かゆみやヒリヒリする感覚、おりもの、においの変化。こうした症状が出たとき、「以前と同じカンジダだろう」と市販薬を選ぶ人は少なくない。しかし、細菌性膣症(BV)やカンジダ膣炎(CV)、トリコモナス症などは症状が重なりやすく、見た目や自覚症状だけでは原因を分けにくい。米疾病対策センター(CDC)も、カンジダ膣炎の典型的な症状はいずれも同疾患に “特有ではない” と説明している。
スイスに本拠を置く医薬品・診断薬大手のRoche社(以下、ロシュ)は2026年7月24日、細菌性膣症とカンジダ膣炎に関連する微生物を1本の膣スワブから調べるPCR検査用アッセイ(検査試薬)「cobas® BV/CV」(以下、cobas BV/CV)が、米食品医薬品局(FDA)の「510(k)クリアランス」を取得したと発表した(FDAの501(k)記録上では、取得判断日は2026年7月16日となっている)。
510(k)クリアランスとは、すでに市場にある医療機器(前例機器)と「安全性と有効性」において実質的に同等であることを証明・届出する事前承認手続きである。
本アッセイは、医師による採取のほか、医師の指示を受けたユーザーが医療機関内で自分で採取する方法にも対応するという。
膣炎の診療において、どの微生物が関係しているのかを早い段階で絞り込めれば、合わない薬の使用などに起因する治療の遅延防止に貢献できると見られている。また、同じ検体を性感染症(STI)の検査にも回すことで、受診時の身体的・心理的な負担を軽くできるかもしれない。
以下、検査の仕組みと臨床性能、自己採取がもたらす変化、その限界を、それぞれ見ていく。
リアルタイムPCRを使う自動化された体外診断用検査

cobas BV/CVは、検査量の多い大規模な検査室向けの「cobas 6800/8800」システムでの使用が想定されているアッセイだ。
いずれも検査室に据え置くRocheの分子診断用自動分析装置で、検体をセットすると、核酸の抽出からPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による増幅、判定までを自動で行うものだ。処理能力は、8時間あたりcobas 6800が最大576検査、cobas 8800が最大1,056検査で、1回の運転では最大6種類の異なるアッセイを同時に流せる。
ロシュは今後、このアッセイを「cobas 5800」でも使えるようにする計画だとしている。cobas 5800は2021年11月にCEマーク圏で発表済みの既存装置で、8時間あたり最大144検査の処理能力を持つ。高スループット機を必要としない病院や地域の検査室を対象とした、より小型・低スループットの製品である。(価格、保険適用、導入施設は公表されていない)
では、cobas BV/CVは1本のスワブから何を調べるのか。
cobas BV/CVを使う検査はリアルタイムPCRを使う自動化された体外診断用検査で、細菌性膣症については、膣内細菌叢を保つ乳酸菌と、細菌性膣症に関連する複数の細菌のDNAを測定する。その結果をアルゴリズムで解析し、陽性または陰性を判定するという仕組みだ。カンジダ膣炎については、複数のカンジダ属酵母を検出する。
検査が扱う範囲を整理すると、次のようになる。
| 項目 | 検出する主な対象 | 結果から分からないこと |
| 細菌性膣症(BV) | Gardnerella vaginalis、Atopobium vaginae、Lactobacillus属など | どの菌種が個別に検出されたか |
| カンジダ膣炎(CV) | C. albicans、C. glabrata、C. kruseiなど6種 | 陽性時の菌種や薬剤感受性 |
結果は、特定の菌種名までは報告されず、「BV陽性/陰性」「CV陽性/陰性」という定性的な形で返される。そのため、治療が効かない場合や再発を繰り返す場合には、菌種の同定や薬剤感受性を調べる追加検査が必要になることがある。
ロシュの製品文書では、装置に検体を載せてから最初の結果が出るまで3.5時間未満としている。ただし、この時間には検体の輸送や検査室での待ち時間、医師から結果を受け取るまでの時間は含まれない。
症状や一般的な院内検査だけで原因を分けるのは難しい

2019年のメタ分析では、北米の生殖年齢女性における細菌性膣症の有病率は27%と推定されている。一方、CDCによると、女性の推定75%がカンジダ膣炎を生涯に少なくとも1回経験するとしている(ただし、北米や生殖年齢に限定した数字ではない)。
そもそも、細菌性膣症とカンジダ膣炎では、必要な治療が異なる。ところが、かゆみ、おりもの、におい、排尿時の違和感などは複数の疾患で起こるため、症状だけを手掛かりに薬を選ぶと原因を外すことがある。
2021年に『Obstetrics & Gynecology』へ掲載された、症状のある成人489人を対象とする前向き研究では、診察時の臨床診断と分子検査の陽性結果が一致した割合は、細菌性膣症で57.9%、カンジダ膣炎で53.5%だった。この研究は競合する診断薬メーカーのBecton, Dickinson and Companyが資金を提供しており、分子検査を絶対的な正解とみなせない点には注意が必要だが、それでも、症状や一般的な院内検査だけで原因を分ける難しさを示すデータであることに変わりはない。
一方、ロシュが公開しているcobas BV/CVの臨床性能は、米国と欧州の複数施設で実施した同社主導の前向き研究に基づく。評価可能だった692人のうち、538人に膣炎または膣症を疑う症状があった。
| 対象と採取方法 | 感度 | 特異度 |
| 細菌性膣症(BV)・医師採取 | 95.9% | 93.8% |
| 細菌性膣症(BV)・医師の指示による自己採取 | 96.8% | 92.8% |
| カンジダ膣炎(CV)・医師採取 | 87.6% | 98.0% |
| カンジダ膣炎(CV)・医師の指示による自己採取 | 89.3% | 92.4% |
先述の通り、医師の指示を受けたユーザーは、医療機関内の個室などで自分で膣スワブから採取できる。医師による内診や採取に抵抗がある人にとって、自分の手で採取できるという選択肢は、受診時の負担を軽くする可能性がある。
ロシュの試験では、自己採取した検体の感度は医師採取と同程度だったが、カンジダ膣炎の特異度は、医師採取の98.0%に対して自己採取では92.4%だった。したがって、採取方法が結果に与える影響を「陽性」「陰性」の一語だけで捉えず、医師が症状や経過と合わせて判断する必要がある。
ちなみに、表の数値は、新しい検査の成績を測る際に「正解」とみなす既存の検査や方法(参照基準)と照らし合わせて算出されたものである。細菌性膣症では、微生物のDNAやRNAを増やして検出する「核酸増幅検査」(PCRもこの一種である)3種類を参照基準としている。一方、カンジダ膣炎では、検体中の微生物を実際に育てる培養と、育った微生物を質量の違いから見分ける「MALDI-TOF質量分析」を基準にしている。答え合わせに使う参照基準を別の核酸増幅検査に変えれば、同じ検査でも成績の数値は変わる。
表の感度・特異度は、検査そのものの性質を示す指標であるわけだが、これとは別に、陽性的中率は「陽性と出た人が実際にその病気である割合」、陰性的中率は「陰性と出た人が実際にその病気でない割合」を示す。これらの割合は、実際に病気の人がどれくらいいるかによって上下する。同じ性能の検査でも、病気の人が少ない集団では、陽性と出た人のうち本当に病気である人の割合は下がることになる。
FDAは、これらを含む性能資料を審査してクリアランスを出している。ただし、cobas BV/CVそのものを医療機関が独立して検証した査読済み研究は、記事執筆時点の公開情報では確認できなかった。市販後の診療現場でも同程度の性能が得られるかは、今後の報告を待つ必要がある。
医療機関内の自己採取と、同一検体を使った追加STI検査

自己採取という方法自体については、ロシュ製品とは別の研究もある。英国の医療機関を受診した99人を対象とする2017年の研究では、ユーザーが採取したスワブと医師が採取したスワブの一致度は、細菌性膣症と外陰膣カンジダ症の双方で高かった。研究チームは、自己採取が医師採取の有効な代替手段になり得ると結論づけている。ただし、対象人数が少なく、採取法や検査法もcobas BV/CVとは異なる。
もちろん、自己採取を選んでも診察そのものが不要になるわけではない。痛みや出血がある場合、症状が続く場合、別の疾患が疑われる場合などには、身体所見や追加検査が欠かせない。
さらに、cobas BV/CVに使った検体は、必要に応じてロシュの別の検査へ回すことで、クラミジア、淋菌、トリコモナス、Mycoplasma genitaliumを調べることもできる。1回の採取で複数の検査を注文できれば、別の日に再受診して膣スワブを採り直す手間や、検査のたびに身体を露出する負担を減らせるだろう。
ただし、cobas BV/CVだけでこれらのSTIが分かるわけではない。それぞれ別のアッセイを医師が注文し、検査室が実施する必要がある。どのSTIを調べるかは、症状、性交歴、妊娠の有無、地域の診療指針などを踏まえて判断されることになる。
また、細菌性膣症は、特定の病原体1種類による典型的なSTIとは位置づけられていない。CDCは膣内細菌叢の乱れとして説明する一方、細菌性膣症のある人では複数のSTIを獲得するリスクが高いとしている。
膣炎とSTIを同じ検体から調べられることには診療上の意味があるが、当然ながら、両者を同じ病気として扱ってはならない。
再発や見逃しを減らせるかは、発売後の診療現場で問われることに

膣内には、無症状でもカンジダ属や細菌性膣症に関連する微生物が存在しうる。DNAの検出だけで現在の症状の原因は断定できず、診察の代わりにはならない。ロシュの製品文書も、検査結果を診察所見や病歴と合わせて解釈するよう求めている。
cobas BV/CVの用途は症状のある人の診断補助のみで、無症状者を一律にスクリーニングする性能は確立していない。製品文書では、18歳未満、抗菌薬や抗真菌薬による治療中の人、子宮摘出歴のある人については十分に評価されていない。
導入は対応する大型装置を備えた専門検査室が中心で、検査費用や保険、導入地域に差があればアクセスできる人も限られる。日本では、Roche Diagnostics Japanが2026年1月に欧州のCEマーク取得を紹介した一方、記事執筆時点で国内の承認や発売を確認できる公表資料は見つからなかった。
cobas BV/CVは、症状の聞き取りだけに頼らず、1本の膣スワブから原因に関連する微生物を測定し、ユーザー自身が医療機関内で採取できる選択肢を設ける。再発や見逃しを減らせるかは、発売後の診療現場で問われることになるだろう。


