記事の要点
・ニューヨークを拠点に活動する植物工場スタートアップ・Oishii Farm社が、2019年〜2020年にかけて大型シリーズAラウンドで総額約55億円(⽇本円換算)の調達を実施し、2021年4月末を目処に総額65億円の調達を完了する予定と発表。
・Oishii Farmは、独自の栽培方法と受粉技術によって、世界で初めて植物工場での栽培と、高品質ないちごの安定量産化に成功したスタートアップ。
・今回の資金調達によって、システムそのものの自動化を促進すると同時に、CO2排出ゼロも目指した次世代工場”Farm of the Future”の開発を進めて、ニューヨーク以外の都市および国家へと順次展開していく予定。
LoveTechポイント
交通テクノロジーが発達して食品の鮮度を維持した流通が可能になってきたとはいえ、自宅近くで獲れた新鮮さにはかなわないでしょう。
中長期的に様々な食材が、植物工場を通じて自分たちの身の周りで栽培され、美味しいものをすぐに食べることができる、という文化へと着々と近づいている点が、LoveTechだと感じます。
編集部コメント
ニューヨークを拠点に活動する植物工場スタートアップ・Oishii Farm社が、2019年〜2020年にかけて、スパークスを運営者とする未来創⽣2号ファンド(トヨタ⾃動⾞及び三井住友銀⾏出資)から⽇本円にして総額約55億円のシリーズAの調達を実施し、2021年4月末を目処に総額65億円の調達を完了する予定であることを発表した。
植物工場とは、太陽の代わりにLEDを光源とし、また土の代わりに培養液を使用して、温度や湿度、空調などすべてを管理した環境のなかで農産物を育てる施設のこと。少ない土地と資源で外部の環境に全く左右されることなく、場所を問わず通年で栽培ができるソリューションということで、ここ数年で特に注目度が高まっている。
Oishii Farmが運営する植物工場では、現在、日本から持ち込んだ種から栽培した「高品質いちご」でが主力商品となっている。
圧倒的な強味はその“味”で、収穫したいちごの中でも最高品質のものを詰め合わせた「Omakase Berry」は、マンハッタン中のミシュランレストランから注文が殺到しているという。
代表を務める古賀氏は、少年時代を欧米で過ごし、慶應義塾大学を卒業。コンサルティングファームを経て、UCバークレーでMBAを取得。欧米のいちごが品質より量を重視したものであり、日本の甘くジューシーないちごとはかけ離れていると感じたことから、在学中に「Oishii Farm」を設立。同大学最大のアクセラレーターであるLAUNCHで、日本人初の優勝経歴をもつに至った。
これまでレタス以外で、受粉が必要な作物は植物工場での栽培が難しいとされていたが、Oishii Farmは、日本の農業技術をベースに開発された独自の栽培方法と受粉技術によって、世界で初めて高品質いちごの安定量産化に成功した。
さらに、気温・湿度・二酸化炭素・風・日長・光の波長・培地・灌水等を完全制御できる世界最先端の自動気象管理システムを開発し、通常の農業試験場における数百年分の実験を一年で実験することが可能となったことから、圧倒的なスピードで研究開発を継続している。
今回の資金調達によって、システムそのものの自動化を促進すると同時に、CO2排出ゼロも目指した次世代工場”Farm of the Future”の開発を進めて、ニューヨーク以外の都市および国家へと順次展開していく予定だという。
特に直近では、ニューヨークに世界最大のいちご植物工場を建設し、スーパーを通して一般の消費者にも届きやすい状態を作っていくとのことだ。
世界の人口が日々増加している中で、台風や山火事、干ばつ等の自然災害はますます増えており、農業用地が年々減少しているからこそ、このままいくと10〜20年後には生の野菜やフルーツが高級食材となって、手に入りにくい状況が増えていくことが想定されている。
Oishii Farmが提供する植物工場ソリューションを通じて、美味しく新鮮な食物がコンビニエントに入手できるようになる未来も、遠くないかもしれない。