ベビーシッター全員が国家資格保持者の「キズナシッター」、業界の起爆剤になるか《前編》

インタビュー

 育児経験のある方ならば、少なくとも一度はベビーシッターの利用を検討したことがあるのではないだろうか。

 保育園などの施設に預ける一時保育よりも予約が取りやすく、単発で活用しやすく、さらに自宅でのお世話が中心となるため子どもが安心するなど、現代の忙しいママにとってはメリットの多いサービスである。

 では、実際にベビーシッターを利用したことのある方は、読者の中でどれくらいいらっしゃるだろうか。メリットの多さにも関わらず、意外と少ないのではないだろうか。

「知らない人を自宅にあげるのは抵抗がある」

「他人に子供を預けるのが不安」

 いざ使おうと思っても、このような心の声がハードルとなって、実際の利活用には至らなかった方は非常に多いと聞く。確かに、子どもに何かあってからでは遅く、それならば利用しないでなんとかしよう、と考える方が多いのも頷ける。

そんなベビーシッターサービス利用への”漠然とした不安”を解消すべく、登録しているシッターさんが全員、保育士・幼稚園教諭・看護師のいずれかの有資格者だというサービスがある。その名も「KIDSNA キズナシッター」(以下、キズナシッター)。業界最大規模の求人数を扱う保育士転職の「保育士バンク!」などを運営する株式会社ネクストビートが始めたサービスだ。

 ちょっと待てよと思う。例えば保育士について、社会課題として保育士不足がさけばれる中、一人ひとりの業務負担はますます増えていると聞く。そんな中で、果たしてベビーシッターとして登録・活動する余裕のある方なんていらっしゃるのだろうか?素人目線ながらそんなことをぼんやりと思った。

 キズナシッターは2018年1月17日にリリースされてからちょうど1年が経過するタイミングだということで、前中後編の3記事に渡ってお届けする。

 まずは実際に、キズナシッターを通じて依頼されたシッティングの現場に伺い、ベビーシッターサービスとはどんなものなのか取材させていただいた。

実際に使ってみた、キズナシッター利用の流れ

 

 実際のシッティング現場に入る前に、まずはキズナシッターの仕組みについて、簡単にご説明する。

 冒頭にも記載の通り、キズナシッターに登録されているベビーシッターは、全員が保育士資格、幼稚園教諭免許、もしくは看護師免許を持つ国家資格保持者。業界でも初の仕組みである。

 入会費や年会費が不要だというので、試しに1歳5ヶ月の娘のいる筆者自身でも会員登録を進めてみた。

 キズナシッターは全てのやり取りをアプリ上で実施する。

 はじめにアプリをダウンロードし、登録を進める。保護者や子どもの名前や住所などの基本情報入力の他に、免許証や保険証など住所と名前を同時に確認できる本人確認書類の写真をアプリ上で提出する必要がある。この本人確認書類の提出をもって、利用審査が入る。筆者のケースでは24時間以内に審査が完了し、無事に利用開始することができた。

 この審査と並行して、シッター情報をメイン画面から検索してチェックすることができる。検索条件として、シッティング希望日付や対象地域を設定することが可能だ。

 シッター詳細ページでは、シッターの年齢・住所(地区まで)・最寄駅情報・受入年齢・保有資格・基本時給・割増料金(年齢や人数に応じた加算)などの基本情報の他、これまでのキズナシッター上でのシッティング回数や、自己紹介や得意分野などのアピールポイントが確認できる。また、ユーザーからのレビューコメントも確認できるので、対象シッターの人となりや評価を知ることもできる。評価は100点満点でつけられるのだが、さすが全員が国家資格保有者、100点満点の評価シッターが多くいらっしゃる。

 依頼したいシッターを見つけたら、対象シッターのスケジュールをアプリ上で確認し、預かり依頼を行う。2019年1月時点では当日依頼はできず、前日までの依頼が必要だ。

 初めて依頼するベビーシッターとは、初回だけ必ず1時間程度の面談が必要だ。初めまして同士だからこそ、顔を合わせてのコミュニケーションが重要となる。なお初回面談は、シッティングと同日に連続した時間で行うことも可能だ。

 ここまで完了したら、実際のシッティングとなる。当日にベビーシッターが自宅や送迎場所など指定の場所に来て、預かりを実施する。

 面談およびシッティング完了後、ベビーシッターから「完了報告」と「決済依頼」が届き、内容を確認した後に登録したクレジットカードで決済を行う。また併せて、ベビーシッターのレビューも行い、全工程完了となる。

キズナシッターサービスページ内「ご利用の流れ」より

 印象的だったのが、アプリのど真ん中に「シッターを探してもらう」ボタンがあり、なんとそのボタンを押すと、キズナシッター運営事務局にフリーダイヤルで電話ができてしまうのだ。

 通常こういったアプリサービスでは、「電話」コミュニケーションを嫌がるものだ。会社にとっては、電話応対は時間と工数を取られてしまうからだ。だからこそ、アプリのど真ん中に電話ボタンがあるのは、非常に新鮮であった。

 ちなみにキズナシッターでは、登録後の本人確認書類提出やアプリ操作のフォローとして、必ず1回は電話で連絡が入る仕組みになっているという。

 この辺りも非常に丁寧なサービス設計だと感じる。

リアルなシッティング現場に同行

 次に、実際のシッティング現場に同行させていただいた。今回同行させていただくシッターさんはこちら。

 アプリではこんな感じで、それぞれのシッターさんの特徴がわかるようになっている。今回のシッターさんは、幼稚園教諭免許と保育士資格を持っており、実際に幼稚園での勤務経験が5年。ピアノが得意だという。音楽好きなお子さまにとっては嬉しいポイントだ。

 そして、今回取材同行でお邪魔するご家庭はこちら。家族仲良しで、なんとも微笑ましい一枚である。

「パパ、行かなきゃなの」と言っても手を離さないお子さま

 今回のシッティング依頼は平日の18:30〜21:30の3時間。パパさんがこの後外出で不在となる中で、ママさんが該当時間で仕事に集中すべく、今回の依頼になったという。そう、ベビーシッターは何も不在時だけのサービスではなく、このように在宅時での利用も多いという。

 ちなみにこちらのご家庭では、これまで何度かベビーシッターを利用したことがあるものの、キズナシッターの利用は初めてだという。初回面談も、この日に併せて行われた。

 面談では、シッティングスケジュールやお風呂への入れ方、おうちでのルールや好きな遊びなど、様々な項目をチェックされていた。

 面談が完了すると、シッティングスタートとなる。

 シッティング中の2時間は筆者は退出していたが、この日はお風呂に入れてもらうことが希望となっており、2時間後に戻ると、お子様の洋服がパジャマに変わっていた。

 さすがピアノが得意な本日のシッターさん。楽譜片手に、お子さまとミニピアノでの演奏で盛り上がっていた。”好き”にとことん寄り添うことが、お子さまの健やかな成長には不可欠だという。

 シッティング終了時刻になると、本日のフィードバックがシッターさんからまずは口頭で伝えられた。後ほど、アプリから正式にメッセージで詳細フィードバックを送るという。

 最後は皆さんで記念に一枚。キズナシッターエプロンがあるということで、シッターさんに最後だけ着用いただいた。

本日はありがとうございました!

さすが、有資格者だなと感じました

 シッティング終了後、まずは本日ご依頼されたママさんにお話を伺った。

 

--本日はありがとうございました!まずは簡単に、ご家族構成とお仕事について教えてください。

ママさん:夫と子どもの3人家族です。

仕事はいわゆるパラレルワーカーで、企業で研修プログラムを企画・設計する傍ら、個人ではメディアPRコンサルティングやママ向けワークショップの企画運営をしています。

ちなみに、夫は放送技術職。出産前は私も10年以上テレビのディレクターをやっておりました。

 

--ベビーシッターはこれまでも使われていたということですが、最初は何がきっかけで使われ始めたのでしょうか?

ママさん:出産してから半年ほどしたあるとき、夫婦の時間が全然持てていないことに気づきました。

初めての子育てでとにかく余裕がなく、夫も協力的だったのですが、平日はどうしても仕事で不在になる。コミュニケーションロスから自然とケンカも増えていき、このままではまずいなと感じていました。

夫婦2人の時間を捻出するために、ベビーシッターを利用することにしたのがきっかけです。

その時に「思った以上に便利だな」と感じまして、今では月に1〜2回は夫婦の時間を作るために依頼しています。

 

--今回、キズナシッターはどのように知られたのでしょうか?

ママさん:人からの紹介です。

シッターさんが100%国家資格保有者という点が、他のベビーシッターサービスにはなく面白いなと思い、今回初めて依頼させていただきました。

 

--率直なご感想として、本日はいかがでしたでしょうか?

ママさん:今回は私が同じ空間で仕事をしながらのシッティング依頼だったのですが、先生による息子との接し方は、育児をする上で色々とヒントになりました。こういう時はこういう言葉がけをすると良いとか。

あと、幼稚園の先生ならではな感じで、手作りでお持ち下さった動物あてクイズみたいなおもちゃを使って、遊んで下さったのが、さすが有資格者だなと感じました。

家にあるおもちゃでただシッティングするだけでなく、ピアノを教えるなど、教育的関わりをしてくださってありがたかったです!

--今後もご利用されたいと感じましたか?

ママさん:そうですね!

息子がすごく楽しんでいましたし、私も仕事に集中できて、とても良い時間の使い方だなと感じました。

今回のように自宅でのシッティングもそうですし、ママ会に来てもらったり、外出先の近くで預かってもらったりと、いろいろな利用シーンが考えられました。

〔「親の枠にはめないこと」をモットーに子育てされているというママさん。素敵なご自宅で、お子さまも非常にノビノビと育っているように見受けられた。そんなご家庭だからこそ、子どもの可能性を引き出すプロとして、キズナシッター登録のシッターさんは非常に相性が良いと感じた。〕

キズナシッターは事務局との距離が近いんです

 最後に、本日のシッターさんにもお話を伺った。

 

--本日はありがとうございました!まずはこれまでのご経歴と、現在の働き方について教えてください。

シッターさん:私立幼稚園で5年間務め、その後保育園に勤務したのちに、現在ベビーシッターとして活動しています。登録はキズナシッターのみです。

ただ、日中は別で企業の事務をしており、ほかにも馴染みの飲食店をお手伝いしたりなど、いろいろな仕事を並行してやっています。

 

--パラレルワークなんですね!その中で、キズナシッターはどれくらいの頻度で入られているのでしょうか?

シッターさん:月によって変わるのですが、だいたい週に2〜3日のペースで入っています。

 

--そもそも、ベビーシッターとして活動されたのは、何がきっかけだったのでしょうか?

シッターさん:もともと幼稚園で働いていた頃はとても楽しかったのですが、とにかく忙しくて、お子さま一人ひとりに対してのおだやかな保育が、なかなか難しい状況でした。

退職してからも資格を活かせるような仕事をしたかったけど、そんな背景から、園での勤務はもういいかなと思っていました。

そんな中でたまたま、ネットでキズナシッターのことを知り、有資格者だけがシッター登録できることに魅力を感じ、これまでの経験を活かせるフィールドだと思って登録しました。

今は基本的に1対1でお子さまと向き合うことができるので、とてもやりがいを感じています。

 

--キズナシッターの良いところは何でしょうか?

シッターさん:事務局の方との距離が近く、マメにコミュニケーションできる点だと思います。メッセージやメールだけでなく、電話でのフォローも細かく実施してくれるので、初めてシッター先にお邪魔するときなど、心の支えになりましたね。

あとは他の方も含めてシッターさん全員が有資格者なので、良い意味で私たちへの期待値が高く、刺激になってやりがいを感じます。

--お子さまを預かる際に、保育園とは違う点で気をつけていることなどありますか?

シッターさん:短時間でお子さまのことを十分に理解することが大事なので、最初にとにかく質問しまくります。あと細かいことですが、間違って転倒などしないように滑り止めのついた靴下を履いたり、御手洗に行かないように、短時間であればあまり水分を取らないようにしています。私がお手洗いに行っている間に、お子さまに何かあってからでは遅いですから。

 

--最後に、今後取り組まれたいことなどございますか?

シッターさん:まだキズナシッターとしてサービス対応していない領域かと思いますが、将来的に障害児保育にも挑戦したいと考えています。

そのためには、もっと勉強しなければと思います!

訪問後にキズナシッター運営事務局の方とMTGするシッターさん

〔インタビュー後に帰り道が一緒だったので、正直ベースで「キズナシッターって稼げますか?」と質問したところ、「稼げますよ!」と即答された。シッターさんの想定以上に、予約が埋まっていくという。保育士・幼稚園先生・看護師の方にとっての、新たなキャリア選択の可能性を感じた。〕

 

前編では、キズナシッターのシッティング現場について取材させていただいた。少しは現場の雰囲気を感じていただけただろうか。

中編および後編では、キズナシッター運営責任者の方に、どんな思いでこのサービスを開始し、また今後どのようなビジョンを思い描かれているのか、リリースからちょうど1年が経過した節目として、インタビューさせていただいた。

 

》中編記事につづく

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