世界の人口増加による深刻な食糧危機が訪れることはニュースなどで報道されている通り。しかし、食糧危機は知っていても、「タンパク質危機」を知っている人はまだあまり多くない。2025〜30年、世界でタンパク質の供給が需要に追いつかなくなる可能性があるのだ。
グローバルな人口増加と中間層の拡大により、世界規模で一人あたりの肉や魚の消費量が増加し続ける。その一方で、現状の畜産や養殖は生産物の何倍もの穀物や魚粉によって賄われており、供給スピードが需要に追いつかなくなっていく目算だ。
9月6日夜、この「タンパク質危機」に焦点を当てたイベントが開催され、本課題の解決に取り組んでいるスタートアップや大手企業、研究者の方々をお招きしての啓蒙活動が行われた。
主催はスタートアップ支援のCreww株式会社で、同社が運営するコワーキングスペース「dock-Toranomon」が会場提供された。スタートアップ企業の成長を加速させる”場”として、大手企業との協業機会や資金調達機会、スタートアップ同士のコミュニティ等を提供している。タンパク質危機というキーワードを軸に様々なステークホルダーが召集され、当日は100名を超える来場者で賑わった。
近い将来巨大産業になると言われているタンパク質産業。本イベントのレポートを通じ、”食の未来”を考えるきっかけにしていただきたい。
基調講演「タンパク質クライシスとその対応」
最初に予備知識としてのタンパク質クライシスの背景について、三井物産戦略研究所 新産業・技術室 シニアプロジェクトマネージャーの岡田智之(おかだ さとし)氏がお話された。
まずは”食”を取り巻く環境について。世界的な所得増加に伴い、食に対する需要はどんどん多様化の方向へ向かっている。栄養補給としての食事から、美味しさの追求、さらにはその先の健康や低環境負荷や動物福祉などと、関心の幅が広がっている。
そんな中、新興国にフィーチャーした経済成長と動物性食品の消費量に「関する調査事例がある。結論としては経済成長と動物性食品消費には正の相関関係があり、今後ますます、動物性食品及び動物性タンパク質の需要は増えていく見込みだ。
現状では需給バランスは一致しており、供給が需要にしっかりと追いつけている。しかし、これからの時代、変動要因がたくさんある。
上記図でも示されている通り、環境汚染問題・農業人口の減少・生産適地の制約・資源の偏在・気候変動・世界人口の増加など、現在の技術ではコントロール不能なもの含め、様々な供給リスクが存在する。また需要サイドでも先ほどお伝えしたとおり、消費者ニーズの多様化に伴っての需要変動が起こりうる。上記の需給バランスの崩れは、すなわち新規技術のビジネス参入のチャンスとも捉えられる。
例えば穀物の場合、世界規模での耕地面積増加は見込めず、単位面積当たりの収量(単収)の増加が求められる。そのため、育種技術やスマート農業、植物微生物叢の活用が注目されている。
畜産についても、飼料代替や機能性飼料、スマート畜産分野に注目が集まる。昨年には、OECD(経済協力開発機構)のスポンサーでスマート畜産に関する国際会議が開催された。
さらに水産分野でも、今後ますます”養殖”需要が増える見込みなので、陸上養殖のための水処理技術や、沖合養殖のためのモニタリングシステムや安定した生簀(いけす)の開発が必要とされる。また養殖用飼料についても、現状の魚粉は価格が安定せず利益を計算しづらい状況なので、より価格変動の安定した魚粉代替飼料が求められている。
上記背景より、これからますますタンパク質の需要増加が見込まれ、2054年には世界のタンパク質消費量の実に3分の1が、微細藻類や昆虫などの新たなタンパク質となる可能性がある(出典元:Frost & Sullivan 及びLux Research)。
経済価値・生態環境価値・生活価値という、食糧生産に求められる3つの価値を念頭に、これからの時代の巨大産業を考えていきたい。
次ページ:パネルディスカッション「専門家が語る!40兆円規模の次世代巨大産業の姿とは!?」