記事の要点
・細胞培養技術を研究開発するインテグリカルチャーが、シンガポールの細胞農業企業・Shiok Meatsと共同で「エビ細胞培養肉」の共同研究を開始したことを発表。
・インテグリカルチャーのCulNet Systemの技術をベースに、血清成分を添加しない形でエビ細胞を大量培養する技術を開発し、この培養技術を活用して製造される培養エビ肉を、Shiok社の方で2022年頃に商品化することを目指す。
・細胞農業(Cellular Agriculture)とは、細胞培養で食料を生産することの総称で、本来は動物や植物から収穫されるお肉や野菜等を、特定の細胞を培養することにより生産する手法。
LoveTechポイント
細胞農業は、動物を殺さなくとも多様性ある食生活を持続的に楽しめる可能性があるという点で、LoveTechな研究開発領域だと感じています。
今回はエビの細胞培養肉ということで、ぜひペースト状のもののみならず、新鮮なエビ肉特有のプリッとした食感まで完全再現されるよう、共同研究を進めていただきたいと思います。
編集部コメント
細胞培養技術を研究開発するスタートアップ・インテグリカルチャー株式会社が、シンガポールの細胞農業企業・Shiok Meats Pte. Ltd.と共同で、「エビ細胞培養肉」の共同研究を開始したことを発表した。
細胞農業(Cellular Agriculture)とは、細胞培養で食料を生産することの総称で、本来は動物や植物から収穫されるお肉や野菜等を、特定の細胞を培養することにより生産する手法である。
画像出典:Shojinmeat Project「純肉:細胞培養による食料生産(2019版)」p11
ベースとなる技術は再生医療分野で発達してきたものであるが、従来型の農業や漁業が多大なる環境破壊や薬剤大量投与を前提としていることや、食肉文化等に対する動物愛護といった倫理的な問題意識が欧州を中心に広がっていることを背景に、ここ数年で食料課題解決の手法として急速に注目度が高まっている領域だ。先日LoveTech Mediaで報じた、地球と宇宙の食の課題解決を目指す「SPACE FOODSPHERE」プログラムにおける「バイオ食料リアクター」などは、まさにこの細胞農業技術を前提に構想されているものである。
[clink url=”https://lovetech-media.com/news/social/20200701_01spacefoodsphere/”]
日本ではインテグリカルチャーが細胞農業の旗手として研究開発を進めており、今年5月には、個別商用化ソリューション「CulNetパイプライン」およびCulNet System共同技術開発ソリューション「CulNetコンソーシアム」の提供開始を発表している。詳細は以下の記事をご覧いただきたい。
[clink url=”https://lovetech-media.com/news/social/integriculture20200508/”]
そんな同社が今回の研究パートナーとして発表したShiok社は、幹細胞の研究者であるDr. Sandhya SriramとDr. Ka Yi Lingが共同で設立した、シンガポールと東南アジアで初の細胞農業企業。
動物ではなく細胞から食肉を製造することで、クリーンで上質で健康的な魚介類や食肉を提供することをミッションとしており、現在はエビやカニ、ロブスターといった甲殻類の細胞培養肉に取り組んでいるちなみに「SHIOK」とは、シンガポールとマレー語のスラングで「ファンタスティックで美味しい」という意味だという。
画像出典:How are cell-based meats and seafood made?(Shiok社ホームページ)
細胞培養肉の原料となる培養液は、タンパク質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラル、血清成分から成り、特に血清成分の低価格化が培養肉の実用化において鍵となる。
今回発表された研究では、インテグリカルチャー社のCulNet Systemの技術をベースに血清成分を添加しない形でエビ細胞を大量培養する技術を開発し、この培養技術を活用して製造される培養エビ肉を、Shiok社の方で2022年頃に商品化することを目指すとしている。培養肉と聞くと、その“ニク”という響きからどうしても牛肉や豚肉をイメージする方が多いと思うが、今回のような海産の肉も当然ながら培養の対象となるわけだ。
これまでは細胞農業といえば海外発のニュースが多かったが、最近では日本でも、上述のインテグリカルチャーといった民間営利企業のみならず、2019年10月に設立された「NPO法人日本細胞農業協会」や、オープンソース培養肉を目指す「Shojinmeat Project」など、関連プレイヤーが多くなっており、新しい食料生産のあり方への文化形成に向けた機運が醸成されつつある印象である。
普段は培養肉ベースのエビを食べ、贅沢をするときは海で獲れたエビをレストランで頂く。
そんな未来チックな食習慣の到来も、案外遠くない出来事なのかもしれない。
以下、リリース内容となります。