メンヘラテクノロジー。
いきなりどうしたと思われるかもしれないが、これは企業の名前だ。2018年8月に設立された株式会社である。
メンヘラとテクノロジー。これまでの生活でなかなか紐ついたことのない組み合わせなので、非常に惹かれるネーミングだ。昨今のEdtech(教育×テクノロジー)やFinTech(金融×テクノロジー)といった、特定産業×テックの造語とはまた異なるレベルで、ワクワクする名称である。
そもそもメンヘラとは何か。その厳密な定義は難しいが、広く一般的に使われる用途としては、人間関係で不安にかられやすく、メンタルの浮き沈みが激しい人のことを総称して使われることが多いようだ。元々の語源は、2ちゃんねるのメンタルヘルス板の住民である「メンヘラー」からきているという。
このメンヘラテクノロジーでは、「MM(ミリ)」という、社会との距離を縮めたい女子学生のための食事会セッティングサービスを2018年9月より3ヶ月間テスト展開し、ネット界隈を中心に注目されていた。
筆者も早速モニター登録をしたのだが、急遽、同年12月26日にMM事業を終了するとの発表があった(発表概要はこちら)。
話題のサービスを体験できずに非常に残念だったのだが、次の事業案の発表を含めた「【MM】サービスリリースできなくてごめんなさい会」というオフラインイベントが2019年1月9日にあることを知り、こちらを取材させていただくことにした。
メンヘラの方が不安にかられる要因として、一つは「愛不足の感覚」があるのだろうという仮説があり、愛に寄り添うテクノロジーをとりあげるLove Tech Mediaとしてはド直球な領域である。
テクノロジーがメンヘラの方にどのように寄り添うのか。この観点含め、お話を伺ってきた。
まず前編では、同社のこれまでの経緯についてご紹介する。
代表取締役 CEO 高桑蘭佳(らんらん)
高桑氏ライターPORTFOLIOページ(ranran.themedia.jp)より
まずは、株式会社メンヘラテクノロジーを語る上で欠かせない、同社代表取締役 CEOである高桑蘭佳(たかくわらんか)氏、通称らんらん氏についてご紹介する。
メンヘラテクノロジーが注目されたきっかけは、高桑氏が発信するWantedly記事である。『彼氏を束縛するために社長になりたくて…「株式会社メンヘラテクノロジー」を設立しました』というインパクトある題名と内容の記事がネットで拡散され、一躍時の人となったのだ。
そう、高桑氏の究極の目的は「彼氏を束縛するAIを作ること」だというのだ。
ここで、高桑氏の人となりについて、交換したお名刺に関連ワードがまとめてあったので、こちらをご覧いただきたい。
2年ほど前よりフリーライターとしての活動を開始した高桑氏は、現在は大学院を休学してメンヘラテクノロジーのCEOに就いている。彼氏が大大大好きで24時間365日彼氏と一緒にいたいタイプであること、そして彼女自身がれっきとしたメンヘラであることを公言している。
大学では工学部情報システム学科に所属し、主に「言葉」を軸にテクノロジーの可能性を探求、自然言語処理分野におけるAI活用を研究していた。その流れから、卒業研究テーマをどうするか考えたときに、当時の担当教授との会話から「彼氏を束縛するAI」の発想が生まれたという。ちなみに具体的な研究テーマとしては、Twitter上で彼氏宛のリプライを解析して、彼氏と新密度が高い女性を抽出するというものだったという。
彼氏との時間をできるだけ多く共有したい高桑氏は、イベント会社を経営する彼氏に、自身を社外取締役にして欲しいと提案する。彼の仕事の一部になることで、もっと束縛できる、という算段だった。しかし、条件付きで断られてしまう。
昨日、「どうして私を社外取締役にしてくれないの?!」と彼氏と喧嘩して「ちゃんと起業してサービス出せたらしてあげる」というところで落ち着いたので、起業しようと思う。仲間集めしたい。仲間集め…どうやったら仲間集めってできるんだろう。あ、事業案はある。
— らんらん🤖❤️ (@pascarrr) 2018年7月5日
起業して、なにか事業を立ち上げてリリースした実績があれば、社員たちにも説明できるから社外取締役にしてもいい。
そんな彼氏の言葉から、会社を立ち上げる決意をしたという。彼氏が大好きだからこその行動力だ。
ガイアックスとの出会いとメンヘラテクノロジー設立
ここからはイベント当日の進行に即してお伝えしていく。
会社設立を目指した高桑氏が応募したのが、株式会社ガイアックスが開催する「アイディア創出&事業化プログラム」である。
「Empowering the people to connect ~人と人をつなげる~」ことをミッションに創業し、現在はソーシャルメディアとシェアリングエコノミーに注力しているガイアックスは、同時多発的に複数の企業を立ち上げるスタートアップスタジオ(※)でもある。
※出典:「STARTUP STUDIO」(アッティラ・シゲティ、2017)
このスタートアップスタジオとしての取り組みの中で、同社は社内外から共に新しい未来を創りたい人を募り、アイディア作りから事業化まで実現していくワークショップ「FUTURE PROOF」を定期的に開催しており、その学生限定の回にて、高桑氏が応募してきたという。
この取り組みを説明してくださったのは、株式会社ガイアックス 執行役でありスタートアップスタジオ責任者の岡田健太郎(おかだけんたろう)氏。メンヘラテクノロジーの設立時から、事業開発を支援している人物である。
岡田氏「FUTURE PROOFで高評価を得た事業プランは法人化して、起案者の方が代表となり、新会社の株式を20%持った上で、ガイアックスが人件費と検証費用を提供しています。
これまで2回、プログラムを開催しましたが、合計3社が法人化して事業検証を進めています。メンヘラテクノロジーはそのうちの1社です。」
岡田氏「事業開発はリーンスタートアップのような仮説検証型で進めていき、各事業段階に応じて条件を設定し、その条件をクリアした事業案について追加出資をしていく、という流れで進めていきます。」
大学時代の原体験から立ち上がったMM(ミリ)事業
MMサービスページより
FUTURE PROOFでの法人化を経て、本格的にメンヘラテクノロジーの事業として検証が開始したのがMM(ミリ)サービスだ。
MMとは、社会との距離を縮めたい女子学生のための食事会セッティングサービス。就活において、会社説明会やOBOG訪問ではなく、もっとカジュアルに学生が社会人と交流できる機会を作れるサービスがあったら良いな、という高桑氏の思いから立ち上がった事業だ。
高桑氏「事業開発する中で私自身が課題に感じていた感覚が『暇で病む』ということです。大学1年生の時、私は学校に馴染めないタイプだったので、友達がなかなかできず、一人でいることが多かったんです。でも周りのみんなはディズニーに行ったりしてて、一人でいることがとても悲しくなって、どんどん塞ぎ込んでいきました。
でもそんな私が変わったきっかけが、社会人である今の彼氏とのお付き合いです。
彼氏が何か特別なことをしてくれたわけではないのですが、結果として私の視野を広げてくれました。」
そんな原体験から、女子学生と社会人のマッチングサービスを考えたという。9月にモニター募集開始してから約1ヶ月半程度で、実に1,000人以上の方がモニター登録をしてくれたという。ネットで話題になった分、物見遊山での登録者もいたものの、広告費用ゼロ円でこの数字は、非常に高い話題性があったと言えるだろう。
社会人からの評価が低くMM(ミリ)事業は打ち切りに
しかし、結論としては、MM事業は打ち切りになった。
高桑氏「MMは2018年9〜11月で、こちら図の第3段階『Problem/Solution Fit』の検証を進めていました。実際にMMサービスを利用してもらい、『また使いたい度』が10段階評価で9以上のユーザーが社会人10名・学生10名以上になったら、次の段階『Product/Market Fit』に進む、という条件をガイアックスさんと交わしました。
検証期間中に100名程の方がMMのお食事会に参加してくださったのですが、結果として、9以上の評価をしてくれた社会人は4名、学生は8名でした。」
学生の満足度は比較的高かったものの、社会人が低かったという。
高桑氏「学生は、私たちの狙い通りの層が参加してくれました。インターンシップなどにバリバリと参加するような意識が高いタイプではなく、もっとゆるい層です。だから、食事会も全体的にゆるい感じの会でした。
それが、社会人の方々の満足度がイマイチだった理由でもあります。
社会人になってからの心構えだとかやっておいた方が良いこととか、何かしら学生の役に立ちたいと考えていた社会人の方が多かったのですが、そこに対する学生の方との認識のズレがあって、話題にギャップが生じていました。
また、採用目的の社会人の方もいらっしゃったのですが、採用したい層の学生達と出会えなかったことも、低評価の要因でした。」
約束していた条件に満たず、MMの事業は打ち切りとなったが、高桑氏の事業開発の進め方自体はガイアックスの岡田氏が高く評価しているという。
岡田氏「事業開発における高桑さんの検証スピードやプロセスは、非常に評価できる内容でした。近いうちに、『Product/Market Fit』するようなプロダクトを作れると感じたので、高桑さんが出してきた次の事業案にも、会社として出資することにしました。」
後編では、これからメンヘラテクノロジーが取り組む新規事業2案についてご説明いただき、また説明会終了後に代表の高桑氏にインタビューをさせていただいた。
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