AIヒューマノイドの開発などを手がけるRealbotix Corp.は、6月24日、ニューヨーク州西部のSalamanca City Central School Districtにて、2026年秋からAI教師アシスタント「Optio」とM-Seriesヒューマノイドを高校に試験導入することを発表した。同社のグループ企業であるRealbotix LLCの買収を計画しているNasdaq上場のバイオ企業・Onconetixも、同日にこの計画を明らかにした。
その後、New York Focusは7月14日、当該の契約資料に基づき、学区がロボット本体とソフトウェアに計5万7,590ドルを支出すると報じた。導入されるのは「Sally」と名付けられた、シリコン製の肌を持つ着座型ロボットだ。生徒からの質問に答えるだけでなく、過去のやり取りや学習状況を踏まえて、一人ひとりの学習を支援するという。
導入先となるのは、先住民族セネカ・ネーション[Seneca Nation]保留地内に位置する公立学区である。パイロット導入ではまず、探究型のデジタル学習・STEAM教育プラットフォーム「Woz Ed」のAI・ロボティクス講座を受講する一部の高校生と教職員が参加し、その後、2026年秋に利用対象を約500人まで広げる計画をRealbotixは示している。
Realbotix Corp.は、実は、成人向けのRealDollを製造するAbyss Creationsも傘下に置いている。同じ企業グループが手がける、人間に近い外見や表情、継続的な会話を特徴とするロボットが、今度は未成年者の学習環境へ入ることになる。
人に似た身体を持つAIは、生徒の信頼感や自己開示にどのような影響を与えるのか。また、生徒との会話や学習履歴は誰が、どのように管理するのか。本記事で、導入の仕組みと、現時点で残されている論点を詳しく見ていく。
5万7,590ドルで導入する着座型ロボットとAI助手
今回試験導入されるSallyは校内を歩き回るわけではなく、椅子に座った状態で上半身を動かし、顔の表情を変えながら会話するロボットだ。Realbotixの会長兼CEOであるアンドリュー・キグエル[Andrew Kiguel]氏は、教室への導入を次のように位置づけている。
“This deployment in a working school district represents a landmark moment for both AI and humanoid robotics.”
「実際に運営されている学区への配備は、AIとヒューマノイド・ロボティクスの双方にとって画期的な節目となる」(編集部訳)
— Andrew Kiguel, CEO of Realbotix(Realbotix、2026年6月24日)
生徒はSallyとどのようにコミュニケーションをするのか。New York Focusの取材に対し、キグエルCEOは、生徒ごとに固有のIDコードを割り当てる場面を説明している。生徒がコードを伝えると、Sallyは以前のやり取りや学習状況を参照し、「昨日話していた内容を続けるか」と応じる想定だという。
また、パソコン上のAI教師アシスタント・Optioは、授業時間外にも課題を支援する。生徒は宿題の写真を送り、その内容へのフィードバックを求めたり、関心のあるテーマについて説明を作らせたり、100を超える言語で翻訳を受けたりできると報じられている。教員も、学区のカリキュラムを読み込ませたシステムに授業の進め方を尋ねられる。
なお、学区の説明では、ロボットとアバターは公開インターネットを検索せず、学区が承認したカリキュラム、指導方法、Salamancaの地域情報だけを参照する。答えられない質問には「分からない」と返し、別の教材を確認するよう促すという。
ちなみに、Salamanca学区は、幼稚園から高校までのSTEM教育プログラムを提供するWoz Edから「STEM Pathway District」の認定を受けている。Woz Edは、Apple共同創業者のスティーブ・ウォズニアック[Steve Wozniak]氏が掲げる教育理念をもとに設立された企業だ。今回の試験導入にはまず、同社のAI・ロボティクス講座を受講する高校生が参加する予定だ。(RealbotixとWoz Edが直接提携しているわけではない)
成人向け事業とは別チーム。未完了のOnconetix取引

今でこそRealbotixと聞くとロボットの会社だと想起されるが、その前身は、暗号資産やメタバース関連事業を手がけるTokens.comである。同社は2024年4月、RealDoll事業を抱えるSimulacra Corporationを買収し、同年にRealbotixへ社名を変更した。
現在の主要子会社は、教育、医療、接客などの法人向けロボットを扱うRealbotix LLCと、成人向けのRealDoll事業を扱うAbyss Creationsである。会社側は、両社が別のチーム、会計、銀行口座で運営されていると説明している。New York Focusへの回答では、従業員、給与、施設、技術も共有していないと主張している。
さらに冒頭で示した通り、OnconetixはRealbotix LLCの全持分を株式交換で取得する計画だ。取引は株主や規制当局の承認などを条件に、2026年後半の完了が見込まれている。ただし、米証券取引委員会への提出資料によると、取引完了後もRealbotix Corp.はOnconetixの株式の大部分を受け取る予定である。法人上の切り分けが進んでも、親会社との資本関係が直ちになくなるわけではない。
もちろん、成人向け事業とのつながりだけを理由に、教育製品が不適切だと結論づけることはできない。一方で、同じ親会社が「コンパニオン」「ウェルネス」「教育」へ人間に似たロボットを展開する以上、各部門でデータ、開発環境、安全基準をどう分けているのかは、学校側が気になるところでもあるだろう。
果たして、5万ドル超の教育的費用対効果はあるのか
さて、生徒がパソコン画面の文章を読む場合と、人の顔に似せたロボットがこちらを向き、表情を変えながら名前を呼んで説明する場合とでは、同じ回答でも受け止め方が変わり得るだろう。
身体を持つAIは参加意欲を高め、教員とは異なる相談相手になるのか。それとも、外見の新しさが薄れれば、高価な会話端末として残るだけなのか。今回のパイロットで確かめるべきポイントの一つである。
Realbotixの別モデル「Aria」を同社施設で試したBusiness Insiderの記者は、会話の間や感情認識に不自然さがあり、悲しそうな表情を正しく読み取れなかったと報告した。一方、言葉遊びやユーモアには意外な自然さがあったという。Realbotixは、試験された機体が旧世代であり、製品を販売しながら改良を続ける段階だと回答している。
この体験記事はSallyやOptioを試したものではなく、教育効果の検証でもない。それでも、人間らしい外見が自然な対話や正確な感情理解を保証するわけではないことは分かる。Salamanca学区の試験導入では、継続的な利用を想定した場合の費用対効果が、今後の検討課題となるだろう。
なお、Gizmodoは7月18日、同じ機能をパソコンで提供できるのではないか、規約やデータ利用条件を精査すべきではないかと社説調の記事で批判した。同記事では、教室内のデータが将来のAI訓練へ使われる可能性も挙げている。
「個人情報を集めない」だけでは分からないデータ条件
Salamanca学区は、プライバシーと安全について次のように説明している。
“Does not collect personally identifiable information. Does not record video or audio. Does not transmit data to the Realbotix Corporation.”
「個人を特定できる情報を収集しない。映像や音声を記録しない。Realbotix Corporationへデータを送信しない」(編集部訳)
— Salamanca City Central School District(2026年7月10日)
顔認識と録音・録画も無効にし、機体は校内を移動しないという。ただし、宿題の画像を受け取り、過去の会話を呼び出して個別に応答するには、何らかの入力内容や学習履歴を処理する必要がある。公開資料から確認できる説明と、なお分からない点を整理すると次のようになる。
| 生徒の操作・入力 | 公開されている説明 | まだ確認できない点 |
| 固有IDコードを伝える | 過去のやり取りや学習状況を呼び出す | 対応表の管理者、履歴の保存場所・期間、削除方法 |
| 質問や相談を入力する | 学区承認済みの教材に沿って応答する | 会話ログを誰が閲覧できるか、品質改善やモデル学習への使用可否 |
| 宿題の写真を送る | 内容へのフィードバックを受けられる | 画像の保存、メタデータの処理、誤送信時の対応 |
| 安全上の注意語を入力する | 管理者へ通知すると企業側が説明 | 通知先、判定基準、誤判定への対応、記録の保存期間 |
Salamanca学区は、ニューヨーク州教育法2-dとPart 121に基づくデータ保護ページを設け、教育ソフトウェア事業者とのデータプライバシー契約は請求があれば開示するとしている。しかし、Realbotix/Optioに固有のデータ処理契約、保護者向け説明、オプトアウト、モデル学習への利用禁止、第三者委託先は、公開ページでは確認できない。
Sallyが録音や録画をしなくても、生徒がアバターへ文章や宿題を送れば、学習の得意不得意、関心、相談内容が履歴として残り得る。未成年者が人に似た相手へ何を話すかまで考えれば、管理対象は氏名や顔画像だけではないのだ。
人らしい外見が学習にどんな影響を与えるのか。その効果を判断するには、導入後の感想だけでなく、学習成果や教員の作業量、誤回答、故障などを具体的に測る必要がある。同時に、会話や宿題から生まれるデータの保存、削除、利用範囲を学校側が明らかにできるかが、今回の試験導入の価値を左右する。


