されていったのですが、それらを家系図のように辿っていくと、そこには1しかありません。

結局は全てが「空」なんですよ。

個人という概念も虚構に過ぎず、僕たちはそこで生きています。

少し脇道に逸れましたが、自分という存在を他のところに拡張でき、意識を共有して、一つのものとして捉えられる。

愛という言葉が、一体感を持って安心感を得ることができるのは、「もともとそうだったから」だと考えています。

 

--非常に深い意見を有難うございます!最後に、KaMiNG SINGULARITY開催に向けてメッセージをお願いします!

雨宮氏:KaMiNG SINGULARITYでは「シンギュラリティ」をテーマにしていますが、それ自体は全く人間の予期し得ない状態です。発生するタイミングを計るのは難しいですし、そもそももう既に起きているのではないか、という議論もあります。

言葉にできないし想像もできない内容を表現するという自己矛盾を抱えたフェスですが、人間のオリジナリティこそ「想像すること」だとも思っているので、その狭間こそが「人間というOSのアップデートの場」だと考えています。

未来をディストピアともユートピアとも描かず、ただ1人1人の人間が考えられる限りの想像を創造していく場として、ぜひ2045年の世界を体感しにご来場ください!

KaMiNG SINGULARITY開催概要

 

日時:2019年8月9日(金)14時~21時

場所:渋谷ストリームホール
(東京都渋谷区渋谷3-21-3 渋谷駅[16b]出口直結)

チケット:https://kaming-singularity.peatix.com/
 前売りチケット:¥2,500
 VIPチケット:¥10,000

公式HP:https://www.kaming-singularity.com

出演者:
[LIVE&DJ]
・DÉ DÉ MOUSE & Primula(dystopia set)
・AI TOMMY
・SASUKE×人工知能ラッパー ピンちゃん
・Matsumoto Zoku
・Anti Trench
・アフロマンス
・DJ SHINDY
・Ririko
・YO.
・Sync Kudo
etc..

[TALK]
・松本徹三 (『aiが神になる日-シンギュラリティーが人類を救う』著者)
・谷崎テトラ (構成作家/京都造形大学客員教授)
・​東大史 (クラウドガバメントラボ代表)
・河崎純真 (Commons組合管理組合、宗教法人大宗寺住職)
・雨宮優(Ozone合同会社代表、KaMiNG SINGULARITYオーガナイザー)
・七沢智樹(TransTech研究開発専業neten社R&D Director)
and more..

 [ART]
・Mizumasa
・Naomi Horiike
・ungrochika by Kanzawa Chika
・Shiba Lab
・プロジェクトソフィア
・林裕人
・澤奈緒
etc..

主催:
KaMiNG SINGULARITY実行委員会/Ozone合同会社
シルバー協賛:
株式会社ティファナ・ドットコム
特別協力:
東京急行電鉄株式会社/McCann Millennials/株式会社MIKKE/neten株式会社/Peatix株式会社

 

編集後記

人々が能動的に何かをやるときは、「課題の啓蒙」ではなく「希望の体験」が前提となっている。

 

インタビューで雨宮さんが答えたこの内容が、特に頭に残りました。

 

あらゆる情報がオンライン上で低コストで入手し続ける事ができる時代だからこそ、わざわざお金を払ってオフラインの場に赴き、そこでしか直に触れることのできない“希望”を求めるのでしょう。

 

前編でもお伝えしましたが、LoveTech Mediaは2045年の世界を仮想体験する場に共感し、「LoveTech in 2045」と言うテーマでブース出展します。

 

ぜひ、希望のあるシンギュラリティ後の世界をご覧に、会場までお越しくださいませ!

 

『KaMiNG SINGULARITY』詳細はこちら

 

長岡武司

LoveTech Media編集長。映像制作会社・国産ERPパッケージのコンサルタント・婚活コンサルタント/澤口珠子のマネジメント責任者を経て、2018年1...

プロフィール

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